Neetel Inside 文芸新都
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いつも美しさで終わるもの
「いつも美しさで終わるもの」

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 夏草の茂みの中に、小さな少女の亡骸を見つけた。
 青色の強い植生の中で白い素肌が光って見えなければ、見逃して通り過ぎてもおかしくなかった。かわいそうに、というよりも、勿体ないな、という気持ちが沸き上がったのは、死ぬにしたってここには背の高い草木以外なにもなくて、寂しい場所だったから。もう少しのぼって山の方に行けば街を見下ろせるし、反対側へ行けば海に出ることができる。
 死というものが以前ほど重要ではなくなったこの世界では、死のうと思った時に死を選ぶことができる。つまり永遠に生き続けることもできると、言い換えてもよかった。
 それならどうして、この少女は死んでいるのだろう。それは、きっと生きることを諦めたのだろうと彼女は推測する。痛みや苦しみは、きっとこれから先も無くなりはしないだろうから。
 心の中で一つ合掌をして、坂道を登りはじめようとした時、耳を澄まさなければ聞こえない、微かに漏れる息遣いが聞こえて「ああ、厄介なことになったな」とため息をついた。
 「大丈夫?」
 「わたし、倒れちゃってたんですか……」
 近くに顔を引き寄せて見つめると、中学生ぐらいのように見える。
 「ここ、どこですか?行かないといけない場所があって……」
 「鍋倉山に向かう途中の登山道。見た感じだと、あなたもう長くないと思うけど」
 「そんな……」
 間違っちゃったな、と少女はこぼしたところで、なにか、彼女は思い違い生じているのを感じた。
 「もう少しだけ生きられるとしたらどうする?」 
 「いいん…ですか?」
 「上の展望台にいるから、終わったらおいで」
 携帯電話を取り出して画面を軽く操作したあと、ポケットに仕舞い込んだ。

 鍋倉山は海からせり上がって見えることもあって、九州の玄関口のシンボルにもなっている山だった。ケーブルカーが山頂まで伸びていたが、それを歩きで登ろうとするのは、登山者か、よほどお金がないのか、吝嗇なのか。
 長いつづら折りを登り終えた後でも、涼しい顔をして展望台に着いた彼女は、「ついたー」と両手をあげて独りごちた。
 ミルクを床に流したように、湾から枝分かれした船泊に、製鉄所が群がり、その周りを住宅地が囲っていた。
 夏の終わりの風に髪を揺らしながら、夜になれば百万ドルの夜景と称されるその街並みを彼女はしげしげと眺めていた。

 一度助けられてしまうと、命が惜しくなってしまう。少女は、頂上に足を進めながらも、あり得たかもしれない人生について考えては、それを諫めようとした。
 きっと、必ず死んでしまう。借りた命は返さなければならない。舌の根が乾いて、歩みを止めてしまうと足が震えてしまいそうだった。
 夕間暮れにさしかかって、何本の無機質で寒々とした電波塔が空に伸びる展望台にたどり着いたとき、そこに、人の姿は見えなかった。
 ああきっと、信じられてなかった、見捨てられたんだ。最後にお礼を言う決心をつけてきたのに。
 眼下に光る街並みが鈍く光って見えた。

 「ええ……」
 拍子抜けしたような表情で、食卓の木椅子に座る彼女の横で、両腕で椅子に体をあずけながら、長髪で長身の、年の頃は二十代半ばの社会人風な女性が、言葉を続ける。
 「それでその女の子に自分の命を分け与えたってこと?」
 彼女は頷いた。
 「えーーっと、個人の自由だし、あなたがそれでいいならいいんだけど……、今どのくらい寿命があるんだっけ」
 「あの女の子の寿命と同じにしたから……、25歳。13歳分あげた」
 「はぁ~、三十歳まで生きられないなんて。今時いないよそんな人。江戸時代の平均寿命でももっとあるって」
 「仕方ないじゃない、子供が寿命を切り売りすることは禁止されてるのだから。半ば違法な手段で、きっとその子も誰かにあげたんだろうし」
 「それであなたがあと数年しか生きられないのは、どうもね……。いる?あたしの」
 「いらない。また働く。もう人から奪いたくないから」

       

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