要するに短い話なんだよ
俺ヴィジョン 2
「あらジョン、今日の仕事はどうだったの?」
「おいおい、わかりきったことを聞くなよキャサリン」
「まぁ、それじゃまたダンボールを?」
「そんなところだね」
「でもジョン、ダンボールを開梱するのは面倒じゃない? あの延々と続く同じ作業をしていると……あぁ! 考えただけでもゾッとしちゃうわ!」
「なんだいキャサリン、まだ君はそんなことで悩んでいるのかい?」
「まるで自分はそうじゃないみたいな口ぶりね、ジョン」
「そうさ! 僕はダンボールの開梱と聞くだけでワクワクしてきちゃうよ! ある物を使っているおかげでね!」
「まぁジョン、そんなステキな物があるの?」
「うん、この“妄想視覚化ゴーグル”は、その名の通り自分の妄想を視覚化出来るんだ!」
「うーん、名前からして難しそうね……」
「そんなことはないさ! 使い方は到って簡単。自分の妄想を強くイメージして、側面にあるスイッチを押すだけ!」
「まぁ、ボタン一つを押すだけでいいの?」
「そう。最近は何にしてもボタンが多くて、使い方がわからないというお嘆きの貴方! この“妄想視覚化ゴーグル”は、ボタン一つですぐに使えます!」
「でも、そんなに凄い機能だと……やっぱり値段が心配だわ」
「ちょっと待って、キャサリンはこれがいくらくらいだと思っているんだい?」
「少なくとも私の手が出せる値段じゃないことは確かね」
「HAHAHA! そんな君に朗報だ! なんとこの“妄想視覚化ゴーグル”、君の言うとおり僕達の手が出せるものじゃないのだけれど……今回、今回だけ! 特別価格での販売さ!」
「もう、じらさないで! 一体いくらなの?」
「今回、視覚化だけでなく仮想音声付加機能も付いて……なんと、1980円(税込)! 1980円(税込)!」
「まぁ! ホントなのジョン! これだけの機能が付いてこの値段? この収録が終わったらすぐに買うわ!」
「電話番号は000-000-0000、000-000-0000! つらい現実を貴方の思い通りに見せてくれる“妄想視覚化ゴーグル”、今回、限定80台をご用意致しました! さぁ、つまらない現実とはもうオサラバ!」
「お電話待っているわよ!」
「まぁ、俺は脳内で完璧に補完しているから、こんなものなど使わなくとも楽しんでるけどな」
「今日も一日頑張るか」
「また“アレ”をするの?」
「あぁ。それがお前の役割だしな。……ヤるぞ」
「……ん、はぁ、グリグリしないでぇ」
「ここか、ここがよいのか」
「やぁん、グリグリらめなのぉ」
「……や、鍵も閉めたことだし、頑張って仕事をしてこよう」
「ぶっ、なんだその胸、でかすぎるぞ」
「なによ、私の胸が大きかったらいけないわけ?」
「いや……そういうわけじゃないのだが……」
「ふんっ。…………って、なにしてんのよ!」
「いや……開梱しなきゃいけないし……」
「レディーの服を切り刻むだなんて、最低ねあなた」
「いや……ダンボールにレディーも何も……」
「や、やめ、あ」
「あ……なるほど、これか。そりゃあ気泡シートをこれだけ詰めればでかくもなるよな」
「し、しかたないでしょ! 私が自分の意思で入れたわけじゃないんだから!」
「そう怒鳴るな。別に俺は貧乳でもいける口だ」
「そうなんだ、よか……じゃなくて、そんなことどうでもいいから、さっさと開梱しちゃいなさいよ」
「だ、だめっ……こんなところで……」
「ええじゃないかええじゃないか」
「ん、いや、やめ」
「ほーれほれほれ、大事な布がカッターで切られてしまうぜぇ」
「いやぁぁぁぁ」
「……や、布テープを切るにも一苦労だな」
「いや、無理やりなんてっ」
「フヒヒッ……今更嫌がっても遅いです><><><>;;;;」
「せめて場所を変えて……こんな広間でなんて……」
「もう遅いです!!! ビリビリしちゃいますッ!!!11」
「らめぇ、ビリビリらめなのぉ」
「……や、カッターがないから手でテープを破るしかないんだな」
「さぁ、挿れるよ」
「ん……やさしくして……」
「く、これは名器だな……吸い込まれるように入っていくぞ」
「やん、そんなこと言わないでぇ」
・
・
・
「ん? どうしたんだ」
「ふんっ、私に話しかけないで」
「なんなんだよ。俺が何かしたって言うのか」
「何をしたもないでしょ! 他の女の子とお楽しみだったくせに」
「あ、あれはな、その、わかるだろ?」
「わからないわよっ! 私というものがありながらあんなこと……信じらんない!」
「……や、椅子を組み立てていただけなんだがな」
「とうとうお別れだな」
「えぇ……最初からわかっていたことだわ」
「それが君の宿命だ。俺には、君を連れて行くことは出来ない」
「なんでっ! このまま私が連れて行かれてもいいの!?」
「や、ダンボールだし。そもそもゴミだし。リサイクルだし」
「うぅ、ひどい……」
「ちょ、ちょっと、どこ触ってんのよっ!」
「どこを触るも何も、お前」
「言い訳はいいわよ! 早くその手をどけなさい!」
「待て待て、俺の話をだな」
「――やっ、ん」
「変な声出すなよ……」
「アンタが変なところを擦るからでしょ!」
「や、だってバットだしな」
「さて、どっちを押そうかな~」
「……恥ずかしいからそんなにジロジロと見ないでちょうだい」
「見るなって言うほうが無理だ」
「そんなに見られてると、私……」
「よし、これだっ!」
「あんっ…………エッチ!」
「……や、キーボードのボタンを押しただけなんだけどな」
「う~、さむっ」
「なによ、気軽に触らないで」
「お前は俺のものだ。なら、俺がどう触ろうと俺の勝手だろ」
「……う、それはもういいから、あんまり動かないで」
「それは無理だ」
「だって足が変なところに……んっ」
「もぞもぞ」
「もぞもぞしちゃらめぇ、らめなのぉ」
「……や、掛け布団だしな」