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ミシュガルド一枚絵文章化企画2
ミシュガルド執筆劇「迷宮の闇を照らして」執筆者:タアアタ

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「迷宮の闇を照らして」

ミシュガルド大陸開拓時代、
フロンティアを求めた
三か国の冒険者たちは格安の片道切符で
ミシュガルドの地に降り立ち、
あらたなる役職をミシュガルド冒険者として
演じることになるが、ここにひとりの魔法使いがいた、
人間族の魔法使いでありながら三か国のどこにも属さない、
隠者の島の出身である
魔法使いシャウル・マファラート、
彼女もまた仲間と共に数多くの冒険譚を
ミシュガルド大陸で為したのであるが、
仲間を単眼種族の魔法使いメフエ・マナカマに奪われ、
今はSHWの所属としてシャウルは仲間の安否とメフエへの復讐を誓い、
大交易所より
骨甲皇国のミシュガルド地域で発展した都市ガイシへと鉄道に乗り込む。
 メフエは亜人でありながら骨甲皇国に
自らの魔眼の力で入り込んだ謎の女魔法使いである。
 またミシュガルドに原生する生物はモンスターともなり、
危険と隣り合わせの中、メフエは単独で危険地域に赴き、
ミシュガルドの中心である大交易所で数々の発見を報告していた。
 シャウルの耳にこれが入らないわけが無い、
物語は両者の対峙より始まった故に、
決着はつけなければならないだろう。

「コンキャット隊長、ご無事でいてください」

シャウルは純粋な魔力のみを根源とした魔法使いであり、
血統や精霊との契約ではなく魔法の技術のみで
そのチカラを得た魔力そのものといえる魔法使いでもある。
 それゆえにメフエの存在は不気味であった、
彼女は自らの魔眼による対象の支配によって
魔力を獲得しているようなのだ。
 魔法使いというものは自らの魔力を焦点具と呼ばれる魔道具で
増幅し発動させることを魔法の起因としているが、
メフエは人そのものを焦点具として扱い、
ある時にはモンスターさえも魔道具として自らの支配対象化に置く、
この差と溝は絶対的な開きがあり、
メフエの超常的な力はミシュガルドの原生生物としても規格外であった。
 単独、骨甲皇国に乗り込んだシャウルの前に立ちはだかったのは、

「いけないね、いけないよ、
 人の目を見て話さなくてはならないよ」

骨甲皇国の魔術師ギルドの一派であり
そして彼らはメフエの支配下における焦点具であった。
 魔術師ギルドの構成員を利用した詠唱はシャウルを捕縛し、
捕縛した闇は地底に引きずり込むように。
メフエの支配する迷宮の奥深くにシャウルを取り込んでしまった。

「なるほど?
 うまいこと躱したわね、シャウル」

メフエはあえてこの迷宮の中で

「これは、みんなの、装備?」

かつてシャウルと
仲間として冒険をしていた戦士や探求者たちを解き放ち、
シャウルの判断力を鈍らせた。
 メフエの目的は単独ではシャウルの持つ技術による
魔法体系を凌駕する術が無いことからくる、
ただ、メフエ自体にも策は無いわけではなかった、
単眼種族としてパッケージされているメフエは元々、
何らかの種族に属した存在ではない、むしろ不定形な生物が
複数の異形の神と契約することで
その姿を今の人間体に安定させているだけであり、
従来持つ異形の形態に戻れば、
いかにシャウル女史が魔法の名手であったとしても、
異形のメフエの圧倒的な魔力を前にしては敗れ去るだろう、
だがメフエはそうはしなかった、
一度、異形の姿を露呈すればそれは
攻略の糸口を相手に与えることにもつながる、
あくまでそれは最終手段であった。
 迷宮の奥地にある罠にシャウルを彼女を捉えてしまえば、
メフエは隠者の島の魔術の秘密を知ることが出来るだろう、
いくらメフエが魔眼で探ろうとも
シャウルの記憶の中に存在しない秘術、
それを解析するための罠こそ、
メフエが何度もシャウルを挑発していた理由にもなるのだ。

