Neetel Inside 文芸新都
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女たちの国
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ある騎士の時代のお話…

我がレミントン家は代々
オッセウスハウアー王家嫡流に仕える女騎士の一族。
我が先祖ベアトリクス公は数多くの武勲を立て、
他の軍事貴族を押しのけ、王の直属の臣下の任を賜った。

幸運にも我が一族は女傑に恵まれ、
ベアトリス公の長女であった祖母、そして
その長女の母…そして母の長女である私グリゼルダと…
その名誉に恥じぬよう誠心誠意 王家に尽くしてきた。

だが、それも多くの軍事貴族の誇りに傷をつけたらしい。

「王直属の臣下の任をたかが女如きが…!」

「他国の騎士共から この国の男たちは
 女に劣る軟弱者と舐められておると聞く!」

「たかが成り上がりの女狐の一族めが…
 ただでは済まさぬぞ!」

「王の股座をたぶらかす売女め
 いつかこのしっぺ返しを喰らうぞ」


王は代々我ら一族の忠義を認めてくれてはいたが…
貴族たちも 民も…女の騎士を認めてはくれないらしい。


貴族たちの鬱憤はいつ爆発するか
時間の問題だった
恐らく、私の代までは持たない。


予感は的中した。
王は恵まれず、男子を産まず崩御した。

その日の内に、貴族たちは
すぐさま王家の分家筋の男子たちを
次代の王として担ぎ上げた

一ヶ月もたたぬうちに国は内乱に陥った。
神輿に担ぎ上げられた分家の幼子たちが
「男子」に生まれたばかりに
次々と暗殺されていった。

そして、たった一人の幼子のために
何千何万もの民が死んでいった

戦争は何年も、何十年も続いた…

「神よ!玉座に男を戴くために
 なにゆえこれほどの血を…!
 命を踏み躙られたのです!!」


私は天に叫んだ。
無力な私はただこの国の滅び行く様を
見つめることしか出来なかった。
唯一、出来たことは
王の落とし子…長女・フレデリカ王女殿下を
他国へ亡命させたことぐらいだった…

「グリゼルダ…っ いやだよぉ…」

今でもはっきりと思い出せる…幼き王女殿下を
敵の目を掻い潜り、落ち延びさせたあの日のことを

「殿下は王の血を引くお方…!
 父君がそのまた父君が…
 あなたに託した その血…!
 けっして途絶えさせてはなりません!」

弓矢を受け、痛みできしむ脇腹を抑えながら
私は精一杯の笑顔を向け、殿下を送り出した。

「約束する!!いつか絶対、あなたを迎えに来る!!
 貴方を守れるだけの力を身に着けてくるから…!!
 それまで 絶対に死なないで!!
 グリゼルダーー!!」

幼き王女殿下の泣き顔が 健気な声が今でも耳から離れない…

「はは……『私を守れるだけの力』だなんて……なんて恐れ多い…」

もはや思い残すことなんてない。

「私には…過ぎた言葉にござりまする…」

私の血が沸き立ち、心を温もりが襲う。
その温もりが私の目に押し寄せ、大粒の涙が
その目から零れ落ちる……

主君にそんな言葉をかけてもらえて死ねるなんて……
私はなんて幸せな臣下なのだろうか。

「母上……おばあさま……そしてひいおばあさま……
 ベアトリス公……これがご先祖様が
 私に託してくれたものなのですね……ありがとう……
 私の代まで絶やさずに 引き継いでくれて
 本当にありがとう……」


あれから私は傷を負いながらも
なんとか数年、数十年の時を生き延びた。
残された部下や戦友たちを失い、
戦線を後退しながらも、今日という日を生き延びた…

「この玉座だけは…守り抜いてみせる!
 私が愛した王家のために!」

そこにあったのは私の最後のあがき。
もはや瓦礫の山の中に孤島のように
点在するだけの玉座。王家の嫡流が代々守り抜いてきたこの玉座。

「貴様らのような力の亡者どもの!!
 薄汚い尻で踏み躙られてたまるものか!」


亡者どもが雪崩のように私を押しつぶそうとした
その時、有り得ない筈の奇跡が起こった。

「オッセウス王家の民よ!!貴族共よ!
 貴様らの神は
 玉座は女の股で血塗られてはならぬ!と
 仰せになった!! だが、どうだ!!
 貴様らが男の尻を据え置こうとしたのが
 この有様よ! 今や玉座どころか、国中が血塗られてしまった!!
 国中を流れる血の大河には今や男も女も混ざっている!!
 大河に流れる紅(くれない)をとくと見よ!
 その一滴に男女の違いがあろうか!!
 この国に流れているのは人間の血だ!!」


今までに聞いたことのないほど凛々しい声…
だが、その声に何故か私がかつて胸に抱いた
あの尊きお方の面影があった。
王家の長女・フレデリカ王女殿下の帰還であった。


「私は先代の王の遺志を継ぐ!!
 たとえ玉座を血で穢そうとも
 この国をもう二度と血で汚しはしない!!
 それが王たるものの宿命だ!!」

殿下に襲い掛かる力の亡者たち…
だが、殿下の槍と剣の前に
亡者たちは次々と血の海へと沈んでいった。
最早その太刀筋は私など遠く及びもしないだろう。


「グリゼルダ…」

「フレデリカ王女殿下…?」

王女殿下は白馬からおり、私の手を握り締めて下さった。

「遅くなってすまなかった。
 私の代わりによくぞ玉座を守り抜いてくれた…
 今度は私がおぬしを守る番だ!」

数十年の時が経ち、私を守るために
武勇をお鍛えあそばされた王女殿下の…
我が主君の美しい姿がそこにはあった…


「で…陛下っ!」

「まだそう呼ぶのは早いぞ、グリゼルダ!
 先ずはこやつ等を片付けてからだ!」

勇ましきその目の先には、権力の亡者たちの姿がある

「おのれ…女ごときに何が出来る!!」

「そうだ!たかがしにぞこないの女騎士と
 日和見の王女殿下に!」

フレデリカ女王陛下のお姿を前に
先ほどまで私の目に強大な魔物のごとく、映っていた
亡者どもの顔もまるでちっぽけな汚らしい盗賊のような
青ちょびた面構えとなっていく。

「勘違いするな。玉座を守り抜いた歴戦の女騎士の剣と…
 その女騎士を守るために強くなったこの私の槍が相手だ。
 己の欲得だけを闘志にする者どもの相手ではないと
 いうことをその身に教えてやる!! そうだろう?
 グリゼルダ。」

答えはいわずもがなだ。

「ええ、その通り!その穢れた魂、
 我が女の剣と槍で成敗してくれよう!」


もう怖くは無い。

私グリゼルダ・レミントンは
フレデリカ・オッセウスハウアー女王陛下の臣下として
忠義を尽くし、戦うことを誓ったのだった。


       

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