Neetel Inside ベータマガジン
表紙

ミシュガルド聖典 お花見企画
花見だんご/新野辺のべる

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「幻の大樹ショウリョウの調査!?」
 初春にもかかわらず日焼けした肌にビキニアーマーのエルフ少女がすっとんきょうな声を上げた。まだ寒さの残る季節だというのにビビは年中この格好だ。
「そうだ。なんでも一年に一回、この季節にだけランダムで出現するらしい」
 黒髪の姉御肌な冒険者、ショーコが仕事を持ちかけてきた。
「結構報酬いいんだよ。まさに金のなる木。四人で山分けしよーぜ」
 こちらは日焼けではなく正真正銘ダークエルフのメン・ボゥが皮算用する。
 二人の口車に乗って不良にならないように、お目付け役の色白で線の細い少女がビビのパンツを無言で引っ張った。
「だいじょぶだよ、レダ。楽そうな仕事じゃん。パンツあんま引っ張んないで、脱げるー」
 四人は連れ立って広場から出ようとしたその時だった。謎の生物が立ちはだかる。果たして探検隊が見たものとは!?
「これじゃね。ショウリョウ?」
 ビビが広場出口に生えているごくありふれた樹を指差す。
「ビビさんビビさん。これからジャングルに分け入り、笑いあり涙ありの大冒険を繰り広げるんだよ。楽したいからって、スタート地点の適当な樹をショウリョウって、あんた」
 一番怠け者のメン・ボゥすらドン引きしている。
「いや待て。ショウリョウはエドマチの桜と酷似していると聞く。ならば薄桃色の花びらの小さな花をつけているはず。近づいて調査しよう」
 ショーコは他の連中に先を越されまいと、走って言った。樹の下にはすでに人だかりができていたのである。
 樹の下に緋毛氈が敷かれ、花を愛でる者、まだ午前中だというのに酒を飲む者たちが座っていた。どうやら競合相手の同業他社ではないらしい。
 ショーコは胸をなで下ろして、花を見る。薄桃色の小さな花だ。小さな花だが、灰色の枝に隙間なく咲き誇っている。春という季節そのものを形にしたような、そんな花だ。ちょっと樹が小さい気がするが、たぶんショウリョウの樹だろう。
 ショーコの後に続いてきたメン・ボゥに酔っ払いが絡む。
「おい姉ちゃん。しらふじゃねえか。駆けつけ一杯、まずは飲みねえ」
 メン・ボゥはちらりとショーコの顔色をうかがってから答えた。
「いやー、いま仕事中だから飲酒はちょっと……まあ、これも調査のうちか……なあんて……ちょーさちょーさ」
 最初から断る気もなかったメン・ボゥは勧められるままに猪口に口をつける。
 エドマチの酒は以前にも飲んだことがあったが、花を肴に飲むと格別だった。酒が進む進む。
 仕事もせずに飲んでいるメン・ボゥを見て、ショーコは酒の代わりに水を飲んでしのぐような出来た人間ではない。
「これは、いかん! 私も調査せねば」
 そう言って緋毛氈にどかりと腰を落ち着けて、メン・ボゥからひったくった猪口で飲み始めた。
「じゃあ、アタシも」
 流されるままにビビが加わろうとすると、すかさずレダが止める。今度はパンツを引っ張らず、はっきりと言葉で言った。
「あの人たちは何かにつけてお酒を飲みたいだけなの。ビビはこっち!」
 本当はもっと後に出す予定だったがしかたない。レダは持ってきた包みを解いて、弁当箱を出した。弁当箱を開けると塩むすびが四つ、カニの形にカットしたソーセージ(甲皇国ではブルストというらしい)が沢山詰まっている。今回はサクラということなのでエドマチ風弁当だ。
 計画通り、ビビの注意がこちらに向く。
「何これ何これ。食べていいの? ありがとレダー!」
 ビビが早弁をキメている横で、レダは幸せを感じつつ考え事をする。弁当作戦は成功したけど、今度も仕事は失敗だろう。
 調査が進んでないからではない。そもそもこの樹はショウリョウではなくただのサクラなのである。
 注意深いレダだけは花咲く前から、この樹がサクラの樹だと知っていた。
 だけど皆は咲いて初めて、その樹をサクラだと知る。
 だからきっと、いきなり広場にショウリョウが出現したと勘違いしたのだろう。
 弁当箱が二段になっていることには気付いたビビがデザートに手をつける。
「まだアタシは花よりもお酒よりも、ダンゴでいいや」
 いつかビビも大輪の花を咲かせることをレダだけが知っていた。

     

登場人物


ビビ
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レダ
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ショーコ
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メン・ボゥ
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