要するに短い話なんだよ
エロと触手と神々の黄昏
ザクッ
「ピギャァァァァアァアア!」
暗い洞窟の中、若い女剣士がさも当然のように、ぴっ、と剣に付着したモンスターの血を払う。
「またつまらぬものを斬ってしまった」
レベル上げの為のモンスターは、決してつまらないものではないはずなのだが、正直つまらないのでここはスルー。
ここ、イズルード海底洞窟にて、ソードマンになりたてほやほやの女が一人、つまらなそうにモンスターを狩っていた。1Fといえば雑魚中の雑魚、しかしながら最初は十二分に経験地が稼げるし、ジェムストーンも落としてくれるという一石二鳥な場所。……彼女と言えば、先ほどから落とすアイテムに見向きもしないが。
「さすがにここの敵も弱くなってきたな……後一階くらいは先に行っても大丈夫だろう。……うん、行こう」
――しかし、雄雄しく進む彼女にまさかあのような悲劇が降りかかろうとは、思いもしなかったのであった。
「たぁっ!」
ギィィンと、剣を弾く金属音が洞窟に木霊する。
1階と同じ敵もいるが、一階進んだだけで比べものにならないほどの強さになるのが、この世界。言わずとも、初心者泣かせなカナトウスに只のソードが敵うはずもなく。
「くぅっ、ここは一旦180度曲がって前進あるのみ!」
俗に言う退却、逃げる。ここはやはり、レベルがもう少し高い人と一緒にPTを組んで出直すべきなのだが、彼女は……奥へ奥へと走っていた。
「はぁ、はぁ……は、は………っ!」
それが、急に止まる。理由は簡単、前方にある曲がり角から非常に淫猥なモノがウネウネ動いているからである。しかも、“何か”を襲っているっぽい。
「……ん…………ぁ…」
耳を澄ますと、人の声が途切れ途切れに聞こえてくる。――と、咄嗟に彼女は嫌な予感に襲われる。なんたってダンジョンだ、どんな敵が潜んでいるかも分からない。もし、レベル差50なんて化け物が出てきたらどうするのか、もっとヤバ気なナマモノがいたらどうするか。
嫌な想像に限って尽きないものだ。そうこう考えている内に、ドサッという何かを落とす音。音を聞くまでではかなり大きい。
「こっちに、くるッ!?」
咄嗟に剣を構える彼女。しかしながら、アドベンチャースーツにマフラーなだけの彼女では、どんな敵でも絶望的だろう。
――ドクンッ
目の前に現れた“ソレ”を見て、硬直する。あぁ、やっぱり1Fで我慢してればよかった。わたしのレベルじゃ、まだ無理に決まっている……そんな嘆きも目の前のそれには届かない。
モンスター、その名もヒドラ。昭和怪獣的なネーミングセンスと、他の追従を許さない淫猥な触手が特徴的だ。触手好きにはたまらないネタであろう。
……話に戻り。ヒドラの来た方を見ると、女アコライトが転がっている。アコライトという職業は神に仕える者であり、聖なる力で他人を癒すことができるのだ。しかし、こうも得体の知れない液体まみれになり、服が破れていれば、まさに性なる者。
先ほどの行為はアコライトの彼女に対してなのだろう。体が痙攣しているところを見て、まだ生きているとは思うが、後々の事を考えると、なんとも悲劇。
と、それが自分に降りかかることだと数瞬遅れて気付き、逃げる。
「――きゃ、ぁ?」
女剣士がその場から逃げ出そうとした瞬間、ヒドラは待機状態での緩々とした動きとは打って変わり、無数に生やした触手を瞬時に、女剣士の足へと絡みつかせる。
「ぁ、いや……やめ、て」
女剣士は必死に絡みついた触手を外そうとしているが、水道のホースほどである太さにそぐわぬ力強さで女剣士のふくらはぎを締め付ける。
その触手はすぐには動かず、まるで味見をするかのように彼女のふくらはぎ部分で蠢く。ぬらぬらと光を反射するその触れた部分は、まだあどけなさが残っている彼女にも、妖艶さを魅せるよう。
……やがてお気に召したのか、ゆっくりと、だが確実に上へ上へと触手が女剣士の体を侵食してゆく。
「ん、気持ち悪い……っ」
女剣士は咄嗟に手に持っている剣で触手を切り払う。だが、次々と壺状になっている本体から生み出されてくる触手触手の数の多いこと。
何十と切り払いついに諦めたか、彼女の手から剣が落ちた。
「あ…く」
彼女が諦めたことを悟ったのか、ヒドラは慣れた手つきで服を脱がす。露になった白い柔肌が、瞬きをする間に触手が埋め尽くす。
「……っ!?」
