Neetel Inside 文芸新都
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ファーストステップアップ
ファーストステップアップ

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 隣の部屋がうるさい。いつものことだが僕はため息をついて、ストラトをギタースタンドに立てかける。
 隣がうるさいのはいつも通り、兄貴含む三人がバンド演奏の練習しているせいだ。実際うるさいのは兄貴ご自慢のギブソンのレスポールの音だけで、ベースとキーボードの音はあまり聞こえない。
 兄貴が率いるバンド『endless start』
なんだか意味が分からない名前のバンドで、ロックなどをメインとして演奏しているらしい。ここら辺ではなかなか知れた名前で固定のファンがいるほどだ。
 メンバーはギター・ヴォーカル、ギター、キーボード、ベース、ドラムの5人編成で、ギター・ヴォーカルとキーボードは女性で、ギター、ベース、ドラムは男性と、異性混合バンドだ。
 異性混合バンドはバンド内での恋愛などが問題になり、解散することが多くあるが、このバンドは、確か僕が中学三年になったときに箱デビューを果たして、七ヶ月。デビュー前からやってるはずだから、一年以上続いてるらしい。
 なんだか兄貴に言わせれば、色々なバンドの多面的に見て優れた人材だけを引っ張り、今のバンドを作ったらしい。いいとこ取りで結成されたメンバーだ。箱デビューが速いのもうなずける。
 とっても兄貴が羨ましく思える。優れたメンバーに恵まれているからだ。別に僕が持ってるストラトが国内メーカーの安いギターだからではない。
 実際このストラトには満足している。シングルコイル二個とハムバッキング一個のシンシンハム。音も悪くないし、手の小さい僕にぴったりのネック。中学三年生の素人が使うエレキギターとしては十分すぎるギターだと思っている。
 実際僕がこのギターを買った理由は兄貴に勧められたからだ。兄貴がライブで演奏している姿は衝撃的で、家にいるときとはうってかわって鳥肌が立つほど格好良いと思った。その姿をみて僕は猛烈にエレキギターが欲しくなったのだ。
 兄貴にそのことを言うと、ひねくれている兄貴が、不思議なぐらい優しくギターについて色々と教えてくれた。購入をするときには一緒に楽器屋に行き、アドバイスをくれた。基本的なコードやタブ譜の読み方などを覚えたら、僕の好きなバンドの譜面をわざわざ買ってきて僕に貸してくれた。
 様々な曲のコピーなどをやってるうちに、他の楽器と合わせたい、と強く思うようになっていた。
 どんなにうまくコピーしても、ギターの音しか聞こえない。ヴォーカルの叫び声も、ベースの響きも、ドラムが刻むビートも。
 そこで僕は兄貴に、
「endless startと一緒に練習させてくれない?」
と頼んだ。
 兄貴は俺がギターをやることを凄く喜んで、色々教えてくれたが、
「それだけは絶対に出来ない」
と言われた。なぜだか分からないが僕は素直にそれに従った。兄貴は
「お前もバンドを組めば分かる。バンドの練習に他の人間が入ってくると音楽が変わっちゃうんだ。だからバンドでやりたいなら、自分でメンバーを捜せ」
 この言葉を聞いてから二ヶ月経つが、メンバーは集まらなかった。だから僕は自分の部屋で一人ギターを弾いているのだ。

       

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