Neetel Inside 文芸新都
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スティーブヴァイのハート型3ネックギター

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スティーブヴァイのハート型3ネックギター

 彼女の部屋。メインギターの隣には手が何本あれば弾けるんだっていうハート形の変な特注のギターが置いてある。ネックが三本も。こんなもん弾けるやつがどこにいるんだ。
「二つに分解できるんだよ」
そう笑う彼女に僕は聞かずにいられなかった。
「なんでこんなもん作ったの?」
「好きな人が持ってたから」
全く理解できない。オールドギターの一本も買えない貧乏な僕がとやかく言うことでもないんだけど。
 彼女が所属するバンドのアルバムの七曲目は必ずバラード。
「好きな人がそうだから」
全く理解できない。フルアルバムも出せない売れないバンドメンバーの僕がとやかく言うことでもないんだけど。
 彼女のライブは一度しか見に行ったことがない。客の多さも盛り上がりも悔しくて死にたくなるから。才能の差ってのは絶対にある。あんな風になりたい。バンドマンが他の現役バンドに対して絶対に思っちゃ駄目な心をぶち殺すために僕は彼女のライブを見に行かない。
「色んなバンド見に行くと勉強になるよ」
そう言ってまっすぐ成長していく彼女。自分だけの世界に浸って他人からの評価を得られない僕。左手も右手も練習すればするほど速く動くようにはなるけど、どうやって動かしたら人に感動を与えられるのかがまったく分からないでいる。
 夜、彼女を抱いている間だけ。独占欲が異様に埋められて安心する。あれだけ客を熱狂させる彼女も僕の腕の中でだけはただの一人の女。事を済ませて一服していると彼女が言った。
「一本ちょうだい」
僕はギョッとする。
「煙草嫌いなんじゃないの?」
「でも好きな人が吸ってるから」
僕は一本取り出して彼女の口に咥えさす。
「息吸って」
そう言って火をつけてやる。咳き込む彼女。
「私は君みたいになりたいんだよ。あ、これで一曲できそうだな」
笑ってこっちを見る。ああ、このままじゃ駄目だ。僕は一生この女に勝てない。こうやって好きなものからどんどん吸収していく貪欲さを前に僕はただ負けていってしまう。3ネックギターが目に入る。あのダサいギターから彼女はどれだけのインスピレーションを受けてきたんだろう。僕もまだ諦められない。
「今度チケット一枚ちょうだい」
無駄に育て上げたプライドの脇から僕がなんとか発せた言葉だった。 

       

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