Neetel Inside ニートノベル
表紙

ゴールドブレット(番外編小説)
フィーリングカップル

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※少年VIPで連載中の「ゴールドブレット」の小説です。最近本編が暗いので息抜き的なものです。
※本当はエイプリルフールにアップしようかと思ってましたが、完成したのですぐに上げたくなりました(また季節外れ)
※ふざけた内容なので、死んでたり退場した人も出てきます。
※なのでしばらくしたら消します。
※第二総督は本編でちょうど登場するかしないかのところだったのでエントリーしてません。





【もしも中央政府の総督達で「フィーリングカップル」をしたら……編】



“サイキックを人為的に増やす唯一の方法は遺伝”

 という事実は、遺伝が100パーセントではないことと個人の意思尊重のため、今まであまり活用されてこなかった。
 だが、今後の強いサイキックの人材確保にいよいよ不安が出てきた中央政府では、PSIのランクが高い者同士でカップルを組み、半ば強制的に子孫を残すことを法案として決定した。



「ーーというわけで、今からフィーリングカップルというものを行う!」

 上面に電子画面がついた大きなテーブルに掛けているのは男4人女4人。
 サクヤ、リン、美月、時雨、ライ、シキ、本郷、榊の計8人のメンバーだ。
 進行役として発言している時雨はさらに続ける。

「今ここにいる者達が中央政府内で上位の強さを持つ者達だ。よって我々には子孫を作るという義務が発生している! これは中央政府全体の総意だ。あまり気は進まないが未来の戦力確保のために皆には協力をしてもらおう」

 電子テーブルに明かりが灯り、ハートが飛び散るような画面が映し出された。
 参加者の席にはそれぞれ4つずつ、異性の名前が書かれたボタンが用意されている。

「では早速、この中から選ばなければならないとしたら誰と子作りするか。カップルになりたいと思う相手を選んでボタンを押してくれ」
 
「…………」

 全員、しーんとなった。
 なんだこの状況? いつの間にそんなこと決まったっけ? という疑問があるような気もするがここで唐突に見えない強制力が発動!
 メンバーは全員大人しくフィーリングカップルに参加するしかなかった。


〜1回目♡シンキングタイム〜


「……誰と子作りするか、ねぇ……」

 ライは悩んでいた。
 4つ選択肢があるとはいえ、それは彼にとってはほとんど意味を為さなかった。

「こんなん消去法じゃねーか……」

 まず美月は有り得ない。あのヤバイ女の相手をするのだけは死んでも避けたい。同じく時雨も……。
 この二人は周りの意見を全く聞かず自分の意思を貫き通すところが非常に苦手だ。
 この二人からは選びたくない。

「だからといって……」

 残ったのはサクヤとリンだ。
 サクヤは正直年が離れ過ぎているし、これまで妹のように可愛がってきたので全くそういう対象という感じではない。
 と、なると……。

「リンしかいねーよな」

 リンとはそんなに長く接したわけではないが、少し関わっただけでもいい奴そうなのは伝わってくる。
 サクヤが一番信頼している存在のようだし、少し頼りないところが庇護欲をくすぐられるような気もする。
 何より見た目が結構タイプだ。

「一択だな」

 ライはそう呟くと、すぐに手元のボタンを押した。



「……どうしようかな」

 シキもボタンに手をかけ悩んでいた。
 悩んでいるのは二つのボタン。どちらを押すか、迷いすぎて全く決まらない。

「カップルになりたい相手……。子作りしたい相手……?」

 迷っている二人とそれぞれカップルになった状況を想像してみる。
 一人は想像するだけで恥ずかしくて赤面しそうになる。そんな相手と子作り? いやいやダメだこれ以上は想像しちゃいけない気がする。
 もう一人は……。いいね。カップルになったら正当にいろいろし放題ってことだよね。
 いいよね、すっごい楽しそう。
 でも……。

