Neetel Inside 文芸新都
表紙

まほうつかい おんな レベル1
○月×日 ああ 空はこんなに青いのに 風はこんなにあたたかいのに

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「ぬわあああああ」

 ……はっ!
 なんだ、夢か。
 ゲマに殺られたかと思いました。メラゾーマ怖い。


「……おはようございまーす……」
「見るからにも聞くからにも元気がないわね」

 何か言い返そうかと思いましたが……ダメー。調子が出ない。
 でっかい火の玉を落っことされるホラーな夢を見てから眠れず、どうにも体調が芳しくありません。
 そんな日も身体を引きずってアルバイトに来る私。けなげけなげ。

「顔色が悪いわよ。どうかしたの」
「うん……。あ、ね、おばさん。ルイーダって10回言ってみて」
「?」
「今の私の気持ち、分かるから」
「あなた、こんらんしてるの? きめんどうしはここには居ないわよ?」
「いいからいいから。さ、ほら」
「なんなの、一体。――ルイーダルイーダルイーダルイー……“だるい”?」
「だるーい」
「……よくこういうくだらない事思いつくわよね。感心しちゃうわ」

 おや褒められた。
 おばさんはもう一度溜め息をつきながら、手をちょいちょい。こっちに来なさい、と。
 とぼとぼと歩み寄れば、その手がぬっと伸びてきて、私のおでこにピタリ。

「熱は、無いみたいね」
「あーうん。多分ただの寝不足」
「ねぶそく? 昨日の夜何してたのよ」
「お勉強」
「あら、面白い冗談ね」

 嘘じゃないもん。
 冗談はバギムーチョだけで十分です。ひどいネーミング。それどっちかって言うとカラムーチョのシリーズだよ。だれ、その呪文編み出した人。酒飲んでたとしか思えません。

「本読んでたら目が冴えちゃって」
「ガラにもないことするからよ。どんな本読んだの」
「ラリホーの本」
「またそうりょの呪文じゃない。何やってるんだか」
「ううん。そうじゃなくて」

 新しい呪文にトライ! とか、そうゆういつものじゃなくって。ただ単純に読んだら眠くならないかなーって……。
 いえ、そもそも読んだだけで覚えられたら苦労はないんですけれど。
 呪文にも 『できるシリーズ』 とかあればいいのに。あるいは 『ターゲット1900』。一週間で脅威の呪文100個暗記! ……でも呪文って1900種もあるのかな? うん。無いね。十中八九無い。ま、そしたらファイアとか。アルテマとかさ。入れちゃえ。

「えっと、だからね。眠れないから眠くなるようにラリホーの本を読んでたら眠れなくなっちゃって、それで眠れないから眠くなるようにラリホーの……あれ?」

 あれれ。いつの間にやらエンドレス。迷いの森の迷い人。
 どっちが、どうだったっけ……。うー、頭が、上手く、回らない。
 そんな私を見ておばさんは言いました。

「まさに“本”末転倒」

 ……よくそういうくだらない事思いつくよね。感心しちゃうよ。


       

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