下へと意識を持ってかれていた彼女は、胸への急な愛撫に身を震わせた。真円を描くように巻き付く触手は、力を入れすぎないよう、優しく胸を愛撫する。
傍から見れば、彼女はもう全身を触手に覆い尽くされており、手や足の先だけが蠢く触手たちの間から見えるような形になっていた。
「あ、ぁぁ……く、ぅあぁ」
執拗に彼女の秘所を攻め続ける触手。同時に、二本の触手で乳首をこねくり回す。飽くまで行為を素早く済ませるためか、無駄のない動きでも、確実に快楽を与え続けている。
「いやぁ、あうぁぁ、くぅ」
その醜悪な外観の所為ゆえか、彼女の中に在るのは嫌悪だけだ。如何に執拗に愛撫していようと、気持ちが伴わなければ体も反応しない。……それを感じ取ったのか、ヒドラは新たな動きをし始める。
「え、? いや、やめ…ぅぐ、うぐぅ……」
先ほど彼女に剣で切られた先の無い触手が、強引に彼女の口へと捻り込まれる。
「むぐ、ぅぐぅぅぅ……む、ぐ」
体の方の丁寧な愛撫とは違い、口の方は正に獣のように激しくピストン運動を繰り返している。……見ると、口に運んでいる触手の血管が浮き出ていた。
「む、ぐ、む、ぅ、ぐ、……っ、うぐぅぅぅぅぅぅぅ」
――ビュ、ビュビュッ
咥内に収まらず、溢れてくる白い液体。
ヒドラの体内で分泌される液体には媚薬効果があり、皮膚に触れるだけでは何ともないのだが、摂取すると効果を発揮する。その効果は強力で、男ならば絶倫、女ならば食い殺す勢いで、密かに裏で売られている精力ドリンクの元にもなっていたりする。……もちろん、それは薄めたものなので、原液を直接摂取してしまっては、精神が崩壊してもおかしくない。
「あ、は…れ? 体が、あつっ……」
先程まで否定していた彼女の内面も、急に形となってその秘所から溢れ出す。ヒドラはそれを満足とするように、愛撫をさらに激しいものへと変える。
「ん、はぁん、あぁ、は」
その行為も終わりが見えてきたのか、触手の中でも一際目立っていた太いモノが、彼女の秘所に押し付けられる。
「んぁぁぁ。…は、やく、早く…挿れて……」
媚薬効果はそこまでゆくのか。人が変わったかのように、モンスターへ哀願する彼女。まるで待っていたかのように、力強く一物が突き刺さる。
ズブッ!
「……、あ、はぁぁぁぁんっ!」
後はもう、計っているかの如く正確に出し入れを繰り返す。
胸への愛撫も苛烈を極め、そのたわわに実った乳房を人間の手のように、器用な動きで責めている。
「んぅ、はっ、ぁあ、うっ」
体液のお陰か、まだ時間は三分とも経っていないというのに、彼女の絶頂が近づく。触手の方も人間離れ……もとい、モンスター離れした速さでピストンを行う。異常とまで言えるほどに分泌されている愛液を周りに飛び散らせ、両方に終わりが近づいていることを表していた。
「あ、もうっ、いく、……あぅ、は」
蝋燭の火が消える直前を見るように、さらに速度を上げる触手。
「は、ぁ、……う、いくぅぅぅぅぅぅぅ!」
ビュビューーーーッ
双方が絶頂を迎えたと同時に、双方では異なる反応が起きた。
「――ライトニング、ボルトォ!!」
突如響く男の声。声の主の詠唱が終わるか終わらないか、閃光と共にヒドラの体が雷撃に焼き尽くされる。見れば、精錬装備に身を包んだマジシャンが立っていた。
「大丈夫か、おいっ! ……こりゃ酷い」
ヒドラが殺され、場に残ったのは行為の後を思わせる液体液体。見るも悲惨な状態になっている女剣士は、ぐったりと地面に横たわっている。
「しっかりしろ! あ――――くそっ、なんでこんな時に限って回復薬を持ってきてないんだか……ん?」
「あ、ぁぁ……」
彼女の目が覚める。執拗に何かを探しているようだが、マジシャンの方はうろたえている。
「うー、あー、こういう時はどうしたらいいかわかんないけど、あの、そのー」
マジシャンが自分の目的を果たせないことを知ったのか、
「えー……ごめん! 確かに君の事知らないけど、もう少し早く来ていれば助かっ……え?」
ズブリと、彼の胸に突き刺さる剣。担い手は彼女、自身の欲を果たせないモノを邪魔に思ったのか。何が起こったのか把握できない男は、口をパクパクと動かしながら女剣士を見つめる。
その女剣士は、既に正気を失っていた。ぽたぽたと腹の上に血が滴り落ちる様を、彼女は生気の失った目で見つめ、微笑した。
「な、んで……げ、ぶ」
――こうして、一つの話は結末を待たずに幕を閉じた。