◆ボルトリックの迷宮 B2F 中央広間 ケーゴ
パーティーは再び合流した。
「遅かったな。まあ、こっちが速かっただけ……ん?どうした?」
ガザミが呑気して訪ねてくる、が、直ぐに俺の様子が可笑しいことに気付いたようだ。
見えたのだろう、この俺の身体を通して出る憤怒が。
ホワイト・ハットがスッ……と音もなく右隣にやってくる。
「もしかして母乳をお飲みになりました……?」
フォーゲンがスッ……と音もなくやってきて、左サイドを固める。
「フッ……大人になったのか?少年」
今なら命と引き換えに2人を一瞬で消滅させるパンチが打てそうな気がした。
ねーちゃんの様子をチラと伺えば、何も言わずその場で床にうつ伏せに寝転がっている。
ガザミが押しても引いても起きようとせず、「もうやだ」意外言わなくなってしまっている。
ここで一時休憩となった。
キャンプが設置される間、俺は公の仕事には参加せず、個人用テントを張って中に引き籠った。
瞼裏に焼き付くねーちゃんの痴態。
前にも誰かに言った気がするが、ギルドに出入りしてるのは知っていた。名前も知っていた。
エロいカッコしてるから目に付くだけで、別段意識したことない。
その証拠にエリーザさんとか、会話したことはないけど名前は知っている人は他にもいる。
それで、今回も変な商人に絡まれてるな~と何とはなしに見ていたが、パーティーに誘われるとは思ってなかった。
それくらい接点の無かった人だ。
個人的に絶対無い相手とまでは言わないが、ストライクゾーン外角高めにギリ入ってるだけの近所のねーちゃん。
それ以上でもそれ以下でもない。
つい昨日は、そんな相手の裸はおろか、モンスターとの性行為を見てしまった……。
……そういえば酒場でもなんか見たな……。
全て不可抗力でその場に言わせただけだ。
あくまでも一般的な男子として、一般的な女子への興味はある。
絶対見たくないわけじゃない。
見せてくれるというのなら特別拒まない。
そこにいたら見てしまう。
この体験を酒場で誰かにしたのであれば、ラッキースケベだと言われるだろう。
これだけはハッキリ言っておく!
ラッキーちゃうわ!
ねーちゃんが罠にかかった時、最初はマジ勘弁してくれと思っていた!
うそじゃない!
ストライクゾーン外角高めにギリ入ってるだけの近所のねーちゃんが……眼前で、脚広げて木馬にまたがって尻を突き出して喘いでるんだ……。
なんかもう色々おかしいの、分かるだろ?
いや、わかるよ?鬣のザワザワが気持ちいいんだろってのは。
でも限度ってものがあるじゃん?
あんなの人に見せていいのかよ。
淫らすぎるだろこの人……。
スッゲ濡らしてて……ヒクヒクして……もうちょっとグロイかと思ってた……けっこう奇麗なのな……。
『うわああああ!うわあああああ!ねーちゃん!?ねーちゃん!?』
大体、俺が叫ぶ程焦る意味ないじゃんか。
「変なもの見せんな!」って怒って尻蹴とばせばよかったんだ。
でも、目が離せなかった。
助けるふりして触った。
なんだよアレ……ふざけた尻しやがって……。
『もうダメだって!もう無理だって!ギリギリだって!』
自分でもキモイくらい鼻息荒くしてたさ。
木馬に飛び乗ってヤッちゃおうかと、いやそれはダメだと。
何度も自問自答させられた。
そんな俺の気も知らずに名前を呼びながら喘がれて、なんかキレた。
気が付けばズボンに手をかけていた、焦りからか震えからか、ベルトが上手く外れない。マジダセェ。
「くっ……!」
ねーちゃんの身体から寸毫でも目を離すのを惜しみつつ急いで視線を下げたら……。
『停止ボタン』の古文字を見た。
木馬に──。
停止ボタンが──。
あ─る──。
衝撃だった。
頭が吹き飛ぶほど散々思い悩んだ時間はなんだったのか。
そこでも思った。
見なかったことにしてしまおうと。
喉まで出かかった。
「この淫乱が!そんなに気持ちよくして欲しいのか!なら俺がしてやるよ!!(オラァ!)」
