Neetel Inside 文芸新都
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幼馴染をモノにしたい俺のHな時空旅行
Travel4:友、黄泉の国より来る?

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Travel4:友、黄泉の国より来る?

どれくらいの時間が経過したのだろう。俺は誰かに呼ばれる声がした。
『晴クン、ちょっとしっかりしてよ、晴クン!!』
声の主は郁子だ。郁子は仰向けに倒れ伏した俺を抱きかかえ、必死に幼馴染の名を呼び続けている。泣きださんばかりだ。嗚呼、郁子ってやっぱ、俺にそこはかとない愛情を抱いているんだなあ。そんな事を感じつつ、違和感を覚えた。
(…って何で郁子に抱きかかえられてる自分を見ているんだよ!? そこに倒れているのは紛れもない俺じゃんか!! ってことは今、こうしている俺は!?)
そう、明らかに今の俺の意識は自分のカラダから乖離している。つまりは幽霊状態。いや、まだ死亡確定していないから、臨死体験状態っていうほうが適切なのか。兎にも角にも、俺の身に緊急事態が到来しているのは間違いなかった。が、俺にはどうすることも出来ない。ただ骸状態の俺を抱きかかえ、泣き出す郁子を見つめているしかなかった。

嗚呼、虚しいかな、俺の四十数年のフリーター人生。楽しいこととか、嬉しいこととか、極端に少なかった気がする。秀でた物はまるでなく、勉強人並み以下、大学はFランク。就職はできず、年収200万以下、小学生時代からいじめられっ子、そして今もイジラレッコ人生。唯一、華やぎを与えてくれた幼馴染の女の子にキスを迫り、敢え無く拒否られ昇天…か。ま、それも良いかもね。俺は自虐的な感覚になりつつ、生への執着がふつふつと薄れゆくのを感じていた。死への世界に向かい始めたのかもしれない。これからどこへ行くんだろう。人って死ぬとどうなるのか。漠然と考えたことはあるが、ここまで早く自分にそれが訪れるとは…。でもいっぺんは郁子とSEXしたかったなあ。俺の骸を抱く郁子に未練を抱きながら背を向けたその時だ。
「おいおいおい、いくら何でもそりゃあ、無責任だろーが!」
と、聞き覚えのある甲高い声。その声の主は…。

振り返ると、狐顔の20歳くらいの青年が立っていた。
「相変わらず、諦めが良いっていうか、潔さすぎるっていうか、悪く言うと根性がないっていうか」
おいおい、なんでこんな小僧にそこまで見下されなきゃいけねえんだよ。そう思いながら相手の顔をまじまじと見つめる。
「…ってお前、達也か!?」
「やっと思い出したのかよ、友達甲斐の無い奴」
コイツの名は加山達也。中学高校の数少ない友人の一人だ。が、達也とは大学4年以降、会っていない。そりゃそうだろう。なにせ、コイツは自動車事故で亡くなってしまっていたのだから。その時俺は初めて他人の死に直面し、涙にくれた。以降、俺に友人と呼べる人間は一人もいない気がする。
「なるほど、人間死ぬ間際になると黄泉の国から、生前親しかった人間が迎えに来るっていうけれど、達也が来たわけか」
俺はあっけらかんと言ってみる。ま、仲の良かったコイツが一緒ならあの世でもそこそこ楽しくやれそうだ。募る話も何わけじゃあない。何せ、コイツの倍くらい生きているわけだから。が、達也はあっけなく俺の言葉を否定した。

「ば~~か。お前はまだこっちに来る予定じゃあないんだよ。いや正確にはここでお前が死んじまったら困ることがあるんだ」
「ん、どういうことだ? 俺はまあ、人生やり尽した感はあるけどな」
「輪をかけて馬鹿なこと言うなよ。詳しくは今話してらんないけどな。さしあたって考えてみろ、今ここでこのままお前が黄泉の国に行けば、最悪、郁子は警察にパクられるぞ」
「ええ?」
それは考えていなかった。
「当たり前だろ、郁子の性格からしてお前が勝手に転んで死んだだけとか、下手糞なディープキスを迫ってきたのを拒否って、彼が横転しました、なんていうわけないだろ。自分の過失で晴比古君を死なせました、って話すに決まっている」
達也は俺の郁子への思慕の情を知る人間の一人だ。当然、郁子の性格も良く知っていた。
「ありのままに話せば、郁子にも責任が生じる。ましてや職場の上司だ。過失致死には問われかねないし、会社の評判は落ちる。彼女は社長も続けられなくなるだろう。息子だっているんだぞ。失うものは多すぎるぜ」
確かに。俺は浅はかだった。でも、肉体が滅んでしまった以上、俺はどうすればいいのか。

