Neetel Inside 文芸新都
表紙

マイナスの日

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とにかく、ふざけていました。
私にとってこの世で一番怖い事は「人に嫌われる事」で、その冷徹な視線、遠巻きから死を願われる恐怖、不幸を祈られて心を破壊される恐怖。
それが自分の全てを摩滅し、存在を潰されるかの様な、恐ろしい地獄を味わせられるのが、もっとも怖いことでした。

とにかく、笑わせました。

自ら皮膚病を悪化させ、「汚い」と嘲笑させました。馬鹿を装い、簡単な数学すらできない間抜けを装い、「アホ」と嘲笑させました。下品な言葉を風邪薬を使って、連呼しました。
尊厳もプライドも捨てました。「お前みたいな人間は首を吊れ」と小馬鹿にされようが、
「ステロイドの肌で被爆者ですか?」と馬鹿にされようが、とにかく、笑い、七転八倒、痴呆、無学、馬鹿を演じて、笑わせました。

それは私にとって、この世で一番恐ろしい「人に嫌われる事」よりかは、遥かに安心できる事でした。
真顔で「お前なんか死ねばいい」と告げられるか、「馬鹿は死ななきゃ治らないな」と嘲笑されるか。
細かいニュアンスだけれども、私は後者の方が、遥かに幸福で、安堵できて、少しでも「嫌われる」恐怖から逃げられる、私に使える唯一といっていい、処世術でした。
猿回しの猿が、人間に危害を加えたら、その場で殺処分されます。
言いなりに芸を演じていれば、とりあえずその場だけは、生きていけます。
ただ、芸を演じていました。

無欲、無害、無我。
透明に憧れました。存在しないことへの安堵。
自分が存在しなくなること。それを夢に見て、心酔しました。自分がこの世から透明になって、何も感じない、何も見えない。何も考えなければ、どれだけ楽でしょうか。
自分が消えて、炎に触れさえしなければ、火傷を負うことはないのです。
自分を失う。それは私の人生の第一の指標であり、もっとも望むことであり、他人も望むことでした。
自分の名前さえ忘れて、自分の人生すらも忘れれば、どれだけ、幸福になれるのでしょう。

しかし、自分は無欲にはなれませんでした。
夢が出来ました。以前、人間失格を題材にした小説を書いた時にも触れましたが、主人公「葉蔵」が自画像を描いた時、醜く不気味で恐ろしい絵が完成したことに、私は心から共感しました。
芸術は健全である必要がありません。矮小化する必要とありません。道徳に怯えて、勧善懲悪を描かなければ、全否定されることもありません。そこは、自由な場所でした。極端に言えば、透明な紙に、透明な絵の具を塗っても、芸術として成り立つのです。

「無我」

その芸術に僕は酔いました。居場所を見つけました。いえ、ようやく確保できた、と言った方がいいかも知れません。生き抜く為の「詭弁」「八百長」と捉えられるかも、知れません。(そう言われても言い返す言葉はありません。事実、詐欺に近い行為です)
描きました。とにかく、描きました。寝る間を惜しんで描きました。詐欺なんです。元から卑怯な行為です。
それに重ねて、実力がないことをもっとも恐れ、描き続けました。
いくらか完成形が出来て、(満足がいくものが描けた思い出は、一つとしてないのですが)少し、僕は安堵を始めました。
この方法なら、「嫌われない」ままに「生き延びる」ことが出来るかも知れない。無知な子供の駄々の様な祈りでした。神様、僕に才能をください。じゃないと、「嫌われて」、社会的に抹殺されて、行き場もなく、殺されてしまう。

知人が訪ねてきました。

「おい、最近、何をしてる?」
僕は来客に、ひたすら狂喜した態度を演じて、腹踊りを見せて、ある程度、馬鹿にされて、
一仕事終わった、と一息ついた後に、質問に答えました。油断していました。
「絵で生計を立てたいな」

知人の顔は、侮蔑から、冷徹に変わりました。何度も味わった、あの雰囲気です。冷ややかな視線。
馬鹿を見る嘲笑から、「生きる価値もない生物」を見る冷酷な視線を感じました。
やらかした。僕は慌てて、言葉を遮ろうとすると、
「いつまで、夢見てるの?現実逃避だろ。金に変わる訳ねぇだろ」
知人はため息をつくと、僕の目を睨みつけました。恐怖しました。「嫌われた」。
この世で一番恐ろしい、生きていること自体を否定される、あの瞬間が来ました。
「ボンボンの、甘やかされたガキだわ」

大凡、生き延びる為の方便を作ることすら、私には許されていない様でした。浅はかだった。僕は、とにかく、ふざけました。

「カービィの漫画を描いて売りたいんだよな。カービィ大好きなんだよ!子供の頃から!」
知人は目を緩めました。やった。この調子だ。
「小学校の頃、教室の隅でカービィ描いてた奴いただろ?それが、俺!」
自慢げに胸を張りました。馬鹿を見る視線に戻りました。
「バーカ!小学校の頃の思い出かよ!よっぽど成功体験ないんだなぁ!」
知人は僕を嘲笑し、僕も安堵しました。冷酷な雰囲気は避けられて、馬鹿をいじめて弄ぶ流れへと変わりました。その方が、気持ちは軽かった。ダメージは少なく済んだ。