みたいなセリフが。
それがあまりにもキモかったから我に返った。
「ちくしょおおおお!!!」
俺は半身をもがれる思いで停止ボタンを押した。
◆ボルトリックの迷宮 B2F 中央広間 ガザミ
「オイ。ケーゴ。あの馬鹿と何があったか、話せ」
アタシにはリーダーの資質はない。
元々1人で好きに暴れるのが性分にあっていた。
だから、パーティーメンバー同士のイザコザを収めるいい方法なんて知らない。
シャーロットとケーゴの間になにかがあった、それは確実なのだから、二人に解決させる。
個人用テントの中にこもっているケーゴの元を訪れ、直球で勝負する。
やさぐれていたケーゴだったが、甘やかさずに問答無用で問い詰めた。
「少しくらいなら周りに甘えても許される……とでも思ってるのか?」
ピク!とケーゴの表情が歪む。
被害者面で睨んできたので睨み返してやる。
「俺の気も知らないで、ってか?生憎アタシは優しくないんでね。お前の気持ちなんて興味ないね。今はパーティー崩壊の危機を何とかする方が大事だ。このままじゃ仕事にならないんだよ!」
厳しく厳しくと思ったが、一応こちらの立場を説明してしまう。
まったくアタシも甘くなったもんだ。
「オラ、男だろ。シャーロット引っ叩いて聞き出してもいいんだよ、アタシは」
今度はケーゴの肩が動く。少しは想像力を働かせたようだ。
「大方、男女な感じの何かだろ……安心しろ。そこで聞き耳立ててる2人はぶっ殺してダンジョンに捨てて帰るからよ」
「フッ……盗み聞きなど……」
「仲間として怒りも……悲しみも……母乳も……分け合うべきではないですか……?」
「フッ……そうとも……精子を共に分け合う……なんてな……」
悲しい顔を作って中に入ってきた二人を引きずり出し、存分にシメて、アタシは再びケーゴと向き合った。
「お前から言わないならいい。アイツに聞く」
「……やめろよ。話すよ……話せばいいんだろ!聞いて後悔するなよチクショー!」
ケーゴの口から語られた話は、重いのか軽いのか。笑処が満載な気がして、己の顔が引きつるのはわかった。
いや、深刻な事態なのは分かる。分かるんだが……。
「なんで笑ってるんだよ!!」
「あー。うん。ゴメンな?まあ、予想の斜め上だった訳だが……そうか。あの罠は……」
もし自分が罠にかかっていたらと考えると肝が冷えたが、どう考えてもアホ程乱れるような仕掛けとも思えない。
「あのバカの性癖に問題があるとしか……居合わせたお前には同情するぜ」
「…ま、まあそうだな…」
「で、どうする?アイツをなんとかできるのはお前だけだ」
「いや!無理だって!もう顔も見れねーよ!」
「本当かぁ?」
この世の全てを呪うような顔付きは何処へやら。今や耳まで赤面しているケーゴの目を覗き込む。
「いや……ねーちゃんだって顔合わせたくないだろうし」
「そんなのは優しさじゃないだろ。例えばお前が行って、ヤツの尻でも撫でて、平気な顔して行くぞー!って言えば、それで済むんじゃないか?」
「……無理だ……意識しちまう……」
「つまりお前は、本当ならそうしたいが、それができない自分をアイツに曝け出したくないだけなんだな」
「うぐ……!」
「お前が少し頑張れば、アイツの気持ちが楽になるのを知っていて、なんの意地か見栄かしらんが、自分を守る方を優先してるのさ」
「うぐぐ……!」
「男女のアレコレはわかんねーけどな。仮にここでお前達がヤッたとして、だから何だって感じなんだが。そんな話いくらでもあるだろ」
現場でチョメチョメはしなくとも、戻ってきた後二人で酒場の二階に消えていく奴等なんてザラにいる。
「え……マジで?」
「特別な事でも重たい事でもねーよ」
ケーゴの迷いが晴れていくのを感じる。
結局何に怒っていたのかよくはわからないが、多分何かを堅く考えすぎていたのだろうと言うことは分かった。
育ちが良いのだろう。
