ウルトラマンゴールドオーシャン
第二話「輝くゴルドオーシャンパス」
中国山中
木々をなぎ倒し、恐竜の様な姿をした二足歩行の巨大怪獣が市街へと前進していく。
その前方に黄金に輝く光の揺らめきが起こり、中から巨人が現れた。
巨人は人型のフォルムをしており、ウルトラマンと同じ黄金のプロテクターをつけている。
だが、その巨人は異様に大きな、鳥に似た頭を持っており、ウルトラマンと同じ種族にはとても見えない。
鳥の様な巨頭の巨人は前進してくる怪獣に構えを取って立ち向かう、怪獣側も雄たけびを上げ、敵意を見せる巨人へ突進した。
両者がぶつかる瞬間、巨人は二人に分身して左右に怪獣の突進をかわし、そのまま両脇から怪獣の両手を拘束する。
驚く怪獣を二人になった巨人は投げ飛ばし、地面に叩きつけた。
苦しむ怪獣の前で二人の巨人は両手を前に突き出し、そこから強力な光線を発射する。
二条の光線を受け、爆発四散する怪獣。
巨人はそれを確認すると一人に戻り、満足げに頷いた。
イタリア市街地
夕陽の下、破壊され、あちこちから煙があがる市街地で巨大怪獣と白い巨人が戦っている。
怪獣は猿の様な姿をしていて、全身が毛で覆われ、動きも猿のそれに近い。
対し、白い巨人は人に近いフォルムをしていて、ウルトラマンと同じ黄金のプロテクターをつけている。
だが、その容姿はウルトラマンとは異なり、手首足首と首周りが毛で覆われ、体のあちこちには赤い球があり、頭部には目や耳に当たる部分と額に赤い水晶体がついていた。
猿の様な怪獣は飛び回って白い巨人を翻弄するが、巨人は果敢に怪獣との間合いを詰め、その拳を叩き込む。
一撃で猿の怪獣は動きを止められ、反撃もできずに次々と拳を打ち込まれてグロッキーにされた。
白い巨人は更に怪獣に渾身の拳を見舞って吹き飛ばすと、頭の水晶体から光線を出して命中させる。
怪獣は光線を受け、断末魔を上げて爆発四散した。
後には燃え盛る炎と、夕陽の下、悠然と立つ白い巨人だけが残る。
南米某所郊外
地上と空に展開した無数の兵器からミサイルが、砲弾が、雨あられと前進する巨大怪獣目掛けて放たれる。
だが巨大な甲虫の様な怪獣はそれらの攻撃を物ともせずに前進を続け、戦車を踏み潰し、戦闘機を角から放つ電流で撃ち落としていく。
傍若無人に暴れる怪獣の前に黄金の揺らめきが起こり、中から青い巨人が現れた。
少しずんぐりとしているその青い巨人は、鎧と甲殻生物を足した様な頑丈そうな容姿で、ウルトラマンと同じ金色のプロテクターの他に金色のマントをつけている。
異様な新手の出現にしかし甲虫怪獣は怯まず、角から電流を放って青い巨人を攻撃した。
だが、青い巨人は戦車も爆散させた電流を物ともせずに受け切り、甲虫怪獣へ自分の鋏の様な形をした腕を向ける。
青い巨人の鋏の中が輝いた瞬間、甲虫怪獣の体で爆発が起こり、ミサイルにもびくともしなかった甲虫怪獣が断末魔を上げてもがき苦しんだ。
更に青い巨人は鋏から高熱火炎を出して甲虫の甲皮を溶かして焼き払う。
あっという間に火達磨になり、燃え尽きる怪獣。
青い巨人はそれを仁王立ちでじっと見届ける。
ウルトラマンが再度降臨したあの日以来、世界各地に正体不明の異形の巨人達が現れ、ウルトラマンと同じように怪獣達に戦いを挑んでいた。
当然、巨人達の正体に関してはAACRも調査を進めていたが、神出鬼没の巨人達の正体は全くわからなかった。
「どの巨人もとてつもない戦闘力だ、だが、幸いな事にこれらの巨人は人類に対して敵対的な行動はせず消えている」
セブンタワー、AACR作戦室。
机を囲み、大型モニターに映し出された各国の巨人の映像を見ていた隊員達に、仁藤がそう補足説明を加えた。
「味方…ですかね」
「今の所敵対行動はしていない、少なくとも敵としてみるべきでは無いだろうな」
仁藤が宇宙人達に肯定的な見解を示していた事に、和鳥と海矢は嬉しくなる。
「何かの組織に属する集団なのでしょうか?」
「つけているプロテクターに共通する部分がある、可能性は高いだろう」
津上の質問に応える仁藤に、なるほどと頷く和鳥。
実は、和鳥はこの巨人達について何も知らない。
あの艦隊が何者で、そしてウルトラマンが何者であるのかもだ。
海矢はそんな和鳥の姿勢に対して最初否定的だった。
だが、自分の命を救った存在をまずは素直に信じたいという和鳥の強い熱意に根負けし、それ以上詮索しない事にしている。
勿論それは防衛組織の人間としては明らかに間違った行為だ。
だが、ウルトラマンとあの艦隊が本気を出せば簡単に人類文明を殲滅できるのも確かであり、信じるしかないというのもある。
「あれだけの艦隊がいたんだ、そりゃあ…ウルトラマンみたいなのが一人だけだって考える方がおかしいよな」
「全員味方なら、頼もしいんだけどねー」
海矢の呟きに、横に座った長髪で胸と腕に4と描かれた赤毛の女性が返答した。
彼女は石野 生、海矢が知る限り最高の操縦能力を持った女性隊員で、海矢の同期である。
「やっぱー何か見返り求めてくるのかな」
「そうでしょうね、今後彼等がどの様なコンタクトをしてくるのか、上層部や各国政府は検討しているとの事です」
石野の呟きを肯定する太田川。
その言葉に、和鳥は少し俯いてしまう。
「そうですよね、完全な善意で助けてくれる宇宙人なんて……いないですよね」
海矢がそんな和鳥の様子を察し、何か声をかけようとした、その時、基地内の警報が鳴り響き、怪獣の出現を知らせた。
隊員達は一斉に立ち上がり、仁藤の号令でそれぞれの持ち場に散っていく。
立ち上る黒煙。
低いうなり声をあげ、虫の様な頭と爬虫類の様な体をした背中が棘だらけの巨大怪獣が、2足歩行でのっしのっしと歩きながら、棘の様な両手を振るって採石場を破壊していく。
怪獣は瓦礫が降り注ぐ中逃げ惑う作業員目掛けて口から高熱火炎を容赦なく吐きかけ、周囲は阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
