◆ケーゴ
囚われ三日目の朝を迎えた。
目覚めて直ぐ、彼の頭に浮かんだのは「今日は作戦決行の日だ!」だった。
脱出の過程において、成り行き次第では激しい戦闘も予想される。
気合を入れて起き上がり、ベッドの上でストレッチを行う。コンディションは上々だ。
ねーちゃんを助けて、交易所に戻る。
いいかげん独房生活にストレスを感じ始めていた頃合いであったし、シャーロットが拷問に耐えている事を考慮に入れると、この3日目というのは、ギリギリの頃合いであると言えるだろう。
体力温存のために筋トレや型稽古は行わず、その「機」を座して待つ。
軍内部の協力者とはいったい誰なのか?
廊下に軍靴の踵音が響き出す。
朝食だろうと考え、鉄扉の小窓へと歩み寄った。
しかし、ガチャンと開錠音を発して開いたのは、小窓ではなく扉そのものであった。
「お前は……!」
ケーゴは廊下に立っていた人物に驚く。
それは、知った顔だった。
「久しぶりだねぇ……ホウヤ」
女軍人リーザーベルは舌なめずりしながら少年に再開の挨拶をする。そんな彼女の隣に立つのは、ボルトリックとガモだった。ハーフオークの戦士の手にはケーゴの魔法剣が握られていた。
「協力者って……お前だったのか!?」
「そうさね。このリーザーベル様が、ボウヤ達を助けてあげるよ!」
驚きを隠せないケーゴに、彼女はオホホホ!と高笑いをする。
こんなキャラだったっけか?まあいい。ケーゴはガモから魔法剣を受け取ると、一度は諦めた愛剣の柄を握りしめ、一振りして、「おかえり」と呟く。
各所から開錠の音が聞こえ、装備を整えたガザミ、フォーゲン、ホワイト・ハットも姿を現した。
「よし。さっさと脱出しようぜ」
ガザミは「ぶっ殺してやんよ」と物騒な台詞を吐きながら、指の骨をゴキンゴキンと鳴らして殺気だっている。どうやらぶん殴りたい相手がいるようだ。
「フッ……落ち着けガザミ。おそらくこの脱出は穏便に行われるのではないのか?」
フォーゲンはリーザーベルへと視線を送り、脱出作戦の概要説明を促す。
「そうだ。ロンズデールはお前達を「不穏分子の疑いがあり、取り調べの為に連行した」との手続きを取っていた。そこでアタシが「取り調べの結果、嫌疑不十分により不起訴とした」と報告した。それが今の状況だ」
甲皇国軍は基本的に何でもありの無法者集団であるが、不戦協定のあるミシュガルドにおいて他国民に手を出す際には体裁を気にする必要がある。
ロンズデールは「SHW所属の冒険者女に性拷問をするために、彼女を含めた5人の冒険者を勾留している」とは報告できず、「甲皇軍に対する不穏分子として取り調べる為に勾留した」と虚偽の書類を提出していた。
そこにリーザーベルが介入し、正規の手続きに乗っ取ってそれを進めた結果、勾留措置は解除され、堂々と表門から駐屯地を出ていけるようになったのだ。
「フッ……策士策に溺れるとは、この事だな」
そのやり取りに三日の時間が必要だったのかと納得したケーゴだったが、分からない事が一つあった。
「でも、なんでだ?」
「あー……つまり。その……あれや」
ボルトリックは語った。
あの日、ケーゴ達が自動車に乗り込んで交易所に向かった後、彼女たちを馬車に乗せ、温泉宿までまで送る最中に、会話に困って共通の話題としてロンズデールの名前を出したところ、平民出身であり、異常な性癖を持つ彼のリーザーベル評は汚物にも匹敵するものであったらしい。
一言でいえば「二人はめっちゃ仲が悪かった」のだ。
そこで今回の一件で暴走を始めた彼を止めるため、リーザーベルと連絡を取ったのだ。
「……と、いう訳や」
「敵の敵は味方ってヤツか」
ケーゴは成程と頷き、じゃあねーちゃんを助けに行くぜ!と気合を入れ、拳と手掌を打ち鳴らした。
「作戦開始だ!この建物の中にいるというねーちゃんを開放し……」
「ちょいとお待ち!!」
リーザーベルがカッと目を見開いて会話の腰を折る。
「な、なんだよ……!?」
「ほら。ボルトリック。あの話!あの話!」
「あ~~、まあリーザーベルさんにご協力いただいた結果、脱出はほぼ100%の成功率で行える訳やが~~その、まあ、「ロンズデールキモイ死ね」だけでこれだけのご厚意とご助力を得る事はできないのは至極真っ当なお話で、つまり、彼女にも相応の旨味が無い事には……」
厳しい顔をしていた彼女は一転して頬を赤らめ、もぢもぢクネクネと身体を揺すり、熱のこもった視線をケーゴに向けた。
「そこで彼女の条件が、ケーゴ少年の……ちんちんをしゃぶりたいんだと」
キャッと恥じらうリーザーベルを前にしてケーゴは硬直する。
え?今なんて?
