以前の街は緑が少なかったので日陰が無く、散歩するのも苦労したがこの街は真逆で良い。
緑が日陰の道を作ってくれる。
「歩きやすくて快適でござる!」
「こわいちゃん、遊びたい所ってある?と言っても、あまり何も無いところだけど…」
「絵の具と粘土が欲しいでござる。たぬたろうがサンプルの事を気に入ってくれたので、似たような玩具を作ってあげたいでござるよ」
「わかった、夏休みに入ったら工作もあるしピッタリだね」
駅の近くに百貨店があるので、拙者の欲しい物はそこで揃うとの事だ。
倉田さんの説明では食事をしたり遊ぶ所もあるらしい…、凄い店もあるものだ。
「ここが百貨店、涼しいし建物の中に色々なお店が出ていて凄いでござるな」
「レストランも色々あるよ、お昼だし絵の具を買う前に何か食べる?」
「…あのお店から良い匂いがするでござる、あれ食べたいでござる」
「あそこ、前は饂飩屋さんだったんだけど凄い煙が出ちゃって。店の中で困ってたら西川さんが助けてくれたんだ」
「そんな事があったのでござるか、ウドン西川さんは凄いでござるな」
煙が出る前。ウドン西川さんはいつも通り予言をしたらしいが命日までの時間が五秒しか無かったので、西川さんを含めて皆んな逃げ遅れたそうだ。
幸い火は出ず煙だけの被害だったそうだが、駄目になってしまったお店が可哀想だ。
…良い匂いの食べ物はクレープという名前で、甘くて美味しかった。
たぬたろうも乗っていた果物を喜んで食べてくれる。
一緒に遊ぶ友達も出来て、人間の真似をして学校に来てからは良い事ばかりだ。
「美味しかったね。サンプルを作って貰ったお小遣いも残ってるし、絵の具を買いに行こうか」
「拙者はそれでクレープのサンプルを作りたいでござる」
「じゃあ一緒に作ろう」
「ござる!」
買い物も終わり、外に出る頃には夕方。
拙者にとってはますます歩きやすい街になっていた。
「明日、拙者の部屋で本物のクレープとサンプルを作るでござるよ」
「サンプルもだけど、本物作ってみるのも良いね。楽しい日曜になりそう」
「果物も沢山、絶対美味しいでござるよ」
「ところで、こわいちゃん。昨日よりお肌白くなった?」
きっと屋根のある部屋で過ごせる様になったからだろう。
今まで妖怪らしく外で寝てたから、太陽が昇っている時はずっと照らされて年中日焼けしてた。
寮に帰って倉田さんと別れると、明日が楽しみでソワソワが止まらなかった。
ここに連れて来てくれたウドン西川さんには感謝しなくては。
「皆んな良い人でござる、拙者も良い人になるでござるよ」
「むむむ、悩むー」
「…あれ、今の声も拙者でござる?」
人と喋る様になり、何だか独り言が多くなってしまった様だ。
明日も楽しみだ。