Neetel Inside ベータマガジン
表紙

ノベル『ボルトリックの迷宮』
惨劇

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◆ケーゴ

最早、甲皇軍の自動車にはどうあっても追い付けない。そう悟った時、ケーゴの思考は「どうやって一刻も早く交易所にたどり着くか」に切り替わった。
地図を取り出し、それを見つめる。

「ここだ」

彼は御者席に身を乗り出して前方を見た。風が髪を舞い上げる中で目を細める。

「ガザミ!来てくれ!」

ケーゴはガザミを呼び、白む空の下、前方を指し示す。

「もうすぐ、奴らの自動馬車が見えるかもしれない。それを奪いたい。見えたら教えて欲しい!」

彼は引き返してくる自動車との衝突ポイントがそろそろであると目算していたのだ。
ガザミは頷き、リーザーベルを縛って従えさせ、引き連れて御者席に出る。
ケーゴは荷台に戻り、皆に「自動車を奪って一刻も早く交易所に戻る」と説明した。

「見えた!」

ガザミの知らせに目を凝らす。まだ視認できない。

「何か分かるか?!」
「わからない……だがかなりの速さだ」

ケーゴの目にもハッキリとその姿が見えてくる。馬車を止め、リーザーベルを前面に押し出す。
砂塵を巻き上げ、土を噛むようにして甲皇軍の自動車が斜め滑りに停車した。

「リーザーベルさん!!」

荷台から男達が降りてくる。その数は10人。
こちらも、馬車を降りて対峙し、ガモとガザミが数歩前に出て威圧した。

「ねーちゃんをどうした!?」

ケーゴは叫ぶ。
彼らはリーザーベルが人質となっている状況に緊張を走らせている。

「お前たち!本当の事を言うんだよ!」

彼女の叫びで、あちらからリーダー格と思しき精悍な男が前に出て、返答をした。

「交易所に置いてきた!」
「ねーちゃんに何をした!!」
「……これを見ればわかる!」

彼は懐から葉書程の白紙を取り出した。屈んでその場にそれを置き、五歩下がる。

「リーザーベルさんに何かあれば、今すぐ引き返し、女にそれ以上の事をする!」

なんだ?
その紙に何が書いてある?
髪を切り、殴り、レイプして、捨てろと……リーザーベルの指示が箇条書きにしてあるのか。

「フッ……俺が行こう……」

半歩前に出たフォーゲンを、ケーゴが腕を出して制す。

「俺がいくよ……」

これが罠であれば、最大戦力のフォーゲンには控えていてもらわねばならない。
リーダー格男の目を見ながら一歩一歩進み、足元の白紙を覗き込む。何も書いてない。

「騙したのか……?」
「裏返してみろ」
「もう一歩下がれ」

男は一歩引く。それでも一呼吸の内に詰めることができる距離だ。油断はできない。
男が従うのを見てから、視線を切らずに身をかがめ、紙を手に取った。
ガザミが「油断するな」と叫ぶ。
厚みがあり、光沢感がある。裏返して、ケーゴは目を見張った。その全身が硬直する。

「な、なんだよコレ……!?」

そこに男が飛び掛かり、戦場格闘技を駆使してケーゴの腕を極め、自由を奪う。

「リーザーベルさんを離せ!人質交換だ!!」
「うっ!ち、ちくしょう!」

全員で睨み合う。

「フッ……殺し合いを所望か……」

フォーゲンが呟いた。
彼はボソボソとしゃべっているのだが、その声は不思議と全員の耳に届く。
スラッと長物を抜き、ピタリとリーザーベルの首元にソレを押し当てた。
その所作だけで、尋常の腕前でないことが示される。

「そっちは全員死亡。こっちはケーゴ死亡か。まあ「敵討ち」としては、最悪ではないな」
「鉄砲の一発二発じゃ、アタシの外骨格は貫けないぜ?」

ガモが双剣を構え、ガザミが空を掴むように指をゴキゴキと打ち鳴らした。

「わかった……要求を聞こう」

丙家の血筋をひく甲皇軍の下士官とSHWの少年の命の重さを対比させ、更に戦力差を考慮してか、男はケーゴを捉えたまま、譲歩の動きを見せる。

「フッ……その鉄馬車と、御者に残ってもらう。それでこの女は解放しよう。残りの者はこの馬車で温泉に戻るがいい」
「了解した……俺が残ろう。さあ、リーザーベルさんを離せ」