「優しく抱いてやるも良し、メス豚呼ばわりして弄るもよし、笑って尻蹴飛ばして叩き起こすも良し。ケーゴ、あんたに任せるよ」
「フッ……寧ろ……何時死ぬかもわからぬ冒険者家業……刹那的に肌を合わせていけないことがあろうか……?」
「一期一会の精神で、母乳を求めるのも当然だと、わかっていただけるでしょうか……?」
ケーゴは拳を握って立ち上がり、シャーロットを寝かせてあるテントへと向かう。
フォーゲンとホワイト・ハットの耳を捩じり上げながら彼を見送った。
「アタシはやる方に賭ける」
「僕も」
「フッ……やらない方に300YEN……」
◆ボルトリックの迷宮 B2F 中央広間
テントで寝ていた。
全身に極度の倦怠感。そして節々の痛みがある。
激しく乱れたこと、それ自体はいい。
全部見られていたこと。
見られているのを知っているのに堪えられなかったこと。
羞恥だけでも立ち上がれないくらい重いのに、更に自己嫌悪がのしかかる。
「あーもーっ!」
顔を覆う。足をジタバタとさせる。
なんで未だ下腹が疼くのか。あれからずっと下着が湿っているのか。
死にたいくらいの嫌悪の中にあって、また熱に浮かされだす。
変だ。おかしい。こんなの私じゃない。
四つん這いになると、自分が理性のない動物になってしまった感じさえする。
下着を脱がずにそのままお腹側から手を潜り込ませる。
「はぅ……ん!んぅ…あっ」
「入るぞ」
「はいぃ!?」
ケーゴの声がした。
髪を逆立たせ、周囲のものをぶちまけて飛び上がる。
毛布を引き寄せて返事する。
「……どうぞ」
入り口のタレ布がめくられるのを見て、視線を外す。
心臓が早鐘のように鼓動する。
無言のまま正面に座したケーゴを、チラ……と見てみたら、怒ったような顔でめっちゃ睨んできてた。
その手に持った粥を差し出してくる。
「コレ。昼飯」
「……うん」
両手で受け取る。取り敢えず会話するよりは楽なので、そのスープ飯を啜る。
やっぱり味が濃い。たぶんガザミの好みだ。
「淫乱」
いきなり口撃されて、ブハ!と粥を吹く。
「うわ!きたねっ!」
「ケーゴくんが変なこと言うからでしょ!」
「ホントの事じゃん」
「な、なにが、よ!子供にはわからないでしょうけどね、アレはそーゆー罠なの!わかる?拷問よ。拷問!」
「へいへい。俺は男だからわかんねーよ。でもな、ガザミが言ってたぜ。あんな罠でソコまで乱れることはないだろってさ」
「ガザミに話しちゃったのー!?」
火照ってパンパンな頬を両手で抑さえる。全身に羞恥汗をかく。
「フォーゲンとホワイト・ハットには……?」
「直接話してないけど多分知ってる」
私は前のめりに倒れ込む。
そうだ帰ろう。交易所にではない。ハイランドへ帰ろう。
「大丈夫か。淫乱ねーちゃん」
「だーかーら!ガザミがなんと言おうと!アレはそーゆーものなの!拷問だって言ったでしょ?耐えられないようにできてんの!」
ガバっと顔を上げて決死の反論を試みる。
「一般的に!どんな種類の拷問であれ、認識甘い奴はみーんな自分なら耐えられる!みたいな事いうの!」
「あんな木馬のザワザワでか~?」
「そうっ!」
無駄に胸を張る。
ハァ……とため息をつくケーゴ。なんなのそのリアクションは。
「なんかココ。臭わね……?」
はう!と背筋を伸ばす。
「ななななな。何が?」
ケーゴが毛布を掴んだ。ばっ!と私も両手で掴む。
「ねーちゃんが淫乱かどうかが、今スッゲェ大事なんだよ」
「え?なに?どゆこと?あ、やめて。引っ張らないで」
「手を離せ!」
「はいっ!」
毅然とした大声を出す彼に本能的に従う。
するすると肌の上を毛布が走って……湯気立つほどに自慰中だった下半身が顕になった。
「い、淫乱じゃん……」
「~~っ!」
最早何も反論できない。
私が淫乱だということにされてしまった。それはもういい。
全然良くはないけど、もういい。
だったら何なのか?