炎は周囲の施設も燃やし、引火したガソリンが大爆発して、黒煙がもうもうと立ち込める。
高熱と煙と降り注ぐ瓦礫の中、生き残った人間の助けを求める声が時折上がる中、我が物顔で雄たけびを上げ、破壊の限りを尽くす怪獣。
やがて怪獣が近くの町へと進み出ようとした時、空の彼方から三機編隊のコンバットソーサーが飛んできた。
「こちらアークルーフォー、目標を目視で確認、補足完了、攻撃準備よし」
「本部、了解、直ちに攻撃せよ」
先頭のコンバットソーサーを駆っている石野は本部からの返信が終わるや否やレーザー砲を発射する。
レーザーは怪獣の眉間に命中し、三つあった怪獣の複眼の一つを正確に焼きつぶす。
「ギャアアアアア」
断末魔を上げ、身を屈めて苦しむ巨大怪獣。
その背中目掛けて背後から残る2機のコンバットソーサーもレーザーを発射する。
レーザーは棘で覆われた怪獣の背に命中して激しい火花が散るが、怪獣は痛みに悶える様子はない。
「効かない!?」
「あの棘のある部分は硬い、柔らかい部位を探すぞ!」
海矢はそう言ったが、怪獣は地面に丸まって、腹や頭を背中一面に生えた棘で隠している為、棘を避けて攻撃する事は難しくなっている。
(近づいて正確に狙うか?だが、奴がいつ立ち上がって火を吐いてくるかわからん)
敵の怪獣の火炎の射程も威力もわからないし、他にどんな武器をもっているかもわからない。
海矢は攻め手を探そうと怪獣の上空を旋回してチャンスを伺う。
しかし次の瞬間、和鳥と石野の機体からレーザーが放たれ、うずくまる怪獣の、僅かに見える棘の無い部位に見事に命中した。
苦しむ怪獣に2機のコンバットソーサーは次々と正確な射撃でレーザーを撃ちこんでいく。
(おいおい…)
余りに正確な二人の攻撃に、海矢は狼狽える。
(俺も負けてられない)
海矢も二人に続いてレーザーを放つが攻撃は棘に命中して弾かれ、思った様に効果を上げる事が出来ない。
コンバットソーサーの攻撃を受けた怪獣は悲鳴を上げ、高速で地面を掘り始めた。
(あの速度では撃破は間に合わない!発信機を!)
石野と和鳥の正確な攻撃は続いているが、このままでは倒しきれないと判断し、怪獣目掛けて発信機を発射しようとする海矢。
だがそれより早く、他の2機から同時に発信機が放たれ、怪獣に着弾した。
海矢のバイザーに映るレーダーに正常に作動した発信機の表示が映し出される。
(…二人に全く及ばなかった)
二人との技量差を感じる海矢の前で、怪獣は地底へと消えていった。
黒いコートに身を包み、顔を黒い頭巾で隠した一団が、燃える採石場の建物の中から地面へと消える怪獣を見送っている。
周囲は到底人間が耐えられる温度では無いが、黒頭巾の一団は熱も炎も物ともしない。
やがて怪獣が地底へと完全に消えたのを確認し、一団が建物から出ようとした、その時、何者かが出口の前に現れ、一団の前に立ちふさがった。
「貴方方の好きにはさせませんよ」
それはあの日、和鳥と海矢の前に現れた、黒スーツの男だった。
黒頭巾の一団は散開して男を半包囲すると、声も無く襲い掛かっていく。
監視班に後を任せ、ベースセブンへと戻ってきた海矢は、和鳥に基地の人気の無い場所へと呼ばれていた。
「すみませんでした!!」
開口一番、和鳥は海矢に謝る。
何事かわからず困惑する海矢に、和鳥はあのパスケースを出して見せた。
改めてまじまじと見たパスケースは青い色で、ウルトラマンのプロテクターを模した装飾がされ、ケースの中にはウルトラマンの胴体を模したカードが入っている。
「あそこで俺が変身してウルトラマンになっていれば、あの怪獣を取り逃がす事は無かった…」
そう言って、パスケースを握りしめる和鳥。
海矢がどういう事か尋ねると、発信機を打ち込んだ後、怪獣を逃がすまいと変身しようとしたが叶わず、頭の中にイメージが浮かんできたらしい。
「このアイテムは、ゴルドオーシャンパスって言います」
「ふむ」
「これを使う事で、ウルトラマン……ゴールドオーシャンに変身する事ができるんです」
「ゴールドオーシャン、あの巨人の名前か」
そういえばウルトラマンと言うのは人類側がつけた名前だったなと海矢は思い出した。
これからはゴールドオーシャンと呼ぶべきかとも考えるが、名前を知っていたらおかしいだろうと思いなおす。
「それで、ゴールドオーシャンになるには幾つか条件があるそうです」
「それは?」
「はい、まず、ゴールドオーシャンの力は強大であり、人類が無暗に使ってその文明に影響を与える事を避ける為にこれらの条件は設けられていています」
それを真に受けていいか否かは兎も角、納得できる内容ではあると海矢は思った。
ウルトラマンの力を自分の欲望や国家の繁栄の為に使ったら、文明崩壊を招きかねない。
「まず、ゴールドオーシャンの力は、生命を守る為の力らしいです」
「生命を?」
「はい、人類の力が及ばない、地球の外からの要因によって文明が崩壊する危険がある場合や、それらによって人命が危険にさらされている状況下でのみ、使えるそうです」
思い返してみると、怪獣はあの時点でAACRに圧倒され、戦意喪失して逃げに回り、脅威は取り除かれたと言ってよいだろう。
「人類の力で脅威を排除できる時は、ダメ押しで変身したりはできないわけか」
「でも、それっておかしくないですか?」
見ると、和鳥はとても不満げな顔をしていた。
「また怪獣が現れたら、今度も俺達が到着する前に犠牲者が出るかもしれないんですよ?だったら…」
ウルトラマンなら確実にあの怪獣を排除できたはずだ。
確かにそうかもしれない。
しかし…。
「だが、もしそれをしてしまったら、俺達はどんどんウルトラマンに依存していってしまう」
「海矢さん」
「和鳥、ウルトラマンの力を行使する事を考えるよりも、自力で次の怪獣災害を防ぐ方法を考えるべきじゃないのか?