落とし処を正確に突いたフォーゲンの交渉に、ケーゴは改めて「師匠スゲェ」と舌を巻いた。

武装解除して全裸となった9人の男たちが、頭の後ろに手を組んでその場に座る中、荷を移動させ、自動馬車を始動させる。
そこでリーザーベルを開放した。
自動馬車は交易所に向けて走り出す。リーザーベル達は言いつけに従い、身動き一つせずにそれを見送った。
周囲の景色が飛ぶように後ろに流れる。馬車とは次元が誓うスピードだ。
ケーゴは御者席に同席して、男に魔法剣を突きつけ続けながらも、その機械操作に見入ってしまっていた。

「タバコ、吸っていいか?」
「ああ……」

男はおかしな動きはせず、タバコを咥え、片手で器用にマッチを擦って火をつける。

「……ねーちゃんを、レイプしたのか」
「命令だったからな」

ハンドルを握りながら、彼は答える。
ケーゴはそれに対して怒りを覚えたが、同時に、自ら人質になり、今尚堂々としているその男に敬意をもって接する事を決めて剣を収める。
かなりの速度だ。これではフォーゲンの足でも馬車でも追いつけない。

「……変な話だが。まあ、分かっているかもしれないが。殴ってもなければ髪を切ってもいないぜ」
「それはわかった……」
「……彼女なのか?悪かったな。殴ってもいいんだぜ」

あの女はお前のコレかと小指を立てられ、ケーゴは返答に詰まった。
昨晩散々性交渉したが、二人の関係はなんだろうか。
「そうだ」と答えられない自分に負い目を感じた。
合意はあったが、それでは、ねーちゃんをレイプしたと言っている彼と大差が無いような気がした。

「……「ソレ」はお前にやるよ。まあ、大事にしてやんな」

男は何かを感じたのだろう。彼自身も過去に身に覚えがある感情なのかもしれない。
フッと薄く笑い、吸い終えたタバコを窓の外に投げ捨て、足元を踏み込むと、自動車はグーンと速度を上げた。


◆???

気付いた時には、私は椅子に座らせられ、甲皇軍の鉄製馬車の荷台に乗せられていた。
ビリビリと伝わる振動が、途轍もない速度で走行していることを告げている。

「うぅ……!?」

轡が噛まされていて、手首をレザーのバンドで縛ってあり、それは首輪と項付近で連結させられていて、頭の後ろで腕を組ませるように自由を奪ってあった。
脚は、肘置きを跨ぐように縛ってあり、股をM字に開いた格好で固定されていた。
身体のあちこちに身に覚えがない痛みが走る。下腹にも熱腫れ感と痛みがあり、そして肌から、ケーゴのものじゃない移り香が漂っているのを感じた。

「お、気付いたか。失禁ねーちゃん」

一人がそう言って、他の皆が爆笑する。
熱気が籠っている幌の中には、10名ほどの着衣を乱した男性軍人達がいる。あの恐ろしい女は居ない……。

「んーっ!」
「なんだよ……」

訴えに応じて、一人が優しく轡を外してくれる。
はぁはぁと呼吸を整えながら相手の顔を見れば、整った顔のイケメンだった。

「……け、ケーゴは?」

彼に尋ねる。イケメン軍人はなんだそんな事かと肩をすくめた。

「今頃は、リーザーベルさんに夢中だろうな」
「!!」

それを聞いた私はめちゃくちゃに暴れだした。
うん!うん!と力んで、動かせない手足の変わりに、身体を弾ませる。
身動ぎの度に乳房が大きく跳ねて、男共がヤンヤと騒いだ。

