Neetel Inside ニートノベル
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生徒総会あらため、生徒“葬”会
第二十四話 跡地

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【8日目:昼 屋外北ブロック】

「な、なんだよ、これ――」
 早宮瞬太郎は、眼前に広がるその凄惨な光景に、しばし呆然と立ち尽くしていた。
 瞬太郎が与えられた能力は、『鋼鉄心臓(スティールハート)』。
 常時発動型の能力で、どれだけ走り続けても息切れも胸の痛みも起こらないという効果を持つ。
 加えて、一年にして陸上部の短距離エースとして活躍する瞬太郎自身の脚力。
 そのシナジーは大きく、瞬太郎はそれを活かして生徒葬会開始以降、他の生徒よりも広範囲に渡る活動を行うことができている。
 しかしそれも良いことばかりというわけではなかった。
 一つは、行動範囲を広げることで、他の生徒に遭遇し攻撃される頻度が上がるということ。
 これは自慢の俊足でなんとか振り切り続けてきた。
 そしてもう一つは、殺し合いが行われた後の、凄惨な現場を目の当たりにする機会がどうしても増えてしまうということだ。
 瞬太郎はこの一週間で、数十人分の死体を目の当たりにしてきた。
 首と胴が離れ離れになっているくらいならまだ可愛いもので、頭が割られて脳味噌が飛び出していたり、腹が破れて内臓がまき散らされていたり、首を絞められたのか目玉を剥いた苦悶の表情をしていたり、強姦されてから殺されたのか、それとも殺されてから屍姦されたのか、着衣の乱れた女子生徒の死体も何人分かあった。
 血や肉や糞便の臭いにももう随分と慣れてしまったような気がする。
 最初は思わずその場で吐いてしまったりもしたものだが、慣れというのは恐ろしいものだ。
 慣れるとともに、自分の中で大切な何かが薄れ、失われていったような気がする。
 同級生や陸上部の先輩の死体だって、何人分か見たというのに、ショックこそ受けるもののその程度が弱まってきているようなのだ。
 だから瞬太郎は、死体を見つけたときは、状況が許す限り、その死体の目を閉じてやることにしていた。
 そんなことで殺された人間の無念が晴れるわけではないだろうが、ただの自己満足だ。自分がそうしたいからそうしているだけだ。
 自分だって、生徒葬会から生きて帰るために、この手を血に染めるつもりでいるのだから。
 ――しかし。
 そんな瞬太郎でも、同時に三人分の死体を目の当たりにするのは、初めてだった。
「ここで、何が起こったんだ……!? クソ、わけわかんねえ――」
 北ブロックに無造作に転がっている死体は、男子が一人女子が二人。
 いずれも瞬太郎の知り合いではなかったが、三人という数のインパクトに圧倒されてしまう。
 一人は、胸に風穴を空けて仰向けに倒れている女子生徒。
 その近くには、日本刀のようなものが転がっている。
 一瞬持って行こうかとも思ったが、よく見ると柄の部分が一部切断されていて、使用する際にかなり持ちにくそうだったし、自分の強みである機動力が損なわれると考えて、断念した。
 改めて女子生徒を見やると、一目で死者と分かるその瞳孔の開いた顔に、恨みがましく見つめられているような気がしてきて、瞬太郎は思わず目を背けてしまった。
 あとの二人の死体は、どんな表情をしているかも分からない。
 というのも、頭を小型の爆弾で吹っ飛ばされたかのように抉られていて、制服から性別を判断できるだけなのだ。
「――おい、マジかよ――」
 唯一顔が無事な女子生徒の死体の傍でかがみ、そっと目を閉じさせた後で、瞬太郎は『それ』に気付いてしまった。
 この三人の死体、すべて、頭と胸という違いこそあるものの、穴が空けられている――それも、よくよく見るとそれは、焼け溶かされたかのような穴だ。
 そのような穴に、瞬太郎は見覚えがあった。
 昨夜、東ブロックで見た、桜の木だ。
 それだけなら、まだ偶然で済まされたかもしれない。
 しかし、瞬太郎はもう一つのモノにも気付いてしまった。
「安藤――!?」
 地面に落ちていた、百人一首の札。
 それは、瞬太郎を攻撃してきた同級生・安藤凜々花が武器として使っていたものだ。
 昨夜、東ブロックでも、この組み合わせに出会っている。
 焼け溶かされたモノと、百人一首の札。
 ――瞬太郎の脳内に、いくつかの可能性が浮かんできた。
 凜々花と『焼け溶かす能力』の持ち主とが共に行動している可能性。
 あるいは凜々花が『焼け溶かす能力』の持ち主を殺してその能力を奪ったという可能性。
 そして、その逆――凜々花が殺され、能力を奪われたという可能性も。
「……やっぱり、『鋼鉄心臓』だけじゃキツいな」
 凜々花が『焼け溶かす能力』と組んでいたとしても、あるいは凜々花または『焼け溶かす能力』の持ち主がもう一人の能力を奪っていたのだとしても、今の自分では逃げることはできても倒すことはできない。
 ゆくゆくは自分もこの手を血に染めなければ生きて帰れない――しかしそのためには、『鋼鉄心臓』だけではなく、二つ以上の能力を持った相手とでもやり合えるような強力な能力が必要だ。
 瞬太郎はそう思い、もしかしたらという微かな期待を胸に、三人の死体から手帳を探った。
 ――しかしそのいずれも、表紙と能力説明ページを破り取られている。
「そりゃそうか――チクショウ」
 瞬太郎は毒づいた後で、そんなことはないのに、死体に対して文句を言ってしまったような気まずい感覚に陥り、詫びるように軽く一礼してから、足早に立ち去った。

       

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