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ドタバタが一番
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     【ドタバタが一番!】

第一話 【宇宙人襲来?宇宙人は萌えなのだ!】
        1
「また今日も一段とアンダーグラウンドな雑誌を読んでますねぇ、誠さん」
裕也が、誠の読んでいる本を指差しながら笑っている。
裕也が指差している本の表紙には『月刊アトランチス』と書かれている。
「俺さ、この本が普通の書店に売ってるとこ、見た事無いんだけどさ、何処で入手しているわけ?」
「この本はネット通販だけでな。会員になった人だけしか貰えないんだ」
誠は、雑誌から目を離さぬまま言った。
「っていうか、そこまでして見たいって思うの?」
裕也は雑誌の表を見ながら話す。
「思う。そこら辺の規制のかかった本では駄目だ。この本にしか書いていないことが沢山あるからな」
「それって、世間で言うガセネタって奴じゃないんですか?」
誠は聞き捨てならないといった顔をする。
「雑誌も見ないで、よくもまぁそんな事がいえるな。一度見てみろ。信じたくなくても、信じたくなるからな」
誠は、自分の読んでいるページの端を丁寧に折ると、裕也に差し出す。
裕也は困ったという表情で、渋々それを受け取る。
裕也がページの一枚目をめくると、そこにはデカデカと胡散臭い事が書いてある。
『宇宙人襲来!?宇宙人は日本にも来ていた?宇宙人と生活をしていたという人物に緊急インタビュー!!!!!!!!』
と書かれていた。
「胡散臭すぎる・・・っていうか、びっくりマーク多すぎだし」
と言いながらも、なんとなく見てしまうところに人間の怖さを感じる裕也。
『もう五年も前になる。私はかつて宇宙人と生活をしていたのだ。その宇宙人は、そこいらの普通の人となんら変わりの無い姿をしていた。多分、その宇宙人はメスであると思われる。なぜなら、その宇宙人は女の姿だったからだ。彼女はいたって普通の日本語を喋っていた。なら、何故彼女を宇宙人だと思ったか?それは、彼女が宇宙船に乗って空か落ちてきたからだ。それは、我々の常識をはるかに超える宇宙船であった。彼女の話は突拍子も無く、滅茶苦茶な話であったが、私は彼女の言う事を信じて、三日間だけ泊めたのだ。そして、彼女は三日後に、宇宙船に乗り込んで宙へと旅立ってしまったのだ・・・・と、38歳佐藤さん(仮)は我々にこう語ってくれた』
裕也は唖然とする。もうただそのページを見て呆然としていた。
その光景を見ている誠は、かなり満足げである。
「どうだ、驚いただろ?」
「うん、驚いたよ。いろんな意味で・・・」
いろんな意味でショックを受けてしてしまった裕也。
多分、この本を最後まで見たら立ち直れない、とまで思うほどである。
「だがな、それにはまだ驚くべき事が書いてある。そのページの最後のほうを見てみろ」
裕也は、未だに頭の混乱を抱えたまま、そのページの最後のほうを見る。
そこに写っているのは、どこかの風景の写真であった。
それは多分、ここに宇宙船が降り立った、という意味合いで張られた写真なのであろう。
裕也がその写真を食い入るように見る、というよりも、ある疑念を浮かばせる写真である事に気がつく。
「この場所、知ってるような気がする」
「それもそうだろう。それは、学校の近くの『化け物山』だからな」
裕也が、あっと驚く。
疑念が一気に吹き飛んだ。
「そうだ、ここ、化け物山だ・・・あんなところに、宇宙人が降りたって・・・」
裕也は、より一層信じられないといった顔をする。
「やっぱり嘘だよ。普通に考えてありえないって」
「何が嘘なんだぁ!?この俺様に嘘をつこうって言うのかぁ!?」
まるで魂の叫びのような、そんな声が、教室だけでなく、廊下に響いた。
「真一、遅すぎるぞ。俺は待ちくたびれた」
誠がまるで何事も無かったかのように、真一に言った。
「おい、シカトするな!一体何があった!」
裕也は無言のまま、真一にアトランチスを渡す。
裕也は手に抱えていたパンとおにぎりの山を机の上に乗せる。
真一はそれを手にとって、読み始めた。
その間に、裕也と誠は机の上に置かれた昼ごはんを、自分の欲しい物だけ取り始める。
