Neetel Inside 文芸新都
表紙

仮面ライダー閃光<グランス>
第二話「ファイナルベント」

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アウター2号、そう呼ばれた異形との戦いから、二日が過ぎていた。
警視庁特務四課、正式名称"未確認生命体処理班"の捜査本部――――――
「本日より、私達の仲間として一緒に働く事になる人を紹介します。
 神奈川県警捜査一課から転属してきた、朝比奈光一刑事です。」
本部にいる皆の前で高梨百合子が、横に立っている青年を紹介する。
紹介された青年は、深々と礼をしてから口を開いた。
「神奈川県警捜査一課から転属してきました、朝比奈光一です。
 まだ、この課の仕事については不慣れな所が多いと思いますので
 ご指導の程、よろしくお願いします。」

俺は…二日前の事件で、知らなかった事を知ってしまった。
アウターと呼ばれる、人を自らの影の中に取り込む異形、そいつらの犠牲に
なった人間がいる事…これから先、そいつらの犠牲になる人間が
増えるかも知れない事。
そいつらの犠牲になる人間を、一人でも減らしたい。
そのために、俺にできる事があるなら全力でやらなければ…。


仮面ライダー閃光 第二話「ファイナルベント」


館塙博志…警視庁特務部所属"特務武装研究員"…。
彼は今、一つの映像と睨み合いを続けていた。
「また、現れたか…。」
二日前のアウター2号との戦闘の前後の映像だ。
アウターサーチャーで磁場の歪みを捉えて、アウター出現地点を予測し
ライドベースで出現予測地点まで急行し、迅速な対処を行う。
それが未確認生命体処理班の仕事だ。
未確認生命体処理班の活動は、アウター出現の報が入ってから
アウター撃破までの間の一部始終が、あらゆる手段を以って
記録されている。
移動中のライドベースの車外を記録するカメラに始まり
ライドベースの位置を常に特定する機能を持った人工衛星まで
様々な記録媒体が存在する。
問題は、ライドベースの車外の様子を記録するカメラの映像だ。
アウター出現予測地点までの移動の際、必ず同じバイクが1台
ライドベースの近くを通っているのだ。
ライドベース出動時の映像全てを、比較確認してみたのだから
間違い無い。
「また…彼か…。ファーストコンタクトの傷跡は大きいな。」
館塙には、そのバイクの持ち主に心当たりがあった。
アウターとのファーストコンタクト(初遭遇)の報告書に
記載されていた、アウター1号に妹の命を奪われた青年…真節輝次だ。

映像に映っている、赤をベースにした何処か生物的な感じのするバイク。
このバイクは、全てのバイクメーカーの物を調査したが、市販されている
バイクではない。
カスタマイズされたもの………か、それとも自然にこの形になって
しまったものなのか………。
館塙は後者の可能性を考えていた。それには、当然根拠もある。

アウター1号と生身で戦い負傷した真節輝次は、入院の際に検査を受けている。
その検査の中で、本人に告げられていないデータがあった。
厳密には、検査した医師と、館塙の二人だけしか知らないデータ。
―――真節輝次は、微弱だがESP(超能力)を使える資質を持っている。―――
アンノウン事件の際、"アギト"(※1)と呼ばれた、超能力を使える者達。
真節輝次は、彼らと同じで…アンノウンに標的とされてもおかしくない存在だったのだ。
本人は、恐らくその事に気付いていない。
アンノウン事件の際、アギトの力を持った者の中には、自らの所持する市販の
バイクが、ESPによって生物的に変化し、意志を持つに到ったと言う事例もある。
バイクの持ち主がもしも彼ならば、彼は何故アウターの出現地点を予測できるのか…。
アギトの力を持った者の中には、アンノウンの出現地点をアギトの力によって
正確に把握できた者がいたと言う事例があった。
それと同じ原理で、対象がアンノウンからアウターに変わっただけなのか。
それとも、アウターとアンノウンの間に何か生物学的な共通性が有り、その
共通性の部分が、アギトの力を持つ物がアンノウンの出現地点を察知できた
理由と関係あるのだろうか。

これまでに得られた情報や根拠から、館塙はバイクの持ち主が十中八九
真節輝次だろうと推測していた。
「まるで、不発弾だ…。」
机の隅に置かれたマグカップに注がれたコーヒーを飲み、気持ちを
落ち着けようとするが、それでもなお、館塙の表情には険しい物があった。

