Neetel Inside 文芸新都
表紙

恋愛小説集「銀魂vs小島信夫(最終回)」
「結石vs月に吠える」

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 連続更新が途絶えたから「娘さんにディスられなくなったのだな」と思っている読者の皆さん、心配しないでください。毎日ディスられていますよ。
「パパは女の子とどんな話をしていたの?」
 私は思い出そうとする。さすがにゼロではない。しかし1かと問われると首を傾げざるを得ない。永遠のゼロコンマいくつか、そんな会話の断片的な記憶が少しばかり掘り起こされるばかり。

 たくさんの未完の小説、あるいは書き出す前にボツにされたアイデア。そんなことを思う。

「宝探しゲームをしましょう」と先生は言いました。各生徒に探すべき宝物が書かれた紙を渡します。ある人には「黄色のチョーク」、ある人には「空気の抜けたドッジボール」といった具合に。生徒たちは次々と宝を発見してゲームをクリアしていきます。しかし私に渡された紙にはこう書いてありました。『女の子と楽しく話した思い出』私は一生懸命教室の中を探しました。自分の中を探りました。しかしどこにも見つかりません。存在しない宝物を発見することはできないのです。

 そんな例え話をしたところ、娘はこう言った。
「つまりパパはこう言いたいんだね。『俺の青春はどこだ?』と」

 恋愛小説、はーじまるよー。

*

 始まらない。

 先日の尿路結石の続きの話。尿を紙コップで受けて、結石が出たら持ってきてくださいと言われていたが、全く出る気配はなく、痛みも消えていた。自分の中では結石なんて本当はなかったんだ、という結論に達していた。おじいさん先生にエコー検査をされている間、「恋愛経験がほぼないといっていいように、尿路結石も存在しなかった」という展開にしようと考えていたら「左の腎臓に二個あるね」という先生の声が降ってきた。
「一つは1.2センチある、大きいね」
「あと前立腺ちっちゃいね」
「脂肪肝に気を付けて」
「右の腎臓には水泡が見えるけど、これは心配いらないね」
「やっぱ二つあるね」
 え、え、え、と私は指の爪を見ながら1.2センチという大きさを想像する。そんなものが尿道を通るのか。最低あと二回はあの夜の痛みを経験しないといけないのか。
「腎臓の一番下の方にあるから、これを割って取り出すというのも得策ではないね。現時点でできることって別にないから。また前のような痛みが出たら病院に来て」
「この大きさって尿道を通るのですか」
「大きいほど逆に痛みは少ないっていうよ。全然通るよこれくらい」

 特に薬を処方されることもなく病院を出る。
「前立腺、ちっちゃいってよ」と月に向かって言ってみる。月からは何も返ってはこない。

*

 寝坊して学校に遅刻しそうだったので食パンをくわえながら急いで走っていた私は、曲がり角で地中を走るサメにでくわして飛び上がった。塀の上によじのぼって難を逃れたものの、サメは道路を壊しながら追ってくる。
「私の名前はジャクリーン。ホトトギス高校キックボクシング部の特待生。特例として春休み中から高校に通い始めている。地中サメなどで朝練に遅れるわけにはいかぬ」
 さりげない自己紹介を決めた後、しつこいサメにかかと落としを食らわして気絶させた。多様化したサメ映画の影響で、海や川や温泉やお風呂場だけではなく、道路や空中や食堂にもサメが出るようになってきた。油断するとサメに食われるこのご時世、キックボクシングをやっていて良かったといえる。

*

 結石の話が一段落したので今度こそ恋愛小説を始めようと、女子高生に食パンをくわえさせて曲がり角を曲がらせたらサメが出てきた。ここで美形サイボーグとか美形半魚人とか美形エイリアンとかを出さないのは、私の照れ隠しである。典型的なシチュエーションには非典型的なキャラクターを登場させる。それが逆に私の中のセオリーでもあるのかもしれない。もちろんこの話の行き着く先は見えないので中断する。永遠のゼロコンマの断片に加える。

*

 娘が彼氏を含む友だちと遊んできた話をするのである。少し離れた公園で遊んで、「帰り道が分からないから一緒に来て」と彼氏に言ったそうだ。しかしその後「本当は一緒に帰りたかっただけ」と彼氏に伝えたのだそうだ。門限はきちんと守っている。

「この発言を評価して」と娘がいう。
「百点を超えて千点。仮に二人が今後どうなろうと、彼氏君はその言葉を一生抱きしめてにやにやしながら生きていけるよ」
「パパのこういうエピソード教えて」
「ねえよ!」

 私は左の腎臓あたりをそっと押さえる。抱えているのは結石だ。外からは見えないけれど、確かにそこにある。やがて爆発するかもしれない痛みを抱えて、私は生きていく。小さな前立腺と一緒に。

(了)

     


       

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