Neetel Inside 文芸新都
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「疾走」


沈む太陽を月は見つめる
夜はふくよかな肢体をのべる
流れる星の冷ややかな速度に
わたしの涙は追いつかない

さようなら、きのうの誓いよ
さようなら、こぼれた期待よ
気まぐれで軽はずみな優しさのすべてが
リア・ウィンドウの向こうに散って行く

ツマミをまわせば、期待外れの流行歌手が
うがった歌で口を出す
走行距離表示のふくれあがる数字に
いまさら引き算は通用しないと

二本のワイパーの拒むような手つきは、濡れたガラスを行き来して
落ちつきなく揺れる風景の線を、つぎからつぎへと拭い落とす
ラジオ・パーソナリティがたわむれに傾けた小箱から
なくした指輪の真珠のような、砕けた星々がこぼれ落ちた

一体どこへ導くの? テールランプのこの果てない行列
ほどけたネックレスのきらびやかさで
星座のひな型でもつくるつもり? けれどもそれは結局のところ
色あせた写真を上塗りだなんて、気の利いたまねはしないだろう

吹きすぎる夜は髪を乱れさす
月はあけすけな欠伸(あくび)をもらす
のぼる太陽の軽やかな速度に
わたしのため息は追いつかない


       

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