アウター出現の報せが無い時の未確認生物処理班は、大した活動をしていない。
G-6装着員の面々は地下の射撃施設で射撃の訓練を行っている。
本部に居るのは俺と高梨課長の二人だけだ。
当の高梨課長は、二日前のアウターとの戦闘に関する報告書を作成している。
その間俺一人だけが過去のアウター関連の事件の資料に目を通していた。
勿論、高梨課長から指示されての事だが。
「先ず、敵と今までの経緯を知りなさい、戦うって事はそういう事よ。」
そう言われて、朝から5時間程の間資料に目を通している。
一応、全部に目を通し終わったのだが…。
「あの、高梨課長…。」
本部室内の沈黙に耐えられず課長に声をかけてみる。
俺の呼びかけが聞こえていないのか、黙々と報告書を作成する課長。
「たか……なし…課長?」
今度は先程より少し小さな声で呼びかけてみるが、やはり聞こえていない様だ。
仕事に没頭するタイプなんだろうか。
そう考えていると不意に本部の扉が開き、地下で射撃訓練をしていた
G-6装着員の方々が入ってきた。
「課長、今日の訓練終わりましたよ。」
「課長、新入りも訓練に参加させて下さいよ。」
皆、口々に好き勝手言っている。
「そうだな、できれば新入りにも訓練に参加してもらえると助かるな。」
G-6装着員のリーダー格の人が、そう言いながら俺に目を向けて言葉を続けた。
確か、元原さんとか言う名前だったような…。
「なっ、期待のルーキー君。」
そんなに賑やかにしていると、報告書を作成している課長の邪魔になるんじゃ…
と思い左手で課長の机を指さしながら、右手の人差し指をたて、口元にもってきて
"静かに"とジェスチャーをする。
すると、元原さんは…。
「百合子さん、訓練終わりましたよ。」
とはっきりとした声で喋った。
ぜ、全然俺のジェスチャー理解されてねえ。
そう思った次の瞬間、凄い勢いで鉛筆立てが元原さん目がけて飛んできた。
軽く鉛筆立てを避ける元原さん。
「名前で呼ぶなっ、何度言ったら解るの?」
俺が呼んでも全然反応せずに、集中して報告書を書いていた高梨課長が
投げた物だった。
元原さんは、床に落ちた鉛筆立てを拾うとニコニコと笑顔になりながら
俺に説明してくれた。
「高梨課長はな…報告書作成に集中してると、どれだけ周りで騒がれても
 アウターサーチャーの警報音か、下の名前で呼ばれた時しか
 反応しなくなるんだ。」
「へぇ…。」
先程目を通した資料にあった、特務四課結成の経緯を思い出す。
特務四課結成が2004年で、高梨課長達が特務四課入りしたのが2005年。
このメンバーでの結成から1年近く過ぎているのだ。
この手のやりとりはきっと皆慣れたものなんだろう。
少し感心してしまう。
「まあ、下の名前で呼ぶと必ずこういう風に鉛筆立てが飛んでくるから
 避ける訓練が必要だがな。」
どうやら俺も、その訓練をしなければならないようだ。
「今までのアウター事件の資料、閲覧終わりました。」
俺は高梨課長に過去5件のアウター事件の資料を渡した。
「そう……。今まで目を通してもらったのは、特務四課結成の経緯と
 アウター事件に関する資料ね。後は…結成以前及び結成後の、アウター以外の
 未確認生命体事件の報告書にも………一応、目を通してもらった方が良いかな?
 どう思う、元原君。」
問われて元原さんが答えようとした瞬間、丁度タイミング良く内線のコール音が鳴る。
高梨課長は内線を取ると電話の相手と二言、三言「ええっ」「はいっ」
「ではそちらへ…」とだけ話し受話器を置き、そして…。
「朝比奈君、特務部から呼び出し。資料閲覧は後でいいから
 特務武装研究所へ行って。」
そう言っては意味深な笑みを浮かべた。

