ジャルグ・バンリオン
#5
◯スペース・コロニー べルディナ
政府庁舎の立ち並ぶビル街
UNITS本部
窓が異様に少ない無味乾燥な4階建てビル
満員の職員食堂
スーツ姿のエシラはトイレ入り口近くの席に一人で掛けて食事を摂っている
UNITS長官がトレイを持ってエシラの対面に立っている
長官
「一人かね、ここ空いてる?」
エシラ
「長官……」
長官の後ろから彼女そっくりな女性が現れる
驚くエシラ
長官
「これ、双子の妹のディーア」
ディーア
「ディーア・フィドル
地球連邦の宙域保安隊で管区副部長をしている、よろしく」
エシラ
「はぁ……どうも」
長官
「先日のアルスタン一味の逮捕はお手柄だったな
一人で祝宴は旨くなかろう」
エシラ
「慣れてますし、一人の方が食事に集中できます」
長官
「そうか……私は一人で食べると不味く感じる
君は誰かと食べると不味くなるかね?」
エシラ
「いえ、そんな事は……」
ディーア
「では構わんな、一緒に食べよう」
長官とディーアが席に着く
長官
「情報部員は孤独だとはいえ一人でいてはいかん、義務と思って人と交わるべきだ
今は何の仕事をしている?」
エシラ
「アルスタンから他の組織を洗い出しています」
長官
「それは別の者に任せられるか?」
エシラ
「ご命令なら……」
ディーア
「ここの仕事は気に入っている? 」
エシラ
「おおむね満足しています
ただ忙しすぎるのが不満です
先の作戦では現場にまで駆り出されました」
長官(笑う)
「改善は心がけているつもりだ
リストラされる婦人部隊員に声を掛けている
人手不足はいくらか補えると思う」
エシラ
「また女ですか」
長官
「女性は家庭に帰り産み育てよ、という風潮になった
軍も女性を前線に立たせることには慎重だ
まぁ我々としては実戦経験のあるパイロットが確保できるからありがたいが」
エシラ
「ええ、これで現場を離れられます」
長官
「調査官を続けるなら現場も常に見ておいてもらわんと困る」
エシラ
「現場を見て判断が狂う恐れもありますし、人には向き不向きがあります」
長官
「まだ組織も立ち上がったばかりで人手が足りん
おいおい人員も装備も充実させていく
ジムも古い型だが近代化改修しているだろう?」
エシラ
「テロ組織も将来、ネオ・ジオンの連中と手を結ぶかもしれませんよ」
長官
「いやネオ・ジオンは長くは保つまい
これからはテロの時代だ
一年戦争、グリプス戦役にニューディサイズの反乱などと戦いは小粒になっているが、その数は増える一方だ
交戦主体は細分化と分散化の局面に入った
ウィルスと同じで世代が進むごとに弱毒化していくが感染力は強まる」
エシラ
「しかし今のままでは装備が貧弱です
テロ組織もいつまでも一年戦争時のモビルスーツを使っているとは限りません
僭越ですが軍に任せては?」
長官(ディーアを見て笑う)
「ほら言った通りの性格だろう」
笑うディーア
エシラ(ムッとする)
「ええ、ですから部内でも嫌われてます」
長官(苦笑い)
「軍は今の所ネオ・ジオンで手一杯だ。
我々のような準軍事組織の方が小回りが効く」
エシラ
「……」
ディーア
「君はMSパイロット上がりだと聞いたが」
エシラ
「はい落第パイロットでしたが……
人が死ぬたびに気分が悪くなって吐くようでは役立たずなので」
ディーア
「君のように感応力の高すぎるニュータイプでは戦場は辛かったろう
しかしここに来てからはいい仕事をしていると聞いたが」
エシラ
「さあ? 私には分かりません」
長官
「加賀美君のようなニュータイプこそ、この仕事にふさわしい」
エシラ
「いえ、ニュータイプは関係ないと思います」
長官
「一般的に、ニュータイプは人類が宇宙空間に進出した結果、特異な空間把握能力を開花させたパイロット特性のある者だといわれる
その一方で時空を超えた非言語コミュニケーション能力を持つ者とも解される
いわゆる第六感、勘に優れた者だな
調査官は繊細な勘を必要とする
勘が無ければいつまでも肝心なところにたどり着けないし、勘が狂っていれば情報の山から自分勝手な物語を紡ぎ出す
君をヘッドハンティングしたのはそこに期待したからだ」
エシラ
「次もし選ぶならパイロット特性のある人を選ぶと良いですよ」
長官
「私は人の指図は受けん
お陰で情報機関にモビルスーツ部隊を付属させ、テロを未然に摘み取るという私の考えた通りの組織になった
どうだね? 少し毛色の変わった仕事をしてみる気はないか」