「う〜〜ん……!」

 悩みに悩んだ末、シキはようやく一つのボタンを押した。


 その頃、榊はほとんど悩む素振りもなくボタンを押していた。
 同じく本郷も「……フンッ」と不敵な笑みをもらしつつ即決でボタンを押す。


「……なんだよ、こんな強制的にカップル作ってどうすんだよ。マジで」

 サクヤは頭を抱えて困り果てていた。
 「子作り」という強烈なワードに、気が遠くなるような思いだった。

「私、12歳なんだが……。いくら総督っつってもこれに参加する義務あるのかよ」

 納得のいかない気持ちだったが、今さら一人だけ降りるわけにはいかなかった。
 とにかく、カップルになってもいい相手を決めるため、なんとか無理矢理に頭を切り替える。

「この4人のうち誰かと……」

 サクヤは対面に座る男性陣を見回した。
 そして一番端に座る本郷の姿が目に入った途端、サクヤは身震いする。

「万が一あいつと組むことになったら……ゲェ」

 イヤな想像をしてしまって一瞬で吐き気がした。
 奴だけは絶対に選ぶことはないからあり得ない想像ではあるが、寒気がするのを止めることはできなかった。

「……それ以外を選ぶとしても、だからといってそんな変わんねーな」

 榊も論外。こいつもただのおっさんだ。つーか、誰だよ。
 マシといえばシキかライだが……。

「……」

 どちらにしろ、今後子どもを作る相手としてカップルになること自体がサクヤにとっては嫌でたまらなかった。
 本気で嫌だし絶対に選びたくはないが、それでもどうしても誰かを選ばなければいけないとしたら……?

「……」

 サクヤはチラリと相手を見た。
 ……こいつを選ぶのは本当に本当に嫌だ。

「……」

 サクヤはかなり葛藤しながらもほんのわずかに頰を染め、ボタンをそっと押した。


 一方の時雨。
 時雨は一応この企画を主導している立場ではあるが、それは未来の中央政府の安泰を見据えた強い責任感からのものであって、別にノリノリで相手を選びたいという訳ではなかった。
 もしもこの場にハヤトがいれば迷うことなくボタンを押しているだろうが、生憎彼は既にこの世にいない。

「……わかってるさ」

 切ない気持ちになりながらも自分の前に用意されている4つのボタンを見つめる。

「…………」

 ハヤトは許してくれるだろうか……。

 複雑な思いを抱きながら、時雨もボタンを押した。


「フッ、迷う要素がなかったわ」

 周りのメンバーが悩みに悩み抜いている中、美月は既にボタンを押し終わり、他の者の様子を観察していた。
 相手選びには迷わなかったが、選んだ相手が自分のボタンを押しているかは微妙だ。
 だがなんとしてでも意中の相手と結ばれたい。
 美月はまだボタンを押していないであろう右隣のリンを盗み見する。
 ものすごく迷っているーーというか葛藤しているような様子だ。

「何をそんなに悩んでるのかしらね。バカみたい」

 美月は冷ややかな視線を向けつつ、リンの押すボタンに注目した。


「うう……。ど、どうしよう」

 リンは美月の視線には気付かず、ひたすら悩んでいた。
 カップルになりたい相手……恋人にしたい相手……好きな相手……。子どもを作ってもいい相手……。
 思い浮かんでくる相手が決まっていることに自分でも驚いた。
 ただそれを認めて、ボタンを押してしまって本当にいいのか悩んでしまう。

「押して本当にカップルになっちゃったら……ど、どうしよう……犯罪じゃないかな? ていうか、そんな相手に好意向けるってヤバくない? 本人にも周りにもバレたくないよ〜……」

「なら、別な人を選ぶべきじゃない?」

 唐突に声をかけられた。
 リンの心のつぶやきは外に漏れ、隣の美月にも聞こえてしまっていたようだ。
 美月はリンのほうに身を乗り出しながらさらに続ける。
 
「そうやって葛藤してるのに、結局犯罪に走ったら……引くわ。相手があなたを選んでなかったら、ヤバい人ってのだけがみんなにバレることになるわよ?」

 くすくすと美月が笑い声をあげる。

「う……! よ、余計なお世話だよ!」

 リンは真っ赤になりながら反論すると、美月から見えないようにボタンを手で隠す。
 そしてそれからもかなり長い時間をかけて考えたのち、ようやく結論を出してボタンを押した。