「なるほど、確かに胡散臭い話だな」
アトランチスをぱたりと閉じる。だが、その顔は信じていない、という顔ではなかった。
「なかなか興味深い話じゃないか。特に、宇宙人が女の子ってとこがな」
裕也と誠は、またそれかと、ため息をつく。そんな二人の事は気にせず、己が主張を語りだす。
「宇宙人との恋・・・ああ、なんてロマンティック。宇宙からやってきた少女は、偶然出会ってしまった男性と恋に落ちてしまう。だが、遠く離れた銀河の皇女様の彼女を連れ戻すために、沢山の宇宙人がやってくる。だが、固く結ばれてしまった二人の愛を、誰も壊す事が出来ない・・・」
「また始まったよ。っていうか、なんかどこかで聞いたようなシチュエーションだよな」
「まぁある意味、真一の異常さは宇宙人並ではあるけどな」
二人は昼飯を食べながら、真一に毒づく。
「何言ってるんだ!男にとって、一度はあって欲しいシチュエーションだろうが!」
二人の毒にもお構いなしといったところである。
「とりあえず落ち着け。そして飯を食え」
誠が、机の上に置いてある昼ごはんの数々を、真一の方へと押しやる。
それを見て、なんとなく納得したような顔を見せる。
「仕方ない。したがってやるか」
何が仕方ないのか二人には良く分からなかったが、これ以上熱弁されるのも面倒なので、優しさでスルーをしてやる。
「だが、実際に気になったりしないか?」
長い棒状のチョコパンを、丁寧にちぎりながら誠は言った。
「自分達の住んでいる近くに、宇宙人が来たっていうなら、気になるだろ?そこで、今日、化け物山に行かないか?」
誠のいきなりの提案に、裕也の時間が止まる。
だが、誠と真一は、そんな彼を置いて未来へ行く。
「いいねぇ。その宇宙人の女の子が、一体どれだけの美女だったのか、俺は確かめなければならないからな」
まるで神のお告げを聞いたかのごとき口ぶりであるが、唯の彼の趣味である。
「裕也は行かないのか?」
裕也は大きくため息をつく。色々な意味で諦めてしまった裕也
「どうせ行かないって言っても、無理やり連れて行かされるんだろ。だったら、いかないって言っても意味が無いじゃないか」
「お前は気になったりしないのか?ここに書いてあるのが、真実なのか、嘘なのか?」
誠は、宇宙人襲来のページを裕也に見せる。裕也は改めてそれを見せられて、さらに嘘だと思った。
        2
長い六時限授業の学校が終わり、三人は外に出る。
高校生にとって、これほど嬉しい事は中々無いはず。
高校二年生になった彼らは、学校にも慣れ、まさに一番楽しいといえる時期である。
三人はいつも、学校が終われば、近くの駅の周辺にある商店街で遊ぶのが日課である。
だが今日は、いつもと勝手が違っていた。
『月刊アトランチス』。そこに書いてあったのは、俄には信じ難い事ばかりであったが、三人の内の二人は、本当かもしれないと思っている。
だが、そのうちの一人、裕也は疑惑すら持っていない。
「っていうか、絶対嘘じゃないか」
裕也は唯、前を歩く二人の背中を追いかけて行くしかなかった。
大分歩いてから、三人はある場所で歩くのをやめた。
その場所は、宇宙人が来たと言う山のふもとである。
『化け物山』。何故こんな名前になったのか。
それは、かつてこの山には、体中の毛という毛が生えまくった化け物がうろついてるという噂が、
「一年前にあったよな~それ以来、化け物山になったんだよな~」
「あの頃は、噂になって此処に来る奴肝試しに来る奴も多かったけど、最近は見ないよな」
「まぁ、肝試しって言う、時期でもないしね」
そんなたわいも無い思い出話をしながら、三人はどんどん山の上へと登っていく。
そして、あるポイントで三人は同時に足を止める。
「ここじゃないのか?」
三人が何かに気付き、止まった場所。
それは月刊アトランチスに載っていた写真の場所である。
誠が、カバンの中から月刊アトランチスを取り出すと、写真の部分を開き、場所と照らし合わせる。そして、三人が口を揃えて言う。
「ここだ・・・」
写真の部分と三人が見ている場所は、まさに瓜二つ、というよりは、同じ所である。
三人の心が一気に高揚する。
今まで乗り気ではなかった裕也も、徐々に雰囲気に呑まれていく。
「やはりここだったか。そうと分かれば、その宇宙人を見たって言う人を見つけてみよう」