あらかた、馬鹿にされました。幼稚園で一番絵が上手かった、などとほざいて、嘲笑をもらい、でもヨッシーは難しいから描けない、などと悩んでいる真似をして、
「それで画家かよ、無理に決まってんじゃん!」と嘲笑をもらいました。
可能性を否定されてから、僕はひたすら猿回しの芸を演じて、それでいて、相手は良いストレス発散になった、と満足気な顔をしながら、
「じゃあ帰るわ」
と呟き、私の事に、関心を失ったのと同時に、去っていきました。

布団に潜りました。疲れ切ったのと同時に、言葉は過っていきます。
「絵で成功したい」
「舐めたガキが考えた、甘えた夢だな」

生きることには、建前が必要です。真剣に追い縋らなければ、無価値として、この世から消滅させられます。ですが、僕には、建前を作ることも許されておらず、大凡、私が他者から「見下す対象」なのは、生きている間も、死んだ後にも、変わらない気がします。

夢。縋ることも許されない。夢を見ることすら、冷罵される。
夢。人が可能性を閉じる姿を見て、人は、自分を優位の立場に仕立てあげたい。

自分を矮小化して、無力で、無能で、怠惰な人間だと、他人の楽しそうな、罵倒の嵐を思い出しながら、布団に包まりました。

可能性を閉じる。また、自分の生き恥が増えました。
「画家?人生舐めてんのか、クソガキ」
冷酷はいつの時代でも、消え去りません。
とにかく、忘れる為に、布団に潜っていました。

     

腐る嘘話 ストレスの中

理想的な世界を見失った


魚は芸を覚えても 魚で

最後は食べられた 生きたまま焼かれた

理想的な世界を持っていた

どこに消えたんだろう


Fish loneliness.


浮かれ上がって 飛び立った景色を

落としたのは 紛れもなく俺で

雪が降る日に 涙は落とせない

晴れた天気に 喪失を感じた

どこに消えたんだろう


Fish loneliness.


バスから見えている

夕暮れを見て吐いた 焦燥の質感

強烈に焼きついた 理想郷

世界を持っていたのに 

どこに消えたんだろう


Fish loneliness.

     

逆切れさえも

人間の摂理で

俺は悪くないと

壁を殴り続ける


その姿に 道筋を示す

腹黒い 聖人君子


その姿を フィルムに焼き付ける

CD-ROM 58分の驚嘆

     

苦しいな

卑怯を使っていいか

Wizard


明日を

希望なんだと思って

良いことがあるんだって

卑怯な思い込みをしていいか

Wizard


吐いた吐瀉物が

絵画に変わっていく

涙を落とさない卑怯な

手段で騙した


Wizard


守れない 哲学の教え

弱さを隠す為に

嘘ばかり吐いた

卑怯を使っていいか


Wizard


自分の力より上の

事をしようとして

小さく粉を吸った

飛べない飛行船の癖に


Wizard

     

「昨日の方が良かったね」

続けることは 悪態に

耐え続けて 産み続けること


「昨日の方が良かったね」

人混みは僕をゴミ箱に 

捨てようとする


「昨日の方が良かったね」

     




自分が誰なのか

分からないのに

あなたが 誰なのか

分かるはずもない


オレンジの花の香りがして

素敵な思い出 屁理屈で作った


癒せない傷痕を

隠し通す為に

悪くなった頭で

社交性を考える


殴らないで

落とさないで

蹴らないで

泣かないで


オレンジの花の香りがして

素敵な思い出 屁理屈で作った

     

辛いことばかりで

笑顔すら 忘れて

あなたを敵に回したのは

被害妄想なのか

加害妄想なのか

もう わからない


透き通る心を

失ったのはもう 何年も前で

周りは全て 敵で 

疑いながら 睨みながら

怯えながら 生きている


思えば 二人で

「生きていても

 良いことなんて

 何もないね」

そう笑い合っていた生活が

とても良い思い出だったと思う

その否定感と 破滅願望が

生きている証だったと思う

     

朝に流れた

小さな彗星

太陽で見えない

小さな彗星


心はどう

とても寒いか

手は繋ぎたい


朝に流れた

小さな孤独

太陽で見えない

小さな孤独


赤ちゃんになった

破滅願望の道連れを

僕が振り切った後に

彼女は取り残された

無視して 電車は進んだ


朝に流れた

小さな悲鳴

太陽で見えない

小さな悲鳴


赤ちゃんは守りたい

そう思う

赤ちゃんは守りたい


朝に流れた

小さな桃色の手

       

表紙

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Neetsha