第二巻:美人司書の磔
司書の宮田真理愛は、パンティだけの姿で、力瘤を作ったようなポーズで、手首を拘束具で繋がれていた。
まるで十字架のイエスならぬ、磔のマリアといった光景がこの黴臭い地下書庫に広がっているのだ。
そんな摩訶不思議かつ、エロティズムを掻き立てる光景。
思春期を間近にし、性欲にも目覚めた少年にとっては信じられぬという気持ちと同時に、激しい興奮をも与えていることは言うまでもなかった。
「ま、真理愛さんが…鞭打ちにされてるんだ…」
華奢な白い肢体を嬲る様にしなう鞭。
その都度、真理愛の、ああ、ああぁぁ~~~という、気に抜けたような喘ぎが漏れる。
真理愛を責苛んでいる男には見覚えがあった。
眞鍋譲二―――。
この図書館に併設された大学の教授だ。
トロンとし厚ぼったい瞳がどこか子供じみた表情を伺わす彼だが、サブカルチャーを題材を中心にした社会学・人間学の講義は、なかなかの人気だ。
そんな彼になぜ真理愛は、鞭で打たれなければならないのだろう、マサルは興奮しつつも不思議なことだと逡巡する。
付属の小学校に通うマサルのクラスメートには、『眞鍋って変態だよな』などと、よく噂はしていたが、なるほど、この覗き穴から見える光景はそれが真実であることを如実に物語っている。
「さあ、宮田君。いい加減白状したまえよ。君の本音を…」
「そ、それだけは…ああッ」
弱々しく喘ぐ真理愛を、さらに乾いた音を立てた鞭が苛む。
「さっきから、ああッ、ああぁぁッ、って喘いでばかりじゃないか。私は君の悲鳴を聞きたくもないし、喘ぐ姿など何の興奮もしないんだよ」
眞鍋は、鞭打たれる真理愛が思わず漏らした短い絶叫を口真似し、弄ぶように揶揄いつつ、何かを聞き出そうと問い詰めている。
真理愛は拷問を受けている、そんなスチュエーションであることは間違いなかった。
でもその責め方は、この地的な美女に想像を絶する苦痛を与えてやらんという痛ましいものではない。
どこか、彼女を揶揄うような、この美しい女性の秘めたる何かを揶揄するような、ライトでドライな虐め方だ。
それが、憧れの美人司書の優しいお姉さまの窮地という緊張感より、大人の事情を匂わす折檻の現場というムードが強く漂い、マサルをさらに昂らせるのだ。