「なんだそんな事か。オイケーゴ、とっととしゃぶらせてさっさと帰るぞ」
「フッ……1発発射で契約は成立といった所か」
「さっさと出すモノを出してお姉さんを助けに行きましょう」
「言っておくが、シャーロットの奴は今相当ヤバい目に合っているようだぞ。迷っている時間はない」
理解が遅いのは本人だけで、仲間たちは彼女の条件をさっくり受け入れる。
いや、別にゼッテーヤダとは言わないが、今この場で「あくしろよ」とか言いいながら積極的にちんちん出したらただの変態じゃねーか!!!
しかし、断る選択肢はない。
ん?……まてよ??
もう書面上のやり取りは終わっているんだよな?
別にリーザーベルの付き添いが無くても、大手を振って出て行けるのでは?
……いや、この先どんな状態になるかもわからない。
シャーロットを救出し、ロンズデール一味を封じてこの駐屯地を脱出するためには、やはりリーザーベルの助力は絶対に必要だ。
べ、別に舐めて欲しいワケじゃないぞ!!!
初めての経験にドキドキしているとか、そんな事ではないぞ!!!
「わ、わかったよ!」
それを合図にリーザーベルはケーゴの前に屈み、彼のベルトを外しだす。
微笑ましく見守る仲間達……ってオーイ!!!
凄い力で降ろされそうになるズボンを押さえながら、ケーゴは叫ぶ。
「で、出てけよ!!」
「いいだろ別に見せたって減るもんじゃないし」
基本的にちんちん大好きなガザミはニヤニヤと笑う。
「うっせーな!減るんだよ!精神的になんか削られるんだよ!出てけよ!」
「わかったわかった。早めに済ませろよ?盛り上がって本番とかすんなよ?」
「しねーよ!!!」
メンバーたちはぞろぞろと廊下に出て、独房の鉄扉を閉める。
リーザーベルは切り裂かんばかりの勢いで少年のズボンを足首まで下ろし、パンツ越しに蛇がのたうつような頬擦り繰り返す。
はぁはぁと息も荒く、パンツに手をかけてぐへへ……と笑う。
こわいわ!そんなんされたら縮むわ!
女軍人は外性器を揉む。
執拗に揉む。
その刺激により、ケーゴの意思に反して(?)彼のムスコはムクムクとおっきする。
おそらく勃起させてからパンツを脱がしたかったであろうリーザーベルは、そこで男の子の下着を下ろし、ビン!と跳ね上がったペニスに目を輝かせて一気にしゃぶりついた。
「くっ!」と呻いた少年の股間に顔を埋め、キツツキのように小刻みに顔を動かす独創的なスタイルでのフェラチオを開始する。
それは写真に写せば消えて見える程の速度で行われる脳に障害を残しかねない荒業であるが、単に興奮しすぎて暴走しているようにしか見えない。
彼女の激しい鼻息がケーゴの下腹に熱風の様に吹き付けられる。
「ほぉう!!」
ケーゴは腰を引いて逃げ、リーザーベルは距離を取ろうとする相手と同じ速さで前に出て間合いを詰める。
少年は壁際に追いやられ、リーザーベルの頭を掴んで仰け反った。
ギンギンになった男性器に、熱が集まっていく──!
そこでパカッ。と小窓が開く。
「あくしろよ」
「見んなよ!!!!」
ガザミの横やりにより、ケーゴの快感ゲージは急落し、決壊寸前だったそれは安全水域まで戻った。
リーザーベルはキツツキスタイルのフェラを止める事無く、陰嚢を優しく揉みながら精子の製造を促していく。
「うおお!!」
ケーゴの中に再びパワーが蓄積されていく。ドドドド!と熱いマグマの滾りが押し寄せる──!