「うるさいっ!アンタ達に為にやってるんじゃない!!今すぐ放せっっ!!!」

怒りに叫んで、暴れ続ける。男達は「おー怖」と言いながらも、やっぱり肩をすくめて顔を見合わせた。

「それよりも、自分の心配をしな。お前はこれから、どうなると思う……?」

彼は私の弾む乳房をパシッと受け止め。ぐに!と潰すように揉んできた。

「うぅー!」
「おっきなおっぱいだな。俺は、好きだぜ?……助けてやりたいが、リーザーベルさんの命令でな」

彼は私の下腹を撫でてから、なんの権利もないくせに、堂々と股に手を滑り込ませた。そこを押し広げ、ペニスのおもちゃを突き込んで、グリグリと回して刺激してくる。ディルドは直ぐにお腹の中に納まった。

「はぅう!ふぅ……くっ!」

首を振って食いしばり、責めに耐える。

「そら、行くぞ?」
「……な、何が?」

彼が笑い、ペニスのおもちゃをカチッと音立たせると、それが生きているようにグネグネとクネリ、ブルブルと震えて、私を刺激し始める。
『お前みたいなメス豚が悦ぶ、スゴイヤツを持ってきてやったのさ』
あの女軍人の言葉が脳裏をよぎった。

「あんっんー!?」

椅子の足を浮き上がらせるほどに飛び上がって、背中で椅子の背版を打った。
それを数名の男が取り囲み、変な機械を手に、私に光を浴びせる。
その機械から白い紙が出てくる。彼らはそれを取り、パタパタと空を仰いでから、私に差し出した。

「ああっ!あくっ……うぅ……?」

白い紙に模様がある。ううん、これは絵だ。
そこには、大股を広げて椅子に座りながら、下腹にディルドを埋め込んで、愛液を飛び散らしながら、快楽に顔を歪めて大口を開けている淫らな女がいた。
それは「写真」だった。ものすごく精巧な絵を一瞬で作成するキカイだ。以前にも見たことがある。

「はぁあぁーーーっ!あああーーっ!!!」

動くディルドは私の呼吸関係なしに、休むことなく責め続けている。
中だけでなく、その根元には陰核を刺激するための突起まで着いていて、それがバッチリ当たっている。

「はぅう!あう!あ!あひ……う!あ、あん!あ、あぁ!!」

ガクンと自動馬車が止まり、御者席から軍人が顔を出した。

「着いたぞ」

イケメン男性は、喘ぎ震える私の頭を優しく撫でながら、顔を覗き込んでくる。

「ホラ、着いたってよ」
「はぅあ!あ、あたってる!あっ!あっ!ふ!く、クリトリス、ダメ!な、中も!ダメ!やぁ!こ、壊れちゃう!!」
「そうか」

彼が私の股下に手を伸ばし、ディルドをカチリと操作して、その動きを止めた。
私は吐くほど息をして、なんとか淫らな気持ちを鎮めようと抗った。震えと涙が止まらない。

「可哀想だから、髪は切らないでおいてやるよ……」

彼は私の乱れまくった髪に手櫛を通しながら、御者を振り返る。

「夜明けまであとどれ位だ?」
「1時間程度だ」
「じゃあ、もうタイムリミットだな」

仲間と会話を終えたイケメンは、こちらに顔を寄せ、息を弾ませて感じ続けてる私の涙を拭ってくれた。

「こうなったら仕方がない。まあ、楽しんでくれや」

彼はそう言うと、グラスに入った甘いラズベリー系の匂いがする液体を私に飲ませる。
冷たいソレは私の喉を潤し、涼が胸を降りて行ったが、直ぐに熱に代わって全身をカッカと熱くさせた。
そして、再び轡をかませてきた。更に、目隠しも。