〜1回目♡告白タイム〜

「ふむ、全員ボタンを押し終わったようだ」

 準備が整った合図である「OK」の表示が電子テーブル画面に映し出されたのを見て時雨が言った。

「これより1回目の告白タイムを始める。それぞれが誰を選んだかやカップルが成立したかどうかを、この電子テーブルが自動進行で発表するぞ。では心してくれ」

 時雨はそう続けると、電子テーブルの「スタート」のボタンを押した。

『フィーリングカップル♡1回目告白タ〜イム!』

 不釣り合いに甲高い自動音声が流れる。
 8人は静まり返っていたが、それは皆内心ドキドキしていたからかもしれない。
 たとえ限られた中だとしても、その中で誰を選んだかは間違いなく自分の意志だ。
 それを相手に知られてしまうことや、自分が異性から選ばれるかどうか、またカップルが成立するかどうか等はやはり緊張せずにはいられない。

『ではまずは、サクヤさんが誰を選んだかを見てみましょう』

 自動音声が流れる。
 同時にサクヤの真ん前の電子パネルにピッと明かりが灯った。

「は……!? 私!?」

 いきなり自分から始まると思っていなかったサクヤは大いに動揺した。
 電子パネルはサクヤのそんな動揺はお構いなしに、ピッピッと規則的な電子音を立てながら丸い明かりを灯しサクヤの意中の相手に向かって伸びていく。

「ぎゃああ! やめろ、ちょっと待て! タイム! いきなりこんなんダメだ! ……やっぱ変える! 相手変えるから! これ無し無し!!」

「サクヤ、うるさいわよ。ちょっと黙って」

 美月がサクヤの方を見もせずに冷めた目をして言い放つ。
 動揺しまくったサクヤはそんな声に反応する余裕はなく、必死に電子パネルを手で隠そうとするが無駄な足掻きだった。
 丸い明かりはサクヤのちょうど真正面に座っている人物に伸びていった。

「えっ……?」

 向かってくる明かりに驚きを隠せない表情のシキの前で、それはピコーンとさらに大きな音を立て止まった。

「ほ、ほんとに……?」

 信じられないような思いでサクヤから伸びた明かりを見る。

 あくまでもこの4人の中から選ばないといけないという限定的な条件だが、サクヤは自分を選んでくれた。
 確かに本郷や榊はないだろうが、ライとはかなり親しいはずだ。恋愛感情ではなかったとしても好きか嫌いかで言えばおそらく好きな相手だろう。
 なのにそのライよりも自分を選んでくれた。

 サクヤは自分とならカップルになってもいいーー子作りをしてもいいと思ったということになる……。

 そこまで考え至ったところでシキは顔が熱くなってくるのを感じた。

「ち、ちが……! これは……! お前正面に座ってたから最初に目についた奴押しただけだし! それにどーせなら年が近いほうがいいかって思っただけで別に……!」

 シキが少し赤くなったのに気づいたサクヤはものすごい勢いで必死に言い訳を並びたてたが、そんなサクヤの顔はシキ以上に真っ赤だった。

(ちょ……、なんとかしてくれこの空気! カップルになるのってこんな恥ずかしいのかよ! この後どう接すれば……!)

 サクヤの思考が、この先シキとカップルになった後の想像に移ったとき、目の前の電子パネルが急に真っ暗になった。

『ズゴーーーン! 残念! カップル不成立〜!』

 画面いっぱいにハートの割れた絵が移し出される。

「…………え」

 サクヤは呆然と画面を見る。
 不成立?
 つまり、シキはサクヤを選んでいなかったということだ。
 じゃあ赤くなってたのはなんだったんだ?