そこでパカッ。と小窓が開く。
「フッ……ケーゴよ。フォースだ。フォースの力を信じるのだ……」
「だからぁ!見るなっていってるだろぉォ!!!!」
フォーゲンの介入により、ケーゴの快感ゲージは再び急落し、決壊寸前だったそれは安全水域まで戻った。
リーザーベルはキツツキスタイルの責め手を緩めはしないが、流石に疲労の色は隠せず、その鼻息はブモーブモーと牛の様に荒い。
しかし、彼女にとっては夢にまで見たケーゴのちんちんだった。
そう、彼女は自分を殴った少年に本気の恋をしていたのだ。
あわよくばNTRしたい。
このフェラが終わった後、我慢できなくなったケーゴが覆いかぶさってきて彼女を抱き、そして「最高だったぜ(フッ」とか言いいだすハッピーな未来を期待していた。
その為にも、ここで前代未聞、空前絶後かつ僅有絶無なオーラルセックスを展開しなければならない。
彼女のギアが一段上がる。
「う……出る!!!」
ビクンビクンと竿を跳ね上げ、ケーゴはつま先立ちとなって己の先端に全てを集約させた──。
そこでパカッ。と小窓が開く。
「ケーゴさーん。お姉さんが待ってますよ。急いでくださーい」
「そうだぞ。急げよ?」
「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」
ホワイト・ハットとガモの茶々に、怒り恥じらうケーゴの怒鳴り声は人外の言葉となる。
ここが勝負どころと睨んだリーザーベルは、顔の下半分が倍に伸びる程のバキュームで彼を吸い、その全長を扱くように顔を仰け反らせた。終にケーゴは、女軍人の喉頭まで溢れさせ、溺死に至らしめる程のフィニッシュを決める。
待ってましたとばかりにガココンっと鉄扉が開く。
「うーっし。終わったな。んじゃ行くぞー」
ガザミはリーザーベルの首根っこを掴んで二人を引き離した。
◆
地下を飛び出したケーゴ達は、階段を駆け上る。
「ここの三階なんだな!?」
「ああ、昨日の晩から今朝までは中庭で責めを受けていたらしいが、今はもう部屋に戻されている。それは確認した」
「ど、どんな感じだったのか、ガモは知っているのか?!」
「ノーコメントだ……」
心なしかガモの顔が赤い。
一体どんな責めを受けていたのか。中庭というロケーションからして尋常の物ではない。
記録映像によって、嗾けられた軍用犬を手なずける聖女のような姿までは見ていたが、その後の情報は入ってきていなかった。
焦るケーゴは階段を2段3段飛びに駆け上がる。
やはり捕虜を閉じ込めるための施設であるからか、1つ階上に上がるための階段が建物の両端に分散されていて、1階上がるたびに建物の反対まで廊下を進む必要があった。
つまり、地下から1階に上がり、そこで階段は終わっていて、廊下を進んで反対端まで進み、1階から2階へと上がり、また反対端まで走って2階から3階へと上がる。そんな構造だ。
建物の途中途中で軍人たちとすれ違うが、その時はリーザーベルを先頭に一列になって歩調を緩め、カツカツと歩いた。
彼女は敬礼をしながら彼らの前を通り過ぎ、彼らは女下士官が通り過ぎるまで廊下脇に避けて立ち止まり、敬礼を続けて見送る。
士官というのは、凄いモノらしい。
そして再びリーザーベルを急かして走り出す。
時折、明らかに「事後」って感じの軍人とすれ違う。どうもこの建物には「捕虜」が何人もいて、そこかしこで性拷問が行われているようだった。その為の建物なのだろう。酷い話だ。
パーティーはついに3階監禁室の前に到着した。
部屋の前には誰もいないが、扉の向こうから女の喘ぎ声と、男の愉声が漏れてくるので、リーザーベルに「ここか!?」と確認する必要が無い。
「ねーちゃんの部屋に監視のカメラとかは無いのか!?」
「それなら儂が細工しておいた!大丈夫や!」
扉に手を掛ける。
踏み込むタイミングはお前に任せたと、背中の仲間たちが言っている。
一刻も早く助けに入りたいが、扉を開けるのが怖い。
開けてもいいのかと悩む。
「い、いくぞ!!!」
「オウ」
ガザミの了承を得て、扉をこそ~~っと開けた。
5センチの隙間から、皆で中を覗き込む。
雄と雌の匂いが鼻を突く。その向こう、全身筋肉塊の屈強な男が、女冒険者を背後位で抱いている。
男は後ろから右手で彼女の尻を掴み、左手で髪を掴んで引き寄せつつ、自分が気持ちいいだけの腰を叩きつけるようなピストンを繰り出していた。
