Neetel Inside 文芸新都
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朝酒日記
子猫のジャニスと強いお酒のお話(パート3、そして世界の重荷)

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壊れかけた蛍光灯が瞬くたびに、僕の頭はチカチカする。偏頭痛持ちな上にそれをアルコールで増長させてるせいだろうか。苦しみを糧に僕は生きているらしい。それは世の中の人も同じだろうけど、僕とは違う種の苦しみで、理解し合うことはできない。
さらに僕は色々な問題を抱えていて、それは誰ひとり背負いきれないほどのものだ。世界を背負って支えているアトラスだって、僕の問題は背負い切れないだろう。例え僕の問題が世界の上に乗っかっているとしても。

ある夜にひどい偏頭痛と二日酔いと胃痛で寝込んでいると、一匹の猫が部屋に舞い込んできた。白と黒が綺麗に分かれた模様の子猫で、餌を探しているらしい。
僕が床に座り込んで「この部屋にはアルコールしかないぜ。腹減ったんならほかに行きなよ」と言うと、飛びついて腕だとかを舐めてきた。
仕方がないし何かあるかなと探してもやっぱりお酒しかないので、僕が飲むついでに与えてみる。錆味のウォッカで、これなら臭いを嗅いだだけで逃げるだろうという算段で。
ところが、スンスンと臭いを嗅いだ後お気に召したのか、ぺろぺろと舐め始める。コップの中身は次第に減っていく。僕の飲む分が無くなるから取り上げると、牙を剥いてきた。「こりゃあなかなかやる奴だ」と思い、コップにもう一杯入れて乾杯。結局、一本と少し空けるまで一人と一匹で飲んだ。

次の日の朝。いつものように床で泥酔していたらしく、腹筋を使って起きようとするけれども体が持ち上がらない。久々に悪霊が部屋にやってきたか、と目を開けると昨日の猫が胸の上で伸びて寝ていた。少し安心。ちなみに、メスらしい。
僕が「おい、朝だぜ。そろそろ起きなよ」と言いながら突くと眼を開けて、こっちに酒臭い息を吐いて「みゃあお」と鳴き、千鳥足で降りた。
「昨日はいい飲みっぷりだったぜ、なあ?」と言うと、ツンと澄ました顔をして開けっ放しの窓から出て行った。何が気に食わなかったんだろう?

それからたびたび彼女は僕の部屋に来た。ウォッカやウイスキー、テキーラだとか、強い酒が好きらしい。特に好物なのはサザンコンフォートらしいから、僕は彼女にジャニスって名前を付けた。

それから何年かが過ぎたけど、ジャニスはどれだけ経っても小さいままで、成長していないらしい。多分お酒の飲み過ぎなんだろう。僕の責任もあるかもしれない。だけれど、好きなものを自由気ままに食べたり飲んだりできるっていうのは幸せの一つだ。僕はがんじがらめだから、ジャニスのようになりたい。気ままな子猫のように。

僕がそんな事を酔っ払ってジャニスに言うたび、彼女は「にゃあお」と一声鳴く。分かってるのか、分かってないのかはわからないし、僕も彼女の言葉はわからない。まあ、なんとなしに意思疎通はできてる気がするし、これでもいいかな、と思う。

僕の問題の話だった気がする。世界全てより重い、世界の上に乗っかった問題。結局、こんなものは軽いもので、猫と一緒に強い酒を飲めば忘れるようなものかもしれない。バーボンとオレンジと熟れた桃。そんなのを混ぜた50度のお酒を飲んでいれば。

そして今日も彼女は窓からやってきて、にゃおんと鳴く。

       

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