特務武装研究所は、警視庁の建物の地下2階にあった。
「射撃訓練場だけじゃないんですね…地下にあるのって。」
研究所に入った俺の第一声だ。
実際、警視庁の地下にあるものなんて、駐車場と射撃訓練所
ぐらいだと思っていた。
「そりゃそうさ、地下にあった方が色々と都合が良いからね。」
研究所の隅に置かれた白バイの様な物の機関部を弄くりながら
館塙さんが答える。
「都合が良い?」
俺には意味が良く分からなかった。
「ほら、ライドベースは地下2階の駐車場にあるだろ。
 地下から出動するんだから、特務武装研究所を同じ階に
 配置すれば破損した武装を修理したり新しい武装を開発して
 すぐに、ライドベースに搭載できる。」
ああ、そういう事か。
研究所と駐車場の距離を短くしておく事で、武装の修理や新武装の
開発後、ライドベースまで運ぶ手間を減らす事ができるのが、地下に
ある理由か。
「それに、よく言うだろ…警視庁の地下には政府直属の秘密組織の
 本部があるとか。地下に研究所があると都市伝説を実現した
 みたいでかっこいいじゃん。」
何だか、笑えない冗談を言っている気がするがそれには敢えて触れない。
「それで、わざわざ君を呼び出したのは…ライダーシステムとの
 同調実験をしたいからなんだ…。
 これ、のね。」
白バイの様な物の調整が終わったのか、その場に立ち上がりながら
館塙さんは続けた。
「ライダーシステムのオプションとでも言うかな…。」
そう言いながらバイクから離れ、俺の方に向かってくる。
「見た目は、普通の白バイとちょっとだけデザインの違う白バイだけど。
 ……変身、してみて。」
言われるままに、俺はバックルを取り出すと腰に近づけスイッチを入れる。
バックルから伸びたベルトが腰に巻き付く。
『 変 身 』
叫びながら、バックルの右端のスイッチを押す。
「Turn up(ターンアップ)」
バックルから、機械的な音声が聞こえ
目の前に俺の身体より少し大きめの、プラズマ状の四角いフィールドが
浮かび上がる。
そのフィールドが俺の方に近付いてきて、俺の身体が
プラズマ状のフィールドを抜けた瞬間―――
二日前の様に、俺の身体は金属製の鎧に包まれていた。
「よし、成功だ…。」
館塙さんが嬉しそうに叫ぶ。
辺りを見回すと、研究所の隅に置かれていたバイクの形が変化している。
見た目が普通の白バイとちょっとだけ違うデザインだったそれは、後部に
武装用のトランクを載せている。
フロントには走行中に敵の攻撃から身を守るための物なのだろうか、
ガードが付いている。
「君専用のバイクだ。元素固定形状記憶機構…つまり、エレメント生成装置
 をバイクに内蔵し、君の変身ベルトと連動する様にプログラムしておいた。
 君がベルトを使いオリハルコンエレメントを発生させると、それに
 同調してバイクの前にもオリハルコンエレメントが発生し、白バイから
 戦闘用マシンへ変化させる。
 また、変化後は時速500kmの速度で走行できる。」
オリハルコンエレメント(※2)と言うのは、変身時に目の前に
浮かび上がるプラズマ状の四角いフィールドの正式名称らしい。
説明の意味は良く分からないが、つまり俺が変身するのと連動して
このバイクも変身するシステムが組み込まれているという事だろう。
それよりも驚くべきは、その速度だ。
「時速、500km…。」
ただただ唖然とするばかりの俺を見て、少し苦笑してから館塙さんは
誇らしげに言う。
「アウター出現の際、現場へ可能な限り迅速に行かなければならないからね。
 これが………。」
館塙さんが、何かを言いかけて言葉に詰まる。
「その姿の時、何て呼べば良いの?」
「へっ?」
俺は思わずキョトンとする。
「名前だよ。ライダーシステム装着員って言うのも長すぎるだろ。
 それに、戦闘中に朝比奈君とか呼んでもしまらないし。
 短くて格好いい、ライダーシステム装着時だけの登録コード
 みたいな物があった方が良いと思わない?」
言われてみれば確かにそうだが、そんな事を急に言われても短くて
格好いいコードネームなんてすぐに思い浮かぶわけがない。
俺も館塙さんも、黙り込んでしまう。
そこで…俺は、ふと疑問に思った事を口にした。
「そう言えば何故………このシステムの名前は、ライダーシステム
 なんですか?」
館塙さんは近くにあった椅子に座ると、俺の顔を見て話し始めた。
「君は、"仮面ライダー"というのを知っているかい?」
「"仮面ライダー"?」
思わず聞き返す。
「一種の都市伝説みたいなものだ。私も詳しく知らないが、私の
 先任にあたる特務武装研究員の方々から聞いた話だよ。」
一体どんな都市伝説なんだろう、初めて耳にする名前だ。
「警視庁の解決してきた事件の中でも超重要機密に類する話だ。
 アウターの様な異形の怪物と人類との接触は、実は今回が
 初めてではない。
 ………6年前を皮切りに、警視庁が把握しているだけでも
 4年前と3年前と2年前にそれぞれ、異形と人類の戦いが
 起こっている。
 その内の幾らかは、世間の明るみに出てしまい、新聞等でも
 取り扱われたりもしているが…基本的には人知れず行われた戦いだ。
 そんな人知れず行われた人類と異形の戦いの中で、必ずと
 言って良い程。
 バイクに乗って颯爽と現れ嵐の様に激しく戦い、人類に仇為す
 異形を倒し朝日と共に何処かへ去っていった。
 そんな戦士の存在が確認された。」
「………………。」
俺は、館塙さんの話しに聞き入っていた。
「彼らの殆どは、戦う時に必ず素顔を仮面で覆い隠していた事と
 バイクに乗って現れた事から、こう呼ばれたんだ。」
「「仮面ライダー」」
俺が言うのと館塙さんが言うのは同時だった。
「6年前と3年前と2年前の異形との戦いでは、仮面ライダーが
 現れたという記録は特務四課のファイルにも残っている筈だ。
 けれど、4年前の異形との戦いの際に仮面ライダーが現れた
 と言う記録は存在しない。
 でも、きっと僕たちの知らないところで…4年前に現れた
 異形と戦っていた仮面ライダーが居た。僕はそう信じて居るんだ。
 そして、G-6は6年前に現れた仮面ライダーのデータを元に。
 ライダーシステムは、G-6をベースに2年前に現れた
 仮面ライダー(※3)のデータを合わせて作られているんだ。」
話を聞いている内に、俺の心の中で小さな火種が燃え始めた様な…
そんな音が聞こえた。
バイクに乗って颯爽と現れ嵐の様に激しく戦い、人類に仇為す
異形を倒し朝日と共に何処かへ帰って行く戦士…。
嵐の様に激しく戦い………。
「………………嵐<ストーム>。」
「ん?」
「いえ、何でもありません。」
俺は自分が小さく呟いた言葉を取り消す様に焦って取り繕った。
まだそんな大それた名前を名乗る自信が、俺の中に無かったから。

