Neetel Inside 文芸新都
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意志と表象としての世界
2018年12月

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12月10日/どこかの道の女性たち

暗く、何もかもが固い道を歩く。
周囲は雪に覆われている。
真っ白な世界は差異も無く、心を沈ませる。
不意に左側を見ると少し色付いた灰色の塔。ワシントン記念塔のようで、無機質で窓は無い。
歩いているうちにスーパーマーケットを見つけて、そこに立ち寄る。
以前、どこかでこれを手に取ったな、とカラフルなチョコレートに目をやる。
多分、夢の中だったんじゃ?なんて思っていると、不意にどこからか音楽が響く。
君は知っているんだろう?人知れず盗んだ林檎のような彼女みたいに、と誰かが歌う。
私が一番好きな曲。歪んだギターとサックス、そして掠れた歌声。
どこまでも切なく、深く、夜の底を思わせて。
それを照らす月のように歌声は響く。

     

12月13日/不定形の空

夜空を見上げている。多分、何もすることが無かったから。
無数に輝く星々の天幕は今にも落ちてきそうで、うねりをあげている。
まるでゴッホの「星月夜」のような光景。
辺りを見渡すと何もない草原。
灯りがなければ、こんな世界が普段、頭上には広がっているのだろうと一人納得する。
ふと手に何かを持っていることに気づくと、錆びたカミソリ。
ゴッホなら耳を落としたりするのだろうけれど、私にはあまり必要のないもの。
そう思っていると、誰かがそのカミソリを譲って欲しいという。
何故だか渡すのが嫌になって断ると、無理矢理にでも奪おうとしてくる。
もみ合っているうちに、右手を深く切ってしまった。

     

12月21日/糸を垂らして待ってみて

部屋の中で魚釣りをしている。
別に窓から川や海が見えて、そこに糸を垂らしてるのでもなく
部屋の角だとか隙間だとか床だとかに、ルアーか何かを投げているだけ。
それなのに竿が大きくしなったので、引き上げてみると大きな金色の魚が2匹と、
小さな魚が数匹と、何か臓物のようなものが釣り上がる。
床を汚してしまったな、と濡らした雑巾を持ってくると、
小さな魚は白に茶色いブチ模様の、2匹の小型犬に変わっていた。
すでによく懐いているけれど、ペットを飼うことは私にはできないし
どうしようかと思い悩んでいると、金色の魚が話をしたそうにしていたので、
水槽に入れてあげることにした。特に喋りはしなかったけれども。

     

12月27日/きっと思い出したくないことばかりで

私はどうやらギター弾きらしい。
自慢するように、「熊蜂の飛行」や「太陽と戦慄パート1」
「剣の舞」などをものすごい速さで演奏している。
道行く人々は驚いて足を止めたり、チップを恵んだりしてくれる。
そこに、誰かが通りかかって声をかけてくる。たぶん、私が昔好きだった人だ。
二言三言会話をしたけれど、なんだか気まずくなったので
ギターを弾くことに専念しようとする。
けれども、いつの間にか手に持っているのは大きなベース。
手が小さいからかベースが大きいからか、指は弦を抑えられないし
そのうえ、ふにゃふにゃで音を出すこともできない。
どうにかして鳴らそうとしていると、周囲の人々は大きな声で笑っている。
そして彼も笑っていた。

       

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