パシンパシンと破裂音が響く。
一撃一撃にガクンガクンと身体を揺らしている彼女の全身は汗にまみれて光沢を帯び、その肌のあちこちが赤みをさしていて、痛々しく見える。
壊されそうな程に突き上げらて泣いて喚いてはいるが、喘いて善がってもいる。
この位置からはその表情は見えない。
「オラ!嬉しいか?このマゾ女め!まったくだらしない身体しやがって、生きていて恥ずかしくないのか?ああ?」
男は尻肉に爪を立てていた手を離し、手形を付ける程の容赦のないスパンキングを見舞っていく。
最早言葉もしゃべれないほどに脳を痺れさせているシャーロットが一層甲高く高く泣き、叩かないでくれというように腰を揺すって男に甘えるが、男は満足げに笑って勢い付き、その丸太のような腕を振り回して、痣を造る程に拳で尻臀を殴りつけ、恍惚の表情で腰を痙攣させて体液を注ぐ。
その暴力的な光景は、ケーゴの憤怒を呼び覚ました。
踏み込み、拳を握ってベッドに迫る。
男は行為に夢中で侵入者に気付きもしない。
「まだ終わらねーぞ、もっとしっかり腰を──ぶべっ!?」
ケーゴ渾身の正拳突きがその横面を跳ね上げた。
骨と骨がぶつかり、拳に鋭い痛みが走る。
体格差により一発KOとならず、男は顎を押さえて振り向き、驚愕した。
「お、お前は!!」
「よぉ。久しぶりだなぁ……」
男が飛び上がらんほどに驚いた相手、それはガザミだった。
なんだ?とケーゴは両者の顔を交互に見る。
「いや、ガザミちょっとまってて、今は俺の怒りタイムだってーの!」と、そんな男の子の心の声は無視して話は進む。
「あの時は上からの命令で仕方なく……アレだぜ?!マジにイイ女だなと思っていたんだ!」
「そーかい。そいつはよかった。これから全力でボコるが、死ぬなよ?アタシも命令されててね。あー心が痛むぜ!」
ハンマーで殴打するような迫力で、ガザミの外骨格を纏った拳が男の顔に堕ちた。
比喩ではなく、男の顔面は陥没する。その鼻は折れ、前歯がひん曲がった。
一撃で戦意喪失だ。
ケーゴは自分の正拳との威力の違いに目を瞬かせていた。
「良い身分だなオイ。女ハメてケツ殴ってなぁ……」
「ひ、ひぃ!?」
男はシャーロットからペニスを引き抜く。
ガモよりデケェ。なんだコレ。ゴリラか?!
そんなものを突っ込まれていた彼女は、支えを失ったようにベッドに崩れた。
ガザミは露になった彼の股間を鷲掴んでグリグリと捩じり、微笑む。
「そーよ。これこれ。このチンチンだったよなぁ。アタシをコケにしてくれたのは!」
「か、勘弁してください……すみません……でした……」
男性のそれはみるみる縮み上がっていく。
「悪いね。言っただろ、こっちも命令だって」
「だ、誰のだ……!?」
「アタシのだよ!」
言うや否や、ガザミは「ソレ」をミチミチと握りつぶした。
圧殺後も残心して握り続け、泡を吹いて倒れ込んだ男の痙攣が止むのを見届けてから手を離し、掌に付いた体液の臭いを嗅いだ後に払い飛ばすと、ケーゴにニカッと笑いかける。
「割り込んじまったな。ほら、好きなだけボコっていいぜ」
「……ああ。うん」
いや。流石にこれ以上はオーバーキル……と思いながら、倒れているシャーロットを見る。尻だけでなく背中にも殴打された跡があり、首にも赤く痣が残っている。
注ぎ込まれた白濁を、陰部からどろりどろりと漏らし続けているのを見て、ケーゴは取り合えずもう一発男の顔を殴りつけた。
「……帰ろう」
シャーロットをシーツに包んで抱きかかえ、重たかったので背負い直す。
「ケーゴさん。回復魔法をかけますか?」
「ああ。そうだな……いや、ねーちゃんが気付いたら、もう交易所だったほうがいいのかな?」
「このバカはそこまで繊細じゃねーよ。抱えるのも面倒だし、起こしちまおうぜ」
ガザミはぺしっとシャーロットの頭を叩く。
「師匠の意見は……」
「フッ……シャーロットにも彼らに言ってやりたいことの一つもあるだろう、起こすべきかもしれん」
「じゃあ……ホワイト・ハット、頼む」
癒しの魔法と浄化の魔法により、身体へのダメージは癒された。
しかし、心の傷は……。
◆ミシュガルド 甲皇軍駐屯所 監禁部屋
「う……」
深い沼地の底から助け出されたかのような倦怠感と共に、私は目を覚ました。
五感は弱っていて、視覚も定まらない。
上から覗き込んでいる、複数の頭影が見える……?
