Neetel Inside ベータマガジン
表紙

ミシュガルド一枚絵文章化企画2
「つい流れで」作:タアアタ

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「国際交流の機会も活発になり」

ホロヴィズ校長の言葉は長くて
よくはおぼえていないけれど

「きみ」
「はい?」
「ときにきみは
 この学園が何のために
 あるかを理解しているかね?」
「はい」

質問されるとは思ってなかったな
抜き打ちで晒しものとかあるんだ。

「学園の創設にあたっては」

ミシュガルド学園
幅広い学科からなるこの学園は
三国協調のあかしとしてあらゆる
種族、所属、階級の隔てなく
自由で闊達な学園生活を通じて
アルフヘイム・甲皇国・SHW
そしてミシュガルドそれぞれの
叡智を学び共に考えるを主体に
価値観のシェアを目的に
開校されました。

「よろしい、では補足しておこう」
それも覚えてる話、
学科は三つの軸からなる。
工業、商業、農業の三部門から
自分の夢に向かって選択し
それぞれを得意とした先生方が
教育にあたってくれる。
体育と武道教育を通じた
ミシュガルドでの生き方の基礎ともなる
体力づくりはこの広いグラウンドを
舞台に、時にはフィールドワークでの
課外授業もある。

「校長、そのあとの説明は
 担任ごとに行いますので」
「よろしい、では生徒会から
 メゼツ」

メゼツ?

「生徒会のメゼツだ
 問題ごとさえおこさなきゃ
 おれは手出さねえよ」

メゼツ先輩か

「では諸君、たのしいスクールライフを!」

学園での生活が始まった。

キーンコーンカーンコーン

「このまえよーみたんだよ」
「おー河川敷のほうか?」
「メゼツ先輩がグループの抗争仲裁して」

河川敷のほうってたしか前の雨で

「とっちめたあと流されててさ」
「流されてたな」

流されてたんだ

「そしたらビビのやつが制服脱いで」
「びっくりしたよなまさかビキニで」
「まあどっちも助かったんだから
 わかんないもんだよな」

制服の中にビキニとか
男子の話題にはなるよね
何考えてんだろう、って
ビビって確か
確か記憶では
なんだっけ?
教室戻ろう

「そうそう! そのビビ!」
「おどろきだよねー!」
「やっぱり?」

さっきの男子とは打って変わって
この子たちは一緒のクラス
でもまあ甲中からの馴染みだし
もうちょっと話聞きたい

「たしかミシュガルド学園が
開校する前だったっけ?
OBの丙武先輩が甲中の連中引き連れて
アル中の文化祭に殴りこんだのよ」
「そんで
ビビはアル中の仲間と甲中相手にして
怪我人続出! 大変だったんだから!
そん時のでどっちもお咎めなしとは
いかないだろうって」
「でもメゼツ先輩は
 生徒会よね?」
「そこは親の七光り?」「忖度じゃね?」

分からないな
大人の事情?

ブーン!ババババババババ!

「あーカノヤくんだ!」
「ほんとだ! 乗っけてってもらおうよ!」
「こらこら!
 あんなんでかっとばしたら
 二人とも虫酔いするよ?」

「「せんぱーい」」

なにがせんぱーいなんだろう
虫はなんか苦手だな
食べるのも乗るのも
そうだ学科の選択によっては
というかわたしの所属としては
いややめておこう
「帰らないとだな」

まだ学内に残ってる人はいないでもないけど
大概は部活かな
部活の勧誘チラシ
受け取るとめんどくさいから
結局ろくに見てなかった
下駄箱、錠前外して、上履きしまって
そう、もう帰ってしまってもいいんだ

(だいじょうぶかな、わたし)

「だいじょうぶか?」
「えっ」
「ハンカチは取っておくとよい」
「あ、ありがとうございます、って」

わたしは別に泣いてるわけでもない

「ルドヴィコだ、校長のことは
 まあ気にするな
 身内びいきが過ぎるという
 そういうものだと思えば
 そこまで気に病むことはない」
「わたし別に気に病んでなんかないですよ」
「ハッハッハ、では俺はこれで
 ハイヤー!」

馬で正門から帰宅する人がいるなんて
ってハンカチ、どうしよう?

