「何ですって? お誕生日会を開く?」
聞き返したソフィア・スブリミタスを臙脂色の瞳がじっと見つめている。年端も行かぬショタのエンジェルエルフにしては落ち着き払った目をしていた。エンジェルエルフの寿命は長い。ショタといってもクローブ・プリムラは幾星霜も年輪を重ねていた。
ソフィアは小首をかしげて言葉を続ける。
「クローブ坊や、ババ……ミカイル猊下の御年は誰にも分からないけど、優に千年紀を超えるとも言われているのよ。そんな人が一年ごとの加齢のお祝いなんて喜ぶかしら?」
クローブは白い顔をさらに青白くして、肩を落とした。
「あらぁ。そんなことないわ~。こんなに可愛いムスコが誕生日会を開いてくれたら、きっと昇天してしまうくらいお喜びになるでしょう」
いつのまにかクローブを紫衣の女人が抱きかかえて耳元でささやいている。神出鬼没。ほんの一瞬目を離したスキだった。魔法による幻覚などではない。昏倒しそうなほどの甘い香りと、頭にのしかかる胸の圧倒的な重量感が現実である証だった。
この妖艶なニツェシーア・ラギュリもソフィアと同じエンジェルエルフであったが、ミカイル4世の誕生日会には賛成してくれそうだ。
ミカイル4世の別荘として使われている聖櫃宮殿の熾天使の間に、クローブはエンジェルエルフ族の有力者たちを集めていた。それはクローブの母親、ミカイル4世の誕生日の準備を秘密裏に行うためだ。
クローブは最後のひとりに望みをかける。
遅れてやって来たフレイア・ジラソーレに一同の目が注がれた。
「賛成でちゅよ」
来るなり二つ返事したのはハムスター(ジャンガリアン種に似ている)ではなく、谷間のハムスターにアテレコするようにしゃべっているいい歳したエンジェルエルフの女性である。
賛成2、反対1となりお誕生日会は開催と決まった。
二日後、手筈通りミカイル4世の手を引いてクローブが熾天使の間に連れてきた。ミカイル4世の誕生日。古い暦でいえば四月二十九日にあたる。
「なんじゃなんじゃ騒々しい」
ミカイル4世は言葉とは裏腹にクローブに勧められるままに主賓席へと座った。心なしか優しい目をしている。
熾天使の間にはエンジェルエルフ族の氏神である天使のレリーフが天井に彫られていた。天使たちの何とも言えない独特の微笑はアイハイックスマイルと呼ばれる高貴な表情である。その天井が色紙で作った輪飾りや造花で埋まっていた。
今回だけ特別に許可されて、黒兎人族の楽団ノアール・クインテッドがミカイル4世の誕生を祝う讃美歌を奏楽する。ピアノの主旋律とそれを引き立てるヴィオラの響き。アコーデオンの音色は哀愁を誘う。クローブの合図で、エンジェルエルフの面々は祝いの歌を歌い始めた。
「ファックバースデイトゥーユー、ファックバースデイトゥーユー、ファックバースデイディアミカイルー、ファックバースデイトゥーユー♪(JASRAC未申請)」