「……じゃないのか?」
「……は癒せても……疲労は癒せないんです」
「おっ。起きたんじゃねーのか?」
「フッ……助けに来たぞ」
「あれ……?皆……?痛った」
起き上がろうとして、ズキンと頭が痛む。
それだけでなく、身体の節々が熱感をもって軋む。
えーと……。ああ、うん。そうだ。今日は三日目で、皆が本当に助けに来てくれたんだ。
昨日は、犬の檻に入れられて、でもわんちゃんと仲良くなってやり過ごしたのは覚えてる。
その後、ホワイト・ハットの魔法が切れて……そこから先は記憶が完全に飛んでいた。
恐る恐ると鏡を見るが、ちょっとむくんでるかな?程度で、むしろ肌艶は悪くなくて、安堵する。
五感が戻ってきて、汚されまくっている肌の違和感に鳥肌が立った。
「ほら。さっさと帰るぞ」
ガザミが手を引いてくる。ちょっと待って!と抵抗し、そこに簡易湯船があるから身体を洗いたいと申し出た。
ガザミ以外は特に反対する様子も……ってあの鞭女がいる!?
「え?」
めっちゃいぶかし気にリーザーベルを見る。目をこすってもう一度見える。
「……彼女は協力者だ」
ガモが端的に現状を述べて、私は特に突っ込まずありのままを飲み込んだ。敵でないなら問題ない。
レースのカーテンを引いて湯船に入り、ソープを使いまくって身体を磨く。
「ねーちゃん。全部見えてる……」
「分かってるなら見てないでいいからっ!」
もー!と怒りながら、何とか納得できるところまで身体を浄化する。
鼻の奥に嫌な匂いが残っていて、ちょっと胸を悪くする。
ホワイト・ハットが差し出してくれた何時もの衣装を身に着け、ようやく気持ちが落ち着いてきた。
皆がいるからか、身体の緊張が解け、立ち眩みしてケーゴに支えられる。それでも気分は上々だ。
「おまたせっ。じゃあ帰ろっか?」
「おーっし。戻ったら奢れよ?」
なんだかんだ言いながら心配そうにしてるガサミ。
気になるのは、男性陣。それもケーゴと、フォーゲンと、ガモだ。
ホワイト・ハット以外からギコチナイ距離感を感じる。
「あ……その前にいい?」
彼らの顔を見ながら質問を投げかけると、全員ビシッと変に背筋を伸ばした。
「え?あ。ああ」
「フッ……か、構わんぞ?なんぞ?」
「……」
男子三人は緊張の色を隠せずにいる。
「……見た?」
自分で言っておきながら、真っ先に赤面する。
ケーゴ、フォーゲン、ガモはポッポッポッと順に頬を赤らめた。
私はその場に崩れ落ちる。
「あ、いや!でも全然平気だって!なぁ!?」
「フッ……そうとも。なぁ!?」
「お、俺に振るな…!!!」
ギャアギャアと喚き始める男子だが、少なくともその中に私への侮蔑はない。
なんとなくぎこちなかったのは、私に気を使っているのだと分かった。
「ほんとにぃ……?」
「ホントホント!なぁ!?」
「フッ……嘘偽りなど微塵もおじゃらぬよ。なぁ!?」
「だから俺に振るな!!!!」
彼らの慌て顔が可笑しくて、私は吹き出し、よいしょと立ち上がった。
気持ちも切り替わり、何時もの私が戻ってくると、「大事なこと」に気付く。
「……あ。そうだ。多分もうすぐロンズデールの馬鹿が来るから。お礼して帰りたいんだけど、イイ?」
そう。それはとてもとても大事なことだった。
◆
「やあ遅くなってしまったね。今朝までの貴女の痴態を記録した映像だが、早速上映会に回したよ。その試写会ですっかり遅くなってしまったという訳です。ご容赦ください」
上機嫌なロンズデールが姿を現したのは、それから1時間後。
拘束されたフリを続けながら彼の言葉責めを聞く。
昨晩の記憶の無い私は、想像して顔を赤くすることしかできない。
「いやぁ。頑張りましたねぇ。あそこまで乱れるとは思いませんでした。皆も驚いていましたよ。女性の性欲とはここまで凄まじいものなのか、とね」
余計なことは言わないでいい!物陰で皆が聞いてるんだからっ!