「…………」

「アハハハハハ! サクヤ一人で何騒いでんの。最高」

 隣の美月が爆笑する。
 呆然としていたサクヤだったが、その声で一気に羞恥心が膨れ上がってくるのを感じた。
 恥ずかしさでさっき以上に真っ赤になる。

「ご、ごめん比奈ちゃん! まさか比奈ちゃんが選んでくれるとは思わなくて……! 俺もやり直したいよ! 今の無しにしよ! 俺、断ってなんかないから……!」

『ではそのシキさんと、そしてライさんは誰を選んだのでしょうか? 見てみましょう』

 ピッ、と今度はシキとライから同時に明かりが出た。

「!! 待って!」

「……お。これは同じ相手ってことか」

 急に名前を呼ばれたライが身構える。
 自動進行の画面はシキの叫びを当然無視した。
 無情に進む明かりは、同時に一直線に同じ方向へと伸びていった。

 ピッピッピッピッ……ピコーン!

 二人からの明かりが止まったのはリンのところだった。

「……! うぇ……!?」

 同時に二人からの求愛。
 想定外だったリンは、嬉しいような困ったような複雑な表情で固まった。

「う……うそ」

 シキが選んだのは自分だった。
 そして、それほど関わったことはなく迷惑しかかけてないような気もする第四部署の総督も自分を……。なんで??

 頭にハテナマークが浮かぶリンだったが、それでも本音はめちゃくちゃ嬉しかった。
 シキは絶対サクヤだと思っていた。
 嬉しい……けどこれは本当にシキの本心なのか?
 さっきサクヤからアプローチを受けたとわかった時点でシキは即座にやり直すと言っていたが……。
 サクヤには選ばれないと思っていたからリンを押したのだろうか?
 それはそれで複雑だし、仮にもしもこれが彼の本心だったとしても、サクヤのことを考えると心から喜びきれない自分もいる。
 それに……。


「……へぇ」

 その頃シキは意外そうにライのほうを一瞥していた。
 第四部署の総督がリンを……?
 ふ〜〜ん……。

 なんともいえない感情が湧き上がる。
 この二人がくっついたらなんか嫌だな……とも思ったが、しかし今はそれどころではなかった。

「比奈ちゃん……?」

 サクヤの様子をちらりと伺う。サクヤは先程とは打って変わって感情を消し「スン……」とした状態で座っていた。
 シキのほうに一切興味を向けない。

(こ、怖いな……)

 そんなことを思った時点で、テーブルの電子画面がさっきと同じように唐突に真っ暗になり、同時に自動音声が響いた。

『ズゴーーーン! 残念! カップル不成立〜!』

 真っ暗になった画面に、再びハートの割れた映像が移し出される。

「……おぉ? どっちも不成立か。じゃ誰だよ」

 ライが平然とした様子で呟く。
 消去法で選んだライにとってはそれほどショックな結果ではなかったが、シキとも不成立なのは少し意外だった。
 ただ、そうなると残る可能性の相手といえばーー。

「だよね。やっぱりね」

 シキは予想していたかのような表情だった。
 リンには散々ひどいことをした過去があるのでリンがシキを選ぶのはあり得なかった。まぁ、それはサクヤにも言えることだが……。
 それにリンがボタンを押すであろう相手ーー好きな相手は大方予想していたのだ。

『ではそのリンさんと、そして時雨さんは誰を選んだのでしょうか? 見てみましょう』

「あわわ……」

「フン……」

 狼狽えるリンと、平静を装ってはいるが僅かな照れを隠せない時雨が声を漏らす。
 二人から伸びた明かりは一直線に榊のところへと向かっていき「ピコーン!」とひときわ大きな電子音を鳴らして止まった。

「……! まじか……時雨統括。いや、アヤ……!」

 榊は時雨から自分のところへと明かりが伸びてきたのを確認した瞬間、感激しているようだった。
 熱い眼差しを向け、おそらく二人の間の愛称と思われるもので呼びかける。
 ……なんとな〜く他の誰も入っていけないような居心地の悪い空気がそこに流れる。
 リンからの明かりについてはガン無視だった。

