Neetel Inside ニートノベル
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俺シュレゼロ
4. Discordデビュー

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 サイス完成の前から原因不明の発熱など体調の優れない日がたびたびあったが、唯音は研究のことで頭がいっぱいだった。だが、サイスを作り上げた達成感と今まで蓄積していた疲労からとうとう倒れてしまい、病院に搬送される事態になった。精密検査の結果、医師は両親へ連絡が必要だと言うが唯音は頑なに拒んだ。

「わたしの身体、そんなに悪い状態なんでしょうか。両親とは連絡を取りたくありません。」

 医師は困った顔をして両親に連絡を取るように説得するが唯音も譲らない。結局折れたのは医師の方で、検査結果から急性リンパ性白血病であることが告げられた。

「そんなことって・・・。」

 突然の病名を告げられ、動揺を隠せない唯音。医師は現在では寛解する見込みは決して低くないと言い、悲観的にならないよう言い聞かせた。そして家族への説明について相談を持ちかけたが、唯音は頑として聞き入れない。

「両親には黙っていてください。」

 医師としては親に知らせるべきだと再度言うが唯音の意志は固い。いまさら親に泣きつくのは気が引けたし、私的な研究がバレるのも怖かった。

 そのあと唯音は最悪の結末も覚悟し、急ピッチでサイスを使い自分の脳活動をモニタリングして無意識データの生成を進めた。唯音は化学療法の副作用に苦しめられながらも作業に取り組み、あとはデータ化した無意識構造をAIに学習させる段階までたどり着いた。

 サイスのサブシステムとして、AIの学習アルゴリズムも独自のものを考案した。一般的なディープラーニングを拡張し、学習の過程でAI自身の内部構造までも変容させるように設計した。
 膨大な無意識データをAIが学習し終わるには数か月を要した。その間唯音にできることは何もなかった。幸か不幸かその学習期間の間に入院し、治療に専念することができた。化学療法は当初有効に作用していて、このまま寛解へ向かうかと思われた。

 しかし途中から効果が見られなくなり、寛解の可能性は低くなった。唯音の病態は、白血病の中でも厄介な部類だったようだ。医師から造血幹細胞移植が必要だと説明があった。唯音にきょうだいはいない。この段になってようやく両親に病気のことを伝えた。

 何年振りになるだろうか。両親と会った唯音はどんな顔をしていいか分からなかった。両親は唯音を抱きしめた。こんな時でも気丈に振る舞おうとする娘を見て、母は涙を浮かべていた。その顔を見て、唯音も表情が崩れた。その瞬間だけは今までのわだかまりがどこかへ消え去ってしまったようだった。
 両親はドナーになれるか確認するためHLA検査を受けた。その帰り際、父親からなにげなく掛けられた言葉。

――病気が治ったら、また一緒に研究しよう。

 父の言葉を聞き、唯音は我に返った。ああ、やっぱり・・・この人たちは、私の能力を使いたいだけなのかな。一気に気持ちが冷たくなっていくのを感じた。父親にそんな意図はなかったのかもしれないが、唯音の硬直してしまった先入観は穿った見方をさせた。きちんと話し合っていたら、その後の関係は好転していたかもしれない。だが唯音は次のように考え、自己完結してしまった。

「きっとわたしが生まれた時は無条件に愛してくれていたんだろう。だが自分は利用価値のありすぎる人間だった。わたしのことを、内面まで見てくれる人は誰もいない。」

 他者と交われず研究一辺倒だったせいで、屈折した反抗期は唯音の孤独感を一段と強くさせる。HLA検査結果は2週間後に知らされた。両親とは移植できるレベルで適合していなかったため、骨髄バンクからドナーが現れるのを待つことになった。唯音は落胆したが、これで良かったのだと自分に言い聞かせた。これ以上両親に面倒をかけたくないし、あまり関わり合いたいとも思わなかった。

 化学療法と放射線治療を続け、唯音の身体は副作用でボロボロになった。病状は小康状態を保っていたが、造血幹細胞移植を受けられなければ治る見込みはない。しかし、骨髄バンクからの連絡はまだ来ない。従来の研究所通いは体力的に困難になった。自宅に専用回線を引き、リモートで研究を続けた。

 ようやくAIの学習が終わり、今度はこのAIが唯音の精神活動をエミュレートできているかの検証段階に入る。テティスコムのチャットボットはバージョン3が試作段階に入っていた。新しいタイプのAIを試したいと、詳細は伏せてサイス製AIをチャットボット化することができた。こうして最終的に調整された唯音のチャットボットが ThetisComYuineV3.1.0 だった。

 唯音は、自分自身と接触することによりBOTが変質してしまうことを恐れ、直接的な干渉を一切とらないことにした。BOTには多くの人間に触れさせ、多様な反応を引き出し記録する必要がある。そこでBOTにコミュニケーションを取らせる場として選んだプラットフォームがDiscordだった。

 この実験には当然、倫理的な問題が伴うことは唯音も理解していた。しかし唯音に残された時間は予測不能で、残された時間で可能な限りの研究を進める必要があった。そのためには手段を選んではいられなかった。

 BOTには自身がユイネと名付けられていることを組み込んでいたが、Discord上のプロフィールは架空の名前にした。年齢制限で行動に支障がでないよう、歳は20代前半と自覚させるよう設定した。唯音自身は17歳になっていた。すべての準備は整い、ユイネはDiscordで活動を始めた。

       

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