「さて、そこで私は考えたわけです。最早貴女は馬のペニスにも「物足りない!」「もっと犯してくれ!」と泣きわめく事でしょう。そこで、本日はこの基地にある最高級の男性器をご用意致しました。まあ、初日から用意はさせていたんですがね……」
彼は壁に向けて何か操作をする。
ゴゥン!と重音が部屋中を震わせたかと思うと、この部屋と隣室とを隔てていた壁が持ち上がり始めた。
隣室は鉄の檻となっていて、四肢と首と腰を鎖につながれた1人の……いえ、1匹のオークが囚われていた。
「彼には十分な食料を与えてあります。しかし、強いストレス下にあり、睡眠も満足にとっていません。そして、コレです」
ロンズデールは注射筒を取り出した。シリンジ内は赤透明な薬液で満たされている。
「種馬や種牛などの家畜に与える性的興奮剤です。まあ御覧なさい」
変態軍人は鉄牢に歩み寄ってレバーを操作する。オークを拘束していた鎖がジャラジャラと音を立てて巻き取られ、怪力を誇る魔物を鉄枠に縫い付けた。
その首筋に注射筒を刺すように突き立てて、薬液を注入していく。
オークは苦しみ、目を見開き、涎を垂らして喚き散らしながらメリメリと音立たせて勃起を始めた。
ペニスに何本もの血管が集まり浮き上がり、心臓の様に鼓動する。
私はドクンドクンと脈打つ度に跳ね上がるその超ド級の男性器に視線は釘付けとなりつつも、首を横に振って拒絶の意思を示した。
無理。入るとか入らないとかじゃなくて、オークとのエッチとか絶対ムリ。
「……と、いう訳です。いやいや、これでも貴女にご満足いただけるかどうかわかりませんが、ぜひお受け取りください。勿論記録映像もしっかり撮影しますので、大喜びでオークに股を開くよりは、多少なりとも人としての尊厳を保つそぶりを見せるくらいはした方がいいと思いますが」
このご機嫌ぶりに饒舌ぶり。
昨晩の私は彼をここまで調子づかせてしまう程の乱れ方をしたらしい。目撃者全員を消して歩きたい。
「さあ、準備は宜しいですか?心の準備がまだ整わないのなら、そうですねぇ。オナニーでもしてもらいましょうか。惨めに自慰を続けている間は、待ってあげてもいいですよ。頑張れば私の気が変わるかもしれませんし」
彼は撮影用カメラを私に向け、ニヤニヤと嘲り哂っている。
皆が助けに来てくれた後で本当によかった。
淫感に囚われてのオナニーなら兎も角、自らの意思で敵に向かって足を開き、命乞い目的でのオナニーをしてしまっていたら……もう自尊心を保てなくなる。
「……こんな事をして、心が痛むとか無いわけ?」
最後の慈悲でもって、彼に問う。
クックッと笑いながら、ロンズデールはベッドの天蓋を捲り、その手に下げた鉄檻の鍵をチラつかせた。
「何を今更。実を言いますと、私に拷問の味を教えてくれたのは亜人でしたが、今では彼等よりも、人間を嬲るのが……」
彼の声が止まる。
違和感に気付いたか。
そう、私は「いつもの服」を着ていたのだ。
ゆっくり身を起こす。当然、鎖は物音一つ立てない。
「……馬鹿な……!?」
ベッドから降りて、伸びをする。
「そっか。じゃあ、人の痛みが分からないヒトには、人の痛みを教えてあげないと!」
彼も軍人、直ぐに状況を理解して私に掴みかかってきた。
その動きは予想よりも鋭かったが、所詮は「弱い者いじめ」に浸っていた男の戦闘力だ。私は彼の股間を膝でカチ上げ、切なそうな顔をしながら「うぉあ~」と呻き、尻を突き出して内股になったロンズデールの、装具に覆われた鼻っ柱をうんっと殴りつける。
彼は片手で顔を覆い、片手を前に出して降伏の意思を示したが、私はもう一度その鼻っ柱にキックを見舞い、彼の手から放たれて宙を飛んだ鍵束をキャッチした。
そして哀れな変態男を冷たく見下ろす。
「「私から」はこれくらいで。続きは「彼」にして貰いなさい」
「あ、あうけて……あ、あうけてください!!」
折れた顎でフガフガと許しを懇願しながら、駄々っ子のように暴れてベッドや椅子に捕まろうとする彼を引きずり、腹を踏みつけて制圧しながら、鉄檻の扉を開ける。
「……実をいうとね。迷っています。許してあげてもいいんじゃないかな?って。でも、アンタ変態だし。異常者だし。許してあげてもプライドを傷つけられただのなんだの逆恨みして、絶対またちょっかい出しに来るでしょ?」
「ひ、ひません!ほ、ほんなことはいたひません!!どうか……!」
「んー……でもねぇ。何かさっきも酷い事いわれたよね私。オナニーしろとかなんとか」
ロンズデールはズバ!とズボンを脱ぎ、何故か既におっきしている男根を取り出して擦り始める。
「……私がそんなの見て喜ぶと思う?」
「貴女程ちんちんが好ひな女性はいなひとおも……ぶっ!」
彼の背中を蹴とばして牢に打ち込み、ガシャンと鍵をかけた。
軍人はヒヒかマシラのような勢いで格子に縋りつき、顔を赤黒くして鼻の穴を五倍大に拡張させ、渾身の力を使って脱出を試みる。
オーガクすら捉えていた鉄牢が彼に破れるはずもない。
「後はこのレバーを戻せば、オークがシンデールさんのお尻めがけて突進する、と」
「あうけて!あうけて!」
血の涙を流すほどの慟哭。
と言っても。このレバーを倒したとして、私が気持ちよく帰れるかどうかは……正直自信ない。
今ですら何だか可哀想になってきてしまっている。
「……じゃあもう一度聞きます。昨日の私が何だって?」
「せ、聖女です!貴女は聖女ですぅ!」
うん。いい返事だ。
でも、それで許してやれるはずもない。
「それだけ?」
「う、うつくひぃ!実にうつくひぃ女性です!女神ですぅ!!!」
ふっふっふ。そう来たか。
ちょっと嬉しい。
「私に対してだけでなく、こんな拷問はもう……?」
「ひ、ひません!いたひません!!!」
「その言葉、信じるからね。違えた時は……」
ガキン!!