人間が自力で怪獣災害を食い止める事ができれば、それは確実に次に繋がる。
犠牲者を出すまいと努力する事は、ウルトラマンが簡単に力を行使するよりもはるかに尊くて大事な事なんじゃないか?」
「…はい!」
「もしそれで俺達の力が及ばなかった時…」
海矢は和鳥の手の中のゴルドオーシャンパスにそっと触れる。
「その時は、これがきっと光り輝くはずだ。お前は、ウルトラマンを信じるんだろう?」
「海矢さん!」
目を潤ませ名を呼ぶ和鳥に、力強く頷いて見せる海矢。
和鳥の中にある迷いが溶けていくのを、海矢は感じた。
和鳥は確かに戦闘能力は抜群に優れている、だが、心に脆さを持っている。
だが、人の言葉を素直に正しく受け取る純粋さと、目標に向かって努力する実直さも持っている。
こいつを支えよう、こいつを成長させよう、こいつなら、なんでもできる!
海矢は改めてそう誓うと、和鳥を促し、作戦室へと向かった。
怪獣は地底を移動し、市街地から遠ざかりつつあるらしい。
本能で人間に近づくと更なる攻撃を受けると察したのだろう、山中にて回復を図ろうとしている様子である。
「だが、それを許すわけにはいかない、動きが止まり、休眠に入った所を対地底攻撃を行う」
仁藤はそう言って、モニターに先端にドリルがついた装甲車両を映し出した。
「攻撃には地底装甲車アイアンシーカーを使用する」
アイアンシーカーは地面を液状化させて地中深くへ潜れる特殊車両だ。
地底の過酷な環境や怪獣の攻撃にも耐える頑強さを持つ頼もしい兵器だが、それをもってしても地底と言う環境は厳しく、危険を伴う事に間違いない。
「俺に行かせてください」
即、和鳥が名乗り出る。
仁藤はその熱意に驚き、何か言おうとするが、それより先に海矢も立ち上がった。
「俺も行きます」
二人の迫力に仁藤は一瞬動きが止まったが、すぐにうんうんと頷き、咳払いをする。
「よし、二人に任せよう」
「よろしいんですか?」
「これだけ熱意があるんだ、それに、全隊員は全てのミッションに耐えれるだけの技量を持っている」
「ありがとうございます!!」
力いっぱい挨拶する和鳥に、周囲の隊員達の士気も自然と上がっていく。
廃墟となった採石場の壁に、黒頭巾が勢いよく叩きつけられた。
黒頭巾はぐったりと力を失って壁にもたれかかり、そのまま黒い霧となって消滅していく。
その周囲でも同じように黒頭巾達が黒い霧となって消滅していた。
「終わりましたね…」
黒頭巾達と戦っていた黒スーツの男は一団が全滅したのを確認すると、体についた埃を払う。
多対一の戦いだったにもかかわらず、男の体にはキズ一つついていない。
「さて、後は…」
そう言って男が見上げると、その上空をAACRの大型輸送機が3機のコンバットソーサーに護衛されながら飛んでいた。
「頼みましたよ、どうかご武運を」
男はAACR機の編隊に一礼し、その姿が見えなくなるまでその場でじっと頭を下げ続けた
山中深く、巨大怪獣が地中で休眠を始めた場所に、AACRの輸送機が着陸した。
怪獣が眠る場所の上空には地球防衛機構のドローンが飛ぶだけで、周囲に人影は見られない。
「こちらアークルシックス、作戦準備完了、発進します」
海矢の合図で輸送機の後部ハッチが開き、カーゴ内から前進を開始するアイアンシーカー。
キャタピラが力強く回り、ドリルがゆっくりと回転を始める。
「危険だと思ったら無理せず戻って大丈夫ですよ」
そこに、上空を飛ぶ太田川のコンバットソーサーから通信が入ってきた。
今回、地上へ逃げ出た怪獣を倒す為、太田川と津上もコンバットソーサーに乗り現場に出てきている。
仁藤の言った通り、AACR隊員はそれぞれ最も得意とするポジションはあるが、どのポジションでも戦えるだけの能力を持っているのだ。
「ありがとうございます!」
「健闘を祈ります」
太田川の声に見送られ、アイアンシーカーはいよいよ地面への潜航を開始する。
アイアンシーカーのドリルから放たれる振動波が車両前方の地面を液状化させ、車両は前部から地面へと沈んでいく。
海矢はドリルを起動させ、周囲の地面を液状化させながら地底へと一直線に機体を潜らせた。
程なく、怪獣についた発信機の反応が近づいてくる。
「地底魚雷用意」
海矢の号令で、和鳥がアイアンシーカーに装備された地底魚雷を装填した。
地底魚雷はこのアイアンシーカーと同じく地底を潜航する事ができ、地中を高速で進行し敵を撃破する兵器だ。
「駄目です、岩盤があってここからでは狙えません」
地底ソナーで周囲の状況を確認した和鳥が焦った調子で海矢に告げた。
地底魚雷は土の中からば高速で進めるが、岩等の硬い物を貫いて進む事はできない。
やむなく射撃位置を変える為、海矢は機体を移動させる。
「ここからならどうだ?」
「いけます!」
「よし、撃て!」
海矢の合図で、和鳥は地底魚雷を発射した。
アイアンシーカーの前部から放たれた魚雷が、地面を液状化させながら高速で怪獣へ向かって行く。
僅かな沈黙の後、激しい地響きが発生した。
「命中です!」
「怪獣が地上へ出るか撃破できるまで攻撃を続行する、撃て!」
更に連続で放たれる地底魚雷。
震動が連続し怪獣の叫び声が聞こえてくる。
まだまだ攻撃を続行しようとした、その時、急に震動が強くなり、凄まじい衝撃がアイアンシーカーを襲って、海矢は意識を失った。
地底魚雷の猛攻を受け、怪獣は地面を割って地上へと這い出てくる。
「出ましたよ!皆さん攻撃を!」
太田川の指示で3機のコンバットソーサーはトライフラッシュの体制を取った。
「トライフラッシュ!」
「ワン!」
津上のソーサーから石野のソーサーへ青いビームが放たれ、吸収される。
続いて太田川のソーサーからもビームが放たれようとした、その時、地底を割って、更にもう一体、新たな怪獣が現れた。
怪獣は地上にその姿を現すや否や口から光線を発射し、太田川のコンバットソーサーを攻撃する。
「しまった!こちらアークルツー!操縦不能!操縦不能!!不時着します!!」
とっさの事に反応できず被弾し、浮力を維持できずゆらゆらと落ちていく太田川のコンバットソーサー。
新たに現れた岩石の様な怪獣は、最初に現れた虫頭の怪獣とコンタクトを取る様に吠え、虫頭の怪獣もそれに応じて雄たけびを上げる。
「そうか…怪獣はただ人間から離れる為にここに来たんじゃない、仲間がいるからここに来たのか!」
作戦室で状況を見ていた仁藤は、怪獣が本能的に怪獣同士で争わない性質を持っていた事を思い出す。
だが、まさかそれを応用し、他の怪獣の力を借りようとする程賢い怪獣が出てくる事は想像できなかった。
2体の怪獣は不時着した太田川のコンバットソーサーへ、のっしのっしと向かって行く。
「アークルフォーよりファイブへ!攻撃して敵の注意をこちらに引き付ける!続け!」
「了解!」
それを見た石野は津上を率い、太田川機と対になる位置に機体を移動させ、怪獣達へレーザーを連射する。
しかし、怪獣はコンバットソーサーの攻撃に反応せず、太田川のコンバットソーサーへと進んでいく。
まるで二人の攻撃をあざ笑っている様である。
「副隊長!!」
こうなれば機体を接近させ無理矢理にでも注意をこちらに引き寄せよう。
石野が決死の覚悟で機体を前進させようとした、その時。
空に黄金の揺らめきが起き、そこから巨人が現れた!!
