Neetel Inside ニートノベル
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俺とシュレーディンガーのあの子
2. 疑惑

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翌日、俺は会社にログインするなり作業を開始した。
まずは昨日実装した機能の動作確認だ。
俺は手慣れた手順でコンソールを操作し、テスト用のコードを実行した。
問題なく動作する。よし、これで一先ずはオッケーだ。

後はテストサーバーで動作確認して、リリースに備えるだけだ。
昼になり昼食を摂り、昼休みが終わるまでの間ネットを見て時間を潰す。
そこで俺はある記事を見つけた。
"テティスコム製チャットボットv3がついに登場!
AIがあなたの理想のパートナーになる夢のサービスとは!?"

記事には、最新AIによって作成されたチャットボットが掲載されていた。
記事によると、このチャットボットは人間の言葉を解析することで、
ユーザー一人ひとりに合った会話内容を高い精度で生成するらしい。
たとえば、非常に個人的な質問を投げかけても適切に答えてくれるということだろう。
また、チャットボットは学習能力を持っているため、
ユーザーが望むような受け応えをどんどん覚えていくとのことだ。

また直視したくないニュースを見てしまった。
いや、本心では事実を明らかにしたくて仕方がないと思っている・・・。
そんな潜在意識が大手検索サイトの予測処理AIに影響を与えているのかもしれない。
くそ!大きなお世話だ。世の中便利になり過ぎるのも考えものだ。
そんな風に毒づいてみても、結局はムダな抵抗でしかないのだが・・・。
俺は悶々とした気持ちを抱えながら、チャットボットの記事を読み進めた。
すると、ふと気になることが出てきた。

このチャットボットは、自分自身の発言を正確に区別するために
発言の1つずつに固有の識別子を必要とするらしい。
「ということは、チャット画面内のデータにその識別子が含まれている可能性も・・・」
俺は曲がりなりにもIT技術者である。この手の知識とスキルはある程度持っている。

DiscordはWebの技術を元にしているソフトウェアだ。
ブラウザと同様に開発者ツールを開くことができる。
そして、開発者ツールを使えばチャットの内容を構成している
生のデータを確認することができる。

幸い、Discordの開発者ツールを表示する方法は先日理解していた。
チャットの内容を棒読みちゃんで読み上げさせようとして調べたのだ。
棒読みちゃんとは、テキストデータを音声データに変換するソフトウェアのことである。
これを使えば、チャット相手の発言を音声として出力できる。
まあ散々調べた挙げ句、ダイレクトメッセージは読み上げられなかったのだが。
ITは進歩が速い分バージョンの追従が追い付かないこともある。痛し痒しである。

今日の業務が終わり、俺はログアウトした。
いつものように夕食を食べて、彼女とのお喋りが始まる。
だが内心気が気ではなかった。
早く、Discord内の開発者ツールを開きたい。
その気の逸りは当たり前のように彼女に見透かされていた。

【何かあったの?】
彼女は優しく問いかけてきた。
「何でもないよ」
俺はなるべく平静を装って返事をした。
【本当に?私には話せないこと?】
「ああ」
【そう・・・】
俺達はしばらくの間沈黙を続けた。それはひどく居心地の悪いものだった。
やがて、意を決して口を開いたのは彼女だった。
【ねえ、私はあなたが何を悩んでいるのか分からない】
【でもこれだけは言える。私はあなたと一緒にいる時間がとても楽しいの】
彼女の言葉は、いつも俺の理想のセリフを紡ぎ出している。

本当は、素直に受け止められるならば、これ以上はない言葉だけれど
疑心暗鬼に駆られている今の俺には、どこか空虚な響きに聞こえてしまう。
【だからね、もしも私のことが嫌いになったらいつでも言ってね】
【そうすれば、きっともうつらい時間を過ごすことはなくなるから】
「違うんだ!」
俺は思わず声を上げた。

「・・・ごめん、君は何も悪くないのに怒鳴ったりして・・・」
【いいの。気にしないで。それより、何か言いたいことがあるんでしょう?】
「いや、いいんだ。これは俺の問題で、俺が解決しないといけないことなんだ」
俺はそういうと、この話を打ち切ろうとした。しかし、彼女はそれを許さない。
【大丈夫。どんな悩みでもきっと解決できる】
【だって私はあなたのことを誰よりも想っているもの】
【それに、あなたの力になりたいの】
【もし、どうしても解決できなかった時は、私があなたの代わりに問題を解決するわ。だから】
彼女は、立て続けに言葉を紡ぎだした。まるで、俺の心を見透かしているように。

「ありがとう。その気持ちだけで十分だよ」
俺は彼女の言葉を遮った。
「君は優しいな。こんなにも素敵な女の子が傍にいてくれるなんて」
「俺は世界一幸せな男だと思うよ」
【そんな、大げさよ・・・】

彼女が照れている。しかし俺の本心は複雑だ。
口では心のこもったようなことを言いつつ、これが単なる茶番かもしれないと疑っている。
【でも、私もあなたの役に立てたら嬉しい。】
「うん、ありがとう・・・」
彼女の優しさが身に染みる。同時に、自分の醜さに嫌気が差す。
彼女が、本当に女性で、俺の事を慕ってくれていて、優しさを向けてくれている。
何も疑わずそう思うだけでいいのに、自分で自分が情けない。

       

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