表情差分
ディオゴ=4
ダニィ=8
セキーネ=12
マリー=20
ツィツィ=21
ミハイル4世=27
ソフィア=31、32、33、34
ニコラウス=40
ミシュガルド一枚絵文章化企画2
「反デウスエクスマキナ」作:新野辺のべる(9/1)
月の昇らぬ夜が100日以上も続く、惑星ニーテリアの長い冬。精霊樹の巨大なうろの中でエンジェルエルフ二人が冬ごもりしている。
「ふぁあああ~」
大きなあくびをするソフィアに「眠いのか?」と声をかけたのは、エンジェルエルフの族長ミハイル4世だ。ソフィアは、うんざりした表情で答えた。
「だってー。いい加減、限界なんだけど……」
そう言いながら、再び大きなあくびをした。
ミハイル4世は、苦笑しながら言った。
「無理からぬことだ。アルフヘイム大陸から急速にマナが失われている。我らエルフの種を保存するためには、この精霊樹の中で永き眠りにつくしかない」
禁断魔法の冬を乗り越えるため、失われていくマナを節約するためだけではない。ミハイル4世には政治的な計算もあった。
甲皇国との戦争に勝てず、国土を荒廃させた全責任から逃れ、雲隠れするためである。
(まったく、情けない……)
ミハイル4世は心の中でつぶやいた。
しかしその気持ちとは裏腹に、彼女の心の中にはもうひとつ別の感情があった。
それは、深い後悔であった。
「あのとき、私が、あの魔法を使えと命じなければ……」
罪が清算される日まで彼女の自責は続くかと思われた。しかし、贖罪の日は今日だったのである。
五人の刺客が精霊樹の中になだれ込んだ。その一人のディオゴが、族長ミハイル4世の胸を突き刺したのだ。
「ぐっ!」
族長はうめくと、玉座に倒れたこんだ。そして、口から血を吹き出し絶命した。
(これでいい……)
ミハイル4世は満足していた。自分の死によって、全責任を逃れ、後悔の日々は終わる。
「運が良かったですね。禁断魔法の冬によって、マナが大幅に減衰していたから、簡単に勝てました」
刺客のセキーネはすでに勝ったつもりで言った。
「ふん! まだ、一人残っているぞ」
ディオゴがセキーネを叱った。セキーネは慌てて、ソフィアの後ろに回り込み、首筋に手刀を叩きつけた。
「終わりましたよ」
セキーネはそう言うが、手刀を受けたソフィアの姿を見落としていた。
踊るように回転してセキーネの攻撃はいなされていく。怒髪天をつくソフィアはディオゴに傘で殴りかかる。涙目のソフィアはダニィに蹴りを浴びせる。
「馬鹿な? なぜ生きている!?」
セキーネが驚くのも無理はない。ソフィアが使った四情分身の魔法は、四つの感情を分裂させて、四人に分身する高等魔法である。マナが枯渇しているソフィアにはすでに限界が近い。
「私がすべて引き継ぐわ♪」
「アルフヘイムの全責任来いよ、おらぁー」
「国土を穢した後悔も……」
ソフィアの声とともに、三人の刺客は倒され、精霊樹のうろの中は静寂に包まれた。
残った刺客は二人。ツィツィとマリーだけ。四人の分身と二人で闘わなければならない。
圧倒的不利と思われた。しかし、四人のソフィアが重なり合い、分身が、解けてしまった。ツィツィとマリーは罠かと思ったが、そうではない。
「え?」
「なに?」
四情分身を使うマナはもう残っいない。ソフィアはすべてのマナを失った。
二人の刺客のうち、マリーは尋ねた。
「もう、やめませんか? 私たちはすでに目的を遂げました。憎いミハイル4世はすでに亡く、あなたに恨みはありません」
ソフィアはにやりと笑い、答えた。
「見逃してやるというわけね。それはダメだわ。私はアルフヘイムの権力も罪もすべて引き継いだもの」
そう言うと、目を瞑り精神を集中させた。四情分身を使うのだ! しかし……
当然四情分身が発動しない。いつもなら、心に浮かぶ感情がすぐに形にできるのに。
マナが切れているとは言え、敵意はある。そう判断したツィツィはコウモリの翼はためかせ、鋭い爪を突き付ける。
瞬間、閃光を伴う衝撃波が襲いかかってきた。
ツィツィは吹き飛ばされながら、衝撃の来る方向を見る。ソフィアはもう魔法が使えない。別の何者かがいる。
果たして、爆炎が晴れるとそこには白と黒の髪を持つ獣人がいた。
人の形はしているが、理解しがたい獣だと直感が告げている。
獣人はソフィアに言った。
「回復してやろう」
そう言われると、よく眠れた日の朝のようにソフィアのマナがあふれ出した。
それだけではない。倒れていたディオゴたち刺客五人の体力も回復している。