「……おい、なんだこれ」

 二人の生暖かい空気に耐えきれなくなったサクヤがボソッと呟く。
 それと同時に電子画面はリンから伸びた明かりが消え、榊と時雨の二人だけが繋がったままの状態となり、そこに大きくハートマークが表示された。

『おめでとうございます! 榊さんと時雨さん、カップル成立です〜!』

 シャラララ〜ンと効果音が流れ、電子画面にはお祝いムードのクラッカーやハートのエフェクトが踊った。
 一組目のカップルの誕生だった。
 榊は照れながら喜び、時雨もクールな表情を崩してはいないが、わずかに穏やかな顔を見せていた。

『では、無事カップルとなった二人は手を繋いでカップルシートへどうぞ』

 自動音声にそう促されると、彼らは席を立ち、少しのためらいを見せたもののお互いに手を取り合う。
 そしていつの間にやらすぐ隣に用意されていた「カップルシート」と呼ばれる二人掛けの小さなソファーに座った。

「……茶番ね」

 それまで黙って見ていた美月が、やってられないといったような感じで呟く。

「な〜んか最初からこれが目的だったんじゃないの? 死んだ仲間のことがあるからお互いに歩み寄れなかったけど、強制力の力を借りて勢いでカップルになっちゃおう〜的な」

「……なんだと!?」

 その言葉に、時雨がすぐさま反応する。

「私は別にそんなつもりは一切ない。意図としてはもちろん未来のための子孫反映が最優先であり、色恋的なものは付加的要素だ! 自分が選ばれないからといって一番にカップルになった私達への嫉妬か!?」

「……はぁ!? バカじゃないの。そんな自分より弱い相手とくっついた人に嫉妬するわけないでしょ? ただやり取りがクソ寒くて見てられないだけよ」

 一気にピリついた空気がそこに流れる。
 美月と時雨は互いに睨み合い、一触触発といった感じだった。
 見かねたライが口を挟む。

「おいおい、平和的にいこいぜ……。強い者同士が揉めないためのフィーリングカップルだろ? 相思相愛でカップルになれるのは理想じゃねーか。文句はねーはずだろ」

「フン……、文句はないけど寒すぎて引いてるだけよ」

 美月はプイッと顔を背けると、それ以上は口をつぐんだ。
 全員がシーンとした状態になる。

「…………」

 そんな空気の中、リンは人知れず後悔していた。
 悩みに悩み抜いたが土壇場で怖気付き、シキではなく榊のボタンを押してしまったことだ。
 榊のことは特になんとも思ってはいなかったが、「かなり年の離れた子ども、しかも自分の生徒を選ぶ」という事実が恥ずかしくなり、最後の最後で躊躇してしまったのだ。
 直前に美月に言われた言葉もかなり効いた。
 シキのボタンを押せなくなってしまったので、取り敢えずそれ以外で一番関わりが深い同僚の榊を押してみたのだが……。

「……せっかく選んでくれてたのにな」

 もしもリンが怖気付かず、自分の気持ちのままにシキを押していたら今頃はカップルになっていた。
 やはりどうせなら気になる相手とそうなりたい……。

『1回目でカップルが成立した人は以上です。続いて2回目♡シンキングタイムに入ります』

 自動音声が響いた。

「お、もう2回目か。……どうするかな」

 手元のボタンを見ながらライが呟く。

 それぞれの思惑を胸に、フィーリングカップルは2回目へと続いていった。


〜2回目♡シンキングタイム〜


「あいつはもう絶対押さねーからな」

 サクヤは未だにムスッとた様子で目の前のボタンを睨みつけていた。
 別に特段シキとカップルになりたいわけではなかったのに、4人の中から選ぶしかなくて仕方なく押したらフラれたみたいになってしまった。腹が立つ。
 さっきあれだけ「やり直したい」と言っていたシキは、次はサクヤを押すかもしれない。だがシキが選んだリンもまだ残っているので、ああは言ってもやはりリンを押す可能性もある。