「だな。そしてその人に、その少女がどれだけの萌え要素を含んでいたのかを聞かねばならない」
裕也と誠は沈黙する。
「また始まったよ。意味が分からない。その萌え要素ってのが何なのか」
「何言ってるんだ、この世の中にはなぁ、萌えか、死か、どちらしかないんだよ!」
真一の痛々しい発言に、裕也はため息も出なくなっていた。
「仮に、世の中にその二つしかないのなら、俺は死ぬぞ」
真一が誠を睨みつける。それに対して、誠も睨み返す。まさに、今の二人は一触即発である。
「どうやら、貴様はこの地で果てたいらしいな・・・」
真一が、意味不明な武術と思しき構えをとる。
「俺の萌え神拳を受けて、萌えを感じなかったものはいない」
意味不明な構えに、意味不明な発言。それはもう恐怖を帯びている。
「お前の意味不明な萌えで、ここで果てるつもりは無いし、お前の言う萌え感じるつもりも無い」
「フハハハハハ、この俺様の萌え神拳を見て、ここまでの啖呵が切れたのは、後にも先にも貴様だけだろう・・・」
「学校以外で、真一は一体どんな奴と付き合ってるんだ?」
裕也も、もう二人を止めるつもりは無い。というか、止められない。
「おいお前達、そんな所で何をしている?」
三人は、一斉にその声のする方向を見た。そこには、異常な物体の生物がいた。
「か、顔が・・・モジャモジャ・・・」
それは、顔という顔から毛が出ている、不思議な生物であった。
「これが、宇宙人?」
誠はかなり気の抜けた声を出す。自分の想像のものとはかけ離れた珍生物に、ショックを受けているようだ。
だが、その台詞を聞いた珍生物が怒り出す。
「誰が宇宙人だ!」
「なら、噂の化け物か?」
「それも違う!私は人間だ!正真正銘の人間だ!」
それを聞いても、三人の目は疑惑の光を消さない。と言うか、消えないわけが無い。
だが、裕也は思い出した。ある人のことを。
「もしかして、佐藤(仮)さん・・・ですか?」
佐藤(仮)さんと思われる珍生物(人間?)は、しばしの間考える。誠は、とどめの品物を珍生物(人間?)に手渡す。
それは、月刊アトランチスであった。
「これは・・・そうか、君達は、宇宙人のことを聞きに来たのか」
もうむしろ会えたような気がする。と裕也の脳裏に浮かんだが、心にとどめておくことにした。
「この写真に写っているのは、この山で、そこに出ている佐藤(仮)さんは、あなたですね?」
「・・・そうだ。私が佐藤(仮)だが、私の本名は加藤だ」
『か』と『さ』が変わっただけじゃないか・・・と裕也の脳裏によぎったが、これもまた脳裏にとどめておくだけにした。
「とりあえず、こんな所で立ち話もなんだ、私の家に来なさい」
珍生物でも、宇宙人でもない、一人間の加藤(本名)が森の奥に行く。
ここまで来たら、後には引けない三人は加藤の後に付いていく。
そうして、一つの家に着いた。というか、それは家と判断していいかすら分からない物であった。
「何これ、ロボット・・・?」
そこにあったのは、一つの箱型ロボットであった。しかし、あるのは頭だけ。しかも、その頭は、一昔前にあった、四角い形に、四角い目に四角い口、そして、頭の上からは意味の分からない、グルグルのアンテナが刺さっていた。
「これが我が家だ。どうだ、イカしているだろ?」
加藤はその家を眺めて、悦に浸っていた。
「少なくとも、イカれてはいるな」
と、誠は、加藤には聞かれないように言う。それに他の二人も頷く。
「さぁ、うちの中へ入ってきてくれたまえ」
加藤は、ロボットの口と思われる部分へと入っていった。
「っていうか、こんな家じゃ泥棒とか入られまくりじゃねぇのか?」
「多分、こんな所まで泥棒はこないと思うし、入るのは鼠と蚊だけじゃない?」
こんな所で止まっていてもどうしようもないので、三人はロボットの口の中へと入っていく。
三人は、その口の中に入って驚いた。
「ってか、ちゃぶだいしかねぇじゃねぇかよ!」
その口の中は、外の近未来的(いろんな意味で)な外見とは違い、中は質素。というか、どこかの熱血野球漫画の、まるで魔術師みたいな父親が住んでいる様な場所である。
「まぁとりあえず掛けたまえ」
言われるがまま、三人は座る。だが、かなり狭い。どうやら、でかく見えただけで、中はかなり狭い。かなり狭い。