「晴比古。あまり時間がない。人間は肉体が滅ぶとな、49日間だけ猶予期間が与えられるんだよ。その間に魂だけこの世に残るか、あの世に行って来世を迎える準備に入るのか決めるわけだ。ただ、お前の場合はまだ『未決死人』と呼ばれる状態だ。あの世でもお前の死を把握が出来ていない状況なわけさ。その死に誤りがあれば、それをあの世の御上に上申し、取り消してもらう必要がある。そういう理由でいったん死んだ人間が復活する例は少数だけど、あるんだ」
ああ、臨死体験とかして、生き返った人っていうのがまさにそれか。
「ふーん、そういうルールがあるわけか。あの世にも偉い人がいるわけね」
この世もあの世も同じようにしがらみがありそうだと俺はため息をつく。
「通常49日の期間は、いってみれば、その人物が魂の未来を決めるための時間でもあるから、死んだ奴の魂は自由がきくんだ。その間は世界中どこでも旅をできるし、過去へも戻ることだって可能だぜ」
「そりゃあ、良い!! 思うがままに遊べるってわけか」
俺はルンルンだ。が、達也は表情を曇らす。
「だがな、お前は本来まだ死ぬべき人間じゃあない。今夜の事件はちょっとしたトラブルだ。っていうか、お前が柄にもなくいきなりキスを迫ったりするから、神様もパニくって運命が狂ったわけだ」
そんな理屈あるのかよ。
「いや、それは嘘だが過去にすべきでない行動をしたため、歯車が狂ったことだけは確かだな」
「ごう…てやつかい?」
某宗教団体が言っていたカルマってやつの事か。
「いや、そんな大仰なもんじゃない。本来はするべきでないことをしてしまって、結果的に死ぬべきでない時期に死が訪れたってことさ」
はあ、死の世界のルールはよくわからない。

「俺はこのまま死ぬとどうなる?」
「人間は本来するこの世で成すべきミッションを決定してから生まれてくるんだよ。お前はまだそれを完結していない。結果、このまま死ねば、来世は人間として生まれる資格を失う」
ええ、そりゃ困るんですけど。間違えてもハエとか、電信柱とかに生まれ変わりたくはない。
「俺は、ある程度の未来を見てきている」
と、達也は言う。
「このまま、お前はあの世に行くとさらに困ったことになる。郁子は過失致死でサツに取り調べられ、起訴猶予にはなるが、この会社は倒産する。彼女の息子は殺人者の倅ってことで学校でいじめられ、郁子は夜の世界へ身を落とし、一時売れっ子マダムになるも、コロナで時短営業を余儀なくされ、やがては廃業。その後は…」
「もういいって! じゃ、俺はどうすりゃあいいのよ?」
俺は達也にすがるような目を向ける。
「この49日の間に過去へ戻れ。そして、過去の行いを改めて、今夜アクシデントに見舞われる運命を変えるしかない」
「運命って、そんな簡単に変えられるのかよ…」
俺は絶句した。
「簡単ではないがな、達成したうえで、この世に残れ!」

さらに旧友は美味しい条件を付け加える。
「過去の過ごし方によっては、現世に蘇生・復活してからの人生が大きく変わることもありうる。…一例をあげれば、結婚できなかった相手と、夫婦になってたりとか、な」
これには俺は大奮起した。よ、よもや、過去の過ごし方次第で郁子と結婚できるってことか? ぜ、ぜひにものにしたい。この骸になっている俺を見て涙に暮れている人妻を、俺の嫁に!! 童貞野郎の浅はかな願望かもしれないが、俺は過去へ戻って折り目正しく人生をやり直すことを選択した。
「よし、じゃあいくか、晴比古」
達也は俺を促す。その視線の先には宙に浮いた扉がある。無数に浮かび上がるドアには、数字が刻み込まれている。
「お前はこのドアの向こうに行く必要があるな。さ、ココからはお前の一人旅だ。ま、精々頑張ってこいや」
達也が指さす扉には1993.6.10とある。その扉を達也がガチャリとこじ開けた。

       

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