Neetel Inside 文芸新都
表紙

要するに短い話なんだよ
量子力学を理解せずに解釈した

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 インターネッツ……それは、あらゆる可能性が存在する場所。ある者は新たな生命を生み出し、またある者は破壊を繰り返す。
 その、無限に広がる世界で、また今日も一つの物語が紡がれる……。

「お前、いい加減戻ってこいよ。いつまでこんな所に篭っているつもりなんだ」

 大型匿名掲示板。その匿名性もさることながら、多様に広がり続けるジャンル、何よりもその人口密度の高さが魅力といわれている。その、匿名掲示板に似つかわしくない光景が、繰り広げられていた。

「な、なんだよ。誰だよお前」

 自身をアバター化することにより、仮想現実を身近に感じさせるようになったのが20XX年。何よりもその浸透の手助けとなったのが、自由度だ。名前、容姿、果ては声まで、自分でカスタマイズできるという点。これにより情報化社会はさらに加速、結果としては家で何もかもが出来る時代になっていた。

「誰……って、俺だよ、佐藤だ。なぁ佐々木、ちょっと表出ろ。話があんだよ」
「佐藤……っ? だ、だれだ、そんな名前、俺は知らない……」
「あぁ!? てめえ、親友のことを知らないだとぬかすのか!」

 その大型匿名掲示板も、最近に限定したら、退屈の二文字だった。何の起伏も見つからない、淡々と何の意味も持たない文字のやり取りを交わすだけ。……そこに、珍しい光景が現れたのだ。言わずとも、周囲の視線は集まってくる。

「や、やめろよ。佐藤だか佐々木だかしらないけど、僕は君の事なんか知らないんだ」
「まだ言うか! お前そうやって、前に美佳のことも突っぱねたらしいな」
「……ッ! なんで、お前がそれを」

 片方の目つきが変わる。その些細な変化を、熱い男は見逃さない。

「あぁ、美佳な、最近俺と付き合い始めたんだよ。お前にゃもう愛想が尽きた、ってな」

 周りの死んだ魚たちは、次第に目の輝きを取り戻してゆく。久しぶりに他人の激情を目にしたためか、なんとも奇妙な光景に見えることは確か。

「な、に? 愛想が尽きた?」
「そら、美佳だから、幼馴染の美佳だからこそ今までお前に付き合っていたんだ。ずっと、何年も家に篭り続けているお前にな」
「うるさい! お前には関係がないだろ!」
「関係あるんだよ! 親友だろッ!? 親友が家から出てこないで、連絡もよこさなかったら心配するじゃないか!」

 その内、周りの住人たちも反応を始める。互いにこの状況を議論する者もいれば、「そうだそうだ」と野次を飛ばす者も出てくる。

「親友なら……親友なら、もう俺にはかまわないでくれ! 嫌なんだ、もう人とかかわるのが嫌なんだよ!」
「チッ。……お前さぁ、現実とアバターの容姿、大分違うよな」
「それが……それがなんだっていうんだよ」
「仮に、俺がもうお前を忘れたとする。ならば、お前は誰に認識されてもらえるんだ?」
「え?」

 簡単な話。人は互いに相手を確認し合っている。自身の視界に入っていないものは、存在していない、という説だ。だから人は確認し合う。相手の存在を確固たるものとせしめる為に。
 では、誰にも確認されていない人は存在しているのだろうか。「我、思う。故に我在り」とはデカルトの有名な言葉だが、少なくとも他の、仮に人の意識を宇宙と仮称しよう。その、他の宇宙には存在していないのだ。人を一つの宇宙だとしよう、その中に生物、無機物、色々なものが混ざった星が存在する。その宇宙同士が互いに確認し合い、無限に宇宙は広がってゆく。それは広大な銀河図に成り得るかもしれない。……そう、結局、確認されないことにはその固体は不安定なものでしかない。シュレーディンガーの猫と一緒。確認するまでは不安定な過程でしかない。

「アバターは確かに確認されてるさ。でもな、現実のお前はどうなんだ。友達に会わず、家族にも会わず、その孤立した部屋でお前は何をしているといっているんだ」
「ぼ、僕…? 僕は……何を……」
「お前に思いを寄せていた美佳を除外して、お前は何をしているんだと言っているッ! 答えろ、佐々木ッッ!」
「う、うるさぁぁぁい! 僕に、僕に構うなぁぁぁ!!」
 


 ――そして、彼はPCの電源を落とした。同時に世界の電源が落ちることも忘れて。

       

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