* * * * * *

夜の公園を一組の男女が歩いていた。
一見すると仲の良いカップルに見える。
だが、二人の会話を聞いていると二人がカップルではないのが、よく解る。
「も~~~っ、お兄ちゃんのおせっかいっ!」
「そう言うなよ、帰りが遅いから心配してたんだぞ、彩菜。」
どうやら、二人は兄妹の様だ。
「だからって、わざわざ駅まで迎えに来なくてもいいじゃない…。」
どうやら、帰りが遅い事を心配して自分を駅まで迎えに兄に対して
腹を立てている様だ。
「怒るなよ。」
そんな妹をとりなそうとする兄。
見ていて何と微笑ましい光景だろう。
「お兄ちゃんが迎えに来たの、友達に見られて恥ずかしかったんだからね。」
「………スマンッ。」
背後で両手を合わせて妹に頭を下げる兄の様子に、彩菜という名の妹は
兄の方を振り向き笑顔になると
「いいよ、許してあげる。……そのかわり……来週の、わたしの誕生日には
 美味しいケーキ焼いてね。」
そう言って、クスクスと笑う。
兄もつられて笑顔を見せ
「ああっ、とびっきりのやつを焼いてやる。」
そう答えた。

その数分後に二人を襲う悲劇を、この時は知りもしなかった。

大きな公園の中心には、噴水を中央においた巨大な広場がある。

二人がそこにさしかかった時だった。
月に照らされた噴水のオブジェの影から、人間の2.5~3倍ぐらいは
あるであろう巨大な蜘蛛の異形が、地面から湧き出るかの様に出現したのだ。

「彩菜――――――――――――っ!!!」
男は自分の発した声で目を覚ました。
荒い息をしながら枕元の時計を手に取る。
時計は5時17分を指し示していた。
窓の外は夕焼けの紅色の世界に染まっている。
耳の奥でチリチリと雑音が聞こえる。
耳の外から聞こえるのではなく耳の奥…脳から耳に
伝わって来ている感じのする音だ。
「………少し、遠いな。」
男はそう呟くとベッドから飛び降り、サッサと服を着ると部屋を飛び出し
車庫に向かった。

