Neetel Inside ニートノベル
表紙

インターネット変態小説家
離人感

エンドロールは目前だ。
滑り込みで舞台の袖から飛び出すと幕は閉じてしまった。

『何を感じるか』を重視していた。
好きなものは好きで嫌いなものは嫌いだ。
やりたいことはやるし、やりたくないならしない。
そういう風に生きていた。生きようとしていた。
そういう役がやりたかった。

現実は違う。
俺の役はどうしようもない凡人Aのようなもので、やりたいことをやるための気力を作るので精一杯で何かを成し遂げたことなんて何一つない。
好き勝手生きようと思っても、どうしても普通の人であることの安心を捨てられず、やりたくないことでも社会の一員として引き受けてしまう。

芯が通ってなかった。俺が普段見下してるような、碌でも無い人間のカス共の方がまだ楽しんで生きている分いくばかりかはマシなくらい何一つ俺は正しくなかった。

普通の人じゃなくなったのはそんな日常のある日、数ヶ月前のことだった。

両親が死んだ。
なんてことない外出だった。
俺は、行かなかった。
交通事故で二人とも死んだ。

幸運なことにと言うべきか、事故の相手、向こうに完全に責任があったのと、その相手が善人でお金を持っていたが故、拗れることなく慰謝料だとかそんな、保険もあったのかわからないがとにかく俺一人でしばらくなんとかなる程度の大金は残った。当然これだけで生きてはいけないが。
俺の身元は父親のお姉さんが引き取ることになったが特に面識があるわけでもないし、今住んでるこの家は高校も近く、家賃も十分払える額なのであくまで形式的なことで、現在俺は一人暮らしである。

学校はしばらく休んだがどうだろうか。
行きたくないなぁ。事件はちょっとしたニュースになった。クラスメイトは知ってるだろう。こちらにもマスコミ関係の記者が数名取材に来たらしいが、全て父親のお姉さんが対応してくれた。俺は警察の人といくつか話や手続きを交わしただけだ。

学校に行けばなんとなく気を使われたり逆にいろいろと聞かれたり、メンド臭いのは目に見えてる。
しばらくどこにも行かないようにしようか。

しかし食べ物がない事に気づきコンビニにでも出かける事にした。
もう11時、午後のだが当然深夜だ。
治安が悪いわけではないがあまり夜になり過ぎてもあれだしな、と
追われるように玄関を開けたところに誰かがいた。

誰か、多分人だと思うが……その風貌により自信はない。記者でないことは確かだ。
雰囲気もそうだがその異様さは見た目にも表れていて、フードを被り、大きめの服に身を包んでいて、ブカブカだ。背が小さい。
130あるかないかくらいの。

「えーっとあなたにお届けものです。」

子供のようでいて、大人のようにしっかりとした口調で喋った。配達員か?
でもその服装は配達には向いてなさそうだ。
キリストとか、そういう宗教の教会にいる人が着てそうな厳かな雰囲気というか、祭服みたいな感じだ。
アメリカかどっかであった白人至上主義の、
KKK……クー・クラックス・クランだっけか。ああいう怪しさもあった。

「あなたには女の子が当たりました。
どうぞ」

白い男?はどこからか女性を出した。
どこからかはわからない。
彼がどうしたのかわからないが女性がそこにいた。彼が出したのか?

女の子は笑った。どうぞよろしく、と。
にっこり、可愛らしかった。
これは個人的な意見だが、よくテレビで見かけるような人数が多いだけだったり、他所の国のプロデューサーだとかが放送界隈のお偉いさんと繋がって無理やり売り出してるような、異国の事務所から出している意味不明のアイドル集団なんかの誰よりも可愛いと思った。
ああいうのも生で見るとやはり違うのだろうか。
まあそんなのはいいけど。

俺はテンションについていけずボーッとしていたが、この状況をよく考えるとすごく怖くなって一体なんのつもりかと聞いてみた。

すると男が言った。

「最近、とても残念な事にご両親がお亡くなりになったそうで。この世界でそういう不幸があった時、私は抽選で、ランダムにこういうプレゼントを届けているのです。
少しでもあなたの心の傷が癒えれば幸いです。」

少しも意味がわからなかった。
こういう詐欺か?両親が亡くなった事につけ込んでよくわからないことをしてくるこの男に俺は恐怖より怒りを感じた。

「悪いが、帰ってくれないか?それはいらないし君もだ。どこで調べたのか知らないが
親が死んで忙しいんだ。付き合ってられないんだよ。わかるだろ、調べたんなら」

こういう時にも怒鳴ったりできない小心感がよく出てるが、まあいい。
下手に逆撫でしないように諭すと俺はドアを閉めようとした、が
女の子が掴んで止める。
隙間から俺の顔を覗く。かわいい。
男は言った。

「私はボランティアみたいなものです。
これがお気に召さないのでしたら残念です、が、キャンセルは出来ないんです。申し訳ありません。でも、あなたならきっと気にいると思ったんです。それはおそらく正しいでしょう。試してください。といっても私が誰かわからないのだから怖いのでしょう。
人間だったら、詐欺師かもしれないですよね?でも、ほら」

男は翻訳機にそのままぶっ込んだかのような日本語を吐きながら着ている服の前面をめくると、そこにはただ、闇があった。
渦巻いていた。
ブラックホールも渦巻いているというし、闇ってのはぐるぐると回るのか?
どこまでも真っ暗で、それでいて永遠だった。

海外では路上で不可解な仕掛けを使ってパフォーマンスをし、見た人から投げ銭をもらったりする人たちもいるが、そういうのではなかった。それだけは流石に俺にもはっきりとわかった。
トリックのない純然たる闇がそこにあった。

女の子はこちらの顔を覗いている。

男はにっこりと笑って、
とは言ってもフードで顔は見えないが

「申し訳ありませんが私は行かなくてはいけません。なにか本当にこちらに用ができたときはその子に聞いてください。それで解決しないことはこちらでもどうしようもありませんからね。
また最初に言っておきますが、3年です。
期限は3年となっており、それ以上はありません。今この日より、3年が期限です。
それでは、この世には不幸な人が絶えないものですから。失礼します。」

彼は自分の闇の中に消えた。
俺と女の子だけが取り残された。

食べ物は買いに行かなかった。
表紙

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