「ウルトラマン!!」
巨人、ウルトラマンゴールドオーシャンの頼もしい姿に、普段無口な津上も思わず嬉し気な声を上げる。
「シュワッチ!!」
ゴールドオーシャンは2大怪獣に構えを取ると、まず、地底魚雷でダメージを負っている虫頭の怪獣に向かって行った。
怪獣は口から炎を吐いて応戦するが、ゴールドオーシャンは物ともせずに前進し、驚く怪獣の顔面に鉄拳を見舞う。
もろに喰らい、苦しむ虫頭怪獣。
そこに、岩石怪獣が後ろから掴みかかってきた。
岩石怪獣はウルトラマンより一回り大きな体格をしているが、ゴールドオーシャンの肩の黄金のプロテクターが反応し、光線を発射して岩石怪獣を怯ませる。
すかさずゴールドオーシャンは岩石怪獣に回し蹴りを叩き込んだ。
吹き飛ばされ、凄まじい土煙を上げて地面に叩きつけられる岩石怪獣。
2大怪獣が体制を崩したのを見たゴールドオーシャンは、周囲を確認した。
そして墜落した太田川のコンバットソーサーを見つけると、腕から光線を出しコンバットソーサーをバリアで包み込む。
(ゴルドオーシャンパスから感じた通りだ…)
君の仲間が危ない、私の力を使え。
地底で、和鳥はゴルドオーシャンパスがそう語りかけてきたのを感じていた。
人命の危機を救い、守る為、ゴールドオーシャンは確かに力を貸してくれたのである。
(ゴールドオーシャンは…ゴールドオーシャンはやっぱり人間の味方なんだ!!よおし!!だったら俺はゴールドオーシャンの想いに応えなきゃ!!)
体制を立て直した虫頭怪獣が杭の様な両手でゴールドオーシャンに突きかかってきた。
だが、ゴールドオーシャンはそれを素早くかわし、払い腰で転倒させ、地面に叩きつける。
グロッキーになって地面で苦しむ虫頭怪獣を岩石怪獣がええい邪魔だと脚で押しのけ、口から光線を放ってきた。
だがゴールドオーシャンの肩のプロテクターが即座に反応して光線を放ち、それを相殺する。
それならばと巨体を武器に掴みかかってくる岩石怪獣。
対し、ゴールドオーシャンも負けじと拳で迎え撃つ。
爪と拳、牙と力がぶつかり合い、激しい火花が散る。
だが体格差と怪獣の予想以上の体表の硬さから、次第にゴールドオーシャンは押され始めてしまう。
虫頭の怪獣も復活し、横から杭の様な腕で再度突きかかってきて、それがゴールドオーシャンの胸にさく裂した。
苦しみ、後ろにたじろぐゴールドオーシャン、胸の水晶体が赤く点滅を始める。
更に追い打ちせんと向かって来る2大怪獣。
そこに上空からレーザーが降り注ぎ、怪獣達を怯ませた。
津上と石野のコンバットソーサーがゴールドオーシャンを援護してくれたのだ。
「…本部よりアークルフォーへ」
「アークルフォーより本部、無粋な事は言いっこ無しにしましょうよ」
ゴールドオーシャンが味方だという確証が無い現状で手を貸した事について仁藤が何か言う前に、石野はその言葉を遮った。
それに対し、仁藤はやれやれと苦笑いを浮かべ、それ以上追求しない。
確かに、ゴールドオーシャンが味方かはわからない。
だが、相手を信じなければ友好等望めない。
(ありがとうございます!)
ゴールドオーシャンは2機のコンバットソーサーに頷いて見せると、両肩のプロテクターについている翼の様な飾りを外した。
翼飾りはゴールドオーシャンの手の中で眩く光り輝き、強い熱を帯びる。
(喰らえ!!)
裂ぱくの気合を籠めて、光り輝く翼飾りを怪獣達へ投げつけるゴールドオーシャン。
翼飾りは目に見えないほどの凄まじい速さで飛翔し、渦を巻く様にして怪獣達の体を数回斬りつける。
岩石怪獣の強固そうな皮膚も、レーザーを弾いた虫頭怪獣の棘も翼飾りは簡単に切断し、斬られた場所は激しい光を放った。
やがて翼飾りはブーメランの様にゴールドオーシャンの両肩に戻る。
全身を斬られた怪獣達は体中を輝かせながら崩れ落ち、体に溜まった光が放出される様に爆発四散した。
「やった!!」
「なんて武器だ…、すごい!」
ゴールドオーシャンの超兵器の威力に驚きつつも、その勝利に喜びの声を上げる隊員達。
怪獣を撃破したゴールドオーシャンは飛び上がり、空に黄金の揺らぎを発生させ、その中に消えていった。
黄金の揺らめきがアイアンシーカーの中に発生し、その中から和鳥がアイアンシーカーに戻ってきた。
「お前…、そんな事もできたんだな」
少し弱った海矢の声が、和鳥を出迎える。
「先輩、怪我は大丈夫ですか?」
和鳥は海矢を心配し、彼が横になっている機体の後部へと歩み寄った。
海矢を横にした際大きな出血や骨折が無い事は確認してはいたが、それでも心配な事に変わりはない。
「ああ、俺は心配ない、迷惑かけたな」
「いえ、俺も気絶したんですけど…これが助けてくれて…」
そう言って、和鳥がゴルドオーシャンパスを見せた。
実は和鳥も海矢と同じく岩石怪獣の不意打ちを受けた際に意識を失っていたのだが、ゴルドオーシャンパスが彼の意識を回復させたのである。
海矢の言った通り、ゴルドオーシャンパスは、しっかりと二人を…太田川を、人類を守ってくれたのだ。
「先輩の言った通りでした……ウルトラマン…ウルトラマンゴールドオーシャン、信じてよかったです!!」
満面の笑みを浮かべてそう言う和鳥に、海矢もつられて口元が綻んだ。
自然と、二人は声を出して笑い合う。
木々をなぎ倒し、恐竜の様な姿をした二足歩行の巨大怪獣が市街へと前進していく。
その前方に黄金に輝く光の揺らめきが起こり、中から巨人が現れた。
巨人は人型のフォルムをしており、ウルトラマンと同じ黄金のプロテクターをつけている。
だが、その巨人は異様に大きな、鳥に似た頭を持っており、ウルトラマンと同じ種族にはとても見えない。
