Neetel Inside ニートノベル
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単身赴任中にNo1ホストでクズになった話
第一話

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「令和さん、令和さん!令和さんってば!」

低く野太い中年男性の声が響き渡る。
その声からは、どこかしら怒りを感じるような、そんな声色だ。

「全く・・。令和さん!おい!令和新斗!!起きろ!!」

中年男性はそう叫び、大きく振りかぶった右手でデスクの右端を叩いた。

「ひゃいっ!?」

咄嗟に情けない声を出しながら、正面を見上げる。
そこには、先程の声の主が、仁王立ちで俺を見下ろしていた。

「あ、強面課長・・・。」
「令和くん、とっくに昼休みは終わっている。いつまで寝ているんだね?とっとと仕事に戻ってくれないかね?」
「え・・」

壁に掛けられた時計の針は、確かに13時15分を指していた。
ランチが終わったのは、12時40分頃だったか。
少しだけ仮眠を取ろうとデスクにうつ伏せになっていたが、どうやら予定をオーバーしてしまったらしい。
やっちまったな。

「あ、すみません・・・。すぐに仕事に戻ります」
「全く、すみませんで済んだら人事考課制度なんてものは存在しないよ」
「はぁ」
「君も新人じゃないんだから、社会人としての自覚を持ってくれ」
「わかりました。すみません」

強面課長は不機嫌なまま、ブツブツと文句を言いながら自席へと戻って行った。
やれやれ、また課長の怒りを買ってしまった。

「災難だったな」

呆然とデスクで天を仰ぐ俺に話しかけて来たのは、同期の橋本だ。
俺とは違って今風のモテ系ルックスで、女性社員とすこぶる仲が良い。
学生時代で言うところのカースト上位、クラスの中心的人物だ。
3年ほど付き合っている本命の彼女が居るそうだが、社内の女性にも手を出しているし、まぁチャラ男という部類だ。

「いや、完全に昼休みが終わっても寝てるが悪い」
「まぁそうだけどな~。昨日は夜更かししてたのか?鳥取に置いて来た奥さんとテレビ電話エッチでもしてたのか?」
「昼間っから勘弁してくれよ。昨日はついつい夜中までゲームしちゃってさ。」
「何だよ~!いつもゲームって!華が無い人生だねぇ~!せっかくの単身赴任生活、もっと謳歌したらどうなんだ?」
「はは、そうだね。でも、金も無いし。夜中まで一人でゆっくりゲームできるなんて、これでも十分謳歌してるつもりなんだけどね」
「本当に面白くない奴だな~、新斗は!」

そう、俺の名前は令和新斗。
年齢は30歳、趣味はゲーム(主にRPG)とパチンコを少々。
鳥取で生まれ育ち、26歳で初めての彼女と結婚。
その後、28歳の時に男の子を一人授かり、家族3人で過ごす普通の企業戦士だ。
仕事は総合商社で営業をしているが、成績は鳴かず飛ばす。
もともと、鳥取支店で上位から7本の指に入るぐらいの、やや上位だが決して目立たない成績だった。
30歳になったタイミングで、鳥取県内にマイホームを購入したのだが、"家を買うと飛ばされる"なんて古臭い言い伝え通りで、引っ越しと同時期に東京本社へ異動の辞令が降りた。
足が不自由な嫁さんの両親の面倒を見るために、嫁さんの実家近くにマイホームを建てたこともあり、嫁さんは"絶対に着いていかない"の一点張り。
俺自身も子供を育てるのは自然豊かな地域で、なんて考え方を持っていることもあり、単身赴任で着任することになった。
まだ1歳の息子と離れるのは寂しいけど、こっちに骨を埋めるつもりも無いし、一人暮らしをした事の無い俺への試練だと思って、受け入れる事にした。

「今日さ、金曜じゃん。どうせ暇だろ?飲んで帰らねぇ?」
「パス。今日はハマっているネットゲームのレイドイベントなんだ。朝まで狩りしなきゃ」
「はぁ~!?マジかよ?そんな寂しいこと言わずにさ、銀座のクラブでも行かねぇ?ホステスさん狩りに行こうぜ~!」
「いや、パス。そもそも、何でわざわざ大金払って商売女と会話しなきゃならないんだ。その先に夢も幸せも無いだろう」

そう、これは決して断り文句ではなく、本心である。
クラブやキャバクラはお金で接客を買うところであり、そこに愛は存在しない。
いや、結婚していることもあるし、そもそも出会いは求めていないが。

「そっか。じゃあ、他の同期でも誘って行ってくるよ。お前もさ、お小遣い少ないかもしれないけど、たまには遊ぼうな?な?」
「お気遣いどうも。機会があれば、ご一緒するよ」

橋本は良い奴だ。
ちょっとチャラいが、単身赴任の俺が寂しい想いをしていないか、いつも気に掛けてくれている。
確かに、今日は華の金曜日だし、気の合う仲間と夜の街へ繰り出し、日ごろのストレスを発散する、なんて過ごし方も悪くない。
俺自身、鳥取に居た頃は、よく営業所の仲間と飲んで帰ったものだ。

だが、今の俺には叶わない。
それは、決してネットゲームに夢中になっているからでも、お小遣いが少ないからでもない。



何故なら・・・。



「おはようございます!」
「新斗部長!おはようございます!」

場所は移り、新宿。
ここは、歌舞伎町でホストクラブを複数店舗展開する"NEETグループ"の本店"Club NEET"。
店のドアを開けると、若いホスト達が次々と挨拶にやってくる。

「あぁ、おはよう」

そう言い返すと、俺はバックヤードで変身する。
センター分けにしていた前髪は下ろし、ヘアアイロンとスプレーで両サイドに外ハネを作る。
企業戦士感満載なグレーのスーツから、上下ブルーのタイトなスーツに。
靴とベルトも、ワンポイントで目立つように、少しシルバーが入ったデザインの物に付け替える。
仕上げに、普段は決して付けない香水を手首・首に振りかける。

「よし、OK」

そう、令和新斗30歳。
昼間は鳴かず飛ばずの営業マンだが、俺には裏の顔がある。

「俺は歌舞伎町No,1ホストの新斗だ。今夜も、姫ちゃん達に笑顔を届け、対価を支払って頂こう」

単身赴任中の俺が、歌舞伎町のNo,1ホストでクズになった話。
これからは、色んな経験を語っていこうと思う。
それは、女にモテる方法から、女に恨まれる方法まで、実に様々だ。

次回以降、気が向いたら、一緒に俺の話を聞いてくれ。

       

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