呆れて出ていかないところを見ると……彼にとっては何かイイ展開なのか。
その手が伸びる。生唾を飲む音が聞こえる。こっちも緊張の生唾を飲む。
指先が下着越しに触れた。
ビクビクにお尻全体でお返事する。
「……淫乱じゃん……」
「ち、ちが……」
彼の意図が読めないが、ここは頑張るところだろう。
木馬で醜態を晒した私への、汚名返上のテストなのだ。
そう、ここで毅然とできるかどうかが分かれ道──。
「ちがう……ます」
キリリと。凛と。背筋をピンっと。ケーゴを見る。
彼は真顔なのか怒ってるのか笑ってるのか真剣なのか、全てが混同しているような常人の表情筋を超えた表情をしていた。
迷いのない動きで人様の下着に指をかけ、横にずらして性器全部を露出させてくる。
ええええええー!!?
真顔で何してくれちゃってんのーー!??
内心の動揺はさておき、私も真顔(のつもり)で彼を見ている。
真顔で性器を覗き込む男 VS 真顔で性器をヒクつかせてる女。
晒されちゃったその割れ目に沿わせるように、ケーゴの指が動く。
その度に腰全体を揺すってお返事する。すぐに彼の指に絡ませるようにトロトロと婬涎を漏らす。
「淫乱ねーちゃん……これは?」
口を開くと喘いでしまう。プルプルと首を振って「NO」の意思表示。
「そっか……」
彼の指がつつ……と滑り、一度離れ……わしっ!とお股全体を掌で包むようにして触り直してくる。
「あぁう…はう!はう!」
少年は無言のままに掌全体を回すように動かしだす。
手の平の手首の方の堅い所で、クリトリスを潰すようにグリグリと意地悪く動かしてくる。
ラビアが彼に何度もキスをする。ヴァギナが吸盤みたいに彼に張り付く。
じゅぷじゅぷと水音が響きだして、ケーゴの指の間から、私の下腹と彼の手のひらの間から、淫らな気持ちであることを証明する体液がこぼれ落ち、床を濡らしていく。
「あう!はっ!…う!あぅうん…あんっ!あああっ…あ!あー!あーっ!」
立膝となって、彼の手のひらにお股をしっかり乗せながら、陰核を強く押し当てるために腰を動かし始めてしまう。
これで三行半か、と涙ぐんでケーゴを見れば、彼の股間はズボンを破らんとする程に盛り上がっている。
これは、性行為の前戯なのだと気付いた。
怖い顔をしていても、意地の悪い事を言っていても、最初からエッチな事をする目的でこのテントに入ってきてたのだ。
それならば、あの時みたいにアへ顔で叫ぶ変な淫乱おねーさんじゃない、綺麗で清楚で大人なおねーさんとして──!
男の子に腰を預けたまま、その両肩に手をのせて姿勢を固定し、身体を弾ませる。
堪えきれなくなったのかケーゴの息が荒く、行為も積極的になる。
陰唇を押し広げ、秘密の入り口を探し当てて、指を滑り込ませてくる。
ガマン強くねちっこくずーっと下腹部への前戯を続けている。
「ケーゴ……こっちも苛めて……」
シャツをまくり、乳房を露出させる。
下腹部を弄っていない方の手が素直に伸びてきて、乳首をぎゅ!と摘んで捏ねてくる。
「あーんっ……ケーゴ!きもちいいよ……すごくきもちいい……」
乳房を揉みしだいていた少年は、下からすくい上げるように乳房を持ち替えて、初めて手以外で身体に触れだす。
「ひんぅ!」
前戯でイク。膝がガクガクになって腰が崩れて尻餅をつく。
糸引かせて彼の指が身体から離れる。
そのまま仰向けに身を横たえる。
彼が覆いかぶさりにきてくれるのを待てず、足を広げ、手も使ってだらしないソレを広げる。
艶っぽく流し目で誘う予定が、目を見開いた真っ赤な顔で彼を見てしまっていた。
ケーゴは倒れ込むように股に顔を埋める。
匂いを嗅がれ、甘噛みされ、荒々しく下着を脱がされ、舌でざらりと舐められ、吸われ、突かれ、ほじくり返すように動かされ。
「ああーっ!あんっ!ひゃ……うぅん!ケーゴ!!」
ケーゴはしゃぶりつきながら、ベルトを緩め、ぷは!と顔を離して息継ぎすると、いっきにズボンを下ろした。
解き放たれ、ビン!とそそり勃ったそれは、特別大きくはなかったけど、異形にみえるくらい横に膨れていた。
血管が浮き出ていて、ペニスそのものが脈打つ度にうごめいてる。
そのツヤツヤした杏みたいな先端から、もう体液が溢れていた。
ふーっ!ふーっ!