また明日、返せばいいのか
いやなんか嫌だな
勘違いだし

「どうしたんだ、おとしものか?」
「あ、ダーク先輩」
「紛失物は職員室で先生たちが
 管理してる、探し主が来るまで
 保管しておかなくては」

「あの、これはルドヴィコって
 そう名乗ってる人が勘違いで」
「ああ、それならエーコさんの
 店に行ってみるといいんじゃないか?」
「はい?」
「あそこで大体打ち合わせしてるからな
 そこまで遠くない、地図だとここになる」
「親切にどうも」

って馬で飛ばすような距離でも
無いだろうに、もし馬で飛ばすような
距離なら地図で教えてくるダーク先輩も
大概だけど

「えっと、ここの通りを右に
 カルファ? 喫茶店?」

馬いるし、確定だけど

あんまり寄り道とかしないから
勝手がわからないな
お客さんってわけでもないのに
いいのかな?

ドアノブに手を掛けると。

チャランチャリン
「いらっしゃいませ」

これだ
ご来店ありがとうございます
スマイル

「えっと、あのお客というわけでは」
「人をお待ちですか?
 今、テーブルが空いてるので
 どうぞ」

いいのかな?
って別に人を待ってるって
わけじゃないけど

「あ」
「水ならおかわりもあるので」
「すみません」

そう、ルドヴィコって人を探してるんだ
「あのー」
ああ、声をかけそこなったって
あそこの人たち
あの制服って

「そこをなんとかならないかメゼツ?」
「ダメだろ馬の餌でどれだけ経費が
 掛かると思ってんだ
 第一、馬で通学すんなや」
「へぇ虫はどうなの?」

ルドヴィコって人とメゼツ先輩
あとはあの子は

「ビビ、それはカノヤに言ってくれ
 あいつの羽音に学外から
 クレーム入ってんだ」
「生徒会の仕事でしょ?」

ビビだ、あんなに仲良いんだ

レコードのクラシックな音色が
鳴る中で喫茶店でくつろぐ仲
どういう理由で?
いやそんなに理由とかないのかも

「それにしてもだメゼツ
 最近、稽古に付き合って
 くれないのはどういうことだ?
 腕がなまるぞ?」
「ルドヴィコ
 こっちはフィールドワークの
 下調べで毎日腕磨いてんだよ
 代わるか?」
「なに! なぜそれを
 早く言わんのだ!」
「馬じゃあの辺りはちょっとね
 トカゲならどうにかなるんだけど」
「その言いよう!
 クソ! 二人して抜け駆けか!」
「違うぞ!」「違うわよ!」

仲良いな
ハンカチ渡して帰るだけのはなし
なんだけどな

「あら、あなたそのハンカチ」
「えっと」
エーコさん、だっけ
「ルドヴィコ君のよね?
 届け物?」
「そう、ですね」
「自分で渡す?」
「ええと、その渡しておいて貰えたら」

そうすれば帰るだけのはなし
そうだよね、そう

「だいじょうぶよ
 一緒に行きましょ」
「えっと?」

ちょっとな、その

「ルドヴィコ君、ちょっとこっちに来て」
「おら、ルドヴィコ
 エーコさん呼んでるぞ」
「そうそう」
「誤魔化すなよ、っとなんでしょうか」

背中押されても困るんだよね

「これ、あなたのハンカチ」
「あれ、わざわざ届けに?
 というよりもう大丈夫なのか?」
「あのですね、そもそも泣いてないですから
 これ、使ってませんから
 そのまま返します」
「ああ! そうか! すまなかったな」

「でかい声だな、フラれたのか?」

そう、別に

「そういうこと? それでいて
 抜け駆けとか言う? フツー」

「二人ともこれはだな!」

必要ない

「では、これで、私は帰りますから」

「あっちょっと!」

関係ないことだ
アル中とか甲中とか
七光りとか
虫も嫌い

「ハンカチなんか渡してくんな」

走る必要あったかな
むだに息は切れてるし

だいぶ日も暮れてる
なんで橋なんかで黄昏てんだろうわたし

「おーミシュ学のやつだぜサコ」
「見りゃわかるぜリャコ」

亜人? 暗がりで
獣人だ、青っぽいのと赤いの
縞が入ってるな、ガラわるそー

そうだ、ここって
抗争とかなんだっけ
メゼツ先輩がだっけ、帰らなきゃ

「おっとちっと面かせや嬢ちゃん」
「そうそうイコの言ってる通り」
「とっとといこうぜイコだけに」

くそもう一匹、亜人も嫌いだ

「待てぇええい!」

!!?