「で、宇宙人の話だったっけ。君達はどれぐらい知っているんだい?」
「とりあえず、ここに書いてある分は知っています」
「そうか・・・なら、最初から話さなければなるまい」
「い、いや、だからここに書いてある分は―――」
「あれはもう、五年も前になる。あの頃は、私もまだまだ若かった」
誠の肩を、裕也と真一がポンと叩く。二人の目は、諦めろと言っていた。
「あの日はとても暑い夏だった。私はずっと昔から、宇宙人に会ってみたいという願望があった。そんな時、私はこの山で宇宙人と交信するために、この家を作ったのだ」
「この家って、宇宙人と交信する為だったのか・・・」
実際、それでもこの家のセンスはかなり危ないが、話の腰を折らん勢いなので、裕也は脳内消去を完遂させた。
「そして、願いが通じたのか、遂に、私の所に一人の宇宙人がやってきたのだ。その子は、我々の眼から見ると、地球人の女の子の様だった」
真一が目を光らせる。『地球人の女の子の様』『宇宙人』のワードが、彼の萌え本能を目覚めさせる。
「その子は、可愛かったのですか!?」
「その子は、どうやら遠い宇宙からやって来たようで、大分疲れていたのだ。なので、私は、この宇宙人との交信の為に作った部屋を貸してやったのだ」
「いや、人の話し聞けよ、おっさん」
「彼女は相当疲れていた様でな。一日ずっと寝ていたのだ。次の日、彼女は私に、宇宙のことを沢山教えてくれた。そして、三日目になったら、置手紙と一緒に消えていた」
「な、何て書いてあったんですか?」
「『ばっははーい』と」
三人は今、猛烈に同じ事を考えていた。
「帰りたい。そして、今日と言う日をデリートしてしまいたい」
「さぁ、これで宇宙人の話は終わりだ。それから彼女は一度もここに来ていない。もう、違う銀河の彼方に行ってしまったのかな・・・」
加藤は、遠い目をしながら窓の外を見る。だがその時、誠があることを思いついた。
「もう一度交信してみたらどうですか?」
加藤は悩む。そして、悩み明かして言う。
「そうだな。君達がここに来たのも何かの縁だ。交信してみるか」
そう言うと加藤は、立ち上がり外に出て行ってしまった。三人もそれの後追う。
加藤は、交信機の裏へと回ると、一台の自転車を出した。その自転車は、交信機についている無数のケーブルと繋がっていた。
三人は、嫌な予感がした。と言うか、もうやる事はあれしかないと思っていた。
「それじゃ、誰かこれに乗ってこいでくれないか?」
裕也と誠が、同時に真一の事を見る。真一は二人の視線を感じ動揺する。
「なんだよ、もしかして、俺にやれっていうのか?」
真一が二人の言いたい事を察したようだったが、誠にはまだ策があった。
「超美少女の宇宙人」
まさに魔法の言葉。
まるで水を得た魚のごとく、自転車の上にまたがりグリップを握る。
「よし、やるぞ!俺は、昔競輪選手になるつもりだったんだ!」
「単純な奴・・・」
あまりの単純さに、むしろ尊敬すら覚える裕也。
「馬鹿とハサミは使いようってな」
真一が自転車に乗り、恐ろしいスピードでペダルを漕ぐ。
「うぉぉぉぉ!萌えパぅワァァァアマァァァァックス!」
ペダルの恐ろしいスピードが、真一の後ろに竜巻を作っている。
「す、すご・・・あいつって、いろんな意味で恐ろしいな」
裕也が呆れ顔で笑う。だな。と誠がそれに相槌を打つ。
その時、交信機のアンテナが、ぐるぐると回りだす。
「おお、交信機が動いたぞ!がんばれ!」
それを聞くと、真一が更にスピードを上げる。
誠と裕也は、真一のがんばりようを見て、正直哀れみを感じずにはいられなかった。
が、その時、一筋の光が空を流れる。その光は、轟音と供に、近づいてくる。
「お、おい、なんかやばいぞ」
誠は、段々と近づいてくるその変な物体に、恐怖を感じる。それは、裕也も同じだった・
二人の予感は的中した。その光は裕也達の居る所に真っ直ぐ向かっていたのだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
裕也は身をかがめて絶叫する。だが、その光は、裕也達の手前で止まっていた。
裕也は、恐怖から生還したと言う気持ちだけで一杯になり、魂が抜け去っていた。
誠は、その宇宙船に近づくと、その宇宙船を見上げた。その宇宙船は、ある物に凄く似ている事に気がついた。