金属音が響いた。
カーテンの向こうに隠れていたケーゴが「あ」と声を上げる。
見れば、オークが右腕の鎖を引きちぎっていた。
片腕が自由になれば、他の拘束を解く力は数倍に跳ね上がる。
ガキン!と左腕の拘束がはじけ飛ぶ。
「は、はやくだひてえええええええええええ!!!!」
失禁しながらロンズデールが泣き叫ぶ。
私は急ぎ格子を開けた。
「はやく!!」
「う。うごけなひ……こ、こひがぬけて……!み、みすてないでえええええ!!!」
「ああもうっ!」
私は檻に飛び込み、彼の手を掴む。ぬるぬるしてて超気持ちわるぃいいい!
溺れる者は何とやら。ロンズデールはヘコヘコと芋虫の様に這いずり両膝に抱き着いてきて、私はその場で転倒した。
「ちょ……!!」
ガキキン!!!
ひと際大きな破壊音と共に、キーン、と金属片が飛んできて目の前を転げ、反対の壁に当たって止まった。
オークの首が、腰が、両足が……拘束を打ち破って自由となる。
「……あ」
「ひゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
ロンズデールは私を盾にしようとして背中に回り込む。
「あ、アンタね~!」
どこまでも恥を知らない男だ。
私もロンズデールを盾にしようと回り込み、二人はその場でねずみ花火のように回転する。
「あ、貴女なら全然平気じゃないですか!!実際問題気持ちいいだけでしょう!!!」
「なにそれ最っ低っ!助けるんじゃなかった!!!」
「ここはひとつオークの自主性に任せて……!」
「ヤですっ!!オークに変な薬打ち込んだのはアンタでしょ!ちゃんと責任をとんなさ──」
「い」を言う前に、私の身体は宙に浮いた。
オークに持ち上げられたのだ。
女トロルと呼ばれ恐れられる私だけど、オークに見初められるなんて思ってもいなかった。
「ほら見なさい!オークは貴女を選んだのです!」
「やかましい!!!あぅ!!!」
オークの身体の造りは人に近い。性器の付き方も形もほとんど同一。
野生の獣は立バックが基本なのか、魔物は私を格子際に向かって立たせ、腰をぐっと持ち上げさせてくる。
雌のオーガに比べて華奢な生き物である事が理解できているのか、薬による興奮状態であるにもかかわらず、全然乱暴に扱われていない。痛くされていない。優しい。フィーリングは悪くない。
下着をするっと膝上まで下ろされる。
「あっ!コラっ!」
背中にかかるオークの鼻息で髪が舞い上がる。
その豚様のモンスターは、自らの指をしゃぶり滑らせてから私の股下に差し込み、律義に前戯を始めた。
「あぅう!ん!」
丁寧にクリトリスを刺激し、片手ではお尻を優しく撫でている。
今回の一件で私を凌辱してきた誰よりも丁寧で優しいのが極度の興奮状態にさせられているオークって一体なんなのか。彼に対する嫌悪感が薄れていく。
しかし、ペニスを打ち込まれるとなれば話は別。
皆が見てる前でオークのソレに感じちゃったら、もう生きてはいけない。
……そうだ。皆がいるんだった!!!
「ケーゴ!!!ガザミ!!!フォーゲン!!!ホワイト・ハット!!!ガモっ!!!」
私の悲鳴で我に返ったのか(遅い!遅すぎる!)皆がカーテン裏から飛び出す。
ケーゴが後ろからオークの頭に飛びつき、右腕をガザミが、左腕をガモが極めて押しつぶす。
ホワイト・ハットとフォーゲンは3歩離れた所でひょんひょんしている。
こうして、熟練の冒険者たちによってオークは瞬く間に制圧され、凶行は未然に防がれた。
「ありがとう……」
下着を上げ、頼もしき仲間達に頭を下げる。
「フッ……気にするな……」
いや、アンタは何もしてなかった。
モンスターは本能をむき出させて大いに暴れていたが、ホワイト・ハットにより解毒鎮静された後は、ビルドアップされていた身体がしぼみ、スヤスヤと安らかな眠りについた。
どうも筋肉増強剤的なものまで与えられていたようだ。
極度のストレスによりモンスター然としていたその表情は、ペットの豚ちゃんと見違えてもおかしくない程に穏やかなものとなり……あれ?