「…………」

 いや、どうでもいい。

「ライにしよー」

 サクヤは悩まずボタンを押した。


〜2回目♡告白タイム〜

『フィーリングカップル♡2回目告白タ〜イム!』

 自動音声が鳴り響く。
 1回目の時のようにシンキングタイムに時間はかからなかった。
 皆それぞれに押す相手はほとんど決まっていたようだった。

『ではまずは、本郷さんが誰を選んだのか見てみましょう』

 ーーえっ!?
 その声で全員がそういえば……と一気におっさんに注目した。
 1回目は全く動向が不明だった。
 本郷がカップルになりたいと思う相手……?  とても想像できない。だが逆にすごく気になる。
 彼は一体誰を押しているのか。

「フッ……」

 意味深に笑う本郷から明かりが伸びる。
 ピッピッピッ……と進んでいく先にいた人物ーーそれは……。

「ぎゃあああああ! 来んなぁぁー!」

 サクヤが恐怖の声を上げる。
 本郷からの明かりは一直線にサクヤの元へと伸び、ピコーンと恐ろしい音を立てて止まった。

「ふざけんなお前! 年考えろ! なんで私なんだよ! 嫌がらせか!? ありえねーぞ!」

「サクヤうるさいわ、さっきから」

 まさか自分のところに来ると思っていなかったサクヤはあまりの衝撃に冷静さを失って叫ぶが、美月にまたもや冷めた目で突っ込まれた。

「美月! お前他人事だからって……!」

「好意を持たれてるんだから喜びなさい」

 こんなおっさんからの好意を喜べとは……。サクヤはゾワッと身震いした。

「……フッ、好意などではない。ただお前には利用価値があるからな。私は、一度自分が手に入れようとしたものは必ず手に入れたいというだけだ。この際“カップル”という形でもまぁいいだろう」

「…………」

 サクヤは絶句する。
 本郷の言葉に悪寒が止まらなかった。
 うっかり本郷とカップルになってしまった場合を考えると……恐ろしくて失神しそうだった。

『ズゴーーーン! 残念! カップル不成立〜!』

 自動音声が規則的に不成立を告げる。

「……ム、なぜだ?」

「当たり前だろあほ!」

 カップルが成立するとでも思っていたのかこいつは。
 もう関わるのが心底嫌になったサクヤは相手にするのを辞めた。

『ではそのサクヤさんは誰を選んだのでしょうか? 見てみましょう』

 今度はサクヤから明かりが伸びる。
 さっきの騒動でどっと疲れが押し寄せてきていたので、なんだかもうソワソワも何もしなかった。
 明かりはもちろんライのところに到着する。

「おー、ハハッ!」

 サクヤからの指名を確認したライは面白そうに笑う。

「なるほどな〜、そうきたかー。サンキュ」

「ん」

 ライは気心が知れているので全く気負わないし、案外カップルになったら一番落ち着くかもしれない。
 本郷よりはもちろん断然マシだ。
 いや、マシという次元でもない。本郷と比べれば神レベル。

『ズゴーーーン! 残念! カップル不成立〜!』

 ただ、あっさりと玉砕だった。
 まぁそうだよな、とサクヤは思う。
 妹のような存在に手は出さないのがライだ。そこがいいのだが。

「悪いなヒナ〜。めちゃくちゃ嬉しーんだけどな」

 片手で「すまん」のポーズを取りながら、軽く微笑む。
 わかっていたのでそこまでショックは受けなかった。

「なんだよ、ちぇ」

 そんなやり取りをしていると、次は既にライから明かりが伸びていた。
 そしてピコーンと止まった先にいたのは再びリン。

「あ、えっと……」

 2度目のライから指名にリンは少し申し訳なくなった。
 今回もリンはライを押していない。
 対面に座るライは「たのむ〜」いった感じで拝む仕草をしていた。

『ズゴーーーン! 残念! カップル不成立〜!』

「ああ〜! やっぱダメかー!」

 結果を聞いたライは目の前のテーブルに大袈裟に突っ伏した。
 一通りリアクションを取るとすぐに起き上がる。

「おーいリン、俺にしとけって〜。幸せにしてやるぞー。もし次も残ってたら押すからな」

 半分冗談のようなノリでライが呼びかけた。
 えっ、と戸惑うリン。
 そのやり取りを遠目から見ているシキの顔は面白くなさそうだった。

(やっぱあいつリンがいいんじゃん……)
 
