Neetel Inside 文芸新都
表紙

まほうつかい おんな レベル1
○月×日 上京物語 前

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 天を仰いでみてください。見えるでしょう、果てしなく広がる青い空。遠く高く、それはどこまでも続いています。そんな雄大な空を眺めていたら、自分がとてもちっぽけな存在に思えてきませんか? ささいな事にうじうじ悩んでいる自分が、馬鹿らしくなりませんか?
 なりません。ちっともです。だって私にあんまり関係ないもの。空がどれだけ大きかろうとどこまでも続こうと、やくそうは8ゴールド。どうのつるぎは100ゴールド。私の財布は0ゴールド……。若きまほうつかいの悩みは尽きないのです。
 あー、スマイルとか売れないかな。どうぐや → うりにきた → スマイル。にこっ。みたいな。「スマイル ですね。それなら 0ゴールドで かいましょう。いいですか?」。よくないよ。うまのふん以下かこのやろー。
 はあ。アルバイト行こ。おっくう。

 そんな紆余曲折を経て本日も労働に勤しんでいたんですけれども、仕事中見慣れないお客さんがいました。旅人でしょうか、アリアハンの人間ではなさそうです。心なしか肩を落としていて少しお疲れ気味のよう。
 ……なんだか気になる。思わず 「あんた、背中が煤けてるぜ」 って声を掛けたくなるような。

「ねえ、あそこの 『人生って何……』 風のおじさん、どうかしたのかな?」
「こら。なんでもね、お仕事に失敗しちゃったんですって」
「リストラかぁ。世知辛いね」
「まだ14の子供がそういうこと言わないの。そうじゃなくって――」

 ルイーダおばさんが聞いたところによるとこういう事らしいです。
 あのおじさんは自称トレジャーハンター。世界を巡っている道中、海の彼方の国エジンベアにお宝があると聞きつけ、船を駆使してやっとこ辿り着いたはいいけれど。その入り口は門番に厳重に封鎖されていて、トレジャーをハントするどころかお城の中に入ることさえ出来ませんでした、と。
 何の事はありません、要は盗賊のお話です。盗っ人おじさん大失態の巻。カッコ笑い。
 お城の宝箱を勝手に開けて許されるは世界を救う勇者ならではのスーパースキル。これ基本中の基本ですよね。他の人間が成せばただのカンダタこぶんです。それにもしそのせいで勇者パーティが何とかの鍵とかそっち系の大事などうぐ入手できなくなっちゃったらどうするの。まさかガッツでアバカムまで覚えろというんでしょうか。非道い。鬼です。

「エジンベアってどんなとこなんだろ」
「ここからはずっと遠い島国よ。噂にはよく聞くわね。国民のプライドが高くて、とにかく余所者には厳しいらしいわ」
「へー」

 鎖国でもしてるんでしょうか。いなかもの! って呼ばれちゃうかな?
 うーん。遠い海の向こうの国か……。是非とも一度見てみたいですね。
 しばし思案。
 もちろん今の私には望むべくもない場所です。生まれてからこっち船なんか乗った事すらありません。図らずも今までアリアハン一筋で生きている私には土台無理な話でしょう。
 でも……

「あのトレジャーハンターさんなら一度訪れてるから、もうルーラかキメラの翼でいつでも飛べるんだよね……」
「まーたおかしな事考えてるのね?」

 私は笑顔 (非売品) でVサイン。「ちょっとおじさんと話してくる」
 現在アリアハンしか選択肢が無い私のキメラの翼ポイントを増やす千載一遇のチャンスと見ました。これを逃す手はないでしょー。盗賊おじさんへ、レッツトーク。

「こんにちは。あのー、私をエジンベアへ連れてってください」
「うん? 何だ君は?」

 何だ君はってか? そうです、私が、変なおじさ……いやいやいや。これは女の子がやって良いネタじゃないよ。もう少しで道を大きく踏み外すところでした。あぶないあぶない。
 それはさておき、おじさんは突然話しかけられて何が何だか分からないご様子。そっか。見ず知らずの他人にいきなりそんなこと言われたら誰だって困りますよね。
 簡単な自己紹介と、ルイーダおばさんから話を聞いた旨を説明し、その上で改めてお願いをしました。すると。

