「なあ高橋、転校生が来るらしいぞ」
前の席に座っている関がこちらを向いて言う。しかしそれは知ってる、何日か前に先生がそんな話をしてた。
「しかも女の子だってよ!!この男子校にだぜ!!」
ウキウキすんな目障りだ。というか男子校の時点で女子生徒が来るわけないだろ。どう考えても先生が言い間違えただけだろ。
「こんな一大事なのになんでみんな冷静なんだよ」
教室を見回すと、何故か異様に静かであった。いつもならこのホームルーム直前はガヤガヤしていた物だが。
「みんな想像、いや妄想をしてるんだなあ、やはり転校生で女の子で美少女だもんな」
美少女というのは初耳だが。
「だがお前ら、甘いぞ。美少女転校生は俺がいただく!」
関が回りを見渡しながら教室中に響く声を出した。
回りの様子を見ると、関に注目する者、聞こえていないフリをする者、寝てるフリをする物。だいたいこれに分けられていた。
しかしこの声量、聞こえていないフリをするには無理がある。寝てる場合は知らん。
この教室の異様な静けさから察するに、半信半疑ではあるがもしかしたら本当に女子生徒が現れるのではなないかと皆期待しているのかもしれない。
関の大きな一言により否が応でも意識せざるをえなくなってしまったか。
そして関はまだ続ける。
「美少女転校生のフラグを掴むのは、俺だああああ!」
こうしてこの教室に第一次美少女転校生フラグ大戦が勃発する事となった。
ひとまず現在の状況を分析してみよう。この教室内の生徒の分類を。
リア充らしき人間6名。ヲタクらしき人間10名。ちょっと不良っぽいの3名。アホが関を含め10名。どこにも属さない普通ぽいのが10名。
そして高橋こと俺。
合わせて40名で構成されている。
しかし定員40名のクラスで後1人増えるのか疑問である。転校生とはもしかしたら別のクラスなのではないか。
まあ、一度それは置いておこう。
まずはリア充から分析。
6名いるが、イケメンと呼べそうなのは2人しかいない。というかリア充ならば他校との繋がりもあるだろうし、女子生徒が転校してくるかもしれないとなっても、そこまで動揺はしないであろう。
というのが一般的な考えである。
しかし今の状況を見てくれ、普段なら先生が教室に入ってくるまで固まって駄弁っているのに、それぞれが自分の席につき、神妙な面持ちで教室にかかっている時計を眺めている。
こいつらリア充なのに女を意識しすぎだろ。これが男子校の所以か。
次にヲタクを見てみよう。
平静を保つかの如く、それぞれが自分の趣味に没頭してる、フリをしている。
ある者はアニメ雑誌を読み、ある者はラノベらしき物を読み、ある者はスマホでゲームをしている。
お前ら普段はそんなんじゃないだろ、それぞれ集まってこのゲームがこのアニメがこのラノベがとかそんな話題だしてるのになんで今日に限って一人で大人しく席に座ってるんだよ。
俺も若干のヲタク気質はあるから、やつらの考えている事はなんとなく想像できる。アニメやゲームと一緒だ。自分が主人公になり、何かしらのトラブルないしフラグが発生してすぐ回収していい感じになるという物だろう。
しかし諦めろ。主人公は俺だ。
アホは……、置いておこう。やつらは何考えてるかよく分からん。関のように本気かもしれんし、冗談でアホっぽく振舞うかもしれん。
今現在大人しくしているというので、多少なりとも他と同様に意識はしているのかもしれんが。
普通ぽいのも、まあアホと同じだろうと思うので割愛。
そして残った不良ぽいのだが。
ここが分からん。リア充同様に、他校ないし同じ系統での繋がりがあるように思えるが。普段から他との接触があまり無く、いつも通りにそれぞれ席で大人しくしているが故に、判断がつかない。
こいつらには要注意だ。いかに俺が主人公とはいえ、こういった不良に惹かれる女は少なくない。
あと、さらに要注意なのが関である。
すでにこいつはフラグを立て始めている。主人公である俺にに最初に話しかけ、自分からフラグを掴むと言い始めた。
しかもアホ属性だ。その陽気な明るさと、アホさから高確率でメインヒロインではないにしろ、他のサブヒロインとくっつく。人気と俺のフラグ回収ミスによっては主役交代まであり得る由々しき事態だ。
最後に高橋こと俺。
容姿、スタイル、スポーツ、学業ともに平均。特殊能力無し。友達の数普通。すべてに置いて平凡。
しかし主人公である。
主人公補正を使っていかに美少女転校生のフラグを回収していくことが出来るか。それに全てかかっている。
女子生徒が転校してくるということにかなり半信半疑ではあるが、実際はそこそこ期待もしているのは事実である。