「うう!?」

視覚を奪われ、肌の感度がうんっと増す。
別れの挨拶代わりに、頭をぽんっと叩かれ、乳首をピンっと弾かれる。

「ふぅう!!」

再びディルドが動き出す。悶えている私を椅子ごと持ち上げる感覚があった。

「ふぅう!うー!うぐー!?」

荷台を降ろされ、ブルル!と鉄の馬が嘶いて、鉄馬車の気配が遠ざかっていった。

「んぅーーー!ふっ!ふぅう!う!うーーーーーーーーーーっ!んーーーーーーーーーーー!」

動くディルドは生身の男と違って果てることがなく、一呼吸も私を休ませずに責め続けた。
やがて、肌に朝日を感じ始める。
私はもう、そこが野外であることが、どんな意味を持っているのかも分からなくなっていた。
ディルドがくれる快楽にアクメして失神し、そしてディルドがくれる快楽で覚醒する。ひたすらそれを繰り返した。

そうこうしている間に、周囲に人の気配を感じ始める。
視線が肌に刺さる。あの軍人達が戻ってきたのだ。

「ふぅ!ふぅう!!うぅうーー!!!」

懸命におっぱいを揺らす。こうすれば、また触ってもらえる。
ついに誰かが寄ってきて轡を外してくれた。涎を溢れさせながら、訴える。
このままだと死んじゃう。本当の意味で必死に身体をくねらせながら、あらん限りの大声で叫んだ。

「はぁああ!え、エッチな事して!エッチな事をして!エッチな事をしてぇええええーーーっっ!!」

目隠しが外され、ハラリと落ちた。

そこは、交易所の広場だった。
大勢の老若男女が、数メートル離れたところから、こっちを見ていた。
フリオ達もいる。
私服姿で肩に「キザイ」を構えている、あの鼻を折った軍人もいた。
何度か一緒に仕事した冒険者や、酒場でよく見かける顔もあった。
ひゅっと喉がなって、空気が詰まる。

「……え!?」

振り返れば、轡や目隠しを外してくれたのは、傭兵時代からなじみの深いヒザーニヤだった。
彼は咳払いをして、私から目を逸らす。

現状が分かってきたけど、淫らな腰使いは止まらない。止められない。

「あぁああぁあああーーーっっ!!!」


私は泣いた。


◆ミシュガルド SHW交易所 広場

ヒザーニヤはシャツを脱ぐとそれを私にかけ、暴れる私を皆の視線から隠すように群衆前に向かって立っている。
騒動はどんどん大きくなり、朝市にとやってきた商人や買い物客までが群がり出す。

「なんだ?」
「すげー……」
「見世物か?」
「おい、見えねーぞ!」
「すまん!どいてくれ!」

その群衆をかき分け、誰かが呼んだのか、ダンディが駆けてくる。
遠巻きだった群衆の最前列は、後ろから押されてじわじわとその輪を狭めていた。

「ヒザーニヤ!これは……!」
「ああ、ダンディよかった!毛布を持ってきてくれないか!」
「わかった!待っていろ!」

これは見世物ではないぞ!とダンディが周囲を一喝して後退させ、駆け出した。
フリオがでてきて、シャツを脱ぎヒザーニヤに差し出す。そして一度私をみて、逃げるように走り去った。

「そこに甲皇軍の自動車の車輪痕跡があった!これは奴らの仕業だ!」

ヒザーニヤが群衆に向けて声を張り上げる。
ここはSHWの交易所だ。中立ではあるが、他国から見ても甲皇軍の思いあがった言動は多く、彼らを良く思わない人間も沢山いる。
甲皇軍の仕業である事を明言して、被害者である私の立場をハッキリさせ、その名誉を守ろうとしてくれているのだ。
毛布を持って戻ったダンディと二人で、痙攣を繰り返す私を包み、安心させるように強く抱きしめてくれる。
そこに鉄馬車が警笛を響かせて突っ込んできた。
わっと群衆が逃げ出し、真っ二つに割れた人の海が見守る中、鉄車から飛び降りてきたのは、ケーゴ、ガザミ、フォーゲン、ガモ、ホワイト・ハット……私の仲間達だった。

「君たち!!」

ヒザーニヤが安堵の声を上げ、皆が来たぞと私を励ます。
フォーゲンは縮地して真っ先に駆け寄り、毛布をひょいと摘まんで肌を覗き込んでくる。どれどれ、とガモも渋い顔をして覗き込んできて、二人ともガザミとヒザーニヤに鉄拳を見舞われた。