 サクヤは冷めた目で事を見ていた。
 さっき指名が来たのは本郷からだけだった。仮にもしもシキがサクヤを押していたのなら、普通同時に来るはずじゃないのか。
 ならシキは今回もリンを押したのだろう……。
 と、思ったところでふと、今ライがリンを指名した時もライだけだったことに気づく。
 だったらまさかの美月か? ……あり得るかもしれない。
 もうよく分からなくなってきた。

『ではリンさんと、そして美月さんは誰を選んだのでしょうか? 見てみましょう』

 今度はリンと美月から同時に明かりが伸びる。
 本郷だけは無いので向かう先は一人しかいなかった。当然のごとくシキのところでピコーンと止まる。

「……あなたも犯罪じゃん」

 隣の美月に向かってリンはボソッと呟く。

「あら、私はそんなの気にしないから。あなたと違って全然躊躇しなかったし」

 美月は悪びれずにすまして言った。
 躊躇しなければいいという問題では全くないが、おそらく彼女は最初からシキを押していたのだろう。
 さっきのリンはまんまと美月の言葉に踊らされ、カップルになる機会を自ら逃したということになる……が今更後悔しても遅い。
 今回もシキはリンのことを押してくれてはいないだろうか。リンは心の中でそっと祈りのポーズをとる。


(どっちだ……?)

 サクヤも内心ドキドキしながら結果を待っていた。
 2回目の告白タイムでカップルが成立するとしたらここが最後の可能性だ。
 最後にカップルが誕生するというこの演出をするため、おそらく自動進行のプログラムはシキの意中の相手を後回しにしたと考えられる。

(どうなんだ……? リンのほうだよな……?)

 ドキドキドキドキ……。
 なんで自分がこんなに緊張してんだとサクヤは我に返った。と、同時に恥ずかしくなる。
 その時ふいにテーブルの電子画面が暗転した。

『ズゴーーーン! 残念! カップル不成立〜!』

 お馴染みのハートが割れる映像が映し出される。

「え……?」

 不成立?
 ということはシキはリンも美月も押していなかったことになる。

「比奈ちゃん……」

 こちらをじっと見てくるシキと目があった。

「…………」


『今回は残念ながら、一組もカップル成立とはなりませんでした。次は3回目♡シンキングタイムに移ります』


〜3回目♡シンキングタイム〜

 まだ残り6人。
 全員がさっきと同じボタンを押したのではカップルは成立しない。
 誰かが選ぶ相手を変えなければ、このまま無限ループとなってしまう。

「……」

 またもやリン悩んでいた。
 できればこのまま相手は変えたくない。
 ただ、シキは次もサクヤを押しそうな気がするし結局二人がカップルとなるのではないだろうか。
 それならそれで仕方がないし納得だ。
 年齢も近い二人が一緒になるのが一番いいだろう。

「……」

 長考の末リンはボタンを押す。
 まだ全員が押し終わっていないようですぐに告白タイムは始まらなかった。
 周りを見回すと、美月を挟んだ向こうのサクヤがまだ悩んでいるようだった。

「うーーん……」

 もう一度シキを押すべきだと頭ではわかっているサクヤだったが、どうしても選びたくなかった。
 だからといってこのまま最後まで余ってしまい本郷と組むことになるのだけは絶対に避けなければいけない。
 ライはリンを押すと宣言しているのでカップルになる可能性はない。
 ならやはりシキしかないか……。
 サクヤはため息をつきながらボタンに手を伸ばす。

