(あたい、その煙草の味知ってるよ、なんでこっち見てくれないのさ)
加代子は一度抱かれたパーマの男に視線を送る。男は目端に捉えられる横顔を見せてお
きながら決して目線は合わせない。
(あたいだって面倒くさい女になりたいわけじゃないの、でもその愛想はないんじゃな
い?)
男は指先で枝豆の殻を突きながら、煙草を吹かしている。
(ほら、あたいの目の痣、だいぶ薄くなったけど、あんたが付けたんだよ、覚えてないの
かい?)
先日、加代子はその男と、泥酔しながらの房事が終えた後に吐き気を催して便座に勢い
良く顔から突っ込んだのだった。そのときの痣だった。
(あたい、別に安い女じゃないんだよ?)
「おい、席替えしよーぜ、なあ」
視線を強くしてくる加代子を尻目に、パーマ男は周りに向けて言い放つが、すでにニャ
ンニャンタイムの二組は意に介さなかった。3×3の合コンであった。
(照れなくなっていいのさ、あたいだって別にこんな場に好きでいるんじゃない、でもほ
ら分かるだろ?)
男は煙草に火を付けるためだけに火を付けて、ついにフカシもせずに咥えている。
(あたいじゃなくて、あたいのダチが許さなくてね)
その友達の一人は自分のパンツを押し込まれながらニチニチされていて、もう一人の方
は、パンツを男の方がかぶってニチニチされていた。
(あたいもヤブサカじゃないよ、あたい疲れてんだ、今日は別に誰だっていい気分さ)
瞳を潤ませている加代子を無視するように、パーマ男は辟易した顔で、大きな溜息をつ
き、大袈裟に煙草を灰皿に捻って消す。パーマ男は頭を抱えながら思う。
(この加代子という女、実は男だ。前回は勢いでヤッてしまったが、間違いなく男だ。お
互い酔っぱらっていたけども、絶対に生えてたし、朝カリ首にうんちもついてた、ちょっ
と。
でも顔は正直タイプだ、でも俺はホモじゃない、でも、でも、ああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああ)
夜更けに、居酒屋二―民を出た3組は別れの挨拶もそこそこにラブホ街に消えていった。