「そりゃあ、無理じゃあないが……」

 しぶるおじさん。
 ……どうでも良いけどこのおじさんトレジャーハンターって言うより怪しげな商人だなぁ。ちょっとお腹出ちゃってるし。バリアントナイフ二刀流ってガラじゃないです。アッサラームあたりでバッタもん売ってる方が似合いそう。無闇にカラフルなひよことか。

「そこを何とか。お願いします。キメラの翼は私が持ってますし」
「悪いが、また門番に追い返されると分かってるのに行く気になれんよ。ボランティアで子供のお遊びに付き合うつもりも無い。どうしてもと言うのなら――5000だ。5000ゴールドで連れてってあげよう、お嬢ちゃん」

 高っ。キメラの翼をひょいと投げるだけで5000Gって。なんとえげつないぼったくり。ますますアッサラームの詐欺商人です。おお あなた ひどいひと。わたしに くびつれと いいますか。

「無茶ですよ。そんな大金、持ってるはずないです」

 仮に5000ウォンだったとしても出ないんですけれども。
 貯金底ついちゃったし……。未曾有の金欠。こんぼう一本買えないとは。

「だろうな。じゃああるいは、そうだな。エジンベア城に潜り込む方法を見つけてきたら、その時は考えても良い」
「え、ホント?」
「なんだ、上手い手があるっていうのか?」
「上手い手、なのかどうかは分かりませんけど……」

 おじさんは眉をひそめています。そして私を品定めするように、じろり。俺でも無理だったのに、子供のお前に何が出来る? とでも言いたげです。
 確実に侮られている……。
 これはハッタリの一つも披露しといた方が効果的かもしれません。まほうつかい暦10余年。最も得意とする呪文は閃熱大炎メゾラゴン! なんて。んー。さすがにちょっと無理があるでしょうか。メの部分すら理解できてないしね。

「言っておくが、門番は全く隙がない。そう簡単には一歩たりとも中の土を踏ませてくれないんだぞ」
「要するに、おじさんを。城の中に。送り込めば。それで良いんですよね?」
「まあ、そうだな」
「だったら、うん。はい。方法が無いこともないです」
「嘘じゃないだろうな? 一体どんな手を使う気だ。まさか透明人間になるっていう呪文か?」

 そんなわけないでしょう。
 レムオルなんか使えるならこんなとこでくすぶってないで、今頃とっくにバラモス城で大奮闘ですよ。ライオンヘッドやっつけまくりです。

「違いますよ。でも私と一緒なら出来るやり方があります」
「……」

 おー、悩んでます悩んでます。
 好機! ここは押しの一手しかありません。一気に畳み込みましょう!

「成功すれば、おじさんは間違いなく城内に居るんですよ!」
「ふむ……」
「こうなったら特別サービス、生ビール一杯無料でどうです! そしてなんとなんと、今回限りのご奉仕、今ならもれなくさらにもう一杯だ! ルイーダおばさんのおごり!」
「……よし、いいだろう。連れて行こう。だがもし失敗した時は5000Gきっちり払ってもらうぞ」

 やった。交渉成立。エジンベアの旅ゲット。
 問題は、いかにしてこの盗賊おじさんをお城の中へ放り込むかですが、ふふ。我に秘策アリです。この難問を攻略するは一休さんのとんち。きえさりそうよりスマートに。私の頭脳の見せ所です。かしこさナンバーワンの職業、それがまほうつかい! ――あ、けんじゃは抜きで。だってけんじゃは、職業が賢者ですよ。賢き者って書いて、賢者。「お仕事は何を?」 「頭の良い人を少々」。ただ者じゃありません。どう考えても非凡の世界の住人。

「勝手におごらせるんじゃない」

 こつん。
 不意に後ろから頭を小突かれました。
 背中越しに伝わる気配。振り返れば、振り返れば奴がいる……!
 いた。おばさん。

「その地獄耳、とっても素敵だね」
「あんな大きな声出せば地獄の底に居ても聞こえるわ。――それで、本当に平気なの?」

 やっぱり話全部聞いてたんじゃん。

「任せてー。考えがあるんだ」
「色々な意味で心配だわ……」
「大丈夫大丈夫。至って安全な方法だから」

 私の方は。


<つづく?>

       

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Neetsha