「そんなに悩むなら私が決めてあげるわよ」

 突然、横から美月の声がしたかと思うと、サクヤが押す前に勝手にボタンをポチッと押した。

「うわ!? ちょ、なにすんだよ!」

 美月が押したのはあろうことか本郷のボタンだった。

「ふ、ふざけんなーー!!」

『フィーリングカップル♡3回目告白タ〜イム!』

 サクヤが押したわけではないのにしっかりと認証されてしまったようだ。すぐに自動進行が動き出す。

『ではサクヤさんは誰を選んだのでしょうか? 見てみましょう』

「待てーー!!」

 サクヤの叫び虚しく明かりは真っ直ぐに本郷に伸びていった。
 ピコーンと明かりが届いたところで彼は満足そうに微笑む。

「フッ、いいだろう。受け入れてやる」

 めちゃくちゃ上から目線だった。
 本郷とサクヤが繋がっている明かりに大きなハートマークが表示される。

『おめでとうございます! 本郷さんとサクヤさん、カップル成立です〜! 無事カップルとなった二人は手を繋いでカップルシートへどうぞ』

「アホか!! これ無効だって! 全然フィーリングカップルになってねーじゃねぇか!」

「そうだよ! こんなの絶対認められないよ! 今ボタンを押したのは比奈ちゃんじゃないのに!」

 おめでたい様子の自動音声に、それどころではないサクヤとシキが一緒になってギャーギャーと抗議する。
 そのあまりの勢いにカップルシートから事を見ていた時雨がやれやれとため息をついた。

「……落ち着け。本来ならやり直しは不可だが、今回は美月が勝手にボタンを押したわけだからな。まぁ仕方がない」

 そう言うと電子テーブルを何やら操作し始め、まもなく本郷とサクヤが繋がっているハートマークの表示が消えた。

「ちょっと! 余計なことしないでよ!」

「うるさい」

 美月の抗議は一蹴され、結局その後のやり直しでシキとサクヤが無事カップルとなり、すぐにライとリンもカップル成立となった。
 そして最後まで残った本郷と美月が余り者同士で組むことになる。


「……で、これカップル作ってどうすんだ? こ、子どもを作るって本当に実行するのか……?」

 我に返ったサクヤは内心焦り始める気持ちを抑えながら、一応主催者である時雨に聞く。
 勢いでシキとカップルになったものの、これからのことを考える余裕はなかった。
 カップルになった相手とは子孫繁栄が義務となるーーとのことだったが……?

「私は子作りなんて死んでもしないぞ」

 サクヤはきっぱりと言い放つ。
 そうだよね、と同調しながらも隣のシキはなんだか残念そうだった。

「大丈夫だ。安心しろ比奈瀬サクヤ。私の結界の力を駆使して“繁殖しないと出られない部屋”を作っている。その部屋には美月のサイで適度な催淫効果を付与しているから、いやいやにはならない」

「……は!?」

 時雨の斜め上の回答にサクヤは一瞬何を言われているか分からず固まった。

「円満で合意的に事が進むよう配慮はしている。フィーリングカップル同士、ある意味全員が幸せになれるし未来も安泰の最善策だ。これから部屋に自動転送される」

「はぁぁぁああああ〜〜!?」

 あまりの展開にサクヤはついていけなかった。
 自動転送? これから? シキと? 繁殖しないと出られない…………?
 なんつーエグい部屋だ。
 いや、でもあのまま本郷とカップルになってなくて良かった。
 本当に本当に良かった。
 シキで良かった……。いや、違う。良くないって!


「おいおいおい! 待て待て待て!! そんなの聞ーてねーぞ!! おいシキ! お前もなんとか言えよ!」

「…………。ね、困るよね」

 全然困ってなさそう言い方だった。

(おいいいいい!)

 慌てるサクヤには御構い無しに視界が歪み、転送が始まりだした。

「こんなの嘘だーーーーー!!」

 サクヤの叫びは虚しくこだまし、そしてまもなく時空の彼方へと消えていったーー。


       

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