「フッ……冗談だ……」
「師匠……今のは最低だ……」

彼らは全員力を合わせて、私を広場から助け出してくれた。


◆ミシュガルドSHW交易所 イシヤの診療所

消耗した私は、名医と名高いイシヤの診療所に担ぎ込まれ、解熱鎮痛剤と鎮静剤を投与され、ディルドを摘出してもらって、そこで「急性セックス依存症」と診断された。
24時間以上自慰行為を我慢出来たら症状が緩解したと判断すると言い渡され、緊急入院させられる。
イシヤ先生、藪医者では……?

点滴を受けてベッドに横になる。
ベッドサイドにいるのは、ガモを除いた4人の仲間だ。
ケーゴ達は私に何も聞かないし、私もケーゴに「大丈夫だった?」と聞くのをためらった。
誰も口を開かない。こんな時は、空気を読まない事に定評のあるフォーゲンが口火を切るのが常だ。

「フ……まあ元気そうではないか?」

確かに、彼らから見れば私には頬の蚯蚓腫れ以外に目立った外傷もない。「……そう見える?」とか言い返しそうになったけど、やめておく。
赤っ恥もいいところだが、皆が助けに来てくれたことで、私自身の心は救われていた。

「皆、もう少しゆっくりしててもよかったのに」
「ホントだぜ。おかげで豪華な夕餉も朝餉も食い損ねた。お前、今度奢れよ?」

いや、夕餉は私の所為じゃないでしょ。

「……とか言ってますけどね。ガザミさん、帰りの馬車の中でボルトリックを殴ってもっとスピードを上げろと大騒ぎでした……」
「おま……ホワイト・ハット!こいつが調子に乗るだろうが!」

ガザミは、魔法少年の襟をつかみ、猫の子みたいに持ち上げて余計なことを言うな!と騒ぐ。
病室の空気が和らいでいく。直ぐに何時もの呼吸に戻れる。そんな仲間たちだ。

「そうえばガザミ。ガモは?」
「は!?な、なんでアタシに聞くんだよ!」

逆に問いたい。じゃあ誰に聞けと言うのか。
「知らないよ!」と突き放すガザミの態度を見る。ちょっと怒っている所を見ると、一夜の契りで終わってしまったようだ。あのガモがプレイボーイだったのだから、人は見かけによらない。
ケーゴが何も言わないのが気になって、彼の顔を見た。
彼も、こちらを見ていた。

「ケーゴ……大丈夫、だった?」
「俺は全然平気だよ。ねーちゃんが心配だ」
「ああ、大したもんだったよ。銃を突きつけられてるのに、堂々としててさ。男を上げたね」
「え!?何それ!ちょっと詳しく聞かせて!」

ガザミが見聞きした光景を語ってくれた。
あの女に見初められ、身体を求められたケーゴは、それを拒否し、その側近一人をブッ飛ばしたらしい。

「凄いじゃん!?」
「ビックリしたぜ。お前じゃ倒せないような大男だったよ。それが部屋の前で伸びてたんだからな」

そして、女に銃を突き付けられ、服従を迫られていた所を、ガザミとホワイト・ハットが救ったのだと分かって安堵した。
ケーゴが「何もされなかった」のだ。もうそれでイイ。
ぼふっと枕に頭を投げ出して横になる。

