子どもたちが登校し、妻も職場へと向かう。一人家に取り残された私は、一連の家事を済ませた後で横になる。新都社にちんちん小説を投稿し、noteに日々の記録「耳鳴り潰し」の記事をアップし、Xに架空書籍紹介のポストをする、という一連の創作ルーティンは子どもたちが起き出す前に済ませてある。
寒暖差の激しさのせいか、今年の二月から持病となってしまった脳脊髄液減少症の具合がよろしくない。常に締め付けられるような頭の痛さと、常駐する巨大な耳鳴り以外に、倦怠感が続き、平行感覚も危うい。横になりながら本を読む。岡部えつのデビュー作「枯骨の恋」を含む短編集「夢に抱かれて見る闇は」を読み進める。女性の情念と怪異が混ざりあって背筋の凍る話が続く。十五年ほど前、同じ掌編小説の賞で自分と名前を並べていた人がプロとなり、現役で活躍を続けておられる。入院中に昔の思い出話を書いて彼女の名前を思い出し、退院後に図書館で何冊か借りて読んだ。感想をアップすると作者本人とも繋がりができた。次に読む本に困ると、「縁のあった人の本」に手が伸びる。
寝不足ゆえに横になっているわけではないから、いつまでも寝ていても焦燥感が増すばかりとなるので、起き上がって少し早めに軽い昼食を摂りながら、松田優作主演の「探偵物語」第三話を観る。綺麗な女優は顔の区別がつかない私であるが、今回登場した活動的な女性弁護士は魅力的だなと思って出演者を確認すると倍賞千恵子であった。
AIの勉強と称していろいろ試す。今では短い動画も無料で生成できるようだ。ボロボロのギターを要求するといい感じのができた。それで思い出して自分のボロボロのギターを押し入れから引っ張り出してみる。楽器演奏禁止のアパートなので、窓を全部締め切って、ピックが見つからなかったので指で爪弾いてみる。自分の耳に頼ったチューニングが全然あてにならなかったので、チューナーアプリの助けを借りた。好きな曲をランダムで流して適当にメロディやら合わせて引く。二十代、家にいる間は実家のパソコンの前でずっとそんな風にして過ごしていた。
昔のテキストデータが入ったDVD-Rが段ボールのどこかにあるはずなんだから探さないと。
子どもたちが家にいる間はできないような掃除や整理整頓やらもしないと。
前に置かれている物で隠れている本棚の下段にある大江健三郎の単行本を発掘しないと。
そんなことよりもやらなければいけないことは山積みなのだけれど。
でもどれもせずに時間が流れていく。
そして私は四ツ丸先生の「デニス・ヒッピー」を再生していた。ダイソーで買った、リハビリ用のトレーニング・ボールを足に挟んで、指で叩きながら自分も歌っていた。作詞が自分だから遠慮なく引用もできる。
https://www.youtube.com/shorts/19J4lWFTHWY
君のデニスが 風に揺れる
僕のデニスは 僕が揺らす
遅れてきたヒッピー
破れたズボンが 欲しくて破る
ちんちん ちんちん
ちんちん ちんちん
ちんちん ちんちん
ちんちん ちんちん
何度も練習した後、スマホのカメラで撮影してみる。ドラムスティックを使って叩くのも試したが、音色の種類が少なくなってしまった。中に砂が入っているトレーニングボールは、皮の張り方が均一ではないから、叩く場所によって音色が変わる。叩く方も親指の腹、各指の先っぽ、爪、と音色を変えられるのでパーカッションに向いている。
題材的に本当はちんちんで叩くべきなのだが、それでは撮影してもどこにもアップできなくなるし、音色も単調でへにょへにょしたものになってしまうので、やめた。とっくにばれているかもしれないが、私は日々ちんちん小説を書き続けながらも、常識人でもあるのだ。
ベストテイクを見直してみたが、全世界にアップしていいほどの出来ではなかったので、四ツ丸先生に送るにとどめる。叩いているボールが陰嚢に見えてきました、と褒められた。サイズや材質の違う二つのボールを使えば、よりそれらしくなったかもしれない。
練習の影響か、子どもたちが帰ってきてからも、「デニス・ヒッピー」を口ずさんでしまいそうになる。次のちんちん小説のネタ出しをする。「ペニス小説の書き方」と称して、この話はこんな風に書きました、と紹介することも考える。「魔法少女ペニス」は即座にボツにする。そうして結局「デニス・ヒッピー」を叩いた話をそのまま書くことにした。