「コンキャット隊長、ご無事ですか?! コンキャット隊もみな!」
 シャウルの眼前にいるのはかつてメフエとともに
行方をくらましていたシャウルがいた調査団のメンバーであった。
「シャウルか?! ここは一体? どうなっているんだ?」
 「隊長、話はあとです!
  メフエの罠が仕掛けられてるかもしれません!」
 シャウルは魔眼の錫杖の石突を
地面にカンと立てると守護結界を発生させた。
 「これならばしばらくは持ちます、
コンキャット隊を連れて、SHWの調査団に報告してください」
 「シャウル! お前はどうするつもりだ!」
 「メフエには借りがあります、
そして私はあの頃より魔力を高め磨いてきた魔法の力も!」
 互いに奥と外へと駆け出すと、シャウルは迷宮の奥地、
不気味な目がうごめく空間の奥深くにたどりついた。
 「待っていたわ、シャウル」
「メフエ! あなたの目的が何であっても!」
 シャウルは魔眼の錫杖を構えて魔法の矢をメフエに向けて解き放った。
 「あら、早くなったわね威力も上がった」「っ?!」
「でも惜しかったわね、ここはわたしの魔眼だけじゃないのよ」
 そこには桃色の目をした数多の異形のものが柱のように連なっていた。
 「これは!? ナイトメアツリー!?」
 「ご明察、でもこれは私の目でもあり焦点具でもある、
  意味は分かるかしら?」
 魔法の矢は空中に留まり続け、やがて分解されて消滅した。
 「ならば! 我が願いは魔道万里を奔る
幾億蹄鉄で踏み固める怒涛の群れとならん!
 魔法の騎兵隊! マジックセンチュリオン!」
 シャウルの詠唱は最大限に高められ、
魔法の騎兵隊がナイトメアツリーを駆け巡り、
ランスで貫いていく! 
「あらあら? なるほど? 
 既に万軍を行使できる段階に達していたということね、
 見事よ」 メフエにランスを構え取り囲む魔法の騎兵隊、
 「メフエ、観念しなさい! あなたの目的は達することは無い!
 もはやいかな詠唱でもこの魔法の軍勢を押さえることは不可能!
 魔眼をもってしても魔法騎兵には覗き込める目は無いわ!」
 メフエは高笑いした。
「なにも別に詠唱をするだなんて言ってはいないわ」
「なにを!? っつ!?」
「なんのために迷宮があると思う? そこには影があるのよ、
 シャウル」
 闇から出でた針によってシャウルは意識を失った。
 首に走った痛みと共に。

