Neetel Inside 文芸新都
表紙

絶望文学集
一、ココロナイ王さま

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むかし ある国になんでもほしがる王様がいました。

ほしいものはなんでもせかいじゅうからお金で買いあつめました。


王様は言いました。

「わしの持ってないものはないのじゃ」

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あるとき旅の商人があらわれて言いました。


「おことばですが王様。王様にも持っていないものがあります。

それは―――ひとのココロです」


王様はきょとんとしたあと、たずねました。

「なんだそれは。それは金で買えるのか」


商人は答えました。

「いいえ。ココロというものはお金では買えません」


王様はさらにたずねました。

「では、どうすれば手にはいるのだ」


商人は答えました。

「それはわかりません。王様じしんがそれを見つけるのです」


王様はなにがなんだかわからないので 腹が立ってきました。

「おまえの言っていることはわからん。こいつをしょけいしろ」


王様は兵士に命令しました。その商人はつれていかれました。


商人は引きずられながらも王様に言いました。

「王様。いいですか。ひとのココロを持つことで ひとはひとになれるのです。

あなたにはまだひとのココロはありません。

ひとのココロを手にいれたとき あなたはひとになれるのです」


商人は殺されてしまいました。


王様はなにも考えないことにしました。

しかし あの商人のことばは王様の中に残ったままだったのです。

     

ある日 王様はひさびさに城下町をさんぽすることにしました。

自分の持っていないめずらしい物がないか見まわるためです。

王様はごえいの兵士に言いました。


「おまえたち ついて来なくていいぞ。今日はなんだかうっとうしく感じるのじゃ」


王様はひとりで城下町へおりていきました。

***********************

城下町はにぎやかでした。

しかし どこか不安定なにぎやかさでした。王様はふしぎがりました。


「おい どうかしたのか。やけににぎやかだな」


王様は町の若者に話しかけました。

このときの王様は町民と同じ服を着ていて 町民になりすましてさんぽしていたのです。

なので若者はまったくあやしがりずに答えました。


「あんたは知らないのか。とうとうこの町にも子さらい団があらわれたらしい」


子さらい団とは子どもだけをねらってさらうというなぞの集団で 数々の国の数々の町で

あらわれては子どもをさらっていくという悪ぎょうをはたらいていました。


王様ももちろん知っていました。なぜなら子さらい団は毎日のごとくどこかにあらわれては

子どもをさらっていくのでいやでもうわさは耳に入ってくるからです。

王様はたずねました。


「だれかが見たのか。それとも…」


王様はこのあとのことばが出てきませんでした。

なぜなら自分の国でこんなことが起こっていると信じたくないからです。


王様の中にはまたもやもやが増え 王様が城下町をあとにしようとしたとき


そこに――――



     

悲鳴が聞こえました。


悲鳴は広場のほうから聞こえます。

広場はいつも 町の子どもがあそんでいます。


王様ははっとしました。

王様は広場へかけだしました。

***********************

広場にはおとなが数人いただけでした。

王様は広場にいた女性に話しかけました。


「なにがあったのだ」


女性は王様のほうをむきました。

しかし女性はなにも言いません。


女性の目はうるんでいました。


「わたし…母親なの」


女性はのどのおくのおくから出したような 痛々しい声で言いました。


「…わたしの子が…いたの…ここに…さっき」


女性はひどくこんらんしているのだと王様は気づきました。


「ここに…いたの。だけど…いま」


女性の目からなみだがしたたります。

女性はがくんとひざをおとしました。


女性はさけびました。


「わたしの子がきえたの」
 

王様の中の不安が ふくらんではじけたようでした。


王様はくちびるをふるわせ ぼそぼそとつぶやきます。


「きえた こどもが いま ははおや

 おとなだけ ひろば 子さらい団――――― 」



王様の中で 商人のことばがこだましました。


*つづく*

       

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