Neetel Inside 文芸新都
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ファンタジー
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 “たとえば”の話。剣と魔法が当たり前、魔物が蔓延る世界が存在していたとしたらどうするだろう。
 国というよりは王国、大きな城が建っていて、その城下町は市場や酒場で人が賑わっている。道ゆく人を見ればどこか中世的な服装、よく耳にする職業は冒険者。
 そしてその世界には勇者がいて、もちろん魔王もいる。王様は魔王の脅威を退けるため、勇者を魔王に立ち向かわせる。そんなファンタジー。
 じゃあ、現代の人がそんな世界に出会ってしまったらどうするのだろう。“たとえば”、そう、僕の場合は悪の魔王になりたい。



・・
・・・


 夕陽が差し込み始めた校舎、その理科準備室。残っている生徒達の微かな談笑が校舎に響く中、僕“等”はそこに居た。その場に立ちつくすのは僕とクラスメイトを含めた五人。

「いつまでも立ってるだけじゃわかんねぇだろうが、よ!」

 クラスメイト……彼、後藤健史君が僕の胸を突き飛ばす。どすっ、と僕の体が壁に当たったけど、別に痛くはない。ただ、触れられた事とあからさまな暴力が気分を乱す。

「そうよ。なんで私達をこんな所に呼び出したのか、ちゃんと説明して」
「…………」

 そう言って飯島咲さん、彼女が僕を睨みつける。腕を組みながら持ち前の三白眼がさらに凄みを増し、普段は端正な顔付きをしているというのに、正直見れた顔じゃない。
 目を背けた僕に腹を据えたのか、今まで黙っていた二人が口を開く。

「なんの意図があるかは分かりかねますが」
「こんな物が机の中に入っていましたので」

 “今日の放課後、理科準備室で待っています”
 志島直人君と志島直也君、双子の二人が揃って一枚の紙を持っている。それに合わせるように、後藤君と飯島さんもポケットから同じ紙を取り出した。
 もちろん、僕は持っていない。それも当たり前なんだけどね、僕がこの四人の机に紙を入れたのだから。

「僕がここにいる時点で、“意図をわかりかねる”というのはないんじゃないのかな。みんなも、よくわかっていることだと思うんだけど」
「ああ?」

 やっぱり後藤君は頭が悪い。他の三人も口には出していないけど、やっぱり首を傾げている。……この反応で決心が付いた。
 ――壁の高い位置に設けられた時計を確認する。16時57分、そろそろだ。

「うん、さっそくだけど、僕はこの学校に爆弾を仕掛けた。教室の一角が吹き飛ぶとか、そんなもんじゃない。この校舎全体が木っ端微塵になるほどの爆弾だ」
「……はっ、このカスがそんな度胸あるわけねぇじゃん」
「ですね。それに、校舎を吹き飛ばすほどの爆薬を用意するなんて」
「到底不可能ですよ。もう少し現実味のある脅し文句を考えて欲しいですね」

 みんながみんな口々に否定しているけど、僕は端から反応する気はなかった。今やるべきことは、あと二分、この四人を校舎にとどめておくことだけ。
 静まっていた理科準備室が一瞬でうるさくなったけど、僕の心は変わらない。

「その爆弾は16時、つまりあと二分で爆発する。僕の言葉を信じないのは勝手だけど、うん、わかるよね。僕は本気だよ」
「え? あと二分って、冗談よね?」

 飯島さんが今更びくびくし始めている。双子も冷静な物言いをしつつも、僕の話が本当だった場合のことを考えてるみたい。本当なのにね。
 ……あと一分、どう頑張っても逃げ切れない。

「おい、お前いい加減にしろよ! もし本当だったとしたら、ぜってぇ許さねぇぞ!!」

 後藤君が怒鳴り散らしながら僕の胸倉を掴む。多少苦しいけど、僕は既に喜びで満ちていた。もうこの人たちは逃げられない、後藤君も怖がっているからこそこんな反応をしているんだと。
 首を曲げて、時計をもう一回確認。秒針があと十回動けば。

「――これから死ぬのに、許さないもなにも無いと思うよ」
「……っ、お前!」

 後藤君が僕の頬を思いっきり殴る。口の中に血の味が広がったかと思ったら、急に頬が熱くなる。痛い。
 ……でも、この痛みともあと数秒付き合えばいいだけ。ほら。

「さん、に、いち――」

       

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