「フッ……」
「……そうでした。あと、フォーゲンさんは、峠3つ分、お姉さんを乗せた甲皇軍の機械馬車を追いかけてました……」

何か言いたそうなフォーゲンの気配を察知して、ホワイト・ハットが解説を加える。

「ありがとう、フォーゲン」
「フッ……」
「そうだ。お前を酷い目に合わせた軍人を一人捕らえてるんだ。どうするよ?」

ガザミが思い出したように口にする。
ガモが居ないのは、ソイツを見張っているからだろうと気付く。

「……本当は鞭で泣くまでブッてやりたいけど。あんな奴等と関わってもイイこと無いしね。ポイしちゃって」
「りょーかい」

そろそろ休ませてやるか、とガザミが場を仕切って、面会は終わった。

「そうだ。これ、ねーちゃんの荷物な」

ケーゴが私のバッグその他をベッド下に置いて、帰っていった。


◆ケーゴ

病室を出ると、そこには腕を組んだ軍人と、彼の首に短剣を突きつけたガモが立っている。

「命拾いしたな」

中の会話を記聞いていたガモが、その腕を降ろし、やや乱暴に男を解放した。
その首筋を薄く切ったのは、警告の為だろう。復讐など考えるな、と。
彼は皆の視線を横切って、出入り口に立つ。そこで振り返った。

「お前ら……たぶん、また会うぜ」

不吉な言葉を残し、診療所から立ち去る。
ガザミはその台詞を脅しと受け止め、鼻で笑ったが、それが負け犬の遠吠えとは思えないケーゴは、言葉の真意を問いただそうと彼を追って街に飛び出る。

「まてよ!」

しかし、その姿はもう人混みの中に消えていた。
ガザミ達が追いついてくる。

「ねーちゃんが回復するまでどれくらいかかるかな?」

少年は人混みを睨みながら仲間に問う。

「イシヤは……1週間と言っていました……」
「……そうか」

そこで、ケーゴは振り返り、皆の目を見て、ある計画を語った。


◆ミシュガルドSHW交易所

入院翌日から、パタリと見舞いは途絶え、誰一人顔を出すことがなくなっていた。
私の痴態を改めて知った彼らが距離をおいたのではないかと情緒不安定な毎日を送り、今日、事件から13日目の夜にしてやっとイシヤの出した条件をクリアして、無事退院する運びとなった。
同じ診療所には何故かモブナルドも入院していて、看護師をしている彼女と超目障りなラヴラヴ生活を送っていた。
ちなみにその二人は昼夜問わずでSEXしまくっていた。ほんっとに目障りだった事を付け加えておく。
あまりお世話になった気がしないが、お世話になりましたと頭を下げて診療所を出る。
イシヤは、私の病気が慢性化傾向にあるから注意するようにと伝えてきた。この人絶対薮医者だと思った。

診療所を出て、敢えて胸を張り堂々と大股で歩いて酒場を目指す。

まだ渦中の人であるらしく、周囲の視線が痛い。
フラっと寄ってきた男が尻を撫でて通り過ぎる。
「ぎゃ!」となって振り向くが、犯人を追いかけてぶちのめそうとは思わなかった。
ただの痴漢なのか、「知ってる奴の悪戯」であるのかと疑心暗鬼になって、後者だった場合が怖かったからだ。

夜の酒場はガヤガヤと賑わい、大勢の酔っぱらいでごった返している。
二階には私が長期借り続けているお部屋があるので、退院したならここに戻ってくるしかない。
そそくさと二階に上がる前に、私はマスターに一声かけて、ケーゴ達の所在を訪ねてみた。
酒場のマスターは、13日前の件は触れず、ケーゴは次なる冒険に出かけたと教えてくれた。ガザミはここよりも高級なお店に出入りしているらしく、フォーゲンとホワイト・ハットに至っては情報がなかった。ボルトリックとガモはあの後から姿を見せていない。
ケーゴのことを突っ込んで聞く。

「ああ、ケーゴ君か。彼はリーダーとして、同じ年頃の、なんだっけな、随分と大人しいエルフの娘と……なんだか慇懃無礼なエルフの娘と……そこで靴磨きをしていたおでこの広い娘を連れて、北部の森の生態調査に向かったよ。10日前くらいの話だ」

同じ年頃の女の子3人とパーティー組んでるらしい……。
リーダーをしてみたものの、初めての仲間集めで同じ年頃の女の子しか集められなかったのか。
そ~れ~と~も~……。
色んな意味で心配になり、様子を見に行こうかと思ったが、流石に思い留まり、その日は二階に上がった。