鳥の様な巨頭の巨人は前進してくる怪獣に構えを取って立ち向かう、怪獣側も雄たけびを上げ、敵意を見せる巨人へ突進した。
両者がぶつかる瞬間、巨人は二人に分身して左右に怪獣の突進をかわし、そのまま両脇から怪獣の両手を拘束する。
驚く怪獣を二人になった巨人は投げ飛ばし、地面に叩きつけた。
苦しむ怪獣の前で二人の巨人は両手を前に突き出し、そこから強力な光線を発射する。
二条の光線を受け、爆発四散する怪獣。
巨人はそれを確認すると一人に戻り、満足げに頷いた。
イタリア市街地
夕陽の下、破壊され、あちこちから煙があがる市街地で巨大怪獣と白い巨人が戦っている。
怪獣は猿の様な姿をしていて、全身が毛で覆われ、動きも猿のそれに近い。
対し、白い巨人は人に近いフォルムをしていて、ウルトラマンと同じ黄金のプロテクターをつけている。
だが、その容姿はウルトラマンとは異なり、手首足首と首周りが毛で覆われ、体のあちこちには赤い球があり、頭部には目や耳に当たる部分と額に赤い水晶体がついていた。
猿の様な怪獣は飛び回って白い巨人を翻弄するが、巨人は果敢に怪獣との間合いを詰め、その拳を叩き込む。
一撃で猿の怪獣は動きを止められ、反撃もできずに次々と拳を打ち込まれてグロッキーにされた。
白い巨人は更に怪獣に渾身の拳を見舞って吹き飛ばすと、頭の水晶体から光線を出して命中させる。
怪獣は光線を受け、断末魔を上げて爆発四散した。
後には燃え盛る炎と、夕陽の下、悠然と立つ白い巨人だけが残る。
南米某所郊外
地上と空に展開した無数の兵器からミサイルが、砲弾が、雨あられと前進する巨大怪獣目掛けて放たれる。
だが巨大な甲虫の様な怪獣はそれらの攻撃を物ともせずに前進を続け、戦車を踏み潰し、戦闘機を角から放つ電流で撃ち落としていく。
傍若無人に暴れる怪獣の前に黄金の揺らめきが起こり、中から青い巨人が現れた。
少しずんぐりとしているその青い巨人は、鎧と甲殻生物を足した様な頑丈そうな容姿で、ウルトラマンと同じ金色のプロテクターの他に金色のマントをつけている。
異様な新手の出現にしかし甲虫怪獣は怯まず、角から電流を放って青い巨人を攻撃した。
だが、青い巨人は戦車も爆散させた電流を物ともせずに受け切り、甲虫怪獣へ自分の鋏の様な形をした腕を向ける。
青い巨人の鋏の中が輝いた瞬間、甲虫怪獣の体で爆発が起こり、ミサイルにもびくともしなかった甲虫怪獣が断末魔を上げてもがき苦しんだ。
更に青い巨人は鋏から高熱火炎を出して甲虫の甲皮を溶かして焼き払う。
あっという間に火達磨になり、燃え尽きる怪獣。
青い巨人はそれを仁王立ちでじっと見届ける。
ウルトラマンが再度降臨したあの日以来、世界各地に正体不明の異形の巨人達が現れ、ウルトラマンと同じように怪獣達に戦いを挑んでいた。
当然、巨人達の正体に関してはAACRも調査を進めていたが、神出鬼没の巨人達の正体は全くわからなかった。
「どの巨人もとてつもない戦闘力だ、だが、幸いな事にこれらの巨人は人類に対して敵対的な行動はせず消えている」
セブンタワー、AACR作戦室。
机を囲み、大型モニターに映し出された各国の巨人の映像を見ていた隊員達に、仁藤がそう補足説明を加えた。
「味方…ですかね」
「今の所敵対行動はしていない、少なくとも敵としてみるべきでは無いだろうな」
仁藤が宇宙人達に肯定的な見解を示していた事に、和鳥と海矢は嬉しくなる。
「何かの組織に属する集団なのでしょうか?」
「つけているプロテクターに共通する部分がある、可能性は高いだろう」
津上の質問に応える仁藤に、なるほどと頷く和鳥。
実は、和鳥はこの巨人達について何も知らない。
あの艦隊が何者で、そしてウルトラマンが何者であるのかもだ。
海矢はそんな和鳥の姿勢に対して最初否定的だった。
だが、自分の命を救った存在をまずは素直に信じたいという和鳥の強い熱意に根負けし、それ以上詮索しない事にしている。
勿論それは防衛組織の人間としては明らかに間違った行為だ。
だが、ウルトラマンとあの艦隊が本気を出せば簡単に人類文明を殲滅できるのも確かであり、信じるしかないというのもある。
「あれだけの艦隊がいたんだ、そりゃあ…ウルトラマンみたいなのが一人だけだって考える方がおかしいよな」
「全員味方なら、頼もしいんだけどねー」
海矢の呟きに、横に座った長髪で胸と腕に4と描かれた赤毛の女性が返答した。
彼女は石野 生、海矢が知る限り最高の操縦能力を持った女性隊員で、海矢の同期である。
「やっぱー何か見返り求めてくるのかな」
「そうでしょうね、今後彼等がどの様なコンタクトをしてくるのか、上層部や各国政府は検討しているとの事です」
石野の呟きを肯定する太田川。
その言葉に、和鳥は少し俯いてしまう。
「そうですよね、完全な善意で助けてくれる宇宙人なんて……いないですよね」
海矢がそんな和鳥の様子を察し、何か声をかけようとした、その時、基地内の警報が鳴り響き、怪獣の出現を知らせた。
隊員達は一斉に立ち上がり、仁藤の号令でそれぞれの持ち場に散っていく。
立ち上る黒煙。
低いうなり声をあげ、虫の様な頭と爬虫類の様な体をした背中が棘だらけの巨大怪獣が、2足歩行でのっしのっしと歩きながら、棘の様な両手を振るって採石場を破壊していく。
怪獣は瓦礫が降り注ぐ中逃げ惑う作業員目掛けて口から高熱火炎を容赦なく吐きかけ、周囲は阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
炎は周囲の施設も燃やし、引火したガソリンが大爆発して、黒煙がもうもうと立ち込める。
