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爆弾を作る
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爆弾を作る


 なんとなくずっと部屋から出ずにいた。寝転がってパソコンの前にいるだけで、時間は光の速さで過ぎていく。
 ある日、ふとポストを開いた。積もり積もった請求書の山の中に、見慣れた名前を見つけた。一之瀬専門学校。
 名越純一殿。貴殿は正等の理由なく出席常でなく――ざっと目を通したが、どうやらお前はクビだと書いてある。


 本格的にやることがなくなってしまった。パソコンにもなんとなく醒め、やることもやりたいこともなにもない。
 時間が過ぎていくことに抵抗感はない。仕方ないからだ。だが、なにもせずにただ過ぎていくのみの時間の中にはいたくない気もした。
 そこで、昔から興味のあった爆弾作りをしてみよう、そう思った。
 小学校の頃、図書室で歴史上の偉人を題材にとった漫画ばかり読んでいたが、そこに〝火薬王〟アルフレッド・ノーベルの漫画があった。それはどちらかといえばノーベルの暗部と扱われているらしく、1コマ触れられた程度であったが、子供心に「ノーベル賞のノーベルがダイナマイトを作ったのか!」と強く印象に残ったものだった。


 爆弾と一言に言っても種類は様々だ。原爆水爆地雷焼夷弾ナパームクラスター地中貫通……ほぼ100%破壊のためだけに改良を続けられてきた、純粋この上ない作品群達だ。
 今回は手榴弾を作る。スタングレネードではない。物質破壊能力をきちんと備えている類のものをだ。といっても、威力はさほど期待できないだろう。あくまで素人仕事であるし、そもそも手榴弾という武器自体に強烈な破壊力はない。なぜなら手榴弾とは、ボクシングで言えば左ジャブのような役割であり、戦闘に於ける切込み隊長といったところだからだ。それだけに、作るのも他と比べれば手軽なのである。


 一週間後、ネットで注文した材料が届いた。
 TNT火薬。約200g。問題なさそうだ。
 届くまでの間に用意しておいた薄い銅の弾頭部にTNTと信管を入れる。これが弾殻となる。そして信管の隙間に紐を通し、木製の、中に細い空洞が存在する柄に収める。紐の柄側にはフックが付いており、そのフックに握り玉の付いた紐をさらに結びつける。この握り玉を引っ張ることで信管がTNTを激しく摩擦し着火する。極めて単純な構造。
 これは、柄付手榴弾――第一次世界大戦にてドイツ軍が使用した、名はポテトマッシャーだ。


 おお。
 軽く、振ってみる。さすがに、手汗が凄いことになる。爆発することはないのだと分かっていても、恐怖が体を支配する。理屈ではないのだ。
 もし、誤爆したら、体が――そう思うと。
 出来てしまった。爆弾が、出来てしまった!
 何よりその先端の重みが、脳に直接訴えかけてくる。
 使用後の、光景を。


 一番の問題は、これをどう用いるかという点なのかもしれない――
 俺はバッグの中にポテトマッシャーを隠して、町を歩いた。
 夏、日差しが容赦なく白い肌を焼き付けてくる。少女達は群れて騒ぎながら歩いている。一瞬、想像する。あの群れの中に、着火した爆弾を放り込んだら――
 しかし、すぐにそんなものは頭の中から追いやる。そんなためじゃない。爆弾を作ったのは、そんなことのためじゃない。
 小学校は今日も騒がしい。携帯を開くと、今日は7月15日ということらしい。とすると夏休み直前であるから、騒がしいのも道理だ。小学生は三度の飯より夏休みが好きだからだ。三時を過ぎていて、校門から続々と子供達が出てくる。
 続々と。続々と現れ。
 そして。
 ――消えていく。
 笑いを禁じえなかった。




 六時を過ぎた。
 何ヶ月か振り、コンロの火を点けた。
 フライパンを軽く熱し、バターを引く。そして、その上に獲りたてのコイを載せていく。
 昔からやってみたかった。学校の池で飼われているコイ。奴等を食してみたかった。
 手榴弾は防水性がある。水中に投げても爆発する。そして爆発により、魚は気絶し浮き上がってくるのだ。
 塩コショウを振りかけ、味付けも完了した。
 …………食えたものじゃない。

       

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