「頭痛い。ちょっと揉んで。そう、後頭部。なんか目が疲れたみたい。」
小デーモン族の娘のミツメが言った。
人間族の少年のカクトが言われた通りにする。ミツメの額にある第三の目に髪が掛からないようにしながら。
魔法学校をサボって抜け出すくらいのことが、特殊部隊さながらのスニークミッションになっちゃったな。と、カクトはミツメの髪と体温を感じながら思う。
元はと言えば自分が言い出しっぺだ。魔法の才能を見込まれて来たここでも、以前の学校と同様にさっさと教員の目をかいくぐって、いつも張り詰めてるミツメに気分転換でもさせてみたい…。
「ごめん…俺が変なこと言いだしたせいで…」
「いいの。たまには自分の道を自分で切り開かなくちゃと思ってたし。」
ここの警備は想像をはるかに超えていた。教員達も見た目は前の学校とそんなに変わらなくても、その実はるかに抜け目がない。ミツメが持ち前の透視能力のある第三の目をフル稼働させなきゃ、とても隙を伺うことすら出来なかった。今壁の向こうで、裏口の前に立ちはだかってる警備員のおじさんだってそうだ。握りしめてる五六式歩槍は現役時代の様に火を噴くことだけはないが、野良キメラくらい有無を言わさず串刺しにする。まあ、元々リザードマンは落ち着いて見えて何をし出すか分からない印象はあるけど…。
「ダメ…匂いで感づかれてるかも。もしかしたらピット器官でもっと前から私たちが居るのが分かってるかも…」
最悪だ。何よりミツメに一方的に負担をかけているってことが…。
「こうなったら話してみるしかないな…。」
「え…何…?」
「説得スキル、発動」
遮蔽物を抜け出し、何食わぬ顔でボディアーマーで物々しく固めたリザードマンの警備員のおじさんに近づく。そして。
「おーいい匂いすると思ったら、それ緑龍印のアロマキャンドル?」
「なんだ人間のボウズ、知ってるのか?」
「いや俺の彼女がさ…」
思わず壁から頭を出していたミツメを見やる。
それに合わせて角の生え際あたりの上顎がふと微笑んだように緩むのが見えた。
乏しい経験から言わせてもらえばラブコメを探知した時の表情だ。
そしてミツメはこちらを睨んだまま顔を真っ赤にしている。
上手く切り出せたと思うが、まだ油断できない。相手は何しろ魔法学校の警備員なのだ。