昔、学校の教科書で見たローマの円形闘技場のような場所。
観客がいっぱいのその場所の中央で、俺の運命は尽きようとしていた。
抵抗しようにもここに至るまでにさんざん殴る蹴るの暴行を受けていて、もうどうにも体が動かない。
上半身裸で仮面をつけたいかつい男たちが、俺を処刑台に拘束していく。
どうしてこんなことになってしまったのか。
何日か前には日本で普通の高校生として生活していたのに……。
長い付き合いの幼馴染の亜希子に勇気を振り絞って告白して、改めて正式に付き合うことになって、これからハッピーな青春生活が始まろうとしていたのに……。
思わず目をぎゅっとつぶったら目尻から涙が流れた。
くそっ。
まだ泣くな。
最後の瞬間まで、脱出するすべを探せ。
俺は自分に言い聞かせる。
うつ伏せで台の上に拘束された状態で、あたりを見回す。
助けを求められそうな人はいないか。
ここが外国なのか、異世界なのか分からないが、俺みたいに日本か、そうでなくても地球から来て、この世界で地位を得ている人間はいないのか。
必死で探すが、それらしい人は見当たらない。
俺の隣の処刑台では、俺よりも年上らしい女が拘束されているところだった。
更にその隣にも処刑台があって、そこには中年の人相の悪い男が拘束されるようだった。
観客席に満ちている観客たちは、色々な見世物を楽しみに来ているのだろう。
その見世物の一つが俺たちの処刑ということらしい。
冗談じゃない。本当に冗談じゃない。
食べ物を盗みはした。
仕方がなかったんだ、わけも分からずに突然この世界の中に放り出されて、知った人もいない、言葉も通じない。
俺だけじゃなくて、一緒にこの世界に来た亜希子の分も食料を調達しないといけなかった。
盗んじゃいけないなら、どうすりゃよかったっていうんだ!
中年の男が完全に処刑台に拘束されて、いよいよ俺たち三人の処刑が始まるらしかった。
仮面の処刑人が、巨大なクワのような鋭い刃の付いた処刑器具を高く掲げる。
一斉に沸き立つ観客。
観客の声援が一段落して、静まった瞬間。
処刑人がその処刑器具を振り下ろした。
肉と骨が立たれる身の毛がよだつような音。
男の首が地面に叩きつけられ、血を撒き散らしながらボールのように転がった。
また一段と大きな声援が上がる。
俺の隣の女が嗚咽を漏らし始める。
処刑人は女の前に立って、処刑器具を掲げる。
男の時と同じように、声援が一段落した瞬間に、処刑器具が振り下ろされた。
女の首が、ころころと地面を転がる。
一瞬、その恨めしそうな顔と目があってしまった。
やめてくれ。
思わず俺は目を背けた。
そして。
処刑人は俺の前に立った。
(続く)