高熱と煙と降り注ぐ瓦礫の中、生き残った人間の助けを求める声が時折上がる中、我が物顔で雄たけびを上げ、破壊の限りを尽くす怪獣。
やがて怪獣が近くの町へと進み出ようとした時、空の彼方から三機編隊のコンバットソーサーが飛んできた。
「こちらアークルーフォー、目標を目視で確認、補足完了、攻撃準備よし」
「本部、了解、直ちに攻撃せよ」
先頭のコンバットソーサーを駆っている石野は本部からの返信が終わるや否やレーザー砲を発射する。
レーザーは怪獣の眉間に命中し、三つあった怪獣の複眼の一つを正確に焼きつぶす。
「ギャアアアアア」
断末魔を上げ、身を屈めて苦しむ巨大怪獣。
その背中目掛けて背後から残る2機のコンバットソーサーもレーザーを発射する。
レーザーは棘で覆われた怪獣の背に命中して激しい火花が散るが、怪獣は痛みに悶える様子はない。
「効かない!?」
「あの棘のある部分は硬い、柔らかい部位を探すぞ!」
海矢はそう言ったが、怪獣は地面に丸まって、腹や頭を背中一面に生えた棘で隠している為、棘を避けて攻撃する事は難しくなっている。
(近づいて正確に狙うか?だが、奴がいつ立ち上がって火を吐いてくるかわからん)
敵の怪獣の火炎の射程も威力もわからないし、他にどんな武器をもっているかもわからない。
海矢は攻め手を探そうと怪獣の上空を旋回してチャンスを伺う。
しかし次の瞬間、和鳥と石野の機体からレーザーが放たれ、うずくまる怪獣の、僅かに見える棘の無い部位に見事に命中した。
苦しむ怪獣に2機のコンバットソーサーは次々と正確な射撃でレーザーを撃ちこんでいく。
(おいおい…)
余りに正確な二人の攻撃に、海矢は狼狽える。
(俺も負けてられない)
海矢も二人に続いてレーザーを放つが攻撃は棘に命中して弾かれ、思った様に効果を上げる事が出来ない。
コンバットソーサーの攻撃を受けた怪獣は悲鳴を上げ、高速で地面を掘り始めた。
(あの速度では撃破は間に合わない!発信機を!)
石野と和鳥の正確な攻撃は続いているが、このままでは倒しきれないと判断し、怪獣目掛けて発信機を発射しようとする海矢。
だがそれより早く、他の2機から同時に発信機が放たれ、怪獣に着弾した。
海矢のバイザーに映るレーダーに正常に作動した発信機の表示が映し出される。
(…二人に全く及ばなかった)
二人との技量差を感じる海矢の前で、怪獣は地底へと消えていった。
黒いコートに身を包み、顔を黒い頭巾で隠した一団が、燃える採石場の建物の中から地面へと消える怪獣を見送っている。
周囲は到底人間が耐えられる温度では無いが、黒頭巾の一団は熱も炎も物ともしない。
やがて怪獣が地底へと完全に消えたのを確認し、一団が建物から出ようとした、その時、何者かが出口の前に現れ、一団の前に立ちふさがった。
「貴方方の好きにはさせませんよ」
それはあの日、和鳥と海矢の前に現れた、黒スーツの男だった。
黒頭巾の一団は散開して男を半包囲すると、声も無く襲い掛かっていく。
監視班に後を任せ、ベースセブンへと戻ってきた海矢は、和鳥に基地の人気の無い場所へと呼ばれていた。
「すみませんでした!!」
開口一番、和鳥は海矢に謝る。
何事かわからず困惑する海矢に、和鳥はあのパスケースを出して見せた。
改めてまじまじと見たパスケースは青い色で、ウルトラマンのプロテクターを模した装飾がされ、ケースの中にはウルトラマンの胴体を模したカードが入っている。
「あそこで俺が変身してウルトラマンになっていれば、あの怪獣を取り逃がす事は無かった…」
そう言って、パスケースを握りしめる和鳥。
海矢がどういう事か尋ねると、発信機を打ち込んだ後、怪獣を逃がすまいと変身しようとしたが叶わず、頭の中にイメージが浮かんできたらしい。
「このアイテムは、ゴルドオーシャンパスって言います」
「ふむ」
「これを使う事で、ウルトラマン……ゴールドオーシャンに変身する事ができるんです」
「ゴールドオーシャン、あの巨人の名前か」
そういえばウルトラマンと言うのは人類側がつけた名前だったなと海矢は思い出した。
これからはゴールドオーシャンと呼ぶべきかとも考えるが、名前を知っていたらおかしいだろうと思いなおす。
「それで、ゴールドオーシャンになるには幾つか条件があるそうです」
「それは?」
「はい、まず、ゴールドオーシャンの力は強大であり、人類が無暗に使ってその文明に影響を与える事を避ける為にこれらの条件は設けられていています」
それを真に受けていいか否かは兎も角、納得できる内容ではあると海矢は思った。
ウルトラマンの力を自分の欲望や国家の繁栄の為に使ったら、文明崩壊を招きかねない。
「まず、ゴールドオーシャンの力は、生命を守る為の力らしいです」
「生命を?」
「はい、人類の力が及ばない、地球の外からの要因によって文明が崩壊する危険がある場合や、それらによって人命が危険にさらされている状況下でのみ、使えるそうです」
思い返してみると、怪獣はあの時点でAACRに圧倒され、戦意喪失して逃げに回り、脅威は取り除かれたと言ってよいだろう。
「人類の力で脅威を排除できる時は、ダメ押しで変身したりはできないわけか」
「でも、それっておかしくないですか?」
見ると、和鳥はとても不満げな顔をしていた。
「また怪獣が現れたら、今度も俺達が到着する前に犠牲者が出るかもしれないんですよ?だったら…」
ウルトラマンなら確実にあの怪獣を排除できたはずだ。
確かにそうかもしれない。
しかし…。
「だが、もしそれをしてしまったら、俺達はどんどんウルトラマンに依存していってしまう」
「海矢さん」
「和鳥、ウルトラマンの力を行使する事を考えるよりも、自力で次の怪獣災害を防ぐ方法を考えるべきじゃないのか?