車庫のシャッターを開けると車庫の中にあったバイクに乗る。


夕方5時を過ぎ、夜勤に入る人以外は退庁準備を進めている時間帯…
突如、未確認生命体処理班本部にアウターサーチャーの警報音が鳴り響く。
高梨課長は、すぐさま立ち上がると指示を出す。
「未確認生命体処理班、出動します。」「了解。」
駆け足でライドベースの停めてある地下駐車場に向かうG-6装着員達と高梨課長。
その後に続こうとした俺に、高梨課長の澄んだ声が伝える。
「朝比奈君は特務武装研究所へ行って。
 ライダーシステム専用バイクで出動して!!」
俺は、言われるままに特務武装研究室へ走る。
特務武装研究室の扉を開けると、館塙研究員がライドベースへ移動しようと
支度をしていた。
特務武装研究室の奥にある巨大なシャッター…"緊急扉"を開けると、
地下駐車場内のライドベースが停めてある位置の背後に出る。
その扉を開けながら、館塙研究員は
「"デルタチェイサー(※4)"の調整は完了してます。」と言い放った。
"デルタチェイサー"とは、どうやらあのバイクの名前らしい。
俺はバックルを腰に近づけるとスイッチを押す。
バックルから伸びた金属製のベルトが腰に結びつく。
ベルトが腰に装着できたのを確認すると、デルタチェイサーに跨る。
「ライダーシステム装着員、朝比奈光一……出動します。」
勢い良くそう叫んで、俺は緊急扉からデルタチェイサーで飛び出した。


日が沈みゆくオレンジ色の街を、バイクに乗った男が疾走していた。
―――――――真節 輝次。
真節のバイクの背後を、一台の白バイが走っていた。
どうやら、向かう先は同じの様だ。
白バイに乗った男は突如こう叫んだ。

『 変 身 !』

白バイの前に、高さ2メートル程のプラズマ状のフィールドが発生する。
プラズマ状のフィールドをくぐり抜けた瞬間、そこには白色のバイクと
それに跨る銀色の鎧を着た戦士の姿があった。
スピードを上げると、道路を走る車や他のバイクの間を縫う様にして
走っていく白色のバイク。
白色のバイクの後ろ姿を見ながら真節輝次は呟いた。
「邪魔を………する気か。」
真節輝次は、半年前に妹の命を奪った蜘蛛の影を未だに追い続けていた。
蜘蛛の影がまだ未確認生命体処理班に処理されていないのは、今まで
全ての影の出現現場で確認したのだから間違いない。
半年前以来、蜘蛛の影が再度出現した事が無いのも彼は確認していた。


夕闇に染まり始めた広い公園…そこがアウターの出現予測地点だった。
俺はカメラのモニターに表示された出現予測地点の直ぐ側にバイクを停める。
右腰に装着された銃を左手に構え、銃に付いているカードホルダーから
カードを一枚引き抜き、いつでも読みとらせられる態勢を整えておく。
カードを手にした瞬間に、その効果が自動的に頭の中にデータとして
流れ込んでくる。
今、俺の手にあるのは『ナスティ(音波)』のカードだ。
カードの隅には、小さく「3」と言う数字が書かれている。
ヘルメットに内蔵された通信機を通して、ライドベースでこちらに向かっている
高梨課長からの指示が聞こえてくる。
「アウターが出現したら、独自の判断で撃破する様に。」
独自の判断…俺はその言葉を「戦い方は一任する」と言う風に解釈した。
場合によってはライドベースが到着する前に撃破しても構わない………
そういう事だろう。

公園の真ん中の広場。その側に煉瓦造りの柱と、柱の上に
日陰となる木の板でできた屋根の付いたベンチがある。
公園に立ち寄る人達にとって休憩所となる場所なのだろう。
その休憩所の影から、地面から湧き出る様に二足歩行の
豹の様なアウターが出現した。
「アウター5号…」
通信機から高梨課長の声が聞こえてくる。
俺は右手に持ったカードを、左手の銃に読み込ませる。
『ナスティベント』
機械的な音声がカードを読みとった事を告げる。
そのカードを読み込ませた事で、銃は一定の弾数だけだが
音波を武器として使う音波銃へと変化した。
俺はアウター5号に向けて銃を構えると引き金を引いた。
次の瞬間アウター5号が火花を散らして後ろへ吹き飛び、
休憩所の煉瓦造りの柱に頭から飛び込む。
残りの弾は三発。
続けざまに打ち込もうとした瞬間、アウター5号が立ち上がり
猛スピードでこちらへ走ってきた。
その速度は照準を定めるのも厳しければ、次のカードを
引いている間もない。
突進してきたアウター5号は俺の身体を体当たりの威力で
後方へ弾き飛ばす。
立ち上がろうとした俺の目の前には、既にアウター5号が迫っていた。
「くっ」
アウター5号が鋭い爪で、俺を斬り付けようとする。
待てよ、この距離なら外す事は無いんじゃないか…。
俺は銃口をアウター5号の身体に向け、再び引き金を引いた。
音速の弾がアウター5号に当たりアウター5号の身体が火花を散らす。
アウター5号が怯んだ隙に立ち上がると、アウター5号から
距離を取り立て続けに2発連射する。
これで音波弾の残弾数はゼロだ。
次のカードを引き、それを読み込ませる。
『ソードベント』
機械的な音声がそう告げたかと思うと、上空から巨大な槍が降ってきた。
銃を腰に付けると、槍を両手に持ちアウター5号目がけて突進していく。
アウター5号の爪と俺の槍が、1分程の間斬り合いを続ける。
振り下ろそうとした槍を受けとめようとアウター5号の爪が動く…。
その動きでアウター5号の右脇ががら空きになる。
アウター5号の右脇腹に蹴りを入れ、その反動で後ろに下がり
槍を地面に突き刺しもう一枚カードを引く。
引いたカードを読み込ませると、地面に突き刺した槍が煙の様にゆらゆらと
揺れながら消滅していく。
そして、機械的な音声がカードの名前と効果を告げる。