シャウルは意識を取り戻した。
「こ、これは?!」
 シャウルはナイトメアツリーに取り込まれ
 五体身動きできない状態に置かれている。
 「残念だったわねシャウル、そしてありがとう、
  ここまで来てくれて、確信したわ、
  あなたは私の魔道具だってことが」
 シャウルが詠唱を行おうとすると、
意識が白く飛び、
呼応したように数多のナイトメアツリーの目が桃色に輝いた、
「なにを?」 
「やはりそうなのね、
 ラブワームの針の催淫効果が適用されていない」
 ラブワームとはミシュガルドの原生生物の一種であり、
尾っぽに催淫効果のある毒針を持っている、
これによって多くの冒険者たちが
探求を困難にしたことは事実としてあった。
「わたしにはその手の毒は効かない、
 メフエあなたが何を企んだとしても」
 「じゃあなんでその毒が効かないのか
  その理由をあなたは分かっているのかしら?」
 「? メフエ、何を企んで」
 「シャウル、普通の女性であれば
  ラブワームの催淫効果を受ければただでは済まない、
  当然、冒険もままならない、だけどあなたには
  何度刺しても効果が無い、
  というか効果自体は発揮されているのだけどね」
(何を言っているの? だけどなに、妙に体が熱い)
「そう、一般的な母胎を持つ女性なら
 誰しも繁殖の為の欲求がある、
 でもシャウル、あなたは違うわ、
 そうねそのチカラは母胎そのものが
 魔道機関として構築されなおされてる」
「メフエ、あなたは私に何を?」
メフエの重い瞼が瞳に掛かり表情を変えさせる。
「正確には隠者の島の賢人連中がやりそうな手ではある、
 実際にやるやつがいたとは驚いたわね、
 真っ当な魔術の技じゃないから」
「あつい、これは」
 シャウルの体から光量の強い火があふれだし、
拘束していたナイトメアツリーの集合体が焦げ付き、
桃色の瞳が虹色に発光する。
 「始まったわね、まああなたの体に与えられた宿命とやら、
  存分に使ってみなさい、誰も止めはしないわ」
 シャウル・マファラートは光そのものと化した人間体をもって、
この意味を理解した。
 「魔術における弱点、それは魔力の枯渇にある、
  種としての限界は定まり、
  いかな長命種をしても
  技術をもってしても越えることが出来ない一線がある、
  ただひとつ脆弱な人の子が持ちうる可能性を除けば」
メフエは応える
「神の
 奇跡とは産めよ増やせよからなる神の系譜の拡充にあった、
 だがそれはどれも劣化コピーに過ぎない、
 神が持つ真なる形質とは際限ない力の根源、
 それは産み育てやがて消えゆく
 人の子の宿命とは異なったものになる、
 魔術的な悲願ともなる永久機関、それは」
シャウルは応える
「母胎による胎内の自己複製の絶え間ない連続による代謝、
 神代の人鋳型にあった人間体安定のプロトタイプ」
「そう永久機関を持つ人間、産み育てる機能を失った
 代わりに構築された母胎炉、自己の魔力代謝能を
 極限まで高めた自己完結による無限誕生する概念的不滅の存在」
シャウルはエフェクトとなり立ち上る光を感じながら、
メフエに対峙する。
「ようこそこちら側へ、はじめまして、かしら?」
光、ゆらぐ、人間体、光のシルエット。
「邪心を討つためにある光の化身、魂光体エフェクトリリト」
 シャウルは魔力そのものとなった。

エフェクトリリトと化したシャウルにとって、
もはや魔法は焦点具は必要としていなかった、
自らが光であり魔法であるからだ、
自らの光を五体をもってメフエに投射すると、
メフエの人間体が影とともにゆらぎ姿が変わっていく、
そこには宇宙の深淵が広がっていた。
 「人間体安定の意味と意義について、
  それは神の似姿であることに他ならず、
  真に人の依存から脱却した存在であれば、
  肉体すら必要としていない、
  霊魂自体がこの世に顕現してしまったとなれば、
  余計に」
 メフエは自ら混沌の深淵とかして、
エフェクトリリトを包み込もうとする。
 「肉体ならいくらでも与えてあげるわ、
  混沌の中からあなたにふさわしい器を用意したのよ、
  シャウル」
 光が走りながら宇宙の深淵から遠ざかろうとするが、
迫り来る影は確実に闇の一点光の筋へ向かっていく、
「そうこれがあなたの新しい肉体、そして私の新しい魂、
 人間体安定と融和する異形の為せる御業」
 メフエは数多の触手と数多の瞳と、
腹部にある大きな裂け目からのぞかせる牙をして
エフェクトリリトの一部を捕食した。
「うっ!」
「ありがとうシャウル、
 そしてまた逢う日まで、次に会う時には」
 メフエの深淵にたたずむ異形の姿が徐々に実像とともに、
光と闇の入り乱れた溶け合う
一つ目の人間体として翼を授かり去っていく。
「その光をすべていただくわ」
 エフェクトリリト体にはハートの食みあとが残って、
徐々に光が散逸しシャウルの元の姿に戻っていく。
 「なんだったの、これは?」
 ふと気づくと迷宮は崩れ去り、
露天掘りのように奥地が空の元に明らかとなって、
晒されていた。 
「シャウル・マファラート、無事なようね」
 SHWの調査団が光に照らされたシャウルの裸体をSHWの旗で覆うと、
悪夢のような迷宮の闇は去り、白日の下に洗い流された。

       

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