「ゲッ馬なんざ乗ってなんだありゃサコ!」
「馬に乗るようなんは馬鹿野郎だリャコ!」

「おれはルドヴィコ! 青の部の
 部長だ! うおおおおおおおお!!!」

走ってる最中の馬から飛び降りるのは
たしかに馬鹿だと思った
無駄に転がってるし

「大丈夫か!?」
「大丈夫かって、目の下赤いの垂れてますよ」
「ああ、これか、これはペイントだ」

強がってるな
しかも
「おいおいミシュ学のぼっちゃん
 ちょうどいいとこにきたな」

ちっ

「くそ! 人質か!」
「人質か! じゃねえんだよ
 自分の身を考えろボケ
 俺ら虎人三兄弟、ミシュガキのやつらには
 たっぷり恨みがあるんでなああ」
「そうだぜ、イコに言われて思い出したぜ」
「てめえらのせいで俺ら退学だ
 どう責任取ってくれんだあん?」

三体一
人質取られて
分が悪い

「ならばその拳でこのルドヴィコを
 討ってみせろ!
 三人がかりでも相手にならんわ!
 ぐおっ!」

爪か、亜人らしい

「三人も二人も必要ねえんだよ
 虎人のツメとキバ
 たっぷりと味合わせてやるぜ!
 やったれサコ!」
「おうよ! リャコ!」

青いのがサコ
赤いのがリャコ
黄色いのがイコ

どうにも好転しそうにない

「クソっ卑怯だぞ!
 ウッ!」

「おいリャコ、サコ、手ェ抜いて
 じわじわ切り刻んでくれよお?
 イコ様が留めさしてやっからよお」
「亜人は馬鹿ですね
人質にするなら
そこの人のほうが価値がありますよ」
「んだと!?」

すこしこっちに関心が寄ったか
息を吸って吐く
声、張り上げてやる
「仮にも青の部長に傷つければ
 ミシュ学のホロヴィズに
 目付けられるって言ってんですよ!」

「ほ、ホロヴィズ!?」
「えっイコ、そいつマジで言ってるのか」
「りゃ、リャコ、引っ搔いちまったぞ!」

少しは怖気付け獣畜め

「あ、あんな老いぼれ怖くねえぞ!
 ホロヴィズがなんだ!
 このアマ!」

「よっよせ!」

「こわかねえぞ! ホロヴィズなんて!
 ミシュガキが! よく見てろよ!」

「やめろ!」

畜生らしい判断
なんでわたし
かばってんだろ
馬鹿らしいな

爪たてられてたのが離れて
離れたらそれで

「おい、イヌッコロども
 人の縄張りでなにしてやがる?」

……空気が変わった

「メゼツ! 来てくれたのか!」

「「「め、メゼツ!?!?」」」

「ルドヴィコ、馬でさんざん
 あっちへこっちへ走って
 追っかけるほうの身ィ考えろ
 通学禁止にすんぞ」

「すまん、俺が落馬していなければ」

「死にくされぇ!」「ま、まてサコ!」

はやい

「で、どうすんだ?」「グエェ!」「サコ!」

ボディに一撃、亜人に
ああも素拳が入るものなんだ

「やばいよイコ!
 メゼツってホロヴィズのガキだぞ!?」
「リャコ! み、見えねえのか!?
 人質取ってんだぞ!?
 メゼツ、動くなよ! うごく…え?」

いい加減獣くさいの飽きてたんだよね

「バカが!? なにしてやがる!」

あとは勝手にやって

「メゼツ!」「ビビ! 相手しててくれ!」

バシャン ザパン

橋から川に飛び込むなんて
馬鹿だ、なにやってんだろ
さっぱりしたな
なんか今日一日とても馬鹿らしかった

「おい、馬鹿!」
「……」
「起きたか?」

メゼツ先輩?

「ほら、タオル」
「わりぃな、ビビ」

「先輩、泳げないんじゃ?」

「アハハ!」「フハハ!」

笑うとこ?

「笑うな! 濁流になってなきゃ
 泳ぐくらいわけねえ!」
「アンタがカナヅチだって
 もっぱら噂になっちゃってるもんね!」
「フハ―! ぐっ腰に響くなこれは」
「ルドヴィコは落馬とか
 しばらくは車椅子で来なさいよね」
「オレもお前らもどいつも
 わけねえな、まったく、ハアー
 調子どうだ? ハンカチ女?」

なんだその呼び名、まあ一応は

「ありがとう、ございます」
「おれはメゼツだ
 お前の名前は?」

「わたしのなまえは」

焚火の明かりが妙に
パチパチと言ってる
それくらいのトーンで

妙な一日

       

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Neetsha