獣の呼吸。
険しい顔をして、腰に手をかけ、ぐっと引き寄せてくる。
その先端があてがわれる。
「……入れるぜ……」
苦しそうに顔を歪め、汗にまみれてハァハァと息を弾ませながら宣言してくる。
その瞬間と、その後に備えて、ぎゅっと毛布を掴む。
「う…くぅ…!!」
ペニスを震わせて呻くケーゴは、一線を超える明確な合図を待っているようだった。
宣告への返事。言葉での合意──。
爛々と目を光らせている男の子と視線が絡む。
「ケーゴ……私に──」
ズシン!と床が揺れる。
テントが揺れ、バキバキと骨格が折れて、フォーゲンが倒れ込んでくる。
ナニカに夢中で思いっきり不意打ちを食らったのだろう、後頭部から血を流してピチピチと痙攣していた。
直ぐそこにはガザミとホワイト・ハット、ガモも立っている。
「モンスター……どこから!?」
亜人女戦士の焦りの声。
「地中から……ですね。カーパーに潜行能力があるとは知りませんでした……」
「しかもまたデカイ個体だな……どうなってんだこのダンジョンは!」
「お、俺は何も知らんぞ!」
シャアアアアアアア!と威圧する叫びを上げながら、崩れた床より1匹、もう1匹と這い上がってきたのは、危険度ケッツアー(危険な生物のため、討伐すべし)、凶暴な性質でしられる、醜貌のモンスターだった。
「音と臭いに引き寄せられたのです……」
カーパーは鉱山深くの窖(あなぐら)に巣食う、光の届かぬ世界の住人だ。
四足に這う人型モンスターで、その眼は退化し、代わりに他の器官が発達している。
身長1メートル50センチで体重は40キロ程だが、華奢ではない。
寧ろ、体脂肪率ゼロな感じの病的にウェストの細い筋肉の塊。
内臓の形が違うのだろう。おそらくは腸が短いのだ。
フォーゲンを殴り倒したであろう個体は、他の個体にくらべ2倍ほども大きい。
巨漢タイプの亜人に匹敵する大きさだ。カーパー・ロードとでも言うべき上位個体か。
その周りに、通常個体が3匹が付き従っている。
その顔は眼がなく、軟骨の削げ落ちた鼻に、顎まで裂けているような大きな口を持つニンゲンのようで、見るだけで嫌悪感に肌が粟立つ。
クハァー!クハァー!
荒々しいガス交換の鼻息を吹きながら、四足で這い回り、床を舐めるほど長い舌をブラブラとさせている。
息を殺し、気配を消せば、やり過ごせるというが……。
ガザミも動かない。
ホワイト・ハットもぴょんぴょんしていない。
「なんだコイツは!!!」
ガモは敵に驚愕しつつも肩の機材をこっちにむけて立っている。
「……マジ?」
ケーゴくんは勃起そのまま硬直していて。
私は慎重に毛布を引き寄せた。
カーパー・ロードがクンクンと鼻を動かし匂いを探り、その長い舌をじゅるりと収納して首を振った後…。
シャアアアアアアアアアアア!!!
舌を出して唸り、こちらを向く。
「ちっ……時間を稼ぐぞ!魔法っ子!」
ガザミが動くと、4体のモンスターが一斉に彼女に飛びかかった。