Neetel Inside 文芸新都
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吐き捨てられていく文字列
ヌートリア

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ヌートリア

 ヌートリアは特定外来生物なので見かけても餌をやらないでください。テレビ番組のテロップが小さく、とても小さく画面の隅にいた。でも僕の視線はそこに囚われたまま離れない。彼らは見つかったら保健所で殺される。ただ生きているだけなのに。僕を殺してくれる人は誰もいない。
 二十七で死ぬはずだった。才能に殺されるはずだった。かつてのロックンローラーが自らの才能に潰される形で、ドラッグに蝕まれていく形で死んでいったのと同じように。三十を超えた僕は、健康を気にしてダイエットをして酒の量まで減らしている。部屋の隅に立てかけられたエレキギターは、近所への迷惑を考えられてここ数年アンプに繋がれていない。ああ、バンドがやりたい。そう思っても何一つ行動に移せない。僕はひとりギターを抱えて河川敷へ向かう。
 カチャカチャ大して音量の鳴らないエレキギターをかき鳴らして昔の歌をうたう。青春の音は枯れてしまって、ただ記憶を取り戻すためだけの装置になっている。新しさに感動したかつての自分はどこにもいない。新たな挑戦なんて何もできない。僕が憧れていた彼らはいつも新しい何かを求めていた。そうでもしなきゃ世界や自分に絶望できない。自分自身をなんとか正当化してしまうと、生きていけてしまう。新しい音を探すより生きていく方を選んでしまった。それでいいじゃないかと皆が言う。ふざけるな。
 死んだのは僕でロックンロールは死んじゃいない。向こう岸からこちらへ泳ぐ茶色い物体が目に入る。あれがニュースでやってた特定外来生物か。通報してさっさと殺してもらおう。そう思ったけどすぐやめた。あいつは生きている。誰に殺す権利があるんだ。誰にも誰かを殺す権利はない。僕にだって僕を殺す権利は本当はなかったのに。生きるために僕は僕を殺してしまったんだ。
 走って部屋に戻る。錆び付いた身体は思うように動かない。息は切れるし、心臓が痛い。部屋に着いた僕はアンプの電源を入れる。錆び付いた弦は思うように鳴らない。息は切れるし、心臓が痛い。弾けば弾くほど心臓が痛い。チャイムが鳴るのも気付かずに僕はギターをかき鳴らす。これが僕の音だ。まだ生きている僕の音だ。音楽になっているかどうかも分からない。けれど、昔のじゃなくて今の僕の音だ。この後、警察が来てしこたま怒られた。けれど、高鳴りは止まらなくて、心臓が痛かった。

       

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