あの「大惨事」から、数えて14日。
私は一階の酒場で、朝食をつついていた。
引き籠らずにここに顔を出すのは、心無い無責任な事実と異なる噂に屈するのを良しとしないためだ。
そして、皆と会えないかと期待しているからである。

だーれも寄ってきません。
同席がないのは勿論、隣接したテーブルにだって誰も座りません。
私に対して気の毒そうな視線を送っている人も多いが、遠巻きにヒソヒソしている連中も結構いて、時々「痴女」とか「露出狂」とか「放置プレイ」とか、散々なパワーワードが聞こえてくる。
ヒザーニヤが「いやいや。あの娘はそんなんじゃないよ」と火消しをしてくれているのを見た。

「ここ、いいかね?」

ダンディが様子を見に来てくれた。彼は山盛りのサラダをつつきながら「気にすることはないよ。私の妻もSEXの時は人に見せれないくらい乱れるんだ。皆そうさ。ハッハッハ」と、優しい目で私に告げて、肩を叩き、太く笑って立ち去った。

慰めてくれているのだろう……でもそれって私が「人に見せれないくらい酷かった(のを見せた)」って事だ。恥ずかしくて死ぬ。
そして、その話は奥さん目線から見たら言っちゃダメだってば。
男子は相手の性行為中の様子を武勇伝みたいに話し過ぎる。今のケーゴはゼッタイそんな事しないと思うけど、2年後3年後はもうわからない。

「はぁー」

机の上に突っ伏して溜息をつく。

「お!痴女だ!」
「お前聞いたぜ!凄かったんだってなぁ!?」
「おい、エッチな事するか?おい、エッチな事するか?」

ガキみたいな絡み方をしてきた相手を見上げる。そこには虎型亜人の三馬鹿兄弟がいた。

「なんだ。イコ、リャコ、ヌコか……」
「イコ、リャコ、サコな!」
「あっそ。キミタチに興味ないから。シッシッ!」

ブス痴女だのブタ変態女だの悪態をついて帰っていく彼らに「コロス」と叫んで椅子を投げつける。
そしてまた一人でブルーな気分に耽り、コーヒーを飲みつつ自虐的な笑みを漏らす。

「フフッ……」

まだ泣いてはいない。
ふと、視線の隅に子供集団がいるのに気づく。私の為にシャツを脱いでくれたフリオの姿はない。
そこでこちらを見ながら作戦会議をしているのは、フリオよりも年下の、6歳から8歳くらいまでの子供たちだ。
あの子たちにもアレを見られちゃってるのだが、彼らには、私の痴態は理解不能の現象だったに違いない。
子供たちの目にはあの姿がどう映ったのか。「汚い」みたいに思われてないだろうかと考えて悲しくなった。
でも、「SEX中に彼氏に捨てられた」なんて馬鹿な事を言ってるアホ共がいる中で、寧ろ純粋な彼らの方が「悪い奴らに虐められたんだ」と、真実を見抜いてくれているかもしれない。
子供たちが動き出した。私は気付かぬ素振りをする。

「成敗!!」

一人が横っ腹に思いっきり人差し指を突きこんできた。「はう!」と仰け反った。
でも、彼らが変わらなかったことが少し、ううん、とても嬉しかった。

「この!」

立ち上がって脇腹に突きをくれたガキを捕まえる。

「ぎゃー!雌トロルに殺される!!」
「誰が雌トロルですかっ!」

何時ものやり取りだ。なんだかジーンと来る。抱きしめてあげようかと思った。
っていうか、ぎゅーっと抱いた。お日様の匂いがした。

「隙あり」

ストン、と膝下まで下着を降ろされた。

「あっ」

子供を抱いたまま、皆に下腹を晒して、ビックビクとお尻を振る。そして……。

「奥義!トロル殺し!」
「あっうんっ!!!」

子供が、私の、女性器に、深々と、「カンチョー」を決めた。

彼らは汚れてしまっていた──。

「こ・の・が・き~っ!!」
「うわー!」
「やめろー!」

私は騒ぐガキ2匹を捕まえて裸にして梁に吊るす。

その日は結局、皆が顔を見せることはなかった。

       

表紙

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