Neetel Inside ニートノベル
表紙

インターネット変態小説家
希望論

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善と悪とは何だろう。
俺は自分自身を正義だと自信を持って言えないが、悪でもないと考える。
だがどちらかと強く聞かれれば多分悪だと答えてしまうのだろうな。

でも『こんなこと』に巻き込まれる前ならどうだろう。両親がいて、真面目に学校に通い、将来のことをもっと前向きに考えていたあの頃ならば、あの頃ならばきっと正義だと答えただろうか。
ならば今悪なのは前が向けてないからか。
それともあの女に対し暴力を振るい、傷つけ、壊し、犯し、たまに殺してしまうこともあるからか。
しかしあの女は人間ではない。
人間の法では測れない。
何をしても悪ではないはずだ。虫を殺す人間は悪か?意味もなく殺すのは悪か。
だが部屋に出てきた虫がたとえ害虫でなくとも殺してしまうこともあるだろう。だったら同じようなあの女は別に殺しても…
いや、だめか。わかってる。でもしょうがない。俺には余裕がない。善なんてものは余裕があるから行えるのだ。
俺にはまだそんなものはない。
でももう少し、もう少ししたら…

あれから一年が過ぎた。
あれっていうのは俺の両親が死に、彼女が贈られてきたことだ。
彼女のことは未だにわからない。
わかる必要もないのだろう。

最近は暴力を振るうことも犯すこともなくなっていた。
何もせず俺は俺の人生を送る。
彼女は最初とても寂しそうな目でこちらを見つめ、やがて耐えきれず泣きながら
「何かしてください、痛いのも我慢します、何か…」と訴えてきたが、無視し、
部屋の隅から這い出てきたのでおい、と声をかけ睨むとズコズコと引き下がった。
引き下がらなかったときは包丁で足の腱を切った。そのまま股まで引き裂いて性器をズタズタになるまで切り刻んだ。彼女は今までで一番痛かったようで転げ回っていた。流れ出た血は全て自分の舌で掃除させた。
これが効いたのか今はもうわがままも言わず部屋の隅、いつもの場所で膝を抱え虚空を見つめる。死んだも同然だ。一日中。何もせずこの半年ずっとそうしている。

半年間俺は一人でいた。外には出なかった。通販でレトルトのパックや缶詰を買い生活している。俺も、俺も死んだも同然だった。

俺は…寂しかった。いや最近になってやっとそういう感情が湧いてきた。なので外に出たが急に全てが怖くなった。周りの人間は何か用があって外にいる。役割を持っている。この社会で。しかし俺には何もない、何の用もない、その事実がどうしようも無く怖くなって何もできなかった。本当に何もすることがなかった。俺は何をしたらいいのかわからなかった。気持ちの良い日差しだけが俺を無様に照らつけていた。

部屋に逃げ帰った俺を隅の彼女はちらちらと卑屈に、伺うように見ていた。部屋を出るなんて珍しかったからだ。そしてすぐに戻ってきた。
俺は彼女となんらかの交流をしようと思った。半年の禁を破り、蹴りつけようとでも思ったが思いとどまった。
彼女と俺の違いが分からなくなったからだ。

おい、と呼ぶ。彼女はビクッと体を硬らせ小さな声で「ごめんなさい」と言った。
おそらく見つめたことに対しこちらが怒ったと思ったのだろう。近づき、彼女を抱きしめる。彼女はまたもびくりと体を揺らしたがやがて震えも止まった。

困惑しているようだった。殴られることに対する反応は慣れていたが抱きつかれることに対しどういう対応をしたらいいのかが分からないのだ。下手したらまた暴力を受けると思い彼女はただ黙って抱かれていた。
俺は離れ、頭を撫でる。またもや体を小さく震わせる。俺の行動が恐怖のトリガーになっているのか。当たり前だが。
髪はパサパサだったが、特にストレスで抜けているとかそういうのはなかった。
彼女はどうしたらいいのか分からず、それでいて俺の目も見れずにふわふわと泳がす。
俺は「別に何もしない」と言い、立たせる。
彼女は少しよろけたが今まで長い間縮こまっていたとは思えないほど早く自立した。
やはり人間じゃないのか、口に出していたみたいで彼女は「そうですね、体は丈夫なんです」とこちらを刺激しないような口調で言った。

まずはお風呂に入れた。俺も入り、綺麗に洗う。身体中隅々を洗ってるとふと、俺が切り刻んだはずの性器も綺麗に治っていることに気づいた。今までのことを思い返せば、まぁそりゃそうか。処女膜なんかも治ってんのかな、そんなこと考えてもなかったがと思って聞いてみたら、どうやらそれはVOIDシールのようなもので治癒しないらしい。だから気にならなかったのか。その辺がフーリー(イスラムの天国にいる再生する処女たち)とは違うなと思った。

