「ぬわあああああ」
……はっ!
なんだ、夢か。
ゲマに殺られたかと思いました。メラゾーマ怖い。
「……おはようございまーす……」
「見るからにも聞くからにも元気がないわね」
何か言い返そうかと思いましたが……ダメー。調子が出ない。
でっかい火の玉を落っことされるホラーな夢を見てから眠れず、どうにも体調が芳しくありません。
そんな日も身体を引きずってアルバイトに来る私。けなげけなげ。
「顔色が悪いわよ。どうかしたの」
「うん……。あ、ね、おばさん。ルイーダって10回言ってみて」
「?」
「今の私の気持ち、分かるから」
「あなた、こんらんしてるの? きめんどうしはここには居ないわよ?」
「いいからいいから。さ、ほら」
「なんなの、一体。――ルイーダルイーダルイーダルイー……“だるい”?」
「だるーい」
「……よくこういうくだらない事思いつくわよね。感心しちゃうわ」
おや褒められた。
おばさんはもう一度溜め息をつきながら、手をちょいちょい。こっちに来なさい、と。
とぼとぼと歩み寄れば、その手がぬっと伸びてきて、私のおでこにピタリ。
「熱は、無いみたいね」
「あーうん。多分ただの寝不足」
「ねぶそく? 昨日の夜何してたのよ」
「お勉強」
「あら、面白い冗談ね」
嘘じゃないもん。
冗談はバギムーチョだけで十分です。ひどいネーミング。それどっちかって言うとカラムーチョのシリーズだよ。だれ、その呪文編み出した人。酒飲んでたとしか思えません。
「本読んでたら目が冴えちゃって」
「ガラにもないことするからよ。どんな本読んだの」
「ラリホーの本」
「またそうりょの呪文じゃない。何やってるんだか」
「ううん。そうじゃなくて」
新しい呪文にトライ! とか、そうゆういつものじゃなくって。ただ単純に読んだら眠くならないかなーって……。
いえ、そもそも読んだだけで覚えられたら苦労はないんですけれど。
呪文にも 『できるシリーズ』 とかあればいいのに。あるいは 『ターゲット1900』。一週間で脅威の呪文100個暗記! ……でも呪文って1900種もあるのかな? うん。無いね。十中八九無い。ま、そしたらファイアとか。アルテマとかさ。入れちゃえ。
「えっと、だからね。眠れないから眠くなるようにラリホーの本を読んでたら眠れなくなっちゃって、それで眠れないから眠くなるようにラリホーの……あれ?」
あれれ。いつの間にやらエンドレス。迷いの森の迷い人。
どっちが、どうだったっけ……。うー、頭が、上手く、回らない。
そんな私を見ておばさんは言いました。
「まさに“本”末転倒」
……よくそういうくだらない事思いつくよね。感心しちゃうよ。