「こ、これは、ガンダ―――」
誠が言いかけたとき、コクピットらしき部分が開いた。そして、その部分から人が出てきた。
「うっひゃ~時間かかったけど、やっと地球に来れた~」
コクピットから出てきたのは、加藤の話どおり、紛れも無い女の子であった。
「しかも、美人じゃないくわぁ!」
その少女からコクピットから降りて来ると、すぐさま真一が近づく。
「やぁ、こんにちは。僕の名前は須藤真一。趣味は読書。君は?」
今の彼は、普段からは想像も出来ない程紳士的な態度だ。
「え?あ、あたしは、アリーだけど・・・ここは、地球、だよね?」
「そうです。緑と海に包まれた宇宙の神秘、地球です」
「何が宇宙の神秘だよ。意味分からん・・・」
裕也は、真一の情緒不安定な言動のおかげで目を覚ました。
「宇宙人は本当にいたのか・・・凄いな」
感慨深くアリーを見つめる誠の後ろで、加藤が小刻みに震えている。
「アリー、久しぶりだぁ!」
加藤は涙を流しながら、アリーの手を掴む。
「おお、加藤さん。お久しぶりです~」
二人は目に涙を浮かばせているが、何故か感動できない。
「なんて緊張感の無い再会のシーンなんだ」
裕也は突っ込む気力すら失せる。そんな彼をよそ目に他のメンバーはアリーに話しかける。
「俺、もう帰るよ。なんか、凄い疲れたし。明日感想聞かせてよ」
裕也は誠たちを置いて、先に帰路へと急いだ。
「なんで俺の周りは、こんなよく分からない事が起きるんだろ?」
        3
「いやぁ、昨日は凄かったなぁ」
記憶の中の思い出のページをめくり返して悦に入る真一。
「それで、あの後、結局どうしたわけ?」
誠は相変わらずジャンルの分からない雑誌を読みながら答える。
「あの後、アリーから色々聞いてな。この宇宙の事とか、彼女のあの宇宙船の事とか」
裕也はあの白い宇宙船を思い返す。
「あの絶対日本の玩具会社が作ってそうな連邦の白い悪魔でしょ?」
「日本の映画を観て好きになったと言ってたぞ。やはりあの素晴らしさは宇宙共通らしい」
そんな誠をよそ目に、真一はポケットから写真を取り出した。
「俺なんか、彼女の住所を聞いたぞ!今度暇があったら行くつもりだぜ!」
そして、真一はその写真のアリーの部分に唇を重ねる。かなり哀れである。
裕也はそんな真一を見て、頭を抱えてため息をつく。
「一体どうやってそこに行くんだよ。彼女、宇宙人なんでしょ?」
「え、どういうことだ?」
裕也の顔が、まるで氷河期かと思わせるように凍りつく。
「いいや、何でもない。もう、どうでもいいや。それで、アリーはその後どうしたの?」
「アリーは今ままで地球の場所が分からなかったらしくってな。電波を出すまでずっと待っていたらしい。で、電波出たので今回は場所を完璧に覚えたから、時間が無いからまた来るよ~って言って帰ってしまったぞ」
「それよりも、お前なんで昨日途中で帰ったんだよ」
写真から唇を離した哀れな真一が裕也を問い詰める。
「あそこにあのまま居たら、俺は多分死んでたよ」
「もったいねぇなぁ~お前。昨日は俺、彼女のことを考えて眠れなかったぜ~」
真一があらぬ妄想を描いて悦に入る。
「何を考えてるか知らないけど、たぶん実現しないから止めたほうがいいよ」
「それに、お前が眠れないのはただ単にお前が朝方までラジオを聞いてるからだろ」
真一の妄想回路が停止する。代わりに萌えん算システムが活動を始める。
「違う!断じて違うぞ!昨日は彼女の萌えポイントを計算していたのだ!」
「何、それ?」
裕也の顔が疑惑で歪むが、真一の暴走は止まる事を知らない。
「萌えポイントとはな、あらゆる角度から見た少女の萌え度を計算していき、ルックス、性格、生い立ち、趣味、それらを全て一定のポイントを与えていく事で算出されるものだ。ちなみにアリーは五万八千九十九だ。ちなみに平均ポイントが一万だから、彼女はまさに萌えの界王様だ!」
真一の体から不思議な赤い炎が出ている。こうなった彼はまさに最強である。
「っていうか、萌えの界王様って界王星に住んでるのか?」
「そんな事どうでもいいよ・・・」
裕也ががっくりと肩を落とすと、机に突っ伏すように倒れこんだ。

       

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Neetsha