不人気叩かれ文芸作家の僕がプロデビュー…
37・僕の変化…
文春砲の話が終わると澪奈さんに
「『暁のファンファーレ』のリライトが出来たのですがチェックしてもらえませんか?」とお願いした。
澪奈さんは
「もう出来たんですか!
もちろん、喜んで!」と言ってくれた。
カンカンカン
アパートの外階段を澪奈さん、エリナと上がると愛里もついてきた。
僕は
「愛里!
お仕事でまだ外部に見せられないものがあるから、ついてこられたら困るんだ」と言う。
「ウチは絶対見たりしません!
すみっちょで目を瞑ってるから牧野クンの側にいさせて下さい!
ダメだったらずっとドアの外で待ってるから……」
やんちゃな愛里が困り顔で懇願する姿が何だかいじらし可愛らしい。
「牧野先生、いいんじゃないですか」と澪奈さん。
僕は
「澪奈さんがいいなら……
じゃあ大人しくしてるんだよ」と言ったものの内心ホッとした。
「牧野クン、澪奈さんアザっす」
という訳で、僕の部屋にはエリナと澪奈さんと愛里があがった。
エリナは描きかけの設定画の仕上げに取りかかる。
愛里は部屋の隅でちょこんと正座して黙想している。
僕は『暁のファンファーレ』のリライトデータを澪奈さんのタブレットに送った。
「牧野先生、プリントアウトしたものはありますか?」
「推敲用のならまだ取ってますけど。
どうしてです?」
「愛里ちゃんにも読んでもらった方が良いかと」
「え?いいんですか!」
「ええ、色んな人の反応をみたいので」
さすがやり手編集者さんは考える事が違うな、確かにそうだ!
「じゃ愛里も読んでみる?」
愛理は
「もちろん!
小説なんて読んだこと無いけど牧野クンが書いたものなら!」と元気よく答えた。
僕は
「そういうの関係なく普通に読んで欲しいんだ。
愛里がつまらないと思ったら止めてくれて全然かまわないから」と言ってプリントアウトした原稿を愛里に手渡した。
すると……
ハハハハ
グス……グス
うぁーこうなるかー
愛里は感情全開で夢中になって読んでくれている。
澪奈さんも時に笑い、時に涙ぐみながら真剣に読んでいる。
パタン
「拝読いたしました!」と澪奈さんはタブレットを置いた。
「え、もう読んだんですか!?」
「そりゃ編集者なら速読は必須技能です。
確かにブラッシュアップした分、格段に良くなってますね。
構成も少し変えたのが効いてラストもさらに盛り上がってるし、フーガへの伏線にもなってますし。
やはり先生は天才ですね!
これは文春砲が無くても大大大々ヒット間違いなしです!」
僕は気恥ずかしさで
「あ……ありがとうございます……」と言うだけで精一杯だ。
申し訳ないけど、売れるとかはあんまり興味無いんだけどなぁ。
エリナはiPadのペンを置くと
「ja!! 澪奈!
やっぱりイイでしょ!
あたしは先に読ませて貰ってたから誰かと語りたくてしょーがなかったの!」
澪奈さんは
「ね、ね、ね、レレビアが旅立ちを決意する瞬間!!
もー読んでたら鳥肌立っちゃって!
何度も読んでるはずなのに」
「Samtycke!
そうそうそこよね!
あとアクションシーンなんかさらにメチャメチャ燃えるでしょ!」
と二人は手を取り合ってワイワイと盛り上がり夢中で話し込んでいる。
作者として単純に嬉しいと思った。
ひょっとして出版したらこうやって僕の小説が誰かの話題になってくれるのだろうか?
もし、そうなら……
あわわわ!
二人が夢中で話してたら愛里がネタバレ食らっちゃうかもと……彼女を見た。
愛里は爪を噛んだままの姿で小説に没頭している。
その姿は何物にも変えがたく尊く見えた。
澪奈さんは
「先生、本を出したら日本中いや世界中の読者がああやって作品世界に向き合ってくれるんですよ」と呟く。
その時、僕は初めて自分の本が沢山売れて欲しいと思った。