Neetel Inside 文芸新都
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リベンジ ~スクール水着の上級国民~
VOL.9 メッセンジャー

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VOL.9 メッセンジャー

『や、止め…やめてぇ…ごぼッ…ごぼぼぼぼ…ごぼッ…ぶくぶくぶく…ごはぁッ…』
恐怖に引き攣った孫娘は逆さに大の字で磔刑に処されていた。まるでバラエティ番組の罰ゲームのような星形の磔板に…。眼鏡が額にまでずり下がり、泣きじゃくりながらいやいやと頭を振る。その仕草が快活さの中にも幼少期によく見せた、駄々をこね泣きべそをかいた時の愛らしい表情とリンクし、柳原の心を搔き乱した。しかし、祖父の心などお構いなし、、いやそれを愉しむかのように、孫娘の肢体を捕らえた磔台は上下に運動し、汚れた水槽にその顔を沈められ、時折引き揚げられ、呼吸を整える間も無く、すぐにまた水没させられ…。また、残酷なことに、水槽内で苦しむ若葉の表情がしっかりと映し止められ、それがまた柳原の心を押しつぶさんとした。
「な、なにをするんだッ、や、止めろ、止めてくれッ、その娘を殺す気か? 止せ、止めろッ、若葉が死ぬうううううううぅ―――――――ッ!!」
発狂したように咆哮する柳原。柳原の妻は泣き崩れた後、卒倒、使用人が何とか宥めにかかるが、大邸宅のリビングは叫喚の巷となった。

「若葉…、若葉お嬢さんは!?」
家人に変わって使用人の女が訊ねる。
「安心してください、彼らは若葉ちゃんを殺す気はありません…まだ」
「ま、まだとはどういうことだ!?」
柳原は唾を飛ばし、怒鳴る。
「私が、ここに向かう直前まで、お孫さんは無事でした」
淡々と語る雉子島渚を改めて不審がる柳原。
「大体、あんたは何なんだ? 孫をさらった連中と繋がっているのだろう!? すぐに警察を呼んでやる、お前も一味だろう、逮捕させてやる!!」
年甲斐無く喚きたてる老人の態度は怒りに満ちたものだ。事故の犠牲者に対しても、肉親の命を弄ばれた悲しみの数百分の一でも投げかけていれば、このような事態は起こりえなかったハズだ。

翻って渚は、狼狽ぶりを憐れむような表情を浮かべた渚は、冷徹な声音で言う。
「彼らとは繋がっておりません。ですが、彼らは、いえ少なくとも彼は本気です。あなたの起した事件の真相を世に知らしめるため、命を懸けている」
言葉の真意を測り兼ねる柳原に、渚はすっくと立ちあがる。室内に通されてからもずっと被りて続けていたキャップを外す。そして、肩より下まで伸びる長い髪を手ですいた…かに思えた瞬間、その髪がばさりとテーブルの上に落ちた。まるで昭和の怪談のような不気味さに一瞬場が凍り付く。柳原がおぞましさを感じる間もなく、目の前の女を見た瞬間はっとなった。渚と名乗る女は坊主頭だったのだ。さらにサングラスを外した彼女の額にはまるで大仏の様に赤い傷が刻み込まれていた。煙草を押し付けられたのだろう。
「お嬢さんを拉致した彼らを追跡して、私も捕まりました。…そして…犯されました」
そこまで絞り出す様に言った渚は嗚咽を堪えながら続ける。
「その様子を…記録されて…。…私は柳原さんへのメッセンジャーを命じられました。断れば、その動画も投稿サイトで公開されますし、何より、お孫さんが…」
無関係の女性までも捕らえ、これだけの屈辱と暴行を加え従わせる…。誘拐犯たちの手段を択ばぬ冷酷さと、事件を起こした覚悟を実感させられる柳原。同時に、彼らの手中にある若葉が受けているであろう仕打ちを想像するだけで、これが悪夢であってくれたらと妄想に逃げ込まずにいられなかった。

「つ、つまり…どういうことだね? その連中は私に何を要求している? どうすれば、あの娘を解放するというのだね?」
渚に対し、しどろもどろに説いただす柳原に、日頃の傲慢な『紳士』の様子は微塵も見て取れない。が、事故の核心には触れられたくない様子で、どこか、先方を懐柔できないかと画策している様子も見受けられ、渚は微かな不快感を覚えた。
「はい…。彼らの目的は一つです。あなたの社会的な抹殺…。そのために、あの事故がなぜ、どのように起こったのか、それを国民に広く知らしめたいと考えています…。そのために…」
渚は明快に結論を突き付ける。
「事故当時のドライブレコーダーをマスコミに公開してください」
その言葉に、柳原は気色ばんだ。
「そ、そ、そんなこと、できようモノかッ!?」
「なぜです?」
渚は、鬼畜な男たちのメッセンジャーを務めつつ、この柳原という男を心底軽蔑し、記者の魂をもって追求した。この事故のように、被疑者が逮捕どころか存在もしない扱いとなれば、、ドライブレコーダーの提出は任意となる。が、あれだけの犠牲者を生みだした凄惨な事件の経緯を知ることが国民に許されたならば、間違いなく柳原は社会的な制裁を受けるだろう。
「あなたの名誉に傷が付くからですか? もし、この件の真相が明らかになり、世論に後押しされてあなたが起訴され禁固刑以上に処された場合、叙勲が剝奪されるのを恐れているのですか? 私は知っていますよ、某企業の執行役員として多額の不正献金を与党議員に贈り、見返り受けた勲章の件を…」
「違うッ、そ、それは違うッ、だが出来ん、それだけは出来んのだッ!」
呪文を唱えるように、頭を振りながら繰り返すだけの柳原。
「申し上げにくいですし、同じ女として心が痛みますけど…」
渚は、己の倫理観に反する名誉欲の塊のような老人の醜態を憐れみつつも、自分と同じく囚われた女の子に対して労しく思いながら残酷な言葉を紡いだ。
「若葉ちゃんは…今頃、あの男たちに・・・拷問されていると思います…。きっととタダじゃすまないわ」
柳原の咆哮が広いリビングに鳴り響く―――――。

       

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