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ミシュガルド聖典~仰~
ある商人の手記

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・ある商人の手記

大陸に上陸してはや数年。
商工会の助けもあり小さい店ながら私の商いも軌道に乗った。
買い物に来た常連客から聞いた話の諸々を暇つぶしがてら手記に記すことにする。

【大陸のうわさ】

先に述べた商工会、スーパーハローワーク(以降SHWと表記)について。
当初この大陸を目指して横並びの三国がこぞって人や物を流入させた。
軍事国家の甲皇国。自然と種族に富んだアルフヘイム。その二国から派生した商業国家SHW。
案内所に掲載されている海図を見るとこの大陸から三方向に枝分かれするようにそれぞれの国家が等距離で描かれている。

あまりに不自然ではないだろうか。

地理的政治的にも摩擦を繰り返す甲皇国とアルフヘイムの二国は
互いの歴史書や生き証人、建物の傷跡から"過去"というものが見えてくる。
だがSHWは誰かが本国に上陸した話も聞かない。目撃情報も無い。
つまりこの商工会は国というものを持たないキャラバン民族のようなものかもしれない。

無いというよりSHWの本国が別の場所にあるとしたらどうか。

誰も近年まで存在を確認出来なかった大陸、このフレーズで何を思い浮かべるだろう。
今まではこの大陸のことを指す言葉だったが私はこの話を聞いて別の物を想像する。
SHWの本国がこのフレーズに当てはまってしまっているのだ。
特定の土地を持たず経済を掌握する集団がどれほど恐ろしいことだろう。

大陸の港や街は誰が準備したのか。

実は先んじてこの大陸に来ていたのは誰であろうSHWの集団ではないだろうか。
案内所や港の用意、区画整理、土着生態や遺跡の調査。
全てSHWが取り仕切りSHWが発注している、情報が収束するのももちろんSHWだ。
一時期アルドバランという空中遺跡や人型の人工物が発見されたことも発端は──。

噂の出どころもSHWかもしれない。

仮に本物の海図があったとして、近海を記しているとしたらきっとこうではないだろうか。
この大陸の南に摩擦が続いてる国が二つ、それと転々とする列島群。周りに大きな大陸や国にあたるものは無い。
それは転じて、SHWという集団の成り立ちが先んじてこの大陸にたどり着き経済を掌握した集団かもしれないことだ。
それが実は新天地発見ではなく故郷への回帰だとしたら。

二国のトップもグルかもしれない。

アルフヘイムのダート・スタンや甲皇国のクノッヘン皇帝、エルカイダなどが実はグルという話もある。
SHWのメンバーである彼ら二人が自然に大陸上陸を企てる自作自演として戦争を用意した噂があるのだ。
その裏というわけではないが”実はこの大陸から各々二国に分岐した”という噂もある。
つまりこの大陸の土着の民族がアルフヘイムと甲皇国に分かれて定住し、後年里帰りを画策したというものだ。

噂に過ぎないがそれでも信憑性はあると私も感じている。
末端の商人同士は各々助力しあい成長を重ね商売も安定してきている。
だが大きい枠組みで見るとこの大陸は人こそ入ってくるが街の発展や遺跡の調査は進んでいない。
意図的に港近郊の変わらぬレジャー部分のみを見せて、裏でなにかを進めているとしたら。


【遺跡のうわさ】

今日はいいことがあった。司書を務める赤毛の美少女が買い物に来たのだ。
彼女もSHWの人間で、だからか多種族の血が混ざって美しい顔立ちをしている。
同伴していた娘も居た。紫色の肌で金色のゼンマイが目を引く娘だ。
たしか彼女は”暴力のサーカス”という闘技場のメンバーで、エルカイダのような危険集団の枠に入る。
知ってか知らずか赤毛の娘はにこやかに彼女に話しかけ指を重ねるように手を繋ぎ店を後にした。

注文していた貸本を受け取った。

先人による空中や水中の遺跡などの調査記録や各種族の童話を集めた本を借りた。
面白いことに童話にはこういった遺跡群が必ず記述され、なおかつ要所が似通っている。
空から喋る人形が落ちてきて最後は空に帰る、海から現れ海に帰る。
アルフヘイムや甲皇国を問わず喋る人形が現れては消える話が多いのだ。

アルドバランの埋蔵物。

実は遺跡の発掘調査に甲皇国の軍人のえらいさんが大勢押しかけているらしい。
なんでも甲皇国としては見つかって欲しくないものが出たのだとか。
人と亜人という分け方を根底から覆すものかもしれないらしい。
思えばあの国は科学で済ませるにはおかしい技術を持っている。

エルフという資源。

エルフは肌の白い一般的なものと褐色のダークエルフがいる。どちらも耳が長くとがっている。
だがもしここにもう一つ加わるとしたら、さしずめショートエルフだろうか。
甲皇国の人間はエルフから派生したショートエルフかもしれないという噂があった。
丙式乙女や妖精バイク、自然に生きるものをメカニックの材料にしたものが多く散見されるためだ。

エルフを知るのはエルフ。

エルフを実験台に改造人間を作ったり、それを自国の兵士に転用したりと技術発展の目覚ましい甲皇国。
失敗作もあったろうが計画そのものが頓挫しなかったのは実はエルフの体の構造を先んじて知っていたからかもしれない。
甲皇国はエルフの派生国という説だ。この説が事実ならえらい軍人さんが必死に隠そうとするのもわからなくもない。
だが結局は噂話、尾ひれのついた一人歩きが都市伝説化して噂が噂を呼ぶということも大いにある。

司書から借りた本を全て目に通しふと気づいた。
この大陸には遺跡や噂話が溢れているのにアルフヘイムと甲皇国には明確な神話伝承が見当たらない。
SHWが国を持たない国ならあの二国は過去を持たない国なのではないか。
戦争で傷跡を残し時間をかけて再生を図るように見せているが、実は大陸から派生したインスタント国家だとしたら。
この大陸を取り巻くすべては思った以上にうすら寒いものを地面の下に隠しているかもしれない。




ああ、こうしてまた明日も冒険者を乗せた船が来る。

       

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