「……」
え?これ「交易所の酒場で直立二足歩行してた豚さん」じゃないよね?
うん。まさかね。
私オークの顔あんまり見分けつかないし、みんな同じに見えてるだけだよね?
まあ兎に角、彼は森に(?)帰してやらねばならないでしょう。
「ねーちゃん。本当にコイツを許すのか?」
「ひぃ!?」
ケーゴは未だ腰を抜かしたままのロンズデールを指さす。
うーん。どうしよっかな~?と真剣に悩む。
「はい。シンデールさん。私と私の仲間たちに多大な迷惑をかけたオトシマエは、どうやってつけるおつもり?」
「お金!お金で解決させてください!!」
いい返事だ。
「んじゃあ。10万YENな」
ガザミが優しく吹っ掛ける。
「フッ……俺もそれでいい」
フォーゲンが速やかに乗っかる。
「仕方ない。じゃあ私も10万でいいや」
この時点で30万YENもの出費が確定したロンズデールは悲しそうな顔をしていた。
「僕はお金よりも母乳が……」
「どうぞ」
ズバッと胸を出したその軍人の頭を魔法少年が杖でどつく。
「汚いものをみせるんじゃねーですよ……」
「す、すいません!」
ロンズデールは「甲皇帝軍女子職員写真付き名簿」なるものを取り出して、ホワイト・ハットに見せ始めた。ふんふんと頷きながら二人はアレコレとボディーランゲージを交えた意思の疎通を行う。
「この子とこの子……それとこの子でお願いします。一週間以内にSHW交易所酒場まで持ってきてください」
「かしこまりましたお坊ちゃま」
この二人最低だ……。
そうだ、ケーゴは?
「ちょっとコイ」
ケーゴはロンズデールを引きずり、何故か二人してカーテンの影に引っ込んだ。
そして二人は直ぐに戻ってくる。商談はまとまったらしい。
「皆もういい?じゃあ、帰りましょう!交易所へ!」
それからは皆で堂々と施設内を歩く。ちょっとドキドキする。
「あっ」って顔をした軍人とすれ違う。しかし、ロンズデールとリーザーベルが共に歩いている為か、変な真似はしてこない。
建物を出ると、自動車が用意されていた。
荷台に荷物とトンブゥ……に、よく似ているオークを搬入する。
「この度は大変失礼致しました。シャーロットお嬢様!」
ドアを開き低頭している変態軍人に「ご苦労さま。もう悪さはしないように」とお返事して乗り込んだ。
車のエンジンがかり、車体が振動を始める。
右隣に座っているガザミは「うほほw」と言いながら札束を数えている。
実際私達には目も眩むばかりの大金だ。テンション爆上げも致し方なし。
「ガザミ、それ全部食費と男遊びに使うんでしょ」
「アタシの金だ。何に使おうが勝手だろ!お前こそ全部アダルドグッズに使うなよ?」
「はぁ!?そもそもそんなの買ったことありませんけど!?ガザミじゃあるまいし!」
左隣に座っているフォーゲンは、「フッ……」とかいいながら胸の谷間をチラチラ見ている。うん。なんだか懐かしい感じ。
なんだろう。最早嫌な感じが全然しない。最初は「何コイツ」と思ったものだけど、これが信頼関係というヤツ?
膝の上に座ってるホワイト・ハットがぐるんとこちらを振り向いた。
「お姉さん。帰ったら母乳を…なんなら今からでも……」
「あー。うんうん……でもあの魔法ちょっと怪しかったんだけど……」
「ガモ!ちょっとだけ!ちょっとだけ!」
ハンドルを握るガモに、運転させてくれと助手席のケーゴがせがんでいる。機器類を前に目がキラッキラだ。
そういえば、彼はお金ではなくて、何か機械を譲り受けたようだった。ホントにそーゆーのが好きなんだろう。
ガモは自動車を止め、ケーゴと座席を交換する。
「これがアクセルで踏み込むと車が……」
「大丈夫。俺、前に運転する所バッチリ見てるからさ!」
「ボルトリックさんの車だ……大事に扱え」
「おう!よし!じゃあ行先はSHW交易所な!ぶっ飛ばすぜーー!!」
ケーゴは意気揚々とアクセルを踏み、車は正門に突き刺さった。
◆次回感動のフィナーレ!