Neetel Inside 文芸新都
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吐き捨てられていく文字列
ホチキス

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ホチキス

 私の手と君の手をホチキスで留めないか。
 僕は笑って、痛いから嫌だよ、と言った。
 彼女は笑わないまま言った。
 喧嘩だらけで君が離れていっちゃいそうだよ、と。
 夕食はキーマカレーだった。初めて彼女がご飯を作ってくれたときのメニュー。カレーを作る、と言われ楽しみにしていた僕はキーマカレーを出されて、幻滅した。もっとベタでいいじゃないか、と。それが彼女を傷つけて、喧嘩になった。今では二人の好物。
 食べ終えた食器は自分で洗う。それが我が家のルール。女が洗うものだろうと放ったらかしにしていたら、ある日お皿が飛んできた。何をイライラしてるんだ、と言ったら彼女は黙って破片を拾い始めた。ごめん、と言っても返事はなかった。彼女の指先からは赤い血が出ていた。慌てて僕は消毒液を持っていった。彼女はされるがままに絆創膏を貼られた。ごめん、ともう一度言ったら、ごめん、と返ってきた。
 僕はテレビをつけて、彼女はスマホをいじる。彼女がテレビを見ようとしたこともあったし、僕がスマホゲームに挑戦したこともある。一緒の時間を過ごしたくないのかと強い言葉でまくし立てたこともある。けれどうまくいかなかった。その後から彼女は僕に背中を預けてスマホをいじるようになった。
 寝るときは彼女がベランダ側で僕が扉側。最初は彼女が扉側で寝ていた。なんで扉側がいいのか聞いたら、悪い奴が入ってきたら守ってあげれるよ、と笑っていた。じゃあ、僕が扉側で寝るよと言ったら、泣き出しそうな顔でこっちを見つめた。それを無視して、扉側の端っこで眠りについた。次の日から彼女は諦めてベランダ側で寝るようになった。それでいいのか聞いたら、ベランダから悪い奴が入ってきたら守ってあげれるよ、と笑っていた。
 天井を見上げながらそんなことを思い出していた。
 やっぱりホチキスはいらないよ。
 僕はそう言った。
 彼女はベランダ側に寝返る。
 どうせ離れられないから大丈夫。
 心の中でひとりごちて、背中から両腕で彼女を僕の胸に留めた。

       

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