人間が自力で怪獣災害を食い止める事ができれば、それは確実に次に繋がる。
犠牲者を出すまいと努力する事は、ウルトラマンが簡単に力を行使するよりもはるかに尊くて大事な事なんじゃないか?」
「…はい!」
「もしそれで俺達の力が及ばなかった時…」
海矢は和鳥の手の中のゴルドオーシャンパスにそっと触れる。
「その時は、これがきっと光り輝くはずだ。お前は、ウルトラマンを信じるんだろう?」
「海矢さん!」
目を潤ませ名を呼ぶ和鳥に、力強く頷いて見せる海矢。
和鳥の中にある迷いが溶けていくのを、海矢は感じた。
和鳥は確かに戦闘能力は抜群に優れている、だが、心に脆さを持っている。
だが、人の言葉を素直に正しく受け取る純粋さと、目標に向かって努力する実直さも持っている。
こいつを支えよう、こいつを成長させよう、こいつなら、なんでもできる!
海矢は改めてそう誓うと、和鳥を促し、作戦室へと向かった。
怪獣は地底を移動し、市街地から遠ざかりつつあるらしい。
本能で人間に近づくと更なる攻撃を受けると察したのだろう、山中にて回復を図ろうとしている様子である。
「だが、それを許すわけにはいかない、動きが止まり、休眠に入った所を対地底攻撃を行う」
仁藤はそう言って、モニターに先端にドリルがついた装甲車両を映し出した。
「攻撃には地底装甲車アイアンシーカーを使用する」
アイアンシーカーは地面を液状化させて地中深くへ潜れる特殊車両だ。
地底の過酷な環境や怪獣の攻撃にも耐える頑強さを持つ頼もしい兵器だが、それをもってしても地底と言う環境は厳しく、危険を伴う事に間違いない。
「俺に行かせてください」
即、和鳥が名乗り出る。
仁藤はその熱意に驚き、何か言おうとするが、それより先に海矢も立ち上がった。
「俺も行きます」
二人の迫力に仁藤は一瞬動きが止まったが、すぐにうんうんと頷き、咳払いをする。
「よし、二人に任せよう」
「よろしいんですか?」
「これだけ熱意があるんだ、それに、全隊員は全てのミッションに耐えれるだけの技量を持っている」
「ありがとうございます!!」
力いっぱい挨拶する和鳥に、周囲の隊員達の士気も自然と上がっていく。
廃墟となった採石場の壁に、黒頭巾が勢いよく叩きつけられた。
黒頭巾はぐったりと力を失って壁にもたれかかり、そのまま黒い霧となって消滅していく。
その周囲でも同じように黒頭巾達が黒い霧となって消滅していた。
「終わりましたね…」
黒頭巾達と戦っていた黒スーツの男は一団が全滅したのを確認すると、体についた埃を払う。
多対一の戦いだったにもかかわらず、男の体にはキズ一つついていない。
「さて、後は…」
そう言って男が見上げると、その上空をAACRの大型輸送機が3機のコンバットソーサーに護衛されながら飛んでいた。
「頼みましたよ、どうかご武運を」
男はAACR機の編隊に一礼し、その姿が見えなくなるまでその場でじっと頭を下げ続けた
山中深く、巨大怪獣が地中で休眠を始めた場所に、AACRの輸送機が着陸した。
怪獣が眠る場所の上空には地球防衛機構のドローンが飛ぶだけで、周囲に人影は見られない。
「こちらアークルシックス、作戦準備完了、発進します」
海矢の合図で輸送機の後部ハッチが開き、カーゴ内から前進を開始するアイアンシーカー。
キャタピラが力強く回り、ドリルがゆっくりと回転を始める。
「危険だと思ったら無理せず戻って大丈夫ですよ」
そこに、上空を飛ぶ太田川のコンバットソーサーから通信が入ってきた。
今回、地上へ逃げ出た怪獣を倒す為、太田川と津上もコンバットソーサーに乗り現場に出てきている。
仁藤の言った通り、AACR隊員はそれぞれ最も得意とするポジションはあるが、どのポジションでも戦えるだけの能力を持っているのだ。
「ありがとうございます!」
「健闘を祈ります」
太田川の声に見送られ、アイアンシーカーはいよいよ地面への潜航を開始する。
アイアンシーカーのドリルから放たれる振動波が車両前方の地面を液状化させ、車両は前部から地面へと沈んでいく。
海矢はドリルを起動させ、周囲の地面を液状化させながら地底へと一直線に機体を潜らせた。
程なく、怪獣についた発信機の反応が近づいてくる。
「地底魚雷用意」
海矢の号令で、和鳥がアイアンシーカーに装備された地底魚雷を装填した。
地底魚雷はこのアイアンシーカーと同じく地底を潜航する事ができ、地中を高速で進行し敵を撃破する兵器だ。
「駄目です、岩盤があってここからでは狙えません」
地底ソナーで周囲の状況を確認した和鳥が焦った調子で海矢に告げた。
地底魚雷は土の中からば高速で進めるが、岩等の硬い物を貫いて進む事はできない。
やむなく射撃位置を変える為、海矢は機体を移動させる。
「ここからならどうだ?」
「いけます!」
「よし、撃て!」
海矢の合図で、和鳥は地底魚雷を発射した。
アイアンシーカーの前部から放たれた魚雷が、地面を液状化させながら高速で怪獣へ向かって行く。
僅かな沈黙の後、激しい地響きが発生した。
「命中です!」
「怪獣が地上へ出るか撃破できるまで攻撃を続行する、撃て!」
更に連続で放たれる地底魚雷。
震動が連続し怪獣の叫び声が聞こえてくる。
まだまだ攻撃を続行しようとした、その時、急に震動が強くなり、凄まじい衝撃がアイアンシーカーを襲って、海矢は意識を失った。
地底魚雷の猛攻を受け、怪獣は地面を割って地上へと這い出てくる。
「出ましたよ!皆さん攻撃を!」
太田川の指示で3機のコンバットソーサーはトライフラッシュの体制を取った。
「トライフラッシュ!」
「ワン!」
津上のソーサーから石野のソーサーへ青いビームが放たれ、吸収される。
続いて太田川のソーサーからもビームが放たれようとした、その時、地底を割って、更にもう一体、新たな怪獣が現れた。
怪獣は地上にその姿を現すや否や口から光線を発射し、太田川のコンバットソーサーを攻撃する。
「しまった!こちらアークルツー!操縦不能!操縦不能!!不時着します!!」
とっさの事に反応できず被弾し、浮力を維持できずゆらゆらと落ちていく太田川のコンバットソーサー。
新たに現れた岩石の様な怪獣は、最初に現れた虫頭の怪獣とコンタクトを取る様に吠え、虫頭の怪獣もそれに応じて雄たけびを上げる。
「そうか…怪獣はただ人間から離れる為にここに来たんじゃない、仲間がいるからここに来たのか!」
作戦室で状況を見ていた仁藤は、怪獣が本能的に怪獣同士で争わない性質を持っていた事を思い出す。
だが、まさかそれを応用し、他の怪獣の力を借りようとする程賢い怪獣が出てくる事は想像できなかった。
2体の怪獣は不時着した太田川のコンバットソーサーへ、のっしのっしと向かって行く。
「アークルフォーよりファイブへ!攻撃して敵の注意をこちらに引き付ける!続け!」
「了解!」
それを見た石野は津上を率い、太田川機と対になる位置に機体を移動させ、怪獣達へレーザーを連射する。
しかし、怪獣はコンバットソーサーの攻撃に反応せず、太田川のコンバットソーサーへと進んでいく。
まるで二人の攻撃をあざ笑っている様である。
「副隊長!!」
こうなれば機体を接近させ無理矢理にでも注意をこちらに引き寄せよう。
石野が決死の覚悟で機体を前進させようとした、その時。
空に黄金の揺らめきが起き、そこから巨人が現れた!!