まったく得体のしれない獣人である。状況は振り出しに戻ってしまった。だが、悪くない。ソフィアはただ施しを受けるなんてまっぴらだった。
「決着は私がつける!」
「ふぁあああ~」
大きなあくびをするソフィアに「眠いのか?」と声をかけたのは、エンジェルエルフの族長ミハイル4世だ。ソフィアは、うんざりした表情で答えた。
「だってー。いい加減、限界なんだけど……」
そう言いながら、再び大きなあくびをした。
ミハイル4世は、苦笑しながら言った。
「無理からぬことだ。アルフヘイム大陸から急速にマナが失われている。我らエルフの種を保存するためには、この精霊樹の中で永き眠りにつくしかない」
禁断魔法の冬を乗り越えるため、失われていくマナを節約するためだけではない。ミハイル4世には政治的な計算もあった。
甲皇国との戦争に勝てず、国土を荒廃させた全責任から逃れ、雲隠れするためである。
(まったく、情けない……)
ミハイル4世は心の中でつぶやいた。
しかしその気持ちとは裏腹に、彼女の心の中にはもうひとつ別の感情があった。
それは、深い後悔であった。
「あのとき、私が、あの魔法を使えと命じなければ……」
罪が清算される日まで彼女の自責は続くかと思われた。しかし、贖罪の日は今日だったのである。
五人の刺客が精霊樹の中になだれ込んだ。その一人のディオゴが、族長ミハイル4世の胸を突き刺したのだ。
「ぐっ!」
族長はうめくと、玉座に倒れたこんだ。そして、口から血を吹き出し絶命した。
(これでいい……)
ミハイル4世は満足していた。自分の死によって、全責任を逃れ、後悔の日々は終わる。
「運が良かったですね。禁断魔法の冬によって、マナが大幅に減衰していたから、簡単に勝てました」
刺客のセキーネはすでに勝ったつもりで言った。
「ふん! まだ、一人残っているぞ」
ディオゴがセキーネを叱った。セキーネは慌てて、ソフィアの後ろに回り込み、首筋に手刀を叩きつけた。
「終わりましたよ」
セキーネはそう言うが、手刀を受けたソフィアの姿を見落としていた。
踊るように回転してセキーネの攻撃はいなされていく。怒髪天をつくソフィアはディオゴに傘で殴りかかる。涙目のソフィアはダニィに蹴りを浴びせる。
「馬鹿な? なぜ生きている!?」
セキーネが驚くのも無理はない。ソフィアが使った四情分身の魔法は、四つの感情を分裂させて、四人に分身する高等魔法である。マナが枯渇しているソフィアにはすでに限界が近い。
「私がすべて引き継ぐわ♪」
「アルフヘイムの全責任来いよ、おらぁー」
「国土を穢した後悔も……」
ソフィアの声とともに、三人の刺客は倒され、精霊樹のうろの中は静寂に包まれた。
残った刺客は二人。ツィツィとマリーだけ。四人の分身と二人で闘わなければならない。
圧倒的不利と思われた。しかし、四人のソフィアが重なり合い、分身が、解けてしまった。ツィツィとマリーは罠かと思ったが、そうではない。
「え?」
「なに?」
四情分身を使うマナはもう残っいない。ソフィアはすべてのマナを失った。
二人の刺客のうち、マリーは尋ねた。
「もう、やめませんか? 私たちはすでに目的を遂げました。憎いミハイル4世はすでに亡く、あなたに恨みはありません」
ソフィアはにやりと笑い、答えた。
「見逃してやるというわけね。それはダメだわ。私はアルフヘイムの権力も罪もすべて引き継いだもの」
そう言うと、目を瞑り精神を集中させた。四情分身を使うのだ! しかし……
当然四情分身が発動しない。いつもなら、心に浮かぶ感情がすぐに形にできるのに。
マナが切れているとは言え、敵意はある。そう判断したツィツィはコウモリの翼はためかせ、鋭い爪を突き付ける。
瞬間、閃光を伴う衝撃波が襲いかかってきた。
ツィツィは吹き飛ばされながら、衝撃の来る方向を見る。ソフィアはもう魔法が使えない。別の何者かがいる。
果たして、爆炎が晴れるとそこには白と黒の髪を持つ獣人がいた。
人の形はしているが、理解しがたい獣だと直感が告げている。
獣人はソフィアに言った。
「回復してやろう」
そう言われると、よく眠れた日の朝のようにソフィアのマナがあふれ出した。
それだけではない。倒れていたディオゴたち刺客五人の体力も回復している。
まったく得体のしれない獣人である。状況は振り出しに戻ってしまった。だが、悪くない。ソフィアはただ施しを受けるなんてまっぴらだった。
「決着は私がつける!」