『ファイナルベント』

俺の背中に、蝙蝠アウターの羽が生える。
何をすればいいのかは、カードを手にした瞬間に頭の中に伝わってきている。
その羽の動くままに、地面を蹴り上空へ飛び上がる。
ある程度の高さまで上昇すると、羽の向きが急に変わる。
この羽の動きの勢いに任せて、ある一点を目指して急降下すればいい…。

そう、アウター5号の身体目がけて。

猛スピードで俺の身体がアウター5号目がけて急降下していく。
頭の中に、自然と浮かび上がっていた言葉を、俺は叫ぶ。
それは――――――俺の必殺技の名前。

「ライダ―――ッ、キ――――――ック!!!!」

その蹴りはアウター5号の身体を貫き、俺をその先の地面へと着地させる。
背後で身体を貫かれたアウター5号が動きを止め、その身体が
青白い炎に包まれたかと思うと、硝子の破片の様に細かい粒へと砕け散る。
砕け散った破片はキラキラと輝きながら、空気中に溶け込んでいった。
もう一人の俺…人々に希望を与える都市伝説
"仮面ライダー嵐<ストーム>"の生まれた瞬間であり、初めての勝利だ。

俺は、ベルトのバックルについたボタンを押す。
変身が解け腰に巻き付いていた金属がバックルの中に収納される。
ライドベースが到着したのは、丁度その時だった。

ライドベースから降りてきた高梨課長は寂しそうな笑顔で呟く。
「私達の出番…無かったみたいね。」
俺はその場にしゃがみ込んだまま答える。
「今回は…ですね。」

「しかし、遺体を回収してデータ収集に当たろうと思ったのに…
 まさか倒すと元素レベルにまで分裂して消えてしまうとは。」
いつの間にか、ライドベースから降りてきた館塙さんが悔しそうに呟く。
「これでは、アウターの生態に関するデータは生きた物を
 捕獲しない限り無理そうだ。」
更に悔しそうに、館塙さんが呟いた。

「ところで、何よ…さっきの『ライダーキック』って叫び声は?」
高梨課長が意地悪な顔をして朝比奈装着員を問いつめている。
「えっと…あの、館塙さんが、話してくれた都市伝説で
 思いついたんですよ。」
慌てた様子で、朝比奈装着員が答える。
そこで私の名前を出さないで下さいよ…。
あんな都市伝説の話を真顔でしてたなんて高梨課長にバレるのは、
恥ずかしいんですから。
私は、そう思いながらアウター5号の消滅した地点の様子を
伺いに行く。
「"仮面ライダー嵐<ストーム>"か…素敵なコードネームね。
 記録書及び報告書にはそのコードで記録しておくわね。」
後ろで高梨課長の声が聞こえる。
アウター5号の消滅した地点の先、公園の向こうにあるビルの
屋上に居る人影に気付いた。
あの位置からなら、恐らく仮面ライダー嵐<ストーム>と
アウター5号の戦闘の一部始終が見えた事だろう。
私は、自分でも気付かない内に、誰にも聞こえないであろう小さな声で
遠くに見えるその男の名を呟いていた。
「真節………輝次」
朝比奈装着員も高梨課長も、その人影には気付いていない。
彼の存在を…私は高梨課長達に黙っておく事にした。

第二話「ファイナルベント」END

       

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