「ウルトラマン!!」
巨人、ウルトラマンゴールドオーシャンの頼もしい姿に、普段無口な津上も思わず嬉し気な声を上げる。
「シュワッチ!!」
ゴールドオーシャンは2大怪獣に構えを取ると、まず、地底魚雷でダメージを負っている虫頭の怪獣に向かって行った。
怪獣は口から炎を吐いて応戦するが、ゴールドオーシャンは物ともせずに前進し、驚く怪獣の顔面に鉄拳を見舞う。
もろに喰らい、苦しむ虫頭怪獣。
そこに、岩石怪獣が後ろから掴みかかってきた。
岩石怪獣はウルトラマンより一回り大きな体格をしているが、ゴールドオーシャンの肩の黄金のプロテクターが反応し、光線を発射して岩石怪獣を怯ませる。
すかさずゴールドオーシャンは岩石怪獣に回し蹴りを叩き込んだ。
吹き飛ばされ、凄まじい土煙を上げて地面に叩きつけられる岩石怪獣。
2大怪獣が体制を崩したのを見たゴールドオーシャンは、周囲を確認した。
そして墜落した太田川のコンバットソーサーを見つけると、腕から光線を出しコンバットソーサーをバリアで包み込む。
(ゴルドオーシャンパスから感じた通りだ…)
君の仲間が危ない、私の力を使え。
地底で、和鳥はゴルドオーシャンパスがそう語りかけてきたのを感じていた。
人命の危機を救い、守る為、ゴールドオーシャンは確かに力を貸してくれたのである。
(ゴールドオーシャンは…ゴールドオーシャンはやっぱり人間の味方なんだ!!よおし!!だったら俺はゴールドオーシャンの想いに応えなきゃ!!)
体制を立て直した虫頭怪獣が杭の様な両手でゴールドオーシャンに突きかかってきた。
だが、ゴールドオーシャンはそれを素早くかわし、払い腰で転倒させ、地面に叩きつける。
グロッキーになって地面で苦しむ虫頭怪獣を岩石怪獣がええい邪魔だと脚で押しのけ、口から光線を放ってきた。
だがゴールドオーシャンの肩のプロテクターが即座に反応して光線を放ち、それを相殺する。
それならばと巨体を武器に掴みかかってくる岩石怪獣。
対し、ゴールドオーシャンも負けじと拳で迎え撃つ。
爪と拳、牙と力がぶつかり合い、激しい火花が散る。
だが体格差と怪獣の予想以上の体表の硬さから、次第にゴールドオーシャンは押され始めてしまう。
虫頭の怪獣も復活し、横から杭の様な腕で再度突きかかってきて、それがゴールドオーシャンの胸にさく裂した。
苦しみ、後ろにたじろぐゴールドオーシャン、胸の水晶体が赤く点滅を始める。
更に追い打ちせんと向かって来る2大怪獣。
そこに上空からレーザーが降り注ぎ、怪獣達を怯ませた。
津上と石野のコンバットソーサーがゴールドオーシャンを援護してくれたのだ。
「…本部よりアークルフォーへ」
「アークルフォーより本部、無粋な事は言いっこ無しにしましょうよ」
ゴールドオーシャンが味方だという確証が無い現状で手を貸した事について仁藤が何か言う前に、石野はその言葉を遮った。
それに対し、仁藤はやれやれと苦笑いを浮かべ、それ以上追求しない。
確かに、ゴールドオーシャンが味方かはわからない。
だが、相手を信じなければ友好等望めない。
(ありがとうございます!)
ゴールドオーシャンは2機のコンバットソーサーに頷いて見せると、両肩のプロテクターについている翼の様な飾りを外した。
翼飾りはゴールドオーシャンの手の中で眩く光り輝き、強い熱を帯びる。
(喰らえ!!)
裂ぱくの気合を籠めて、光り輝く翼飾りを怪獣達へ投げつけるゴールドオーシャン。
翼飾りは目に見えないほどの凄まじい速さで飛翔し、渦を巻く様にして怪獣達の体を数回斬りつける。
岩石怪獣の強固そうな皮膚も、レーザーを弾いた虫頭怪獣の棘も翼飾りは簡単に切断し、斬られた場所は激しい光を放った。
やがて翼飾りはブーメランの様にゴールドオーシャンの両肩に戻る。
全身を斬られた怪獣達は体中を輝かせながら崩れ落ち、体に溜まった光が放出される様に爆発四散した。
「やった!!」
「なんて武器だ…、すごい!」
ゴールドオーシャンの超兵器の威力に驚きつつも、その勝利に喜びの声を上げる隊員達。
怪獣を撃破したゴールドオーシャンは飛び上がり、空に黄金の揺らぎを発生させ、その中に消えていった。
黄金の揺らめきがアイアンシーカーの中に発生し、その中から和鳥がアイアンシーカーに戻ってきた。
「お前…、そんな事もできたんだな」
少し弱った海矢の声が、和鳥を出迎える。
「先輩、怪我は大丈夫ですか?」
和鳥は海矢を心配し、彼が横になっている機体の後部へと歩み寄った。
海矢を横にした際大きな出血や骨折が無い事は確認してはいたが、それでも心配な事に変わりはない。
「ああ、俺は心配ない、迷惑かけたな」
「いえ、俺も気絶したんですけど…これが助けてくれて…」
そう言って、和鳥がゴルドオーシャンパスを見せた。
実は和鳥も海矢と同じく岩石怪獣の不意打ちを受けた際に意識を失っていたのだが、ゴルドオーシャンパスが彼の意識を回復させたのである。
海矢の言った通り、ゴルドオーシャンパスは、しっかりと二人を…太田川を、人類を守ってくれたのだ。
「先輩の言った通りでした……ウルトラマン…ウルトラマンゴールドオーシャン、信じてよかったです!!」
満面の笑みを浮かべてそう言う和鳥に、海矢もつられて口元が綻んだ。
自然と、二人は声を出して笑い合う。