風呂からあげると服を着せた。
彼女が最初着ていた服、一応洗っていたその服を着せテーブルに着かせる。
椅子に座る彼女はこの一年自分がいた部屋だろうにそわそわしていた。
俺は買い置きしてあるレトルト食品を並べ、食べるように言った。
「食べなくてもいいようだけど、腹は減るんだろ?」
彼女は何があるのかと怯えてはいたが、どうせ逆らうことはできないのだという理解はしているようでテーブルの上に配置された料理を口に運んだ。

食べ終え、歯も磨き、すっかり健康を取り戻した彼女は以前のように、いや彼女に関してはどれほど飢えようと、傷つこうと変わらないのだが、それにもまして可愛かった。
改めて見て、やはりテレビで見るどの芸能人よりも可愛いだろう。まあ、好みというものは人それぞれだが、彼女の容姿は一般的に可愛いとされるその要素をかなり高い調子で超えるほど備えていた。

彼女は未だおどおどとしていた。
こちらに対し媚びた反応を見せつつなお警戒している。俺は「なぜこんなことをしたと思う?」と聞いてみた。実際は理由なんてない。ただ彼女も俺と同じような存在なのだとわかった今邪険に扱う必要がなくなったからだ。
彼女は「わかりません…なんでこんな、いきなり…外で何かあったのでしょうか。見当もつかないです。ごめんなさい…。」
と答えた。「謝る必要はない。もう暴力を振るつもりはないし普通に暮らしていい。」
俺はそう言って頭を撫でたがやはり触れるとき少し怯える。怖いか?と聞くと大丈夫ですと答える。なので俺は、
もう何もしない。これは確実だ。そしてそれでも怯えることに関して俺は何も思わない。印象がそんなに簡単に変わるわけないし、信じられなくても無理はない。だが本当に、本当にもう何もしないということをそっちの目線から信じられるか、何をしたら信用に足るか、これを聞いた。
すると彼女は

「あなたがそういうのなら信じます。信じようとします。100%、でも正直に、本音を言います。あなたを信じるから本当に今思っていることを心からの声を言わせてもらうと、もしかしたら、これからもっとひどいことが待ってるのかもしれないと考えてしまいます。要するに、私をめちゃくちゃに、それこそ死なない存在である私が死んじゃうくらいに底無しに酷いことをする前触れで、一度信用させてから、そのどん底まで落とされるのではないかと怖いです。信用しようとすればするほど心を許した、その瞬間に全てひっくり返されるのではないかと脳裏に浮かんでしまい内臓全てが擦り潰されるほど体の芯から冷えて怖くなるのです。あの『ナイフの件』が未だに一般的にトラウマとされる体験を超える恐怖として、私の脳みそにこびりついています。私はもう割とギリギリです。死なないし狂わないのですがだからこそギリギリが一生、タイムリミットの3年後、今からだと2年後までの一生続くのです。でもこれ以上がないと思ってるからこそこれ以上落とされる恐怖で頭がおかしくなりそうなんです。
もちろんあなたを信じます。あなたがもう何もしないというのであればそれを確実だと思います。でも、それでも怖いんです。本当に本当に怖くて怖くて仕方ないんです。
ごめんなさいごめんなさい…」

彼女は泣きながら、いや、俺がしつけたからかすすり泣くようにそう答えた。
それが本音なのだろうとなぜか理屈にはできないが心からそう思った。

彼女が俺をそこまで怖がって、恐れて、それでもどうしようも無く信じようとしてくれているのを感じ、俺は彼女を寝室まで連れて行っていた。
彼女をベットへ寝かす。俺は彼女の上へ体重をかけないよう寝そべって並び、耳元で「してもいいか?」と聞いた。彼女は「はい」と頷いた、どっちかは分からない。彼女は本当に体を許してもいいと思ったのか、それとも逆えず受け入れたのか。俺は彼女をできるだけ優しく抱いたが、その心の底には俺の考えもつかない恐怖が渦巻いているのだろう。実際そのことにかなり興奮した。
彼女は感じていた。俺のテクでとかじゃ無く元々そういう体なのだろう。多分これが本来の使い道なのか。体が簡単に治ることから暴力も正しい使い方なのだろうな。

でも俺はもう、そういう使い方はしないと決めた。
結局その晩、彼女とは3回した。3回とは俺の回数で、彼女は分からない。みている限りだと10回は軽く超えてそうだったが女の子がどうなれば本気で感じているのかの知識がない。
彼女はくたくたになっていて、俺もすぐに寝たがおそらく彼女も寝ていただろう。

どうしようもない世界だが俺はなるべく正義に戻りたかった。前を向きたかった。
彼女が消えるまであと2年。
それまでに俺は何になるだろうか。

       

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Neetsha