どうやらこのライブハウスは何度も壊された事があるらしい。
武井さんはそんな聞き流せない話をあっけらかんと笑いながら教えてくれた。
この人は酔っていても酔って無くても変わらないなぁと思いながら
それを半ば強制的に聞かされていた。
話が余りに長いので最期の方はほとんど聞いてなかったが、
流石にこの話には驚き、うっかり反応してしまった。
しかも犯罪者やテロリストによってではなく、普通にライブをしにくる
出演者によって、だ。
…え?どういうこと?
なんでなんでなんで?
音楽エンジョイしようよ?
有象無象に集まる音楽が好きな頭のオカシイ奴らによってこのライブハウスは
何度も危機的な状況に陥っていたのだ。
そして、それを驚異的な魅力で立て直しているのがここで働いている
女性陣スタッフなのだ。
それに対し、このボロボロのライブハウスから発する地場に
なんでこんな美しい女達が集まるのかその理由も全く分からないけれど、
事実なのだ…悔しいが。
なによりライブハウスに出演している人達の方が外で犯罪を起こしている人より危ない
という事実に戦慄を覚える。
うん、ここ潰して刑務所建てよう(提案)
「でもね、それもこれも全部昔の話よ~今はみんな大人し真面目ちゃんだから」
「壊されたって…具体的にどうされたんですか?」
「う~ん、まぁ、一番危なかったのはねぇ、店の隣で工事してたんだけど
あるヤツがライブ中、突然外に飛び出してショベルカーに乗っちゃって」
「うぇ!?マジですか…」
「それをねぇ、アレあるでしょデッカイ手みたいな部分、それをねぇ~
ブンブンに振り回しちゃって大変だったわよぁ!(笑)」
「(笑)じゃないだろ」
「あの時は人生で一番逃げたわ~」
「そりゃ、誰でも全力で逃げるでしょ」
「まぁ、そいつのレーベルの社長が私に惚れてるボンボン変態音楽道楽野郎で、
後で修理費貰って何とななったけどね」
「どういう顔して聞けばいいのよコレ…」
僕はあれから9・1くらいの割合で藤崎さんとついでに未知なる謎の音楽を体験しに
ライブハウスへと地道に通っていた。
だが、ただの学生に毎日通えるだけのお金など無い。
色々と考えた末、僕はここで働くことにした。
主な仕事は受付と掃除と武井さん。
一番大変なのが武井さんの話し相手だ。
藤崎さんも受付と掃除とたまにライブハウスで自分の好きなバンドを呼んで
お店企画などをやっているようだ。
早くもっと仲良くなりたいのだが、存在自体が余りに眩しいので近くで
見るだけで失明しそうになるばかりだ。
他にはPAや機材類を担当している木村さんという人が働いている。
良くしゃべる武井さんとは対照的な性格の無口な大ベテランである。
僕は武井さんが店長かと思っていたが、どうやら違うらしい。
店長は男のミュージシャンらしく、そっちの方が忙しくてほとんど顔を出せないらしい
だが、半年に一回のペースで店長企画と称して謎の企画を催している。
